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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第四章

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2つの彗星

「ああそうなのかい・・・じゃあ朝日が昇る頃になったら、起きる時間だからね」

「分かりました」

獣人の朝は早いんだな。

レモンの母親が部屋を出てしばらくして、少し小さめの窓から顔を出すと、外はすっかり夜になっていて空には星も出ていた。

当然のことながら、ガラスも枠も何も無い。

虫とか入らないのかな。

布団に寝転んでみると、ワラとは思えないほどの滑らかな手触りだった。

同じ言葉でも素材の質は違うのかな。

朝になると窓だけではなく、壁からも間接照明のようにほんのり光の色が漏れてきて部屋を明るくするみたいだ。

そういえば電気も通ってないみたいだけど。

部屋を出てふと思ったところ、洗面所とかは無い気がするのでそのままリビングに入る。

するとレモンが椅子に座って何かを飲んでいて、こちらに気づいたレモンは笑顔になった。

「師匠も飲みますか?温まりますよ?」

「そうか、じゃあ貰おうかな」

レモンにスープのようなものを木製の小さなお椀に注いで貰い、共に木製のソファーに座る。

溶き卵のような色と舌触りだが、生臭さは無く、白味噌に似た味がした後に喉から食道にかけて温まる感覚が通り抜ける。

「師匠ぉ、この地域の朝方は、森から来る花粉のせいで凄く寒くなるんです。大丈夫でしたか?」

よく見るとレモンはくせっ毛みたいで、片耳に髪が少し絡まっていた。

「僕は寒さには強いから大丈夫だよ」

「へぇー」

スープを飲み干して少し経ち、レモンの両親がリビングに入って来ると、レモンが母親と共に奥に向かい、父親はすぐに囲炉裏のある部屋に向かった。

しばらくするとさっきのスープに山菜が入った鍋が真ん中に吊され、別の木製のお椀には、色とりどりの豆のような物が、炊いたお米のように盛られていた。

こっちの世界で言うご飯とお味噌汁かな。

ちゃんと少しの粘り気があり、お米みたいに箸で掬えるものみたいだな。

しかも色ごとに少しだけ豆の味と硬さの強弱が違うみたいだ。

まるで少し大きい色つきのお米みたいなものだろうか。

これならおかずが無くても問題無さそうだ。

空になった鍋をキッチンに持っていくレモンの母親を見ながらリビングのソファーに腰掛ける。

でも時間分からないし、時間が来るまでは街で待った方がいいよな。

「師匠、頑張ってねぇ」

「あぁ」

笑顔で手を振っているレモンを見ながら茂みに入り、広い林道に出る。

時計台の丘に置かれたベンチに座り、どことなく違和感を覚えるほど澄みきった空気に鎮座する町並みを眺めながら、時計台の向こうに広がる森にも目を向けてみる。

森から来る花粉で、朝方の気温が低いってレモンが言ってたな。

目には見えないけど、何かこの世界にしかない変わった植物でもあるのかな。

「ミアンナ少佐から9時に来るように言われたんだけど」

「分かった」

門番の連絡の後に門が開けられると、少ししてから連絡を受けたであろうミアンナが門から出て来た。

「昨日はどうしてたの?」

「たまたまレモンに会ったら家に泊めてくれたよ」

1階の廊下を進んでいる中、そう応えるとミアンナは心配するような表情を、若干の安心感を感じたようなものへ変えた。

「そっかよかったね」

「まあね」

地下への階段を降り、左右に伸びた廊下を左に曲がると、ミアンナはいくつもの扉の中の訓練室と書かれた扉を開ける。

その部屋に入るとすぐ左手には休憩所と思われるソファーがあり、前方には何かを操作するための、まるで大掛かりな施設を管理する管制室にあるような機械が置かれていた。

そしてその機械の前に座る人は、そこからガラス越しに向こうの部屋を見渡せるようになっている内装だった。

ミアンナが機械の前に座っている人に話しかけているとき、ふとソファーに座っている軍人達が、皆ミアンナの後ろ姿を見ているような気がした。

ふとミアンナがこちらに顔を向けたので、ソファーの方に顔を向ける。

ミアンナもつられてソファーの方に目を向けた途端、ソファーに座っている軍人達は、とっさにミアンナから目を逸らした。

ミアンナが小さく首を傾げたときに、機械の前に座っている人が何やらマイクに向かって喋り出すと、ミアンナがこちらに向かって歩き出した。

「じゃあこっちから、下に降りてよ」

「あぁ」

下に、降りれるのか。

喋り出しながらミアンナが開けた扉の向こうに抜けると、すぐに階段があり、階段を降りた先には人工的に作られた障害物と共に、かなりの広さの演習場のような空間が広がっていた。

