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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第四章

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初めての記憶は悲しみだった2

1つ、また1つと瓦礫を取り除く度、少しずつ体の一部が見えてきて、また1つの瓦礫を取り除いたとき、ついには少女のきれいな顔が瓦礫の下から現れた。

そして最後の瓦礫を取り除くと、そこにはまるで眠っているかのように少女が横たわっていた。

・・・外傷は・・・無いみたいだな。

少女を抱き上げ、ゆっくりとアイルと女性の目の前に寝かせる。

「・・・せな」

アイルは静かに少女に声をかける。

「セナっ」

膝から崩れ落ちた母親は涙ぐみながらも少女に強く呼びかけたが、少女はまるで人形のようにただそこに横たわっている。

鎧を解き、セナと呼ばれた少女の手首を優しく持ち上げ、脈を取ってみる。

ゆっくりとアイルを見ると、アイルは言葉も発せずただ寂しそうにこちらを見つめた。

「死んでるね」

「・・・しんでる」

アイルはゆっくりと聞いた言葉を繰り返すと、母親は声を抑えるように泣き崩れて、母親を見たアイルは黙ってセナを見下ろした。

枯れ果ててたんじゃなく、これが初めての悲しみなのかも知れないな。

「おいっ」

するといきなり歩み寄ってきた中年の男性に胸ぐらを掴まれる。

「頼むっ俺の女房も捜してくれよっ・・・まだあの中に居んだよ、頼むよっ」

「そうか」

まぁ、暇だし。

噂を聞きつけたのか、人を捜し出す度にまた捜索を頼まれ、日が暮れたときには何故か民衆の賛美の中に居た。

「本当にありがとう、一生恩に着るよ」

「捜し出してくれてありがとう、これでちゃんとこいつを埋葬してやれる」

もう、埋まってる人は居ないみたいだな。

「何でもっと早く来てくれなかったんだっ」

「軍人さん、あなたのおかげです」

良い暇つぶしにはなったかな。

早く終わったのも、堕混が本気じゃなかったおかげだろうか。

とりあえず堕混が出た場所も確認したし、軍舎に戻ろうかな。

公道に向かって歩いているとき、後ろから呼び止められたので振り返ってみると、そこにはアイルとアイルの母親が居た。

「ほら、ちゃんとお礼言いなさい」

母親が囁きながらアイルの背中を押したので、アイルは戸惑いながらも前に出た。

「おじさん、ありがとう」

「あぁ」

アイルに応えた後に、一応母親に顔を向ける。

「すいません、もっと早く来ていれば」

「いいんです、軍人さんも私達のために戦って亡くなっていったんですから」

小さく首を横に振ると母親は優しく微笑みながらそう応えたので、会釈してからその場を去った。

白髪じゃあ、おじさんと呼ばれても仕方ないか。

南軍営所に戻ったときにはすっかり夜になっていて、食堂に向かうと食事を終えた人達があちこちで談議に花を咲かせていた。

遠くからでも分かるミアンナの耳を見つけて近づいて行くと、こちらに気づいたミアンナに続いてジャトウとレジイラもこちらに顔を向ける。

「氷牙、何か食べた?」

「いや」

ミアンナが立ち上がりながら聞いてきたので、すぐに応えるとジャトウが呆れたように鼻で笑う。

「そりゃ、そうだろうよ。人助けしてたんだから」

「何で知ってるの?」

「はっお前しか居ないだろ?白髪の軍人なんて」

一瞬こちらを見たが、すぐに目を逸らしたジャトウは嘲笑うかのような口調でそう応える。

「夕方頃に、昼から白髪の軍人が1人で救助活動してるって情報が、東軍営所から流れて来たんだ」

ジャトウからこちらに目線を変えながらそう言うレジイラも、その冷静さを感じさせる表情にどこか呆れのようなものを見せる。

「そうか」

「ああゆう事されると、俺達までやんなきゃいけなくなんだよなぁ」

「ちょっとジャトウ」

ミアンナが耳と眉をすくめると、ジャトウは眉を上げて小さく首を横に振りながら口を閉じる。

「すごいね氷牙、1人で人助けしてたなんて」

嬉しそうに耳を立てながらミアンナが笑顔で喋り出す。

「まぁ、たまたま堕混が出た場所に行きたかっただけだし」

「そっかぁ、でも疲れたんじゃない?」

「まぁ体力には自信があるよ」

少し気品が伺えるように口を軽く押さえながらミアンナが笑っていると、カウンターの前に着いたので、メニューを見上げる。

「じゃあ、あれがオススメだよ。疲労回復の効果があるの」

指を差しながらミアンナがそう言ったので指の先に貼られている札の料理を注文してみると、タイ料理を思わせる色合いのスープのようなものが出て来たので、ミアンナがお金を支払ったのを見てからテーブルに料理を運んだ。

