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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第四章

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厳粛なる主

呆気なく終わったみたいなので、ゆっくりとレモンに近づくと、開いていた瞳孔が元の大きさになっていくと共に、レモンの耳の張りが緩んでいく様子がはっきりと見てとれた。

「師匠・・・ほんとに人間ですか?ほんとに獣人みたいです」

「そうか、それより、レモンって狩りの達人だね」

「そ、そんなことないですよぉ」

鎧を解きながらそう言うと、尻尾を真っ直ぐ立てながら耳を少し下げ、上目遣いを見せるレモンは照れるように微笑む。

「じゃあ運びますね」



「ふぁーあ」

「お姉ちゃん、レゴ、全然聞いてなーい」

膝を抱えるように座っているフルーが目を細くしてレゴを見ているので、つられて目を細くしてレゴを見つめるとレゴはすぐに慌てた様子でフルーとこちらを交互に見る。

「聞いてるって」

「もうしょうがないな。じゃあ森に行くよ」

「おっし」

素早く立ち上がったレゴはすぐに肩を回したり、屈伸をし始める。

もう、ほんと調子良いんだから。

「じゃあ、あっちから森に入ろう」

そう言って指を差すと、すぐさまその方にレゴが走って行った。

「いやっほー」

「あっ・・・レゴぉっ」

思わずフルーが声を上げるが、レゴは振り返ることもなく跳びはねていく。

レゴったら、まったくしょうがないな。

森に入り少し歩くと、良い感じに隠れられる茂みがあったので、一旦そこで身を潜ませる。

「ここから狩るグリムに狙いを定めよう」

「・・・姉ちゃん、オレ木の上に登っていい?」

確かに上からなら死角に入りやすいかも。

「静かにね」

「あぁ」

音を抑えて素早く木に登るレゴを、フルーは不安げに眺めた後にこちらに顔を向ける。

「大丈夫だよ、フルーは霊力の使い方はレゴより上手だし」

「うん」

すると少し遠くに草を食べながらこちらに近づいてくるグリムが見えた。

レゴに顔を向けるとレゴもこちらを見ていたので、指を差し、あのグリムに狙いを定めるように合図を見せる。

緊張が走る沈黙が辺りを包んでいく中、また少し近づいてきたグリムに向かってレゴが飛び込んだ。

枝からの微かな震動により葉が震え、辺り一面にその微かな音が響き渡ると、瞬時にその音に気が付いたグリムはそのままレゴの存在にも気が付き、そしてグリムは飛び込んできたレゴよりも素早く奥へと逃げ出していった。

