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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第四章

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狐の少女

丸太に座りながら少し慌てて家に向かっていくレモンを見ながら、ふと遠目で村全体を見渡してみる。

改めて見渡して見ると結構広い村みたいだ。

獣人って世界中にどれくらい居るんだろう。

少しすると嬉しそうにニヤつきながらレモンが戻ってきた。

「お母さんが良いって」

「そうか」

「じゃあ私、グリム狩りして来ますので、家で待ってて下さい」

ついて行っても役に立ちそうに無いしな。

「あぁ」

レモンの家に入るとすぐに椅子に座って佇んでいる服を着た狐の後ろ姿が見えた。

「ユキ?」

不意にその狐がこちらに振り返るが、よく見ると着ている服の袖にはレースのような模様があったり、腰にはスカートみたいなひらひらしたものが見えた。

「誰?」

そしてすぐに怯えたように耳を大きく下げながら、その狐は少女のような声を上げる。

ユキ、ではない、な。

「お兄の知り合い?」

「そうだね、じゃあ君はユキの妹かな?」

「うん」

戸惑いながら頷くユキの妹を見ながら、近くのソファーに座る。

「何でここに居るの?」

一瞬沈黙が流れると、まだ少し警戒しているような声色でユキの妹がそう問いかける。

「レモンに夕食を招待されたんだ」

「そうなんだぁ」

ユキの顔と何が違うのか分からないが、どことなく違う気がするような。

「ナーリちゃん」

奥からレモンの母親が出て来ると、レモンの母親はそう呼びかけながら何やらワラで出来た袋を手に持っていた。

ナーリと呼ばれたユキの妹がレモンの母親の方に振り向くと、こちらに気付いたレモンの母親はすぐに小さく頷きながら微笑みかけてきた。

「あぁいらっしゃい」

「どうも」

「ナーリちゃん、これ持っていきな」

「うん、ありがとうおばさん」

ワラの袋を受け取ったナーリは嬉しそうに家を出て行くと、レモンの母親は少し落ち着いた表情でこちらに目を向ける。

「レモンにはついて行かなかったのかい?」

「はい、僕が居ても足手まといなので」

「そうかい?じゃあこっちを手伝ってくれるかい?」

「あ、はい」

レモンの母親について行くと、レモンの母親はミアンナの部屋に寄り、そしてワラで編み上げられた大きな袋からワラの束を取り出した。

「あそこなんだよ。解けかかってるのを直してくれるかい?」

指の差された方を見ると、屋根の角のワラの一部がくすんでいるのが分かり、傷んでいるのか少し解けかかっていた。

「分かりました」

「じゃあ梯子を持ってくるから」

「大丈夫です」

歩き出そうとしたレモンの母親を呼び止める。

「え?」

氷の仮面を被りブースターを使って屋根の上まで飛んでいき、そして屋根の上に降り立つと新しいワラと傷んでいるワラを取り替える。

このワラ、1本でもまるで布みたいに強いな。

「こんな感じで良いですか?」

「・・・おやおや、空が飛べるのかい」

改めて触ってみるときつく締めれたみたいなので、レモンの母親の下に降り立ち、古いワラをレモンの母親に渡す。

「いやぁ、助かったよ、こんなに早く終わるなんて」

「これくらいのことなら、いくらでも手伝います」

古いワラってどうするんだろう?