「何だ?お前ら付き合ってるのか?」

ジャトウが何気なくそう言いながら、椅子に座ったミアンナに顔を向ける。

「え・・・え?・・・」

すると頬を赤らめながらミアンナはジャトウとこちらを交互に見る。

「な、何でよ」

強く首を横に振り、困ったように声を上げたミアンナを見てから、緑がかった透明度の高い赤いスープを飲んでみると、唐辛子のような辛さの後に、強い炭酸水を飲んだかのような感覚が喉を通る。

「じゃあ、何でお前が金払ってんだよ」

「え、だって・・・お金が、無いって、言うから」

耳を大きく下げ、どことなくレモンを思わせる困ったような上目遣いでミアンナがそう応える。

舌に残る後味がプルーンの味に似てるかもな。

鶏肉みたいな具もたくさんあって、疲労回復だけじゃなく、スタミナもつくかも知れないな。

「金が無いだ?お前、給料日までずっとそうやって生きて行くのか?」

こちらを見たジャトウは少し怒ったような口調でそう問い詰めてくる。

「まだあと10日もあんだぞ?」

「まぁ、それなら、食事するのを控えようかな」

「だめだよ、何言ってるの」

するとすぐにミアンナが眉間にシワを寄せ、冷静さのある口調でそう言い放った。

10日以上も堕混が動かないなんて、あるかな?

