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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第四章

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初めての記憶は悲しみだった

首を傾げながらそう応えた後に、ミアンナは何やらフォークに刺した白くねじれたものにかぶりつく。

「そうか」

訓練で疲れてるときに堕混が来たら、ちゃんと戦えるのかな?

少ししてピンク色のカレーライスを食べ終わったので、3階に行って司令室に着いたが、入る前に一応ノックしてみる。

「入れ」

扉の向こうから声がしたので部屋に入ると、窓際に立っていたオンダがゆっくりとこちらに体を向けた。

「そこに座れ」

「あ、はい」

テーブルを挟んでオンダの前に座ると、オンダは椅子には座らず、ポケットからストラップ付きの無線機を取り出した。

「お前の階級は大尉だ。何か質問はあるか?」

無線機をテーブルに置きながら、オンダが染み付いたような険しい顔でそう問い掛ける。

「堕混が出たら、すべての軍人に連絡が行くんですか?」

「いや、連絡がいくのは司令部の人間だけだ。南軍営所で言えば、俺だが」

無線機を手に取り、オンダに目を向けながら襟についてある専用のポケットに無線機を入れ、そして落ちないように金具のボタンを留める。

「そしたらすぐにオンダ中佐から連絡を貰えますか?」

「・・・分かった」



「そのずっと北の島が鎖国してるっていう国みたいで、その国の技術が全くの謎らしいよ」

「なるほどぉ、調べてみる価値はありそうだ」

嬉しそうに頷いてはいるが、どこか真剣な顔つきだなラットは。

「今のところは、獣人の精霊の力と、鎖国してる国の技術が良いな。良い情報をありがとう、ラット」

「あぁ」

「じゃあ、まずはその鎖国してるっていう国の近くに行こうかな」

するとシープが落ち着いた微笑みを浮かべながらラビットに歩み寄る。

「ラビット、もう引っ越すの?」

「うん、次は海が見れるよ」

「そっかぁ」

嬉しそうにそう言うとシープは天井を見上げ、ソファーに向かって歩き出す。

「それじゃあガルガン、予定通り、その後はガルガンに任せるよ」

「あぁ」

しかしガルガンはすぐに窓の外に目線を戻し、動かなくなる。

随分とあっさりした返事だな。

あれほど街を襲撃したがっていたのに。

何かを哀れむような眼差しでガルガンを眺めるそんなラビットを見ていたら、すぐにガルガンから目を放したラビットは奥の部屋に去って行った。



「師匠来たんですね」

やっぱりレモンは修業場に居たか。

汗ばんだ額をタオルで拭きながらレモンが丸太に座ると、タオルを服にしまいながらふとレモンは思い出したように笑顔を見せた。

「あ、空、飛んでくれるんですか?」

「あぁ、でもここじゃ、ちょっと狭いから、村に行こうか」

「はい」

笑顔で応えるとレモンが立ち上がったので、村に向かうとすぐにレモンは井戸の水で顔を洗い始めた。

「ぷぅ・・・あの、空飛んだら、すぐに行っちゃうんですか?」

するとレモンは少し耳を下げ、不安げな上目遣いを見せてくる。

「いや、何も予定は無いかな」

しかしそう応えると、すぐにレモンは上目遣いのままで嬉しそうにニヤつき出した。

「じゃあ、その・・・もし、良かったら・・・」

天魔の力で戦うのも良いかも知れないな。

「手合わせする?」

「はいっ」

「じゃあちょっと離れてて」

「あ、はい」

レモンはピンと張った耳を少し緩めると慌てて数歩下がる。

