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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第四章

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未開の森

「おやおや、氷牙君じゃないかい」

その場で軽く会釈すると、レモンの母親はすぐに親しげな微笑みを見せながら歩み寄ってきた。

「どうかしたのかい?」

レモンよりかは詳しいかも知れないな。

「1つ聞きたいことがあって村に来たんですけど、さっきそこで会ったレモンに狩りに出るから家で待っててと言われまして」

レモンの母親は軽く頷きながら小さく唸る。

「そうかい・・・その聞きたいことって言うのは、レモンにじゃあないのかい?」

「えぇまあ」

するとレモンの母親は囲炉裏のある部屋や寝室に続く廊下に目を向けてから、またすぐにこちらに目線を戻した。

「それなら、みんなが揃うまでゆっくりしてな」

「あ、はい」

そう応えるとレモンの母親は足早に囲炉裏の部屋に向かったので、ソファーに座ってレモンやレモンの父親を待ってみる。

そしてしばらくするとグリムを背負ったレモンとレモンの父親が同時に家に戻って来て、レモンの父親と目が合ったので軽く会釈をした。

すぐに目を逸らしたレモンの父親は、静かに深く息を吐きながらレモンと共にレモンの母親の下に向かった。

「お母さん」

「帰ったぞ」

「ああ2人共、お帰りなさい」

そういえばミアンナが怪我したし、休暇が取れれば久しぶりに家でゆっくり出来るかもな。

レモンが頼んでくれたのか、夕食の席に招待されたので囲炉裏の部屋で夕食を囲む。

今日は初めて見る食材があるな。

白くて周りがひらひらとした円いもので、食べるとクラゲみたいな食感だ。

「師匠ぉ、聞きたいことってなんですか?」

噛む度に吸った出汁を吐き出すクラゲのようなものを食べていたとき、口からお椀を放したレモンがふとそんな話題を切り出した。

「あぁ、ネオグリムの居場所が知りたいんだ」

「何だと?」

するとすぐにレモンの父親が口を開くと、ゆっくりとお椀を降ろし、片耳を軽く上げながらこちらに顔を向ける。

「精霊王に会ってどうする気だ?」

・・・崇拝でもされてたら、血液採取は無理かな。

レモンは不安げに父親とこちらの顔を交互に見る。

「酸化した血液が欲しいんですけど」

するとレモンの父親は喉を鳴らしながらため息をつくが、その表情からは特に怒りや嫌悪感といったものは伝わってこない。

「精霊王の結晶を手に入れてどうする気だ?」

殺したりしたら、まずいのかな?

「ただ、手に入れたいだけです」

「やめておけ、そんな簡単に手に入るものじゃない」

険しい顔でそう言うとレモンの父親は耳の力を抜き、料理に目線を戻した。

秘境に居て且つ強敵みたいな感じなのかな?

でも適当に奥に行けば会えるだろう。

「お父さん、もし帰って来れたら、精霊に護って貰えるよ?」

レモンが耳を下げて不安げに喋り出すと、レモンを見ながらレモンの父親は小さく眉をすくめる。

そういえば精霊の加護を受けられるとかミアンナが言ってたな。

「だが、よそ者の人間なんかに貰ったら、格好がつかないだろ?」

「師匠は人間じゃないよ?」

耳の力が抜け、リラックスしたような表情のレモンがそう言って小さくニヤつくと、レモンの父親は疑い深い眼差しで一瞬こちらの顔を伺う。

「どこが人間じゃないって?」

「師匠ぉ、あの姿になって下さいよぉ」

レモンがニヤつきながらこちらに顔を向けたので仕方なくお椀と箸を置き、座ったまま絶氷牙を纏う。

「おやまあ」

レモンの母親が耳を真っ直ぐ立ててそう呟くと、レモンの父親は眉間にシワを寄せながら黙ってこちらを眺め始める。

「まあ人間ではないですが、よそ者には変わりないですけど」

見えるようにさりげなく尻尾を軽く振りながらそう言ってから、鎧を解いてお椀と箸を持つ。

「そういえばお前、目的はどうしたんだ?」

軽く喉を鳴らしたレモンの父親は料理に目線を置きながら喋り出す。

「まあ一応、用は済みました」

「だったら、大人しく帰った方が良い」

「いえ、僕なら大丈夫です」

レモンの父親が少し険しい表情でこちらに顔を向けると、つられてレモンも不安げにこちらを見るが、レモンの母親は囲炉裏の火加減を見ながら黙って食事を続けている。

「食われても知らないぞ?」

「あの、それよりその精霊王ってどういうグリムなんですか?」

するとお椀を降ろしたレモンの父親はゆっくりとため息をついた。

「山奥には、姿を変えながら成長するグリムがいて、さなぎから羽化したグリムをネオグリムと言う。精霊王と呼ばれる由来は、巨大さゆえの畏れからだ。我々の力の源の精霊とは関係はない」

