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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第四章

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幼き希望たち

「この男が先程言っていた男だ」

オンダが淡々と喋り出すと、その場の空気が少し緊張感のあるようなものに変わり、同時にその空気は軍人達のオンダへの尊敬と畏怖を感じさせた。

どうやら獣人も居るみたいだな。

「この男からの情報は今朝話した通りだが、問題なのはこの男が信用出来るかどうかだ」

「中佐、この男の言うことが本当なら、ミアンナ少佐の時の入隊試験の最終項目と同じことをさせるのはどうですか?」

1人の軍人がそう言うと、オンダはその軍人から唯一の獣人であるその女性に目線を変えた。

あの人がミアンナっていう人かな。

「ミアンナ少佐の時の、訓練用AIの最高レベルは?」

「6です」

オンダの問いに、ミアンナと呼ばれた獣人の女性は落ち着いた表情ではきはきとそう応える。

「・・・ならレベル6に到達したら実力を認めるということにするか」

オンダの低く少し威厳のある声に、皆は黙って小さく頷いている。

「ではこの件はミアンナ少佐に任せる。戦闘結果を踏まえて、この男を受け入れるかどうかはミアンナ少佐が判断しろ」

「分かりました」

「お前は廊下で待ってろ」

「分かった」

司令室を出て、とりあえず廊下にある待合室のソファーに座る。

やはり傭兵として軍事関係に関わるのが1番動きやすいな。

それにしても、いきなり現れた得体の知れない男でも、こうもたやすく重要そうな会議の場に連れて来るということは、それほどまでに堕混に対しての問題に苦戦しているということなのだろうか。

しばらくすると会議が終わったのか、扉が開く音の後に小さな話し声と足音が聞こえてくると、やがてヒールのものではない低い足音と共にミアンナと呼ばれた女性がこちらに向かって来て、そして静かに向かいのソファーに座った。

