新しい風
これまでのあらすじ
堕混の情報を持ちかけ、傭兵として軍に入った氷牙。一方、緊急召集をかけられたミアンナはそこで鎖国している国が大きな動きを見せたことを知らされる。
「それは、まさか」
1人がすぐに緊迫した声色で口走ると、険しい顔のままオンダ中佐は静かに頷く。
「あぁ、鎖国してる国の兵の特徴と一致する」
ベンデュッセから南東に進んで、エネカトに来たってことかな?
「目的は未だ不明だが、襲撃地点から後戻りしない限り、行き先は南と北東の2つの道に分かれる。つまり、エネカトから南に向かわなければ、確実にそいつらは我が国に足を踏み入れるという事だ」
エネカトに入ったってことは、未開の森には入らないで遠回りしたってことだし、やっぱり、都市への侵略が目的なのかな。
「もし、鎖国兵が我が国に入ったときには、1番近い南軍営所が第1の砦となる。そこで、ダコンはヒョウガ大尉と被害地域が近い東軍営所に任せて、我々は鎖国兵の迎撃に専念する」
まぁ、ヒョウガなら大丈夫だろうな。
ジェンナイ少佐が手を挙げるとオンダ中佐は喋るのを許すかのように黙って顔を向ける。
「それなら、エネカトを支援するという名目にして、我が国に入る前にエネカトで戦えば、我が国には被害が出ないんじゃないでしょうか?」
するとオンダ中佐は眉間のシワを少し深くして見せ、どことなく悩むような顔色を浮かべた。
「もし我が国に向かうなら、出来るだけ我が国の領土内で終わらせたいと思っている」
ゆっくりと上を向いたり、窓を見たりしながらオンダ中佐がそう言うと、ジェンナイ少佐を始めとしたほとんどの人がオンダ中佐の表情に若干の不安と期待を込めた眼差しを向ける。
何か理由でもあるのかな?
「それは、何か理由があるんですか?」
「この度の戦いの機に乗じて、新開発した兵器を導入予定だからだ」
新兵器?
「え・・・新兵器の開発なんて、噂ですら聞いてないのですが?」
「あぁ、開発施設の場所はおろか、開発していること自体、中央軍営所の最重要機密事項だからな」
再びジェンナイ少佐が口走るが、オンダ中佐は険しい表情のまま軽くあしらうように応える。
最重要、機密か・・・。
「本来は、新兵器が完成されても表に出される予定は無かったが、まるで兵器の技術が謎の鎖国してる国が動き、ましてや侵略が目的となれば、出し惜しみする理由は無い」
新兵器か、どんな感じかな?
「それじゃあ、早速新兵器の概要について、フジルドに説明して貰おう」
オンダ中佐がそう言うと、向かいに座るフジルドと呼ばれた見知らぬ男性が立ち上がり、オンダ中佐が1歩横にズレると代わりにフジルドが皆の前に立った。
その時に緊張しているのか、ふとフジルドの目が少し泳いでいるのが気に掛かった。
「えー、中央研究所第三技術開発局から来ました、オンダ・フジルドです」
オンダ?
親戚かな。
「え、オンダって」
「あぁ、こいつは私の甥だ」
1人が思わず口走るが、オンダ中佐はまるで冷静さを崩さず、窓から外を眺めながら淡々とそう応える。
素早く瞬きしながらフジルドは一瞬オンダ中佐の方を見るが、すぐにまた目線を前に戻す。
「えー、結論から言いますと、武器の原動力にはプラズマを利用します」
電気系か、ちょっと親近感湧くかも。
「えーまず、高密度に超圧縮したプラズマを帯電に特化した金属に集めまして、それを絶縁に特化した特殊合金の筒の中にセットして、カートリッジ状のコアを作りました」
そう言うとフジルドは椅子の下から黒く四角いケースを持ち出し、それをテーブルに置いておもむろに開けると、白い円筒の形をしたものを取り出した。
軽そうに持って見せてるみたいだけど、危なくないのかな?
見た感じ、手首から中指の先までの長さで、鉄パイプみたいな太さみたい。
「えー、これをコアにして、現段階では主に2種類の武器を使えることになってます」
長引いてるのかな?
