そして魂は打ち放たれる
「僕だったら女性を選ぶかな」
「どうして?」
チャーハンを頬張りながらすぐにまたユウジが聞いてくると、ミサが聞き耳を立てるかのように少し体を近づけてきたのにふと気がついた。
「そうすれば、男女2人ずつでブレインのバランスが良くなるかなと思って」
「なるほど」
小さく頷きながらユウジは至って落ち着いた表情でチャーハンを掬ったレンゲを口に運ぶ。
「あら?じゃあ支援型の方々は男女1人ずついるってことかしら?」
「そうだよ。ユウジはもう誰か決めてるの?」
「俺は、ミサさんとか」
ユウジは少し考えると、チャーハンをレンゲで掬いながら何食わぬ顔でそう応える。
「ミサは賢いからね」
「ちょ、ちょっと」
ミサが口を挟んだのでユウジと一緒にミサに目を向ける。
「照れるわ」
「いいじゃん、褒められてるんだから」
「ヒカルコ・・・」
ミサが困ったように照れるような顔でヒカルコを見ているとき、ユウジがニヤつきながらこちらに顔を向けてきたのが目に入った。
「それとも、氷牙にしようかな」
「それは困るね」
「そうか、じゃあやっぱりミサさんにしよう」
「本気かしら?」
ミサが呆れるようにユウジを見るが、ユウジは至って落ち着いた表情で、少し気の抜けたようではあるものの冗談を言ってるようなものではない真っ直ぐな眼差しでミサを見ていた。
「そうゆう訳だからよろしくね」
ユウジが念を押すようにミサに微笑んで見せると、ミサは眉をすくめて小さく頷いた。
「・・・分かったわよ。ていうか氷牙、頑張ってよね」
「あぁ」
「氷牙、次は手加減しないで欲しいな」
そういえばユウジも頭を使う戦い方だったな。
シンジと同じ進化させた力を持った能力者だけど、シンジよりも手強そうだ。
「どうかな、本気出したところで、覚醒した人には勝てないかもね」
「そうかなぁ」
小さく微笑みながら首を傾げたユウジからは、シンジのような緊張感で張り詰めたような雰囲気は感じられない。
「分からないわよ?シンジには勝ったじゃない」
「まぁ、そうだね」
最初の戦いでミサに負けておけば楽だったかな。
「おいっアリサカっ」
ふと遠くでノブの強く呼びかけるような声が聞こえたので、反射的に皆と共にその方に目を向けると、ノブの目の前には自身の周りに数機の小さなミサイルを宙に浮き留まらせているアリサカソウマが居た。
何だ?・・・。
「止めとけって」
「あ?これから世の中が変わるって時に、こんなところでのんびりとしてられないだろっ」
まるで空気に火が灯るような緊迫感がホールに広がり始めると、次第に周りも静かになっていき、やがて会場の目はすべてアリサカソウマへと向けられた。
「それに、俺はもうトーナメントから外れたから、ここに居る理由も無いんだよ」
「だからってお前っ」
ノブが気迫を込めたような重々しい口調で言葉を返すが、アリサカソウマはノブ以上に殺気を込めた鋭い眼差しをしている。
「邪魔はさせない」
直後にアリサカソウマの周りに浮いていた小さなミサイルが一気に発射されると、激しい爆発はテーブルを軽々と吹き飛ばし、強い爆風は瞬く間にノブの全身を覆い、そしてホール中に響いた爆発の衝撃はあちこちから小さな悲鳴を沸き起こらせた。
ノブ・・・。
すぐにノブの下へと駆け寄るがノブは意識を失っていて、アリサカソウマはそんなノブを見下すような眼差しで見下ろしていた。
「氷牙、お前も俺の邪魔をするってのか?」
「え?そもそも君が何をしようとしてるのか分からないんだけど。邪魔って何の?」
「お前らは呑気過ぎるんだよ。リーダーを決める大会だ?そんなことしてる間にもな、俺らみたいな人間が組織を抜け出して、テロ活動を始めてるんだよ」
この人もアメリカのテロの話を聞いたのかな。
「じゃあ、ここを抜け出してそのテロを鎮圧でもする気なの?」
するとアリサカソウマは殺気を宿した眼差しを見せながら、まるで馬鹿にするような笑い声を上げた。
「そんなことしたって根は絶やせない。だから俺はここから独立して、誰にも負けないテロ組織を作る」
テロ組織を作る・・・。
