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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第四章

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静寂は未来への糧に

周りを見渡したときに遠くから重たい足音が聞こえてくると、間もなくして小さな丘の下から龍の顔をした巨大な生き物が姿を現した。

「ガアァッ」

そしてネオグリムと思われるその巨大な生き物は、こちらの姿を確認すると短くそう声を上げ、ゆっくりこちらに近づいてきた。

でかいな。

見たところ短足で胴長の、4足歩行みたいだけど。

ネオグリムは走り込んでくると、いきなり口を大きく開けて丸呑みしようしてきたので、とっさに紋章を出して鼻を押さえ、軽く上空へと避難した。

ナマズみたいな髭や、後ろに伸びた捩れた角もあって、日本の絵巻に描かれている龍の顔にそっくりだ。

その巨体に似合わず、ネオグリムは素早く体を回転させて尻尾を振り回して来たので、間一髪でかわしながら地上に降り立つと、ネオグリムは続けて口から巨大な火の玉を吐き出した。

体で受け止めながら、ブースターを噴き出して反動を相殺し、蒼月を撃つが、それと同時に横から凄まじい衝撃が襲った。

速いし、尻尾が長い。

朽ちた木片と共に地面を転がっていたときに、ネオグリムの短い雄叫びが妙に耳に入ってくる。

ブースターを噴き出して体勢を立て直したとき、ネオグリムが突進して来たので顔に蒼月を撃つと、突進を止めたネオグリムは氷を払うように頭を振る。

まだ顔が凍りついているみたいだが、構わずにネオグリムは口を開いて火を溜めていく。

まるで効かないのか、さすがと言うか何と言うか。

吐き出された火の玉を紋章で受け流し、すぐに蒼月を数発撃ち込むと、ネオグリムは豪快に木を薙ぎ倒しながら横に倒れ込む。

しかしゆっくりと立ち上がると、ネオグリムは怒りを表すように歯を剥き出しにする。

直後にネオグリムの眼が赤くなり、鱗がすべて逆立つと、たてがみが燃えるように赤く染まり出すと共に、鱗の隙間から漏れるように吹き出した火が、まるで毛皮のようにネオグリムの全身を覆った。

「ガァアッ」

怒らせたって訳か。

怒涛の尻尾攻撃をかわし、直後に吐き出された火の玉も受け流し蒼月光で反撃するが、体が燃えているせいか凍りついてもすぐに溶け始める。

また炎か。

蒼月光を止めたときに横から勢いよく尻尾が迫って来たが、気が付いたときには体はすでに地面を這っていた。

素早く立ち上がり龍牙を出すが、ネオグリムはこちらが動く前に火の玉を連続的に吐き出し始める。

かろうじて紋章で受け止めていたが、5発目の衝撃で体勢を崩した隙を突かれると思いっきり振り回された尻尾に再び体は宙を舞う。

さすがに強いな。

地面に叩きつけられながらネオグリムに顔を向けると、ネオグリムは悠然とこちらを睨みつけながら、とどめを刺そうとしているかのように大きく開けた口の中に火を溜める。

すると再び何度も火の玉を吐き出して来たので、その度に素早く蒼月で迎撃していく。

それと同時に尻尾に紋章を出してネオグリムの顎に蒼月を撃ち込み、一瞬怯んで火の玉が止んだ隙に素早く空に飛び上がる。

ネオグリムがこちらに目を向けた途端に顔に蒼月を撃ち、更に怯ませてから龍牙の根元に紋章を3つ重ねる。

ブースター全開でネオグリムの背後に回り込み、龍牙を後ろに引きながら矛先をネオグリムに向け、そしてこちらの姿を捕捉するために一瞬だけネオグリムの動きが止まった瞬間に龍ノ咆哮を撃ち出す。

氷の槍はネオグリムの肋骨辺りに刺さった瞬間からすぐに気化するほどに溶け始めるが、2発目の氷の槍が最初の氷の槍を貫くと、更に深く氷の槍がネオグリムの体をえぐる。

「グァアッ」

すぐに3発目の氷の槍がすでに深く刺さっている氷の槍を貫くと、銀色の液体が辺り一面にほとばしると同時に、氷の槍は巨大なネオグリムの体の向こうへと突き抜けていった。

「・・・ガァ」

銀色の液体が溢れ出していく中、力を振り絞るようにネオグリムが尻尾をこちらに叩きつけるが、紋章で軽く受け止めると、静かに横たわったネオグリムは元の姿に戻ってゆっくりと動かなくなった。