すると地面に降り立ったと同時に、レゴはグリムを追い掛けていく。

あのままじゃ、知らずに森の奥に入っちゃう。

追いかけなきゃ。

「フルー、私から離れないでね」

「うん」

怯えるような声の返事が聞こえたが、レゴが消えて行った方向から目を離す訳にはいかないので、霊力を集中しながらフルーがついて来れる程度の速さで森を駆け抜けていく。

獣の血があるから、獲物に狙いを定めると周りが見えなくなるのはしょうがないけど。

「レゴぉぉっ」

声が聞こえたのか、レゴが遠くで動きを止まるのが見えたとき、レゴの背後にレゴの2倍はある2本足のグリムが見えた。

まずい、レゴは気づいてないみたい。

「後ろぉっ」

グリムが大きな手を上げ、振り下ろそうとしたとき、レゴが素早く後ろを振り返る。

グリムに勢いよく叩かれて吹き飛ばされるレゴを見ながら、体に電気を纏い、グリムとレゴの間に飛び込むように突っ込んでいく。

そして思いっきり木にぶつかり、倒れ込んだレゴに狙いを定めているグリムの腹に、勢いよく拳を突きつけた。

グリムが痙攣しながら倒れてるときに、レゴの下に駆け寄ったフルーと共にレゴを見る。

「・・・つぅ」

肩を押さえているレゴはフルーの手を借り、ゆっくりと起き上がる。

血が出てる。

「すぐに戻って手当てしなきゃね」

フルーと共にレゴを村まで連れていき、井戸の水で肩の傷を洗っていると、落ち込んだ表情のレゴの下に、薬草と包帯を持ったフルーが戻ってくる。

「狩りはね、自分と獲物の2人だけの世界だけど、でも周りには獲物以外のグリムもたくさんいるの」

そう言いながらレゴの肩に薬草を塗り、薬草を押さえるように包帯を巻く。

「あんまり深追いし過ぎると、いつの間にか自分が狩られる立場になっちゃうこともあるの」

「・・・だけど、獲物を前にすると何だか、頭に血が上るんだ」

レゴは自信家だし、初めてとは言え、相当落ち込んでるみたい。

「最初はみんなそうだよ」

「姉ちゃんも?」

「うん・・・コツ、教えてあげようか?」

そう言ってニヤついて見せると、レゴは嬉しそうに少し顔を上げた。

「えーあたしも知りたーい」

フルーは座り込んだまま小さく嘆いたので、フルーに手招きして2人を近くに呼び寄せる。

「あのね、霊力を集中させると、自然に高まった緊張感が丸くなって視野も広くなるし、何より狩りを終えた後の本能の高ぶりを抑えられるんだよ」

「んー」

レゴが頭を掻きながら天を仰いでいると、フルーは微笑みながらレゴを見た後にゆっくりとこちらに顔を向けた。



「お母さーん」

「ああレモン、いつもありがとう・・・あら、お客さん?」

レモンが背負っていた手足を縛ったグリムを受け取りながら、レモンの母親がふとこちらに顔を向けたので、一応会釈した。

「もしかして、レモンが言ってた、旅のお方?」

「はい」

「そう・・・心配してたんだよ、もっと早くお金も無いって知ってればって」

あの後、レモンはもう一度頼んだみたいだな。

「いいんです。露店の人が親切にしてくれましたので」

するとレモンの母親は少し安心したように微笑みながら頷いた。

「そうかい・・・じゃあレモン、準備しようか」

「うん」

そう言うとレモンは母親と共に奥の部屋へと消えて行った。

ここが獣人の家か、木材だけで建てられた家ってことくらいは多少想像出来るけど、家具や照明器具まで全部木材なのか。

だけど、肝心な明かりは蝋燭じゃないみたいだ。

壁に並べられた蝋燭入れは理解出来るけど、この赤黒い炭みたいなものは何だろう。

「おお?」

声がした方を振り返ると、そこには山菜を思わせるような物を乗せられた、ワラで精巧に編み上げられたざるを持つユキが居た。

「お前、昨日何してたんだ?もしかして野宿か?」

「まあね」

ざるをテーブルに置いたユキが何気なくこちらに体を向ける。

「ふーん、あっちに帰ればよかったのに」

「目的を果たすまでは帰らないことにしてるんだ」

「そうかぁ・・・おーばさーん」

軽い返事をするとすぐにユキは奥の部屋に向かって呼び掛ける。

「はいはい、ああユキ」

出て来たレモンの母親の筋肉質な二の腕にふと目が留まる。

「山菜ときのこだよ」

「いつもありがとね、今グリムを捌くから待ってておくれ」

「あぁ」

胸を張って笑顔で応えたユキは、レモンの母親を見送ると近くの低い椅子に座る。

しばらくするとエプロンを着たレモンが、生肉を乗せたワラで出来た細長い敷物を持ってユキの下にやって来た。

「こっちはヒョカおばさんの家の分ね」

「おお、悪いな、おばさんにも礼を言っといて」

「うん」

ユキはワラの敷物で慎重に生肉を包むと、2つの包みを持ってそそくさと家を出て行った。

なるほど、牛を自分で捌いてるなら、二の腕も太くもなるか。

「お母さん、スワカおばさんのとこに行くね」

「ああ頼むよ」

遠くでレモンの母親の返事が聞こえると、同じようにワラで包んだ生肉を持ったレモンがこちらに笑顔を向ける。

「師匠はゆっくりしててね」

「あぁ」

そしてレモンもユキと同じように、足早に家を出て行った。

なるほど、狩ったグリムも採った山菜も村中で分け合ってるのか。

生肉だから、素早く運ばないといけないのかな。

あれ、でも木材だけで出来た家には冷蔵庫なんてないんじゃ・・・。

少しして帰って来たレモンの手には、何やら巾着袋のような形に編み上げられた、小さいワラの袋が抱えられていた。

でも多分、冷蔵庫に変わるものくらいはあるものなんだろう。

「お母さーん、スワカおばさんからこれ貰ったよ」

そう言いながらレモンが奥へと歩いて行く。

外国の田舎の農家を舞台にしたドラマのようなやりとりだな。

低めのテーブルと綺麗に仕立てられたソファーしかないリビングで過ごしていたとき、突如腰に巻いたベルトのようなものに巾着袋や畑を耕すのに使うであろう物をぶら下げた、正にライオンが人型になったような獣人の男性が家に入って来た。

