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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第四章

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未知なる果実

「オンダさんは、いる?」

「・・・ま、待ってろ」

門番が襟に付いている無線のようなもので話を始め、少し時間が経つと、開かれた壁門の向こうからはオンダが1人で姿を現した。

「ついて来い」

「あぁ」

オンダについて行き門を抜けるとすぐ目の前に階段があり、続けて左右に伸びた広い廊下を左に進むと、廊下の途中にある、病院の待合室を思わせるような場所に連れられる。

そしてそこに置かれた少し長めのテーブルを挟むソファーに、向かい合うように座った。

「どこの国から来た?」

厳格そうな男性だな、40代くらいかな。

「この世界とは別の異世界です」

「・・・異世界」

眉間にシワを寄せた険しい顔だけど、態度はとても落ち着いているように見える。

「俺達よりも堕混について詳しいと言ったが、まさか、堕混もその異世界とやらから来たのか?」

「はい、僕のとはまた違う世界ですけど」

「そうか、てっきり遥か西の海の、鎖国している島国の兵かと思っていたんだが・・・」

やっぱり人間はどこも兵器が基本なのかな。

「じゃあお前は、堕混の目的を知っているのか?」

「はっきりとは分からないけど、異世界に散らばって何かを企んでいるのは確かかな」

オンダは険しい表情のままゆっくりと頷く。

「僕の予想だと、単なる侵略か、戦力増強の2つかな」

すると少し表情が和らいだオンダは、片眉を上げこちらを見た。

「戦力増強?」

「まぁそれは本当かどうか分からないけど、人の心を操る術を使うらしいから、僕だったら異世界中の強者を集めたり、するかな」

再び眉間にシワを寄せ、険しい顔つきに戻ったオンダは、更にその顔色から若干の怒りを伺わせた。

「・・・それが本当なら・・・いや、だがどう手を打てば良いのか」

「とりあえずこの世界に来た堕混を倒してれば良いんじゃない?」

「・・・ところで、お前は何者だ?情報屋か?」

少し表情を和らげながら、オンダは話題を変えるようにそう聞いてきた。

「いや、そういう訳じゃないけど」

「何故、この国に情報を?」

この国に?

他の国も堕混に侵略されてるのかな?