とりあえず訓練室に行ってようかな。
地下に降りて廊下を進み、訓練室に入るとすぐ脇のソファーには誰も居なかったので、何となくガラス張りの壁から訓練場を見下ろした。
「あ、あんた」
すぐにこちらに気が付き、声を掛けてきた機械の前に座っている人に顔を向ける。
「軍人になったのか」
「まあね」
するとそのオペレーターと思われる20代後半に見える人は、下よりもこちらに興味があるみたいで、椅子を回転させてこちらに体を向けてきた。
「あんたのあの時の姿の動きのデータは、見れば見るほど興味が湧くんだよ。あんた、ほんとに獣人でもないんだろ?」
「あぁ」
「いやぁ・・・あ、そうだ、あれ見なよ」
オペレーターの指の先に目を向けて下を見下ろすと、訓練場では前に戦ったDタイプAIとやらと数人の軍人が戦っていた。
中には獣人も居るみたいだ。
「オリジナルじゃ、誰も歯が立たないから、動きのレベルを半分にしたんだが、あれでも獣人以外はお手上げなんだ。いやぁ、ほんと良いデータが取れたってもんだ」
確かにあのチーターみたいなネイティブタイプの獣人は、チーターだけあって速い。
「僕もDタイプAIと戦いたいんだけど、良いかな?」
するとこちらに顔を向けたオペレーターは嬉しそうにニヤつき出した。
「そうか、良いよ。またデータが取れるしな」
「でもミアンナが少佐以上の人が居ないとだめって言ってたけど」
「ん?んー・・・まぁ割り込む分には全然問題無いだろう」
「そうか」
下への扉に向かい、ドアノブに手を掛けるときにオペレーターに顔を向ける。
「AIの動き、オリジナルに戻しといてよ」
「おう」
親指を立てて応えたオペレーターを見ながら扉を閉め、訓練場に降りると、疲れ果てて壁にもたれ掛かっていたり、座り込んだりして獣人とAIの戦いを見物している軍人達がこちらに顔を向けた。
一応赤い線を通らずに出来るだけ獣人の傍まで近寄る。
「ねぇー、僕もそれと戦って良いかなー?」
獣人はこちらに一瞬顔を向けると、すぐにAIに目線を戻す。
やっぱり邪魔かな。
すると獣人はAIの攻撃を避けながら少しずつ赤い線に近づいてきて、蹴りでAIの動きを鈍らせると赤い線を越えてこちらの目の前で膝に手を着いた。
「ふぅ・・・はぁ、お前、誰だ?」
結構バテてるみたいだな、長い間戦ってたのかな?
「・・・まぁ、あのAIのオリジナルと言ったところかな?」
「・・・何だって?」
獣人は驚きの声を上げながらこちらの顔を見ると、AIの方を見ながら腰を上げて、またすぐにこちらに目線を戻した。
「僕も特訓したいから、交代して良いかな?」
「あ、あぁ」
そう言うと獣人が下がって行ったので、赤い線を越えてリングのような訓練場の中央に向かう。
「準備は良いか?」
中央に着くとオペレーターの声がしたのでその方に顔を向ける。
「ちょっと待って」
意識を集中させ天魔の力を体の底から引き上げる。
「翼、解放」
天魔の力が翼の形に具現化されると、更に翼から垂れ流れる天魔の力が体中を纏っていき、首から下を鎧で固めた。
「良いよ」
そう言いながらオペレーターに顔を向けると、オペレーターはこちらを見たまま固まった。
「・・・あんた、もしかして、堕混の仲間、か?」
「似たような力を持ってるからって、仲間とは限らないよ」
まぁ、そう思うのが当然だとは思うけど。
「ほんとに、スパイじゃないのか?」
そういえば、人前でこの姿になったときのことは予想してなかったな。
「僕は堕混を倒すために旅をしてるとしか言えない。信じてくれとは言わないけどさ」
少しの間沈黙が続いたが、オペレーターの小さなため息が訓練場に洩れるとオペレーターは顔を上げ、難しい表情を見せた。
「悪いが、オンダ中佐に報告させて貰うよ。見過ごすことは出来ない」
「そうか」
訓練場を囲む赤い線が消えたので、翼を消してオペレーター室に戻った。
「じゃあここで待ってても良いかな?」
「・・・分かった」
緊迫しているような表情でオペレーターが応えると、すぐにオペレーターは襟から取り出した無線機を頬に当てる。
「今のところはこの4タイプの武器で戦って貰うことになります・・・」
フジルドの説明を聞いていると、突如オンダ中佐の無線機から信号音が流れたので、オンダ中佐は無線機を取り部屋の端っこまで歩いた。
「どうした?」
「・・・会議が終わりましたら、訓練室まで来てくれませんか?白髪の軍人のことで、確認して頂きたいことがあります」
白髪の軍人ってヒョウガのことだ。
何かあったのかな?