火にでも焼べるのかな。

家に戻りしばらくすると、グリムを背負ったレモンが戻ってくる。

「お母さん、ただいま」

「あぁお帰り」

するとすぐにレモンは母親と共に奥のキッチンへと向かった。

魚ならまだしも、牛を自分で捌くのは結構重労働なのかな。

少ししてワラで包んだ生肉を持ったレモンが奥から出て来ると、すぐにソファーに座っているこちらに向けて手招きして見せた。

「師匠ぉ、ちょっと手伝って」

「あ、あぁ」

レモンに連れられて外に出ると、ワラで包んだ生肉を渡される。

「これ、ユキの家に持ってって下さい。あの青い屋根の家です」

「分かった」

そう言うと足早にレモンは別の家の方に向かって行ったので、言われた通りに青く塗られたワラが混ざっている屋根の家に入る。

そういえば扉が無いな。

虫とか入らないのかな。

「ユキ」

家に入りながら呼んでみると、椅子に座っていたユキが驚いた声を上げながら飛び上がるように立ち上がった。

「何でお前が」

「レモンが狩ったグリムだよ」

ワラで包んだ生肉を差し出すと、ユキは戸惑った様子でワラの包みを見ながら近づいて来る。

「お、おう・・・そうか、悪いな」

しかし受け取りながらユキはすぐに嬉しそうにニヤついて見せた。

「じゃあ」

「あぁ」

ユキの家を出てふと空を見上げると、暗さを帯びてきた空に少しだけ夕焼けが目立ってきたのが確認出来た。

ゆっくりと歩き出しながら乾燥した風の匂いを嗅いでいると、名前を呼びながらレモンが後ろの方から駆け寄って来たのでレモンと共に家に戻ったときに、囲炉裏のある部屋からちょうど出て来たレモンの父親と目が合った。

「お父さん、ただいま」

レモンがそう言うとレモンの父親は張った耳を少し緩めてレモンを見る。

「あぁ」

そう応えるとレモンの父親は特に嫌悪感などは伺わせずにすぐに別の部屋に歩き出した。

明日は堕混が出た場所にでも行ってみるかな。

しばらくして夕食の席に招待されると、ワラの座布団の前には山菜と色とりどりの豆が入った木のお椀と、同じようなお椀に入れられた、サイコロ状に切られたお肉が入った溶き卵色のスープが置かれていて、そして囲炉裏の真ん中にはそのスープが入った鍋が吊されていた。

スープを飲むと、お肉の出汁なのか少し豚骨味になっていた。

「氷牙君、空を飛べるなんてほんとに人間かい?」

レモンの母親が優しく微笑みながらも驚いたような声色で口を開くと、レモンはすぐに嬉しそうに耳を立てる。

「えぇっ?師匠、空が飛べるの?」

「まあね」

すると黙って食事していたレモンの父親が、小さく首を傾げながらレモンの母親を見る。

「翼も無いのにどうやって空を飛ぶんだ?」

少し声を抑えながらレモンの父親がそう聞くと、レモンの母親は悩むように首を傾げる。

「不思議でねぇ、翼が無いのに空を飛ぶんだよ」

するとレモンの父親は不思議そうに喉を鳴らし、スープのお椀を手に取る。

翼か・・・。

そういえば、天魔の力を使えば翼が生えるのかな?

せっかく貰ったんだし、マスター出来るように一回は使ってみようかな。

「お前、氷を司るならチョウジンではないのか?」

超人?鳥人?