「僕はただ、堕混を倒すために異世界を回ろうと思ってるだけで。別にこの国に来た理由は無いよ」

「何だと?倒す?1人でか?」

「あぁ」

目線を落としたオンダはため息まじりに唸りながら、ふと考え込むような顔色を見せる。

「今までに、堕混と戦った経験は?」

そして喋り出したオンダのその声は先程よりもトーンが低く、真剣さと共に若干の冷ややかさを感じさせた。

「まぁ、2回ほど」

「お前が居た隊の規模は?」

「1回目は確か15人くらいで、2回目は正確には分からないけど、1回目より大勢だったかな」

眉間のシワを深めながら、オンダは再び厳格さの伺わせる眼差しを見せた。

「・・・たった15?・・・何か、特別な兵器でもあるのか?」

魔法って言っても通じるとは思うけど。

「んーここで言うなら、獣人のような戦い方に近いと思うよ」

「お前がか?」

「あぁ」

するとオンダは納得するように黙って大きく頷く。

「やはり、兵器だけでは敵わないか・・・」

「前に堕混が来た時、堕混は何人か手下を連れてた?」

「あぁ、2人だけな。だが機動部隊の一個小隊が撃破され、機甲部隊の小隊も半壊した」

肩を落として話しているものの、その表情は険しいままで少し感情を我慢しているようにも感じられる。

やっぱり基本は3人みたいだな。

「この国の武器は科学兵器だけ?」

「いや、最近はこの国でも獣人の志願規制が解かれたから、獣人兵も少数だが居る」

「そうか。次に堕混が現れたとき、僕も加勢して良いかな?」

するとオンダは険しい表情のまま顔を上げ、すべてを見通そうとするような鋭い眼差しを向けてくる。

「・・・だが、お前の戦力を把握していないし、すぐに信用する訳にはいかない」

「なら腕試しすれば?・・・まぁ許可が下りなくてもその時は割り込むつもりだけど」

一瞬黙って眉間にシワを寄せた後、オンダは見下すような眼差しでニヤついて見せた。

「・・・それほどまでに、腕に自信が?」

「あぁ」

「だが、所詮は1人だ。複数の相手には敵わない」

「でも、その軍隊は1人の堕混にやられたんでしょ?」

怒りを堪えるように小さくため息をつき、再びオンダが険しい表情を見せ始めたとき、ふとどこからともなく聞こえてくる誰かの足音が耳に入ってきた。

「オンダ中佐、こちらにいらしたんですか。ハレト司令官が呼んでますよ」

「もうそんな時間か」

軍服姿の女性の言葉で空気が変わると、女性が去っていった後もオンダの表情には落ち着きが見られるようになっていた。

「明日の午後2時にまた俺を訪ねろ」

「分かった」

早々と立ち去っていくオンダを見ながら階段を下りて建物から出ると、ふと先程よりも外の臭いが少し乾いているのを感じた。

そういえば、寝る場所はどうしようかな。

やっぱりお金はあった方が良いんだろうか。

「聞いて良いかな?」

「ああ、何だ?」

再び門番は少し迷惑そうな表情をこちらに向ける。

「宝石とかを発掘出来る場所ってどこかな?」

「ここには無い。この国には山は無いからな、まぁ1番近い場所って言ったら、アーリックの北にある山岳地帯だろうな」

「距離はどれくらい?」

「ここからか?ああ、鉄馬車と船を使って、往復で2、3週間くらいか」

「そうか」

諦めるか。

時計台に向かい、ベンチに座って街を見下ろしながらしばらく過ごしていると、空が少し焼けてきた頃に突如後ろから声をかけられた。

「ねぇ君、1人?」

後ろを振り返ると、そこには首を傾げながら微笑みかけて来る白髪の少女が居た。

「まあね」

「私もなんだぁ」

そう言うとおっとりとした雰囲気を感じさせる白髪の少女はゆっくりと隣に座ってきた。

「ここ、きれいだよね、眺め」

「そうだね」

「ちょっと好きになりそうかも」

ここに住んでるんじゃないのか?

見た感じ中学生くらいに見えるが。

「知ってる?人の数ほど夜空があって、星の数ほど世界があるの」

「・・・誰かの詩?」

少女に顔を向けると、少女は黙って微笑みかけてきたが、すぐに夕焼けに顔を向けたので共に夕焼けを眺めると、少しの間沈黙が続いた。

「君はこの街に住んでるの?」

その少女を見ていると、まるでゴムの膜が無い風船を見ているかのような不思議な感覚に陥る。

「いや、こことはちょっと違う世界だよ」

「へぇー」

すると少女はどこか嬉しそうに足を小さくばたつかせる。

「そういう君はこの街の人?」

白いワンピースにサンダルだけみたいだし、そう遠くじゃないだろう。

「ううん」

微笑みながら首を振ると少女はまたすぐに夕焼けを眺めたので、またしばらく黙って夕焼けを眺めると、少し空が暗くなってきた頃に少女はおもむろに立ち上がる。

「ラビットが呼んでるから、バイバイ」

そして少女は微笑みながら手を振り、ゆっくりと丘を下っていった。

友達と旅行でもしているんだろうか。

すっかり夜になったが、深く背もたれながら、ふと夜空を飾り立てる無数の星に目を奪われる。

それにしても、東京じゃこんな星空はまず見れないだろう。

ふと気が付くと空は淡い水色に染まり、朝日が顔を出しそうな勢いの頃みたいで、すぐに知らずに寝ていたことが分かった。

何となく水を顔に受けたいので、広場に行き、噴水の水を少し拝借する。

確かオンダは午後2時と言ってたな。

何もしないよりましだし、案内板を見ながら4つの広場を回ってみようか。

少しずつ明るくなるにつれて露店を開く人達があちこちで見えるようになると共に、北に行くにつれて道が広くなっていき、馬車や荷物を乗せられた馬が多く見られるようになった。