すると家に入るなり、こちらの存在に気づいた獣人の男性は、黙ってこちらを睨みつける。

「お前誰だ」

「どうも氷牙です」

会釈した後にそう応えると、獣人の男性の耳の張りが少し緩んだのが見えた。

「・・・レモンが言ってた宿無しか」

「はい、少しだけお世話になります」

「まぁ、ゆっくりしてくれと言うまでもないみたいだが」

表情を変えずに獣人の男性が歩き出すと、男性はレモン達の居る部屋の前で立ち止まった。

「帰ったぞ」

「ああお帰りなさい」

レモンの母親が笑顔で応えると、レモンも顔を出して笑顔で応える。

「お父さん、お風呂沸いてるよ」

「あぁ」

どうやらレモンの父親はネイティブタイプみたいだけど、顔だけは何となく人間っぽいかも。

ライオンみたいな顔つきだけあって威厳が滲み出てる。

しばらくして食事の支度が整ったみたいなのでレモンに連れられると、キッチンと思われる部屋の反対側に位置する、囲炉裏がある部屋に案内された。

「お前、どれくらいここに留まるんだ?」

薄くスライスされたお肉と山菜が人数分、皿に盛られて、各自が自身の前にある皿から食材を取ってきれいな水色の出汁が出ている鍋に、しゃぶしゃぶ感覚で火を通して食べる中、レモンの父親がこちらを見ずに何気なく聞いてきた。

「目的を果たすまでは帰りません、もし目的を果たす目処が立って無かったら、1週間くらいで一度は帰ります」

そう応えながら火を通したお肉を、少し赤みがかってトロっとしたタレが注がれた深い受け皿に入れる。

「一度ってことは、またすぐに来るのか?」

「はい」

お肉を口に入れると、海風の香りが鼻を抜けた後に、タレの爽やかな甘さが後から口の中にゆっくりと広がっていった。

「師匠、どう?」

レモンは少し首を前に倒し、こちら側の耳を立てながらニヤついて見せた。

「あぁ、美味しいよ」

「師匠?」

レモンの父親が少し低い声で聞き返すと、レモンは一瞬だけ耳を下げると共にすぐに父親に向かって得意げに微笑む。

同時にそんなレモンを見ながら皿から山菜を1つ取ってみた。

「・・・だって、すごい強いんだよ?獣人になって氷を出すの」

「何だと?」

鍋に山菜を入れるとレモンの父親が少し険しい顔でこちらを見る。

「正確には獣人に似たようなもの、です」

受け皿のタレに山菜をくぐらせて口に運ぶと、レモンの父親は唸るように小さく喉を鳴らしレモンに顔を向ける。

「・・・そうか、修業に励むのは良いが、あまり旅の目的とやらの邪魔にならないようにな」

「うん」

天ぷらにしたみたいな食感だな、火を通すとこうなるのかな。

「しかし・・・少しくらいならこの家に居て良いが、あまり長居はさせられないな」

「えぇー」

「レモン、この村は人間との関わりを避けるために、街から少し離れた所にある。その意味は分かるな?」

険しい顔を見せながらも父親が優しく問うと、耳が下がり膨れっ面のような顔のレモンは黙って頷いた。

「迷惑はかけません。明日、軍の方で戦闘力を測るテストがあるので、実力を認められれば、軍舎で生活出来るようになるかも知れません」

「そうか、それなら心配することはないな」

レモンの父親は少し眉間のシワを緩めると、目線を自分の受け皿に置きながら呟くように応えた。

食事が終わると、物置代わりになっていたミアンナの部屋で寝かせて貰うことになったので、部屋で過ごしていると、突如レモンの母親が部屋に入ってきた。

「ワラ布団持って来たから、これ敷いて寝な」

「あ、はい」

レモンの母親は枕と布団を持って来ると、ワラで包まれた大きな荷物をどかしたりしてスペースを開け、布団を敷き始めた。

「昨日から居なかったのに森で会ったって聞いたけど、ずっと森に居たのかい?」

「いえ、グリムを狩ろうと森に入ったら、たまたまレモンに会いました」

するとレモンの母親は納得するように頷きながら微笑みを見せた。

キッチンでグリムの血抜きをする訳ですが、血はすべて排水口から捨てるとのことです。

ありがとうございました。

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