「まず自己紹介しますね。私はミアンナです」

そう言って軽くお辞儀すると、ミアンナは立てた耳の片方だけを一瞬だけ小さくパタパタと動かした。

どことなくレモンに似ているような気がするな。

間違いならそれでいいけど、ちょっと聞いてみようかな。

「どうも、氷牙です・・・もしかして・・・レモンのお姉さん?」

すると少し眉をすくめていたミアンナは、驚くように目を見開き再び耳を真っ直ぐ立てた。

「え?・・・レモンを知ってるの?」

「まぁ、ちょっとね」

「そうなんだぁ」

小さく頷いたミアンナの表情から、少し警戒心が和らいだのを感じた。

レモンにはない落ち着きがあって、少し上品な雰囲気のある人だな。

「・・・確かにレモンは私の妹だけど、どこで知り合ったの?」

「たまたま、僕がグリムを倒してるところをレモンが見てたみたいで、そしたら何か、急に弟子にして欲しいって」

するとミアンナはすぐに何かを理解したかのように、小さなため息を吐きながら困ったような笑みを見せた。

「またかぁ、ごめんね、迷惑かけちゃったよね」

「迷惑ではないですけど、またっていうのは?」

「レモンが強くなりたいっていうのは良い事なんだけど、私が忙しくなってからは、色んな人に弟子にしてって言い回ってるらしいの」

「なるほど」

少し優しく微笑んでいたミアンナがふと耳を真っ直ぐ立てると、表情にも少し真剣さを伺わせた。

「そうだ、これからについて話さないとね。さっきも聞いたと思うけど、氷牙はこれから、訓練用AIと戦うの。要は腕試しだよ」

「そうですか」

どんなものかは実際にやれば分かるかな。

「でも私、今日はちょっと用があるから、明日の朝9時にまたここに来てくれない?」

言いづらそうにそう言いながら、ミアンナは少し耳を下げ申し訳なさそうな苦笑いを見せる。

「分かった」

頷いたミアンナは再び耳を立てると、どこかリラックスしたような微笑みを浮かべる。

「異世界から来たって聞いたけど、宿はどこに決めたの?」

「まだ決めてないよ」

「え?じゃあ昨日はどこに?」

「時計台に居たよ」

ミアンナは眉をすくめると、同じように耳も少しずつ下がり始める。

「・・・ずっと?」

「あぁ」

「食べ物はどうしたの?」

「親切な露店の人がバウンを1つくれた」

「もしかして、お金無いの?」

「あぁ」

するとミアンナは何かをひらめいたように片耳を少し上げ、笑顔を見せる。

「・・・じゃあ、私の村に来なよ」

「レモンが頼んでくれたみたいだけど、父親にだめって言われたって言ってたよ」

「そんなぁ、いくら相手が人間でも、お金が無い人をほっとくほど厳しい人じゃないんだけど・・・」

確かお金が無い事情までは知らなかったような。

「それじゃあ、仕方ないね。明日、もし正式に実力を認められたら、きっと宿舎の部屋を1つ貸して貰えるよ」

「そうか」

立ち上がる直前、ふとミアンナが再び何かをひらめいたように微笑む。

「じゃあ私行くけど、もしお腹空いたら、4本足のグリムの方が美味しいよ」

「そうか、分かった」

4本足のグリムか、普通に食糧に出来るなら、エニグマみたいに無駄に巨大じゃないのかな。

それなら手土産でも持って行けば、獣人なら歓迎してくれるかも。

建物を後にしたときに感じた、匂いに近い都会感が、ふと逆にレモンの村に居たときの空気感を思い出させた。

街より獣人の村の方が気楽そうだな。



「そいつ、本当に信用出来んのか?」

「あいつは会議で中佐から聞いたって言ったけど、本当はアーリック人なんじゃないか?」

また2人が噂してるみたい。

待機場に入ると、すぐに気が付いた2人がこちらに顔を向け、そしていつものように親しげに軽く手を挙げて見せた。

「おぉ、どうだった?」

テーブルを挟んで2人の向かいの椅子に座ると、答えを待ちきれないかのようにすぐにジャトウが口を開いた。

「本当に異世界から来たみたいだったよ」

「ほんとかよ」

小さく首を横に振りながら、レジイラは呆れるような微笑みを浮かべてコップを口に運んだ。

「獣人ならまだしも、霊道も使えないのに1人で売り込んで来るなんてなぁ」

本当にアーリック人だったら、あんなに落ち着いて居られたかな。

「鎖国してる国から来たなら、俺達が知らない技術を持ってるかも知れない」

「いやぁ、さすがにあんな遠くからは来ないだろ」

レジイラの冷静な対応に、すかさずジャトウがうなだれるような口調で言葉を返しているときに、ふと時計に目を向ける。

「それにしても、オンダ中佐もオンダ中佐だよなぁ、いきなり現れた知らない奴の話を信じるなんて」

そう言われれば、オンダ中佐はあのヒョウガって人の何を信用したんだろ。

「まぁ、オンダ中佐と言えば史上初の無経歴佐官だからな、常人には理解出来ない考察力があるんだろ」

「そもそもの思考回路の出来が違うってことか。良いよなぁ、俺だって下積みなんてせずに才能だけで出世したいよ」

そろそろ時間かな。

「それじゃパトロールの後、用があるからそのまま帰るね、お疲れさま」

「あぁ」

「おっす」

レジイラが落ち着いて応えると共に、ジャトウはいつもの調子で軽く手を挙げ、親しげな態度を見せる。

2人を見ながら歩き出し、待機場から廊下を経由して外に出ると、なるべく広い道を通りながら中央広場に行き、並木通りの手前から広場を出て中央軍営所に向かう。

「南軍営所のミアンナです。何か事件はありましたか?」

話し掛けると同時に門番は閉じた手の平の側面を斜めに傾けながら額に当て、敬礼の姿勢を見せる。

「これはミアンナ少佐。いえ、今のところ大きな事件はありませんが、奇妙な目撃情報が上がってます」

そして門番は喋り出すと同時に手を下ろし、背筋を伸ばす。

「奇妙って?」

「時計台付近の森で、時々ですが少女の幽霊を見かけるという話で・・・」

若干の呆れを感じているような困った表情で、門番は言いづらそうに話している。

・・・幽霊?

「そう・・・時計台の丘の向こうって、確か霊園も近くにあったよね?」

「はい。ですがその第二霊園の中で見かけたという話はひとつも無いようで」

霊園の外で幽霊?