眼の輝きが無くなったところを見ると、どうやら息を引き取ったみたいだ。

鎧を解き、銀色の液体を手で掬うと、その血液には少しとろみがかっている感触があった。

これが血なのか。

とりあえず酸化するまで待つしかないな。

地面に散らばっている鱗を1枚持ってみると、分厚くて大きく広げた手よりもまだ大きく、プラスチックみたいに軽い。

ちょうどよく少し反り返っているので、とりあえず鱗で傷口から直接汚れてない銀色の血を、いっぱいになるまで掬って地面に置いた。

3杯目の鱗を地面に置いたとき、ふと遠くから獣のうめき声のようなものが聞こえてくる。

新たな敵かな。

しかしずっと響いてきているそのうめき声は、こちらに近づいてくる訳でもなく、かと言って遠くなっていく訳でもない。

いったい、どこから?

ふとネオグリムに目を向けると、その亡き殻の全体から煙のようなものが立ち込めていた。

神秘的な感じと共に、どことなく殺気に似たものを感じたとき、たちまちその煙がネオグリムの体に形づけられていき、遂には煙で出来たそのネオグリムは睨みつけるような眼差しでこちらを見据えた。

・・・第2ラウンドか。

けど、見た限りはただの煙だしな。

防壁があれば何でもないだろう。

氷の仮面を被ると、煙で出来たネオグリムが亡霊のように浮かびながら大口を開けて飛んできたが、防壁に噛みついた形でネオグリムの動きが止まる。

氷弾を撃とうとして手を前に出した瞬間、まるで爆風の粉塵に巻き込まれたかのように視界は煙に包まれた。

防壁が・・・。

その直後、まるで濁流のように煙が体中を駆け巡っていく。

・・・意識が・・・遠く・・・。



「よぉ、気分はどう?」

決して深くはない微笑みだけど、その優しさを感じる佇まいに心を和ませられるのははっきりと理解出来る。

「うん、良いよ」

安心したように頷きながら、レジイラは隣の空いているベッドに座る。

「退院したら、しばらく休暇を取れば?ずっと実家に帰ってないんだろ?」

「・・・でも」

そういえば少佐になってから帰ってないな。

「さっき聞いたけど、完治には2ヶ月かかるそうだ。それじゃあどっちみち仕事なんて出来ないだろ?」

「確かにそうだね」

ダコンも居ないし、鎖国兵だってまたすぐにはやっては来ないだろうし。

「ヒョウガは?」

「分からない。けどさっきタガリがヒョウガから軍服と無線機を預かったんだと」

もう、行っちゃったんだ・・・。

「あのちょっとアリーレオ大尉、面会は午後からですよ?」

看護婦さんが困ったように歩み寄って来ると、レジイラは少し慌てて立ち上がった。

「そうですか、じゃ失礼します」

わざとらしい笑みを浮かべたレジイラは、こちらに顔を向けて軽く手を挙げてから救護室を出て行った。

腕が治らなきゃ、レゴとフルーに狩りを教えてあげれないな。

「あの、いつ頃退院出来ますか?」

「そうですねぇ、薬を飲んで安静にしてれば、5日くらいで退院は出来ると思いますよ」

看護婦さんはベッドのシワを直しながら笑顔でそう応える。

「そうですか」



死んではない、かな。

重たい体を起こして氷の仮面を外し、立ち上がりながら周りを見渡すが、目の前には巨大な死骸が横たわっているだけだった。

最後の悪あがきだったみたいだな。

ただ1つ変わっているのは、傷口から溢れ出していた銀色の液体は石のように固まって地面に転がっていて、少し光沢が増していることだった。

・・・うまく酸化したのかな。

よく見れば酸化するとパチンコ玉くらいの大きさに統一されるみたいだな。

鱗で掬った銀色の血は土や草が混ざることもなく、きれいに固まっている。

どうやって持って帰ろうかな。

3つもあったら持つのは無理だな、何かに包めないかな?