「鳥人ではないですけど、翼を出すことは多分出来ます」

「えぇっ?師匠、翼が生えるの?」

するとまたレモンが嬉しそうに驚く。

「多分ね」

「ちょっと見たいかも」

「じゃあ後でね」

レモンは耳をピンと張り満面の笑みを浮かべて頷くと、お椀を手に取って豆を頬張った。

「あ、でも夜は暗いから、明日にして?」

「そうか、じゃあ明日また来るよ」

「うん」

しばらくして食事が終わったので手を振っているレモンを見ながら家を出ると、すっかり日も落ちていたので足早に街に向かう。

やっぱり、馴らされてない林道は真っ暗だ。

街に入ると建物の明かりと軍舎の前の噴水のイルミネーションだけが街を照らしていた。

門の前に行くと門番に明かりで照らされ、軍服と顔を確認されるとようやく門が開らかれた。

確か部屋番号は058だったかな。

廊下に響く足音を聞いたのか、部屋の扉を開けようとしたとき後ろの扉が開く音がした。

「氷牙」

後ろを振り返るとミアンナが手招きしているので、仕方なくミアンナの部屋に入る。

机の上の壁にはネックレスのような民芸品を思わせるものが掛けられていて、床にはワラで出来た絨毯が敷かれていた。

「まぁ座ってよ」

「あぁ」

言われた通りにすると、ベッドに寄り掛かるようにワラの絨毯に座ったミアンナはすぐに耳を下げ、眉をすくめ出した。

「どこに居たの?迷子にでもなった?」

「いや、レモンに誘われたから、夕食をご馳走して貰ってたんだ」

するとミアンナは安心したように小さくため息をつき、徐々に不安げな表情を緩めていった。

「なんだぁ、そうだったのかぁ。食堂に来ないから、どうしてるのかと気になってたんだよ」

「そうか」

「あと手続きが済んだから、無線機を氷牙に渡すためにオンダ中佐が捜してたよ」

「もう終わったんだね」

意外と早かったな。

安心したような表情になったミアンナは微笑みながら頷く。

「でももう夜だからまた明日だって言ってたから、明日になったらオンダ中佐の所に行きなよ」

「分かった。オンダ中佐って普段はどこにいるのか分かる?」

「んー3階に部屋があるけど、でもすれ違いにならないように、食堂に居れば良いんじゃないかな?」

「そうか」

それもそうだな、下手に動き回らない方が良いか。

ふと壁に掛けられたものを見ると、ミアンナもその民芸品を思わせるものに目を向けながら優しい微笑みを浮かべた。

「それね、レモンが作ってくれたの」

「お守り?」

頷いたミアンナは耳の力を抜きリラックスしたように微笑みを深くして見せる。

「うん、おまじないもかけてくれたみたいで、それとそっちのはフルーが作ってくれたの」

聞き慣れない名前だな。

「・・・あ、氷牙は知らないよね、フルーは別の獣人の村に住んでる女の子なの」

一瞬だけピンと張った耳を緩めながらミアンナが見せたその笑顔に、ふと先程までには見られなかった親しさが伺えた。

「そうなのか」

その村は近いのかな。

「業務が終わると、たまにレゴっていう男の子とフルーの2人にグリム狩りを教えたりしてるの」

「そうか、その村も、街から離れて住むようにしてるの?」

するとミアンナは一瞬だけ小さく眉をすくめる。

「うん、基本的に獣人はそういうものだからね」

「そうか」

獣人って、人間と獣の間に生まれたものではないのかな。

進化の過程で突然変異して耳や尻尾や毛皮が自然と生えたなら、一説として筋は通るかもな。

「でもどこかに、獣人と人間が一緒に暮らしてる村があるって聞いたことあるけど、ほんとかどうか」

「まぁ世界は広いしね」

するとミアンナは吹き出すように微笑んでから、笑顔で頷いた。

少しして部屋に戻りベッドに横たわると、すぐに感じた違和感が狭さだということに気が付いた。

組織のベッドの方が広いんだな、確かスイートルームとか言ってたし。

ふと目を覚ましたときに窓から外を見るが、空はまだ少し暗かった。

どこの世界でも、空は青く、夕暮れは赤いのかな?

そんなことを考えながら外を眺めていると、空が少しだけ明るさを増し始めると共に、その色も澄んだ青さを見せ始める。

そして同時に、ふとレモンの母親が言った、獣人の起床時間が脳裏に甦った。

獣人の生活に慣れて自然と早起きになったのかな。 気づかなかったみたいだが、洗面所があるみたいなので顔を洗ってから部屋を出て食堂に向かう。

食堂に入ると早朝とあってか、さすがに人が居ないので食堂をそのまま抜けて中庭に出てみる。

内側を向くベンチに座り、中庭を象徴させるかのように立つ、黄色い蕾で彩られた1本の大木を眺める。

気温が低い気がするのは、レモンが言ってた森から来る花粉のせいなのかな。

だいぶ明るくなったみたいなので食堂に戻ると、そこはすでに人が多く入って来ている賑やかな食堂になっていた。

ミアンナが見えたので近づいて行くと、ミアンナがこちらに気づいたときに片耳を一瞬だけパタパタと動かした。

「あ、氷牙やっと来た」

そう言ってミアンナが立ち上がったので、共にカウンターに向かった。

「6時半になると行列になっちゃうから、その前に早く行こ」

「そうか、今何時?」

すでに数人で作られている行列に列びながらそう聞いてみると、ミアンナは内ポケットから懐中時計を取り出した。

「もう6時16分だよ、もしかして時計も持ってないの?」

懐中時計をしまうと、ミアンナは耳を下げながら不安げにそう聞いてきた。

「まあね・・・」

あまりお金の事を言うのはよした方が良いかな。

頼んだ料理をテーブルに運び、食事を始めようとしたときに横から話しかけられたので不意にその方に目を向ける。

オンダ中佐か。

「終わったら3階の司令室に来い」

「あ、はい」

するとオンダは足早にカウンターに向かって歩き出した。

無線機とやらを貰ったらまずはレモンの所に行こうかな。

「軍人って予定とか決まってるの?」

「んー、普通は、8時から訓練場かな、ここと東軍営所との間にあるの」

ネイティブタイプの獣人同士が相手を判断する上で決め手となるのは、顔ではなくやっぱり体臭や声なんですね。だからユキとナーリの顔が同じでも、問題はないんですね。笑

ありがとうございました。

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