「多分10日もこの世界には居ないと思うよ」

単に侵略が目的なら、すぐにでも暴れるだろうし。

「は?・・・どういう意味だよ」

少し声を荒げるジャトウを、レジイラがなだめるように呼びかけるのを見ながらスープを掬い口に運ぶ。

「・・・落ち着けよ」

レジイラを横目に見たジャトウだが、表情を落ち着かせることなくすぐにジャトウはミアンナに顔を向ける。

「お前も、わざわざ払ってやることないだろ?」

「でも・・・いつも妹の相手して貰ってるし」

再びミアンナが耳を下げながらそう言って上目遣いを見せると、ジャトウは言葉を詰まらたかのように黙り込みこちらを軽く睨みつける。

「それより、10日も居ないってどういうこと?」

「堕混を倒したら元の世界に帰るからね、それに10日以内には何かしらの動きはあると思うし」

「そっかぁ」

少し寂しそうにミアンナが頷くのを見てから、再びスープをレンゲで掬って一口飲む。

「は?まるでちょっくら堕混を倒しに来たみたいな言い方だな」

表情は落ち着いてはいるが、ジャトウのその口調には未だに若干の怒りを感じさせた。

「お前、堕混を甘く見てんじゃないのか?」

「・・・そうかも知れないね」

スープを飲みながら応えていると、沈黙が流れたので顔を上げ、3人の方を見た。

「・・・は?自信・・・あんじゃ、ねぇのかよ」

「まあ、相手の力はそもそも未知数だし、前は倒せたとしても、次は予想を超える力をつけて現れる、なんて事もあるかも知れないし」

そう言ってスープを一口飲むとまた沈黙が流れたので、3人の方に顔を向けると3人は険しい表情のままで固まっていた。

「お前・・・そんなんで1人で売り込んできて、正気なのか?」

するとレジイラが冷静に口を開いた。

「んー・・・でも全く歯が立たなくなるとも思ってないけど」

そう言ってお肉を頬張ると、レジイラは表情を落ち着かせたまま小さく唸りながら首を傾げた。

「はぁ?お前、ほんとよく分かんねぇ奴だな」

うなだれるような口調になったってことは、ジャトウも落ち着いてきたってことかな。

「そっかぁ」

ミアンナがため息混じりに口を開いたので、ミアンナに顔を向けるとジャトウ達もミアンナを見る。

「終わったらすぐに帰っちゃうんだね」

「え?もうその話、終わってんじゃ・・・」

「おいジャトウ」

すぐにレジイラがなだめるような口調でジャトウの何気ない言葉を遮る。

スープも飲み終わったので食器をカウンターに返して席に戻ると、3人を包む空気が少しだけ変わったような気がした。

「それじゃ、俺は部屋に戻るかな」

そう言ってジャトウが立ち上がるとレジイラも後に続いて立ち上がった。

「ミアンナはどうする?」

レジイラに優しく問いかけられたミアンナは微笑みながら頷くと、ミアンナも2人に続いてゆっくりと席を立った。

「氷牙も行こうよ」

「あぁ」

後に続いて立ち上がり、ミアンナ達と共に階段を上がる。

「ほんとに堕混を倒すためだけに来たの?」

「まあね、やっぱり居るべき世界に居ないとね」

少し耳が下がっているが納得したようにミアンナが頷き、少しして部屋の前に着くとミアンナはジャトウ達に挨拶してから部屋に入って行った。

まだまだ天魔の力に慣れてないし、何回か使ってみないとな。

でも天魔と氷牙を合わせるのは、最後の切り札として残して置こうかな。

朝になり、部屋を出て食堂に向かいそして適当に椅子に座る。

中庭よりここで待ってた方が良いか。

しばらく佇んでいるとミアンナに声をかけられたので共にカウンターに向かって料理を頼む。

ミアンナが持つワラで出来た財布を見ていたとき、不意にこちらに顔を向けたミアンナと目が合うと、すぐにミアンナは何かを訴えかけるように優しく微笑んだ。

「ジャトウの言ってたこと、気にしないで良いからね」

「そうか」

しばらくして食堂に人が集まってきたとき、突如無線機からノイズ音と共に声が聞こえてきた。

「南軍営所の佐官兵に告ぐ」

オンダ中佐の声だ。

「通常訓練の前に司令室に緊急召集をかける。繰り返す・・・」

何だ、堕混が出た訳じゃないのか。

片耳を真っ直ぐ立てて固まったミアンナは、無線機から声が聞こえなくなるとようやく箸を動かした。

聞き耳を立てるとはまさにこのことだな。

「氷牙、これからどうするの?」

山菜のようなものを食べながら、ミアンナがふとそう問い掛ける。

「んー・・・特訓とかしたいかな」

するとミアンナは耳を立てると共に少しだけ嬉しそうな微笑みを見せた。

「じゃあ、訓練室に行きなよ。前に氷牙の腕試しした所」

天魔の力を使ったらレモンは相手してくれないし、その方が良いか。

「あの時、最後に戦った奴って、何て言うの?」

「最後?」

ミアンナは首を傾げた方に両耳と目線を傾けてから、何かを思い出したかのようにこちらに目線を戻す。

「DタイプAIのこと?」

「・・・多分」

あれしか、張り合いがないしな。

「ああ、あれはね、佐官の人の許可が無いと使えないんだよ」

ミアンナは耳を下げ始めると少し申し訳無さそうにそう応えた。

「そうか、その、佐官って?」

「あ、少佐から大佐までの人のことだよ」

「なるほど」

「じゃあ、緊急召集の会議が終わって、何も無かったら、一緒に訓練室に行ってあげるよ」

「分かった」

食べ終わった食器をカウンターに返すとミアンナは足早に食堂を出て行く。

緊急の召集だし、名前的に会議がいつ終わるかなんて分からないな。

食堂に居ても暇だし、訓練室に行っても、DタイプAIとやら以外は暇つぶしにもならないしな。

かと言ってここから離れてたら、会議が終わったかどうかも分からなくなるしな。



司令室に入ると、いつものように窓際に立ち外を眺めているオンダ中佐の他に、すでに1人の男性が椅子に座っていた。

初めて見る人だ。

「適当に座れ」

いきなりオンダ中佐が口を開いたので、思わず1番奥の知らない人の向かいに座った。

間もなくして司令室に人が集まり席が埋まると、窓際に立つオンダ中佐は厳粛さを感じさせる足取りで皆の前に歩み寄った。

「今朝、2日前にエネカトの西部にある都市、カダが正体不明の何者かに襲撃されたとの情報が入った」

正体不明?

もしかして例の国の兵かな?

「外見の特徴を聞いたところ、頭からつま先までを丸ごと新種の合金鎧で覆っていて、剣の特徴はすべて光沢の無いものだそうだ」

F1のアイルトン・セナ


アイルトン・セナ


アイルと、セナ


です。笑


ありがとうございました。

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