自動車は無いみたいだ。

環境には良いけど。

ならこの世界は、19世紀くらいの技術なのかな。

何となく露店に並ぶ、野菜だか果物だか分からない物を見ているとき、ふとアリシア達の世界にある露店を思い出した。

「ちょっとあんた」

露店の人に話かけられたので顔を向ける。

どことなくミサに似ているかな。

「お土産に1つどう?安くしとくよ」

「僕、お金持って無いんだ」

「何だって?」

露店の人は眉間にシワを寄ると、まるで貧相な人を見るような目でこちらの頭や服装をなめ回してくる。

「だったら店の前に立つんじゃないよ」

「あぁ」

露店から離れようと歩き出したが、直後に再び露店の女性に呼び止められる。

「これ持って行きな」

すると露店の人は少し嫌そうな表情を見せながらも、薄い紫色に色づいた雫の形をした何かを差し出してきた。

「良いの?」

「そんな群れからはぐれたジンカルみたいな顔した奴ほっといたら、あたしが後味悪いんだよ」

聞き慣れないワードだが、スルーしておこう。

「ありがとう、これ、何て言う物なの?」

「は?これ知らないのか?世界中に生えてるもんだぞ?」

持ってみると果実が詰まっているのを感じるくらいの重さだった。

「知らないよ」

「はぁ?バウンを知らないなんて」

すると露店の人は腰に手を当て、呆れたようにそう呟いた。

バウンっていうのか。

「どうやって食べるの?」

「あー、てっぺんから皮を剥きゃあ食えるよ」

「そうか」

しっかりした茎のような先端をつまみ皮を剥くと、トマトのように真っ赤な果肉が顔を出し、一口食べると最初は焼いたお肉のような歯ごたえを感じたが、噛むごとに果汁が溢れ、果肉は舌の上ですぐに溶けて無くなった。

味は・・・分かんないな。

ミックスジュースかな、まったく身に覚えが無い味だ。

食べ進むと下に行くにつれて果肉が少し硬くなるみたいだが、果汁の溢れる量も増えるように感じた。

しばらくすると広場に着いたので、案内板の下へと足を運ぶ。

広場の成り立ちなどか書かれている文面を読んでみると、どうやらこの広場が1番古い広場らしい。

さっきの広場とは雰囲気も広さも全然違うし、まるでテーマパークのように広大で賑やかな場所だ。

ごみ箱は・・・無いみたいだな。

この広場の時計台はさっきの丘と違って、花畑に囲まれてるのが特徴みたいだな。

「ちょっと」

後ろを振り返るとまるで清掃員のような格好の若い女性が立っていて、その女性は目を細め、睨みつけるようにこちらとバウンの皮を見ていた。

「何持ってんの?まさか広場を汚す気?」

「違うよ・・・これの使い道が分からなくて」

バウンの皮を胸元まで上げて見せると、女性は皮とこちらの顔を見ながら眉をすくめた。

「知らないの?」

「あぁ」

「普通は素揚げして苦みを無くすけど」

「そうか・・・」

油も無ければ火も無いしな。

「早く帰ってよ。そろそろ仕事始めないと」

「君は清掃員?」

急に質問をされたかのように、その女性は少し驚いた様子で目を見開く。

「あ、まあ」

「これ、頼んでいい?」

「・・・うん」

女性はバウンの皮を取ると腰に巻いた籠に入れ、そしてすぐに籠と反対側の清掃用具入れから、小さなトングのような物を取り出してゴミを探し始めた。

しばらく適当にうろつき、並木の通りに入ると、ふと犬のような生き物を連れた老人女性が見えた。

一瞬、異世界にいることを忘れかけたが、真っ黄色に咲いた桜のような花と優しく舞い落ちる花びらが、すぐにここが異世界だと認識させた。

少し時間を掛け過ぎたせいか、3つ目の広場に着いた時には、時計の針は12時の先を差していた。

おっと、そろそろ戻らないと。

あまり人目につかないように路地を使いながら、氷の仮面を被って建物から建物へと素早く飛び移っていく。

しばらくすると南の広場の時計台がある丘が見えたので、丘に立ち寄り時間を確認してから、そこから歩いて軍の旗が掲げられている建物へ向かう。

どうやら間に合ったみたいだな。

「オンダさんに2時に来いって言われたんだけど」

「そうか分かった」

門番が無線を使ってどこかに話しかけると、しばらくして門が開けられた。

「来たか」

オンダに連れられて建物に入り3階に上がると、2階にもあった待合室を通り過ぎた先にある、司令室と書かれた扉に入る。

その部屋の真ん中に置かれた、楕円形に長く伸びたテーブルには10席の椅子が囲んでいて、そのまま部屋の奥まで連れられると、オンダと共に椅子に座る軍人と思われる人達を見渡した。

身に覚えの無い味ですからね、何なんでしょうね。笑

ありがとうございました。

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