周りを見渡すと、高い木の上の方に長めの葉っぱが生えているので、氷の仮面を被って長い葉っぱを何枚か拝借する。

更にネオグリムの死骸から何枚か鱗も拝借すると、2枚の鱗で挟んだ数十の小さな血の石を、葉っぱで巻くようにして包んだ。

葉っぱの包みを3つ並べ、更に長い葉っぱで3つを包み、葉っぱの先を結び肩にかける。

これなら持って帰れるかな。

グリムの蛹がたくさん木の実のように吊り下がっていた山を見る。

登ったらまた襲われるかな。

血の石もあるし、麓を回って行けば良いか。

山頂の巨大な大木を目印にしながら歩き出していくと、しばらくして後ろから妙な視線を感じ始めた。

そういえば、前にもこんな視線を感じたな。

ネオグリムじゃなかったとすると・・・さすがに登山客ではないだろうけど。

すると後ろの方から小さな足音も聞こえてきて、よく聞いてみるとその間隔は2足歩行を思わせるようなものだった。

何となく立ち止まると後ろの方も立ち止まったみたいなので、振り返ってみると、そこには中世ヨーロッパの貴族が着るような袖と丈が長い綺麗なドレスを着た、腰まである長い金色の髪の少女が立っていた。

この場に全く似合わない少女は黙ってこちらを見つめている。

・・・言葉、通じなさそうだな、見るからに。

中学生くらいだと思うけど、こんな森に1人で・・・迷子かな?

「迷子?」

・・・やっぱり、通じないかな。

すると少女は小さく眉をすくめる。

「あたしと友達になってくれる?」

会話は成り立ってないが、言葉は通じるみたいだ。

「・・・友達?」

「うん」

寂しそうで不安げで、だけど何か別の感情も混ざってるような、複雑な表情だな。

「別にいいよ」

すると少女はゆっくりと歩き出し、こちらに近づいて来た。

よく見ると、裸足だ、痛くないのかな?

「お名前は?」

「氷牙だよ」

微笑みも浮かべずに、少女はゆっくりとこちらの体を見回す。

「ここに住んでるの?」

「うん」

・・・ここ、森なんだけどな。

細いベルトを巻いているみたいで、背中に着けているのは・・・ナイフと銃?

森にはグリムが居るし、護身用だろうか。

少女がゆっくりと後ろに回り込んだので後ろに振り返ると、顔を上げた少女はただ真っ直ぐ見つめてきた。

「それ、あのネオグリムの血?」

「あぁ」

あのって・・・見てたのかな?

「そっか」

そう言って少女は小さなため息をつくと、強張った表情がほんの少しだけ緩んだ気がした。

そういえばネオグリムと戦う前に感じた、妙な視線はこの子だったのかな。

「1人でここに住んでるの?」

「・・・うん」

両親がいないって言ったって、何でよりによって森に住んでるのか・・・。

「どれくらい?」

「・・・ずっと」

だからといってナイフと銃だけで生活するのは、厳しいんじゃないか?

それにドレスが全く汚れてない。

少女は少しうつむきながらゆっくりと木に寄り掛かった。

「街には行かないの?」

少女は顔を上げると、眉をすくめながらゆっくりと首を横に振る。

「どうして?」

「・・・どうせ、みんなあたしのこと嫌いだもん」

うつむきながら喋っているからか、少し聞き取りづらい。

「そうか」

「ねぇ、何して遊んでくれるの?」

また何か寂しさとは違う感情がこもった眼差しでそう言いながら、少女が見つめてくる。

遊びか・・・。

とりあえずこの荷物を片付けないとな。

「その前に、ちょっと村に行って良いかな?」

すると少女は小さく空を見上げてゆっくりとため息をつき、ゆっくりと背中に手を当ててナイフを取り出した。

「やっぱり、氷牙もあたしから逃げるんだね」

何かいけないことでも言ったのかな。

「どうせあたしのこと嫌いなんでしょ?だから帰るなんて言うんでしょ?」

声を荒げている訳ではないからなのか、怒りより寂しさの感情の方が少し勝っているような気がする。

まぁ別に急いでる訳じゃないしな。

「じゃあ一緒に行く?」

「え?」

「遊びならどこでだって出来るよ」

こちらに向けられたナイフが少し下げられたが、少女の表情は変わらず、少女の目は真っ直ぐこちらへと向けられている。

「どうせ街に出たって変わらないよ、みんなあたしを見ればすぐに逃げ出すもん」

逃げ出す?

ナイフと銃を持ってるからかな?

「僕は逃げ出さないよ」

「そんなの嘘だもん」

少女はすぐに言葉を返すと、再びナイフをこちらに向ける。

だからって殺すなんて。

「せっかくの友達を殺しちゃうの?」

「みんなだってあたしを殺そうとしたもん」

少し興奮してるのかな。

それよりみんなって誰だろう。

パターンっていうものがありますからね。異世界に行って、最後に会った人と、って感じの。

ありがとうございました。

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