力は貰ったけど、使い方とか出し方とか、そこらへんは教わらなかったな。

何となく体の中の底にある何かに意識を集中してみると、それが涌き水のように体から外に向かって流れ出すような感覚がした。

確かガルーザスやライムミントが言ってた言葉があったな。

「翼・・・解放」

すると体中から垂れ流れている何かが背中に集中していく感覚と、何かが膜のように体中を覆う感覚がし始めた。

「うわぁ」

視界の両端から白い翼のようなものが見え、翼が体を覆い視界が光と闇に優しく包まれると、レモンが耳を真っ直ぐ立ててこちらをまじまじと見ながら声を上げる。

なるほど、この翼は本物じゃなくて、力が具現化したものだったのか。

だけどちゃんと意識すれば神経が繋がってるかのように翼が動くみたいだ。

腕や脚を見てみると、関節部分の黒い全体的な白さが目立つ鎧がすき間無く覆っているが、とても軽く、叩いてみたら結構硬い。

これも力が具現化したものかな。

「うわぁ、師匠・・・いつもとは違う姿ですね」

そう言いながらレモンが近づいて来ると、翼や鎧をなめ回すように眺める。

「これも、師匠の世界の力なんですかぁ?」

「いや、これはまた別の世界の力だよ」

「へぇー」

レモンは不思議そうに耳を下げていると、何かを思い出したようにこちらに顔を向けた。

「じゃあ、飛んでみて下さい」

「あぁ」

翼をはためかせるというよりかは、飛ぶという意識だけで勝手に翼が動き始めて、自然と宙に浮き出すみたいだな。

「うわぁ」

終始声を上げながら、レモンは少しずつ飛び上がるこちらを不安げに見上げている。

おっと、まずい。

井戸の屋根にぶつかって力のコントロールを失うと、井戸の屋根を転がりながらそのまま宙に投げ出され、考える間もなく地面に墜落した。

油断したか。

なかなか難しいな。

「師匠、大丈夫ですか?」

「あぁ、平気だよ」

そのうち慣れるだろう。

すぐに立ち上がって見せると、レモンは安心したように微笑みを浮かべた。

「じゃあ、修業、始めようか」

「え、その姿で、ですか?」

「あぁ」

そういえば、この姿で氷牙の力を使ったらどうなるんだろう。

ショウタみたいに2つの力を合わせたら、また新しい力が生まれるのかな。

「じゃあ行きますよ」

「あぁ」

レモンが電気を纏った拳を突きつけて来ると、甲高くほとばしるような衝撃音と共に拳は氷の防壁に当たり、その空間には見えない壁のヒビが浮き上がった。

そうだった、氷牙を纏ってないときは防壁があるんだった。

「んー」

レモンが眉間にシワを寄せると、連続的に拳を打ち込んでいき、防壁はその度にヒビが入るが、防壁自体に砕かれる気配は無い。

ヒビの筋でレモンが見えなくなったとき、レモンの気合いの入れた一声と共に繰り出された一撃が、ついに防壁を砕いた。

「ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ」

ようやく視界が晴れてレモンの姿が見えるようになったが、レモンは酷く疲れた様子で膝に手を置く。

「硬いです、それ、ずるいですよぉ」

仮面も被ってないのに、こんなに硬いはずはないんだけど。

鉱石を持っているからか、あるいは、天魔の力の影響か、それともどっちもかな?

「そうか、もっと強く打ち込んでみれば?」

「うー」

しかしレモンは駄々をこねるようにそのまま首を横に振る。

これで仮面を被ったら更に防壁は強化されるのか。

でもレモンはこれじゃ、修業が出来ないみたいだし、仕方ないな。

・・・どうすれば元に戻れるんだろう。

さっきの逆を意識すれば良いのかな?