街を見た限りは19世紀くらいの技術力だと思ってたけど。

反対側の階段から軍人達が上に登っていくのが見ながら、学校の体育館を思わせるほどの広さを有する訓練場を見渡していると、突如ミアンナの声が訓練場に響いたので、指示通りに中央に向かった。

「これから出て来るターゲットを倒していくだけだからね」

周りを見渡しているとまた声が響いたので、遠くに見えるガラス張りのオペレーター室に居るミアンナに顔を向ける。

「あぁ」

「行くよ」

ミアンナの声の後に、機械の前に座っている軍人が何かを操作したので一応絶氷牙を纏った。

遠くの方から聞こえる機械音と共に、鉄製と思われる柱が、上に向かってゆっくりと迫り出し始める。

何だあれ・・・。

機械音が止まると、おおよそ肩くらいの高さで止まった4本の柱は先端をほんのりと光らせる。

そして四角形の辺の位置にある柱同士が2本の赤い線に繋がれると、気が付けばそこには巨大な四角形が出来上がっていた。

まるでボクシングやプロレスの時のリングだな。

すると直後に2本の線の中央辺りから、1体の人の形をした何かが現れた。

何だ?

手足が太く短い子供用の西洋の甲冑のような感じだが、関節が無く、しかも若干宙に浮いたように動いていて、まるで誰も入っていない甲冑が勝手に動いているような印象だった。

周りを見渡すとその1体しか居ないみたいなので、少し様子を見て中距離くらいに近づいたときに絶氷弾を撃った。

氷の弾が人の形をしたものに当たると、ブリキのおもちゃが壊れていくような音と共に、その人形は胴体や腕がバラバラになって地面に散らばった。

これが、この国の訓練?

すると4、5秒経った後に今度はさっきの人形が数体、四方から次々と現れたので、絶氷弾を撃ったり、蹴ったり、尻尾で叩いたりしていく。

何度かのインターバルの後、今度はさっきの2倍はあるかないかくらいの大きさの人形が1体出て来た。

ボスかな。

距離はかなり遠いが、出て来たと思った途端に紋章を重ねた絶氷弾を撃ってしまった。

砕けながら飛び散る人形の破片が赤い線を越えると思った瞬間、破片はホログラムのように薄くなって消えて行った。

そうか、実体じゃないのか。



何なの?あの力。

ネイティブみたいに骨格が変わるのも、何かの紋章みたいな円いものから出る氷の塊のようなものも、でも確かにあれなら1人でも戦力にはなるかも。

「じゃあレベル上げて」

「はい」

後は軍隊に対してどう戦うか・・・。



大分数が増えてきたな。

大きい人形も一気に何体か出てきたか。

両手の前に紋章を出すと更に尻尾にも紋章を1つ出し、人形達に絶氷弾を乱射していく。

そしてまた1回のインターバルの後に出て来た人形達の動きに、ふと機敏性が増したように見えた。

少しずつレベルとか上がってるのかな。

人形が氷の弾に対して反応し始めたのか、一瞬避けようとはするみたいだ。

しばらく人形を倒していくと、少し太ったり、武器を持ったりした人形が出て来るようになったが、構わずに殲滅させた後のインターバルが過ぎると、今度はまた一際大きな赤い人形が1体出て来た。

2メートル半くらいはありそうだけど。

絶氷弾を撃つが、人形は素早く腕に付いている盾でそれを防ぎ、悠然とこちらに向かって来た。

やっと戦いらしくなってきた。

赤い人形に近づくと、赤い人形はすぐさま盾を持っていない方の腕を、こちらに向けて振り下ろした。

ブースターで回転しながら腕を弾き、そのままの勢いで赤い人形に蹴りを入れる。

後ろに飛ばされた赤い人形にすかさず絶氷弾砲を撃つと、腕の盾に当たった氷の弾の破裂により、赤い人形はバラバラになって地面に散らばった。



あれを一撃で・・・。

ほんとに精霊の力じゃないのかな?