「・・・分かった」
オンダ中佐は無線機をしまうと、すぐにこちらの方に歩き出し、オンダ中佐に顔を向けたフジルドを眼差しだけで目線を戻すように訴えた。
「えー、明日には出力機の剣タイプが各種3つずつ、銃タイプが各種2つずつ、それと10人分のコアカートリッジがここに届くと思います。えー、私からは以上になります」
たった10人で足りるのかな?
「何か質問はあるか?」
フジルドが横にずれてコアカートリッジをケースにしまい始めると同時に、オンダ中佐が皆の前に立ってそう言ったので、手を挙げるとオンダ中佐はこちらに顔を向けた。
「ミアンナ少佐」
「鎖国兵の隊の規模は分かりますか?」
「エネカトからの情報では、4人だと聞いている」
「そうですか」
たった4人か。
堕混みたいに1人で軍隊を相手出来るくらいの強さなのかな?
それが4人も居たら、いくらヒョウガでも・・・。
「リンス少佐」
オンダ中佐が口を開いたので、手を挙げたリンスに何気なく顔を向ける。
「念のため、ヒョウガ大尉にも鎖国兵との戦闘に加勢して貰った方が良いのではないでしょうか?」
「・・・そうだな、ダコンとの戦闘を終えた後であれば、こっちにも加勢出来るかも知れない」
「おうアシュク、もう良いのか?」
「あぁ、強さは予想以上だったよ」
「だろ?」
オペレーター室に入って来たアシュクと呼ばれた獣人は、オペレーターと話した後にこちらの方に向かって来た。
「おい、お前、ほんとにあのAIのオリジナルなのか?」
「まあね」
「んー」
するとアシュクは疑うような眼差しでこちらを睨みつける。
「まぁいいや、じゃあオレ戻るよ」
「あぁ」
オペレーターに挨拶をするとアシュクは訓練室を出て行き、他の軍人達もアシュクに続いて出て行った。
少しの間沈黙が流れると、オペレーターはおもむろにこちらに体を向けて何か言いたそうな表情を見せてくる。
「お、俺はさ、あんたを疑ってる訳じゃないんだ。ただ、あー、俺じゃ判断出来ないってだけで・・・」
「分かってるよ」
「・・・あ、あぁ」
しばらくして訓練室への扉が開き、その方に目を向けたオペレーターが緊迫した表情に変わったので、目線の先に目を向けると訓練室にはオンダ中佐とミアンナが入って来た。
やっと来たか。
「タガリ、氷牙大尉についての話だったな」
「はい」
タガリというオペレーターは、はきはきと応えながら真っ直ぐ立ち上がりこちらに顔を向ける。
「あの、堕混の手下と思われる者に、非常によく似た姿になったんです」
するとオンダ中佐は一瞬こちらに目を向ける。
「詳しく話せ」
「はい、AIとの戦闘直前、いきなり翼が生えてきたと思ったら、首から下を白黒の殻質性の鎧のようなもので固めました」
すると小さく頷いたオンダ中佐はこちらに向かって歩き出し、こちらから右手にあるソファーに静かに腰掛ける。
「それは本当か?」
いつもの険しい顔に、眉間のシワの深さが重なり、眼差しも冷たい。
「えぇまぁ」
「お前、何者だ?」
「今から一応真実は話しますけど、信じるかどうかはオンダ中佐に任せます」
「・・・分かった」
仕方がないので、天使と悪魔の世界に行った目的から反乱軍の誕生、そして堕混を倒した後に天魔の力を貰ったことをなるべく分かりやすく話した。
「つまり、始めは力が欲しいだけだったが、堕混が誕生したので傭兵として迎撃し、力を貰った後でも、任務の延長でこの世界にも堕混を捜しに来たって訳か?」
「そうです」
険しい顔のままみたいだし、納得したかどうか分からないな。
異世界に行く度、いちいち説明していかなきゃいけないのかな。
「ミアンナ少佐はどう思う?」
オンダ中佐がそう聞くと、ミアンナは驚いたように耳を立てた。
「え・・・わ、私は、信じます」
「そうか・・・タガリは?」
「えっ・・・俺は、最初から疑ってませんけど」
新しい風ですね、まぁ新兵器と、初めて使う天魔の力、でしょうかね。
ありがとうございました。