「物理的な被害は出たの?」

「ありません」

なら問題は無さそうかな。

「分かった。こっちも大きな問題は無いよ」

「はっ」

敬礼した門番を見て、中央広場の少し西にある中央軍営所から更に西に進み、郊外に出て森に入る。

そしてただ雑草や茂みを切り払っただけの道を抜け、小さな獣人の村に入る。

「わぁミアンナお姉ちゃん」

「サーナ、相変わらず元気だね」

「うん、母ちゃん呼んで来るね」

笑顔で頷くとサーナはすぐに元気よく駆け出し、村の奥に向かって行った。



「もうちょっと先です」

「レモンはよくやるの?」

「よくというか、狩りは戦える人の仕事ですから、私の村では狩りは私の仕事です」

振り返りながらレモンは笑顔でそう応える。

若いのに不安感や緊張感が全然感じられないのは、手慣れてるからか、それとも元々才能があるからか。

「でも良いんですか?別に師匠はやらなくても、お父さんなら良いって言うのに」

「さすがに仕事もしない人は置いておかないと思うよ」

するとレモンは周りを見渡しながら耳を下げ、考え込むように小さく唸った。

「そうですね」



「いらっしゃい、ミアンナ」

「はい、メランおばさん、アシュクは帰って来ましたか?」

するとメランおばさんは少し困ったような顔色を見せながら、漏らすようにため息をついた。

「この前来たけど、本格的に荷物をまとめて出ていっちまったよ。まったく、親不孝もんだよ」

「そんなぁ」

前から軍人になりたいって言ってたし、しょうがないのかな。

「でもミアンナが、時々こうやって霊道を教えに来てくれるから、グリム狩りをする人が絶えずに済みそうだよ」

「これくらいの事なら、いくらでも力を貸すよ」

メランおばさんが安心するように微笑んでいるときに、ふと声がした方へと振り返ると、その先には心を和ませる笑顔を見せるフルーと、いつも幼さと若々しさを感じさせる態度を見せるレゴが居た。

「来たね、フルーもレゴもしっかり教えて貰いな」

「あぁ、じゃ」

レゴが応えるとフルーも笑顔で手を振り、2人と共にメランおばさんの家を後にする。

「お姉ちゃん、あたしね、1人でもちゃんと修業してたよ」

「そっかぁ、フルーは偉いね」

フルーが笑顔で頷いていると、レゴは余裕の表情で両手を頭に乗せながら悠然と歩いている。

「でもね、レゴはちょっとサボってるの」

「ふんっ、オレは良いんだよ、才能があるからな」

確かにレゴは運動神経はすごい良いけど。

「そんなに自信があるなら、今日は実際にグリムを狩ってみようか?」

「ほんとか?」

するとレゴは輝かせたような眼差しをこちらに向け、嬉しそうにそう声を上げる。

「霊道の扱い方も様になってきたし、今日は実際に森に行っても良いかな」

「よっしゃあっ」

レゴが嬉しそうに跳びはねているとき、ふとフルーが不安げな表情を向けてきた。

「・・・うー」

「大丈夫だよ、そんな遠くまで行かないからね」

そう言いながら不安げに唸っているフルーの頭を優しく撫でると、フルーは照れるような笑みを浮かべて小さく頷く。

「じゃあ2人共、その前に食べるための殺し方を勉強しようね」

「えぇー」



「あっ師匠、いましたよ、あれです、あの斑模様のグリムが美味しいんです」

指が差されている先には、雑草を食べるのに夢中になっている、群青色の斑模様が印象的な生物が佇んでいた。

「そうか」

ありゃ牛だな。

だけどバッファローみたいな角もあるし、ガスタロにも似てるかもな。

「行きますよ」

レモンは小声で話しながら腰を落とし、頭を下げて走り出すような体勢になったので、静かに絶氷牙を纏った。

「あぁ」

やはり首を狙って一撃で仕留めた方が、肉も傷まないのかな。

すると目つきが変わったレモンが小さな石ころをグリムの向こう側に投げると、石ころが落ちた方にグリムが目を向けた瞬間、レモンは音も立てずに大きく跳び上がった。

きれいな放物線を描いているレモンを黙って見ていると、レモンに首元を掴まれたグリムは瞬間的な電撃音の後、動かずにゆっくりと倒れ込んだ。

まるで天然のスタンガンだな。

小さく喉を鳴らしながらため息をついたレモンが立ち上がると、ふとその背中からは澄んだ川のような殺気を感じた。

「・・・あ、師匠」

レゴはチーター顔、フルーは垂れ耳のウサギ顔で、どちらもヒューマンタイプ、という感じですかね。

ありがとうございました。

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