あの氷の塊が何なのか分からないけど、爆風の大きさを考えると小型のミサイルと同等の破壊力はあるみたい。

「じゃあレベル上げて」

「ああでも、今レベル6をクリアしましたので、実力を測る分にはもう十分じゃないですか?」

「この件は私に任されてるの、決めるのは私でしょ?」

そう言い放つとオペレーターは眉間にシワを寄せ、静かに訓練場に体を向けて操作盤に手をかけた。

「・・・はい」

きっとまだ本気は出してないはず。



次は今のが2体みたいだな。

2体が近づくのを待ってから、1体の後ろに回り込んで絶氷弾砲を撃つ。

吹き飛ばされた赤い人形が後ろの赤い人形にぶつかり、2体は盛大に地面を転がるが、1体はすぐに立ち上がった。

赤い人形を殲滅していくと、インターバルごとに赤い人形が1体ずつ増えていき、気がつくと周りには10体の赤い人形が取り囲んでいた。

いつまで続くのかな。

10体の赤い人形に隙間無く囲まれたときに極点氷牙を氷結させた。



まるで、ダコン・・・。

いや、あの飄々とした態度、もしかしたらあのダコンよりも力を秘めているのかも知れない。

「ょうさ・・・ミアンナ少佐」

オペレーターの声で我に返ると、すぐにオペレーターに顔を向ける。

「どうしますか?まだ、レベル上げますか?」

あの姿でまた少し様子を見てみなきゃ。

「うん、お願い」

「はい」

11体のCタイプAIに囲まれたヒョウガは再びおもむろに掌を前に突き出し、得体の知れない円い紋章を出現させる。

あの紋章、少し大きくなったみたい。

・・・爆風もまた大きくなってる。

両手と尻尾の3つの円い紋章から一気に氷の塊を出したら、Cタイプでもすぐに全滅だなんて・・・。

「ねぇ、DタイプのAIって、まだインストールしてないの?」

「まだですけど、ソフトは昨日届きましたよ」

「すぐ用意出来る?」

するとオペレーターは不安げに眉をすくめる。

「・・・はい、でも10分下さい」

「分かった」



インターバル長いな。

「最後のテストの前にちょっと休憩ね」

ミアンナの声が響くと、機械の前に座っている軍人が椅子を滑らし、左の方へ移動していった。

「分かった」

もう最後か。

でも極点を出させたから、まぁいいか。

軍人が機械の前に戻ってしばらくすると、ミアンナの声が響いたので周りに意識を集中させる。

やがて赤い線から出て来た人形を見ると、それは腕の太さや身長がより人間に近いものになっていて、ちゃんと地に足をつけて歩いていた。

まるで中世ヨーロッパ辺りの騎士みたいだ。

相変わらず関節が無く、浮くように空洞になっているは、敵だということを表しているのかな。

蒼月を撃つと同時に騎士のような人形は、素早く足を滑らすようにして氷の弾をかわした。

速い・・・。

すぐにまた掌を向けた途端、騎士のような人形は瞬発的にその場から離れ、上手く狙いを定めることが出来ない。

AIということだけあって、こちらの動きでも学んだのだろうか。

すると騎士のような人形は剣を抜いて向かって来たので、龍牙を出して人形の剣を捌いていく。

ブースターの出力を上げて離れながら、背後に回り込んで蒼月を構えるが、騎士のような人形も同じくらいの速さで氷の弾をかわしながら近づいて来る。

振り下ろされた剣を龍牙で受け流すと、素早くまた騎士のような人形から離れる。



さすがにちょっと苦戦してるのかな。

Dタイプは、戦闘者のこれまでの動きを学習して、飛躍的にAIの戦闘力を高めるタイプだから、ヒョウガがもう切り札を出したなら、自分と戦っていることになるんだけど。

それにしてもこの動きのデータはすごい。

対ダコン用の訓練のターゲットとして使えるかも。

「ミアンナ少佐」

扉が閉まる音のすぐ後に声がしたので後ろを振り返ると、こちらに近づいてきたオンダ中佐は隣で立ち止まり、鋭い眼差しで訓練場を見下ろした。

何気なくここで氷牙は自分と戦ってることになるんですね。氷牙だったら、この後どうするんですかね。笑

ありがとうございました。

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