天魔の力を体の中に押し込めるような感覚で意識を集中すると、翼が先端から消えて行き、排水溝に吸い込まれるような感覚で体の中に入っていく。

案外簡単みたいだな。

「レモン」

名前を呼ぶとレモンが顔を上げ、こちらを見た途端、レモンはすぐに背筋を伸ばして笑顔になる。

「戻ったぁ」

氷牙を纏うとレモンが構えるが、レモンはすぐに構えを止めて何やら自分の手を見る。

「まだちょっと手が痛いので、一旦休みましょ?」

「そうか、じゃあ僕、ちょっと街に行っても良いかな?」

鎧を解いてそう言うとレモンの微笑みが少し薄れたが、耳が下がったまますぐに微笑み直した。

「分かりました」

とりあえず堕混が出たっていう場所に行こうかな。

確か東の軍営所の近くだったはず。

広場の案内板を見ながら行けば迷わないだろう。

時計台の広場から案内板を頼りに次の広場に向かい、辿り着いた花畑の時計の広場で再び案内板を見ていたとき、ふと人の気配がしたのでその方に目を向ける。

「・・・あ」

その女性もこちらを見ると動きが止まり、すぐに何かを思い出したような声を出した。

いつかの清掃員の人だ。

するとこちらの服を見た清掃員の女性は驚くように眉を上げた。

「・・・え、軍人になったの?」

「まあね」

「ふーん」

関心が無さそうに返事をすると、清掃員の女性はすぐに地面に目線を戻し、ゴミを探し始めた。

真っ黄色の桜のような並木通りを抜け、東の広場に建つ案内板を眺める。

前はすぐに引き返したから、どんな広場かなんて見てなかったな。

改めて見ると変わったデザインの時計だ。

数字の位置と字体がそのままモニュメントのデザインの一部となってるみたいだな。

あ、獣人だ。

垂れ耳の獣人は露店で果物を買うと、すぐに路地に入って行ったので何となく追いかけて路地を抜けると、その向こうには小さな林道が続いていた。

あの向こうの近くに獣人の村でもあるのかな?

広場に戻り、案内板で位置を確認した東軍営所とやらの前に立つ。

「堕混が出た場所ってどこだか分かる?」

そう聞くと門番は一瞬だけこちらの頭の方に目を向けたが、胸元の装飾や肩の無線機を見ると背筋を伸ばし、見慣れたような敬礼のポーズをして見せた。

「はっ。でしたら、あちらの公道を抜ければすぐに確認出来ると思います」

「そうか、どうも」

「はっ」

随分と楽に情報が聞けるな。

これも軍服のおかげか。

門番が言ってた広い道に入ると、今まで通って来た道より更に賑やかになっていて、ひらべったい屋根以外で建物の構造にバリエーションが出て来た。

正立方体をどう積み上げるかっていうのが、建築の基本の理念なのかな。

3階建ての小さなデパートや、オフィスビルを思わせるようなもののすべてが正方形をしているその町並みを少しの間歩いていると、遠くの方に補修中と思われる建物が見えてきた。

あれかな。

その建物に近づくと見慣れたような足場が組まれていて、どうやら今は塗装している最中みたいだった。

そのまた向こうに、同じように足場で囲まれている建物がいくつか見えるので公道からズレて補修中の建物が並んでいる方に行くと、奥にはまだ足場も組まれてなく一部が破壊された建物や、半壊している建物、更に進むと、補修が出来そうにないほど破壊された建物が見えてきた。

ここら辺かな。

そして破壊された建物が並ぶそのまた奥に、広範囲に渡って広がっている林の焼け跡があった。

被害が出ないように街より林で戦おうとするはずだけど、随分とめちゃくちゃにされたな。

確かオンダ中佐が全滅した隊もあったとか言ってたか。

被害の規模は決して小さくないけど、堕混の本気がこの程度とは思えないな。

近い内に本格的な襲撃が来るのかも。

絶望感が満ちた静寂に包まれたその場所で、ふとどこからともなく瓦礫が動かされるような音が小さく聞こえてくる。

周りを見渡すと、1人の子供が全壊した建物を登ろうとしていたのが見えた。

「何してるの?」

子供に近づいて声をかけると、小学校低学年くらいの少年がおもむろにこちらに顔を向ける。

「・・・さがしもの」

そう言うと少年は更に瓦礫に登り、すき間から中を覗いたりし始める。

「何探してるの?」

少年の動きが止まると、無邪気さを忘れたかのような顔色の少年は再びゆっくりとこちらに顔を向ける。

「・・・いもうと」

妹?人間か?

もし生きてたら救助が必要かな?

「手伝おうか?」

涙も枯れ果てたような顔でゆっくりと少年が頷いたので、絶氷牙を纏い少年を瓦礫から離した。

「おじさん、そら、とべるの?」

「・・・まあね、ここで待っててよ」

「・・・うん」

崩れないように丁寧に上から瓦礫を一つずつ取り除き、家の前に並べていく。

しばらく作業に夢中になっていると、誰かの呼ぶ声がしたみたいなので何となくその方に目を向ける。

「アイル」

「・・・かあちゃん」

アイルという少年と、少年の母親と思われる女性がこちらに顔を向けると、すぐに若く見えるその女性は涙を堪えるように表情を歪ませる。

再び瓦礫を取り除き始め、ある焦げた家具を持ち上げたとき、家具の下に人の足のような形をしたものが見えた。

また少し瓦礫を取り除いていくと、今度は腕らしきものが見えてきた。

人形じゃなさそうだ。

恐らく妹だろう。

ピンク色のカレーライス・・・。笑


ありがとうございました。笑

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