「何で?」
「簡単な話だ。悪が本当に恐れるのは正義じゃなく、より強い悪だからだ。同じ領域の力だからこそ、力はより強い力によって制御される。だから俺はテロ組織を作る」
悪は悪で制す、か。
「自分を悪って言いながら正義の味方みたいなことして、後で混乱して悪を貫けなくなっても知らないよ?」
アリサカソウマから笑みが消えた直後、アリサカソウマの背後に先程よりも太く大きなミサイルが2機出現した。
「なら、後戻り出来ないようにここを焼き払ってやるよ」
「やめろぉっ」
氷牙の鎧を纏おうとした前に黒い外殻で覆った右腕を振り上げながらシンジが走り込んでくるが、1機のミサイルがアリサカソウマを守るようにシンジに向かって飛び出すと、シンジはミサイルの直撃を受けて軽々と吹き飛ばされていってしまった。
氷牙の鎧を纏った直撃に背後から電気がほとばしるような音が聞こえてくると、視界に入ってきた電気の光線は瞬時にもう1機のミサイルを貫き、動き出す前にミサイルを爆発させた。
「お前・・・」
アリサカソウマの目線の先に振り返ると、そこには人差し指をアリサカソウマに向けているユウジが居たが、この状況でもユウジは至って落ち着いた表情を浮かべていた。
「ソウマには無理だと思うよ?テロなんて」
「出来るさ、この力さえあれば、いくらでもな」
アリサカソウマが大きく両手を広げると同時に、おおよそ20を越える数の小さなミサイルが出現し、再び一触即発の緊張感がホールに張り詰める。
「待てよアリサカ」
ふと声がした方からゆっくりと歩み寄ってきたその男性は、張り詰めた空気やアリサカソウマの今にもミサイルを飛ばしそうな殺気にも怯むことなく、強気な姿勢でアリサカソウマの目の前で立ち止まった。
「カサオカ、お前まで邪魔すんのか」
「いや、その話、俺も混ぜて貰おうと思ってな」
「あ?」
もう?・・・もうアリサカの意見に同調する人間が現れたのか。
「あんたの話は分かった。だからとりあえず、今は大人しく出て行こうぜ?ここじゃさすがに分が悪すぎる」
「・・・分かった」
このまま2人を止めるべきか、だけどアリサカはあくまでもテロを鎮圧するために動くってことには間違いはなさそうだ。
けど、だからといってこのままテロ組織を誕生させてしまって良いものなんだろうか。
「おいユウジ、お前らがこの先テロ鎮圧の活動をしようが勝手だ。だが俺達の邪魔をするようなら容赦はしないからな」
「ほんとにやるの?テロなんて」
アリサカとカサオカがホールを出て行くと同時にノブが意識を取り戻したが、ホールには安堵感を押し潰すように虚しさに満ちた静寂が広がっていた。
「あいつは、行っちまったのか?」
「うん、カサオカって人を連れてね」
「まじかよ・・・」
テロ組織か・・・。
今までだって過激派とか呼ばれてニュースでもよく取り上げられてたけど、これからそういうのが一気に増えるってことかな。
舞台奥の部屋からおじさんが出て来るのが見えると、おじさんは壊されたテーブルを見て足早に舞台を下りてきた。
「家具類は発注するのに少し手間がかかるんですけど、仕方ないですね」
「おい、そういや、あんた何でアリサカを止めに入らなかったんだ?見てたんだろ?どうせ」
ノブの責めるような問いにおじさんは小さく眉間にシワを寄せながら目線を落とした。
「私が行くほどのことじゃないと判断したからです。きっとユウジ君や氷牙君が止めに入ると思ってましたから」
まるで、大規模な反乱が起こっても止める自信があったかのような言い方だ。
「それでは、そろそろ決勝戦を始めましょうか」
「おいおい、こんな状況でか?あいつら追わなくてもいいのかよ」
「シマザキさん、あと、たったの1回戦じゃないですか。このままうやむやにして終わらせたら、今までの時間がすべて水の泡ですよ」
ノブは頭をゆっくりと掻きながらため息をつくと、小さく頷きながら壊れたテーブルの方へと離れていった。
「2人共、よろしいですか?」
「まぁ俺は良いけど」
「僕も良いよ」