なるほど。

「じゃあ、加護は受けられないの?」

すぐにレモンが不安げに口を開くと、レモンの父親は片耳を軽く立てながら優しい眼差しでレモンを見た。

「さあな、迷信かも知れないが、どこかの村で、精霊王の結晶を埋めた畑が10年間豊作になったって話がある」

「ふえぇー」

気の抜けたような声を出しながら耳を真っ直ぐ立てるレモンを見たレモンの父親は、ほんの少しだけ口元を緩ませる。

じゃあ殺しちゃいけないって訳じゃないのかな。

ふとこちらに顔を向けたレモンの父親はゆっくりと目を細める。

「お前、精霊王のことをどこで聞いたんだ?」

「ミアンナに教えて貰いました」

レモンの父親が小さくため息をついて料理に目線を戻すと同時に、レモンの母親がこちらに顔を向ける。

「ミアンナとは仲が良いのかい?」

「まあ、軍に入ったときに、色々とお世話になりました」

「そうなのかい」

安心したような微笑みを見せながら頷くと、レモンの母親も料理に目線を戻していった。

「師匠ぉ、もう軍は辞めたんですか?」

「まあね」

するとレモンは片耳を上げながら嬉しそうにニヤつき出した。

「じゃあ、あの、泊まってって下さい」

そう言うとレモンの父親は小さく眉間にシワを寄せながら、一瞬だけレモンに顔を向ける。

「でも、すぐに出発するつもりだけど」

「えぇっ」

レモンが驚いて声を上げると、レモンの母親も困ったように唸り出した。

「今日はもう遅いし、明日にした方が良いんじゃないかい?」

「そうですか」

まぁ暗いより明るい方が良いか。

食事が終わるとミアンナの部屋に布団を運んで貰ったので、布団を敷き終えてから何となく窓から顔を出す。

街灯も立ってないだろうしな。

夜になってしばらく経つと、風に乗って冷たい空気が部屋に入って来た。

これが例の森から来る花粉なのかな?

早朝になったみたいなのでリビングに向かうと、ソファーにはいつものようにレモンが座っていた。

「師匠、ほんとに行くんですかぁ?」

「あぁ」

不安げに耳を下げているレモンの息が少し白くなっているのにふと気が付く。

レモンの両親が起きて来ると、レモンは母親と共に奥に入って行き、レモンの父親はすぐに囲炉裏の部屋に向かった。

レモンは1番早起きみたいだな。

食事の支度が済んだみたいなので囲炉裏の部屋に向かい食事を始める。

「師匠、ネオグリムに会って来たら、自分の世界に帰っちゃうんですか?」

「そうだね」

「そうですかぁ」

するとレモンは寂しそうに耳を下げながらお椀を口に運ぶ。

会うって言葉を使ってるけど、戦わないと傷はつけられないし、血も出ないのに。

もしかして、話し合いで何とかなる相手なのか?

しばらくしてレモンの母親に見送られて家を出ると、少ししてレモンが追い掛けてくる。

「師匠、場所とか分かるんですか?」

「まぁ適当に進んでみるよ」

ゆっくりと歩き出しながら応えると、レモンも共に歩き出しながら不安げにこちらを見る。

「それじゃあ迷子になっちゃいますよぉ」

「高い場所に行けば街も村も見えるよ」

そう言って何となく森の向こうを見ると、手前に小さそうな山があり、そのずっと向こうには大きそうな山があった。

まずは手前の山に登ろうかな。

「そうですね、あの山からならこの村の場所が分かりますね」

しばらく進み村の端っこまで来ると、目印にしようとした山が木々で見えなくなりそうになったので、耳を大きく下げて不安げに手を振るレモンを見ながら、絶氷牙で山に向かって飛んで行く。