安心したように微笑みを浮かべたおじさんはウェイトレス達を呼んで壊れたテーブルを片付けさせると、まるで何事も無かったかのようにマイクの前に立ちホールを見渡した。
「皆さん、組織にはリーダーが必要不可欠なので、先程のような事を起こさないためにも、決勝戦、始めさせて貰います」
「行こうか、氷牙」
「あぁ」
闘技場に向かう途中にふと目に留まったノブの佇まいに、どこか寂しげな雰囲気を感じた。
少なくとも、ノブにはテロに反対する正義感のようなものがあるってことか。
「それでは、決勝戦を行います」
闘技場の中央で向かい合うとおじさんが喋り出し、そして直後にゴングのような金属音が闘技場内に響いた。
「始めっから、本気で行っちゃう?」
ユウジって、結構明るい性格みたいだな。
さっきも特に悲しむようなこともしなかったし。
「あぁ」
そう言って氷牙を身に纏うと、ユウジはまるで戦いを楽しむかのような笑みを浮かべながら髪を逆立て全身に電気を身に纏った。
「行くよ」
ユウジが前に出した掌から拡散するように電気が放電されると、直後に中央からビームのような太い雷の光線がほとばしった。
とっさにブースターを横に噴き出して光線を避けるが、ユウジが掌をこちらに向けてくれば雷の光線も追ってくる。
そのまま回り込みながらユウジに紋章を重ねた氷弾を撃つと、ユウジはとっさに避けようとしたが半歩間に合わず、氷の弾を肩に受けながら軽く吹き飛ばされた。
「おっと」
倒れ込む前に地面に手を着いたユウジはすぐに立ち上がりながら、更に少しだけ距離を取るように離れていった。
「やるね、じゃあ次はこれかな」
両手を広げたユウジは一瞬で自分よりも大きな電気球を作り出すと、それを立て続けに幾つも投げつけてきた。
あんな大きなものすぐに出来るのか。
あれなら、無理してかわすより撃ち落とした方がいいかな。
ユウジが投げてくる電気球を紋章を重ねた氷弾でことごとく迎撃していく。
「ふぅ・・・ならこれはどうかな」
すると両手を高く挙げたユウジは激しく電気をほとばしらせ、更にとてつもないほど大きな電気球を作り上げていく。
「デジャヴかな」
いや、予選のときと同じってだけか。
それにしてもでかいな、あれは撃ち落とせるかな。
「よいしょっ」
そして遂にユウジはその超特大の電気球を投げ込んできたので、氷弾を構える紋章の先に重ねていた紋章の、更にその先にもう1つ紋章を重ねた。
「氷弾砲」
迫ってくる超特大の電気球が2つの紋章を通った氷の弾と衝突し、ほとばしる電気と砕け散る氷の大爆発を起こすと、そのまま氷の弾共々消し飛んでいった。
「・・・まだ何か隠してるんじゃない?」
大きく息を吐き両手を腰に当てるユウジは若干の疲労感を伺わせている。
「どうかな」
「じゃあ次行こうか」
そう言うとユウジは合掌するように手を合わせ、何やら両手に電気を溜め始めると、次第に両手からは洩れるように電気がほとばしり始めた。
次はどんなものがくるのかな。
そして勢いよく両手を広げると、両手に溜めた電気が瞬間的に辺り一面に放電される。
するとその無数の細い電気が、まるで生きているかように方向転換して、すべてがこちらに向かって飛んできた。
まずい、逃げ道がない。
逃げようとしたものの1発当たると衝撃で少し動きが鈍ってしまい、瞬く間に無数の雷に襲われていく。
これは、やばいな
こんなのを連続で出すとはさすがだな。
「今のはすごいね」
ゆっくり立ち上がってそう言うとユウジは呆れるように肩をすくめる。
「でも普通に喋ってる方がすごいって」
「そうかな?それじゃ反撃しようかな」
「良かった」
氷弾を撃ちながら近づくと、ユウジは電気の柱で壁を作ったので、横に滑るように回り込んでから紋章を重ねた氷弾を撃つ。
するとユウジは電気球でそれを迎撃してから素早く雷の光線を放ってきたので、ブースターの出力を上げ、一気に回り込んでから紋章を重ねた氷弾を撃ち放った。
アリサカとカサオカに関しては、海外ドラマの若い二人組の主人公みたいな感じですかね。
印象に残るようで残らないよくあるイケメン。笑
ありがとうございました。