空から見るとちょっと距離があるな。

木々のすぐ上をゆっくり飛びながら山や周りの森を眺める。

ここからでも遠くに別の山がいくつか見えるけど、恐らく今視界に収まっている広さよりも遥かに広い森なんだろうな、きっと。

目的の山が近くなると、山頂に一際巨大な大木が1本立ってるのが見えてきたので、とりあえず山頂に降り立ち大木を眺めてみると、その大木には巨大な木の実のようなものがあちこちにぶら下がっていた。

この太さなら、こんな大きい実が出来るのも分かる気がするけど。

村の方を見ると、遠くには森の木より少し高い建物が目立つ街があり、その少し手前にはまるで穴が空いているかのような小さく開けた場所があった。

あれが村かな。

村から反対側に目を向けたときに、何かがうごめくような音がしたのでふと大木を見上げると、巨大な木の実のようなものから何本かの触手がゆっくりと出て来たのが見えた。

木の実が動いた・・・。

ヤシの実よりも遥かに巨大なその木の実は音を立てて地面に落ちると、触手を脚のように扱って実の部分を持ち上げる。

まさか、生きてる?

ゆっくりと旋回していると、眼も無い木の実はまるでこちらの存在に気づいたかのように急に動きを止める。

一応絶氷槍を出して構えると、突如木の実のようなものは触手を勢いよく振り回して来たので、絶氷槍で振り払うと触手はちぎれて地面に落ちた。

すると直後にそのいくつもの木の実のようなものが続けて地面に落ちて来た。

・・・囲まれたな。

もしかしてこれもグリムなのかな?

両手と尻尾に絶氷槍を出し、いくつもの木の実のようなものから続けて振り回される触手を次々と切り落としていくが、切った先からすぐに再生して瞬く間に傷口が塞がれていく。

仕方ないな。

絶氷槍を解いて木の実のようなものの触手を手に巻きつけ、軽く引っ張ったりしながらいくつもの木の実のようなものを一気に集めてから極点氷牙を纏う。

すべての木の実のようなものが凍りつくと、実の部分の重さで触手がちぎれ、次々と音を立てて木の実のようなものが地面に転がっていく。

その中で1つの木の実のようなものが地面に落ちた衝撃で割れると、割れ目からは銀色の液体が滴るように流れ出した。

これがこの生き物の血なのかな?

改めて森を見渡していくと、村から反対側の方角のある場所に廃墟のようなものが見えた。

・・・かなり古びているな。

外見的には神殿みたいな雰囲気だが、かろうじて立っている柱にはツタが絡まっている。

ずっと昔に誰かが建てたみたいな感じなのかな。

だけど砕けて横たわっているこの柱だけは何となく違和感がある。

ツタが絡まっていないのもそうだが、何となくレモンの村にある丸太のベンチを思い出す。

すると妙な視線を感じたので後ろを振り返るが、遠くにも人影らしきものは見当たらなかった。

さて・・・ネオグリムはどこにいるのかな?

何となく木々の量が少ない気がする方に歩いてみると、まるで抜け殻になったかのような形で横たわる、先程の木の実のようなものにふと目が留まる。

見たところかなり時間が経っているが、まるで孵化した卵のように内側から破られた跡のようなものがある。

もしかして、これが例のさなぎなのかな。

確かにこれから出て来た生き物なら、すごい大きいかも知れない。

抜け殻の穴の角度や、破片の散らばっている方角から予想した道を辿って進むが、特に気に掛かる足跡等はまったく見当たらない。

まぁ、とりあえずこっちかな。

しかしこんなに山奥でも、他のグリムに出くわさないな。

誰かの縄張りなのかな。

何となく小さな山を登り山頂に着くと、そこには森には似合わない、コンクリートで舗装されたような感じの小さな四角形の床が足元に広がっていた。

そして辺の位置には何かを置けるような、小さなろうそく立てのようなものがある。

黒魔術でもやってたのだろうか。

しかし全く使われたような跡は無い。

何となく四角形の床の真ん中に立ってみたが、何も起きる気配が無いのでその場から離れようとしたとき、何かの雄叫びのような鳴き声がどこからか響いてきた。

・・・何だろう。

ハルク目線の別れ、ミアンナ目線の別れがあった訳ですが、氷牙もあるんですよね。

ありがとうございました。

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