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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第四章

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青い街と森の集落

狐の女性の声に、不意にその方に顔を向けたレモンは、再び不安げな表情をこちらに向けてから狐の女性に駆け寄っていった。

あの耳と尻尾が無かったら、レモンの後ろ姿は普通の人間だけど、ユキはどう見たってただ服を着た狐だよな。

とりあえず、村に来た方向から見て、あっちからでもあのさっきの広い道に抜けられるかな。

茂みに入り真っ直ぐ進んで少し経つと、人に馴らされたような広い道に出たので、そのまま道なりに進んで行くと、やがて木々の向こうに民家のような建物が見えてきた。

この街の建物も洋風なデザインだな。

そして街に入りまた少し進むと、特別な衣装を身に纏っているような風貌ではない、普通の人間が見られるようになってきた。

違和感は無いけど、言葉は通じるのかな。

露店が並んだ市場みたいな場所を通りながら、露店を開いてる人と客らしき人の話し声に何気なく耳を傾ける。

どうやら言葉は理解出来るみたいだ。

石碑が近いからかな。

堕混の話が出来るのは、やはり軍事関係の組織だろうか。

露店の通りを抜けて広場に出たとき、遠くに大きな門と、初めて見ても何となく分かるような軍服を思わせる服装の門番が2人立っているのが見えた。

「あの、翼の生えた3人組を知ってますか?」

話し掛けてみると門番は若干見下すような目線でこちらに目を向ける。

「何だお前」

「僕は氷牙です」

門番は少しの間黙ってこちらを睨みつけた後、まるで何事も無かったかのように再び前を向き、動かなくなった。

「1人は胸元に赤い宝石を埋め込んでいて、自らを堕混と言ってます」

すると門番は急にこちらに顔を向け、眉間に深くシワを寄せる。

「お前、何者だ?何故軍事機密を知ってるんだ?」

「僕は堕混を倒すために旅をしてます」

「倒す?お前1人でか?」

「はい」

眉間のシワが緩んだ門番は、口元を小さくニヤつかせながらもう1人の門番に声を掛ける。

「おい、こいつ、1人で堕混を倒すんだと」

「ほっとけよ。どうせこいつアーリック人だろ?」

近づいてきた門番が迷惑そうに言い放ってすぐに持ち場に戻っていくと、目の前にいる門番も迷惑そうに眉をすくめ、こちらに目線を戻した。

「そう言われればそう見えるな。お前に構ってるほど暇じゃないんだ。ほら、失せろよ」

「そうか」

話の切り出し方が悪かったのかな。

広場から何となく路地に入り、少しの間うろついた後に目に留まったベンチに座る。

何を見てアーリック人だと言ったんだろう。

アーリックという国に行ったら分かるかな。

あの露店の人に聞いてみようか。

「すいません」

「あぁいらっしゃい」

露店のおばさんはこちらに顔を向けると、おばさんは一瞬だけ目線を少しだけ上に上げた。

「アーリックにはどう行ったら良いですか?」

「え?そらぁあんた、馬車で行けば良いんだよ」

「なら馬車の乗り場はどこですか?」

すると露店のおばさんは広場に続く道の方に顔を向ける。

「広場に案内板があんだろ?」

「そうですか、どうも」

再び広場に向かい周りを見渡すが、案内板らしき物は見当たらないので、噴水の周りの置いてあるベンチに座り、人々を眺める。

もうちょっと粘ってみようかな。

「あの」

「何だまたお前か」

こちらの顔を見た門番は、すぐに困ったような表情を見せながら怠そうに応える。

「堕混って前はどこに出ましたか?」

「軍事機密だから、言えねぇよ」

門番が迷惑そうに応えていると、もう1人の門番が緊迫したような顔で一声を発した。

するとこちらの事なんかお構いなしかのように門番が動き出し、もう1人の門番と共に門を開け始めると、門の向こうからは1人の男性を先頭にした軍服を着た人達が出て来た。

演習じゃなそうだな。

「ご苦労」

「はっ」

先頭の男性の呟くような挨拶に、門番はすぐさま背筋を伸ばし、真っ直ぐに伸ばした手を額に向けて斜めに当てた。

敬礼のポーズは異世界共通なのかな。

するとふとこちらに目を向けた先頭の男性は、すぐに一瞬だけ目線を上げてから片方の眉を上げる。

「この男は?」

「いえ、問題ありません」

おっと、これはチャンスかも知れない。

「堕混と戦いに行くんですか?」

先頭の男性は門番を一瞬睨みつけた後、すぐにこちらに警戒の視線を向けてくる。

「堕混の名をどこから聞いた?」

「・・・別に誰からも」

ちょっとひねくれてみようか。

「何故軍事機密を知っている?」

堕混の情報が軍事機密にまでなってるのか。

「堕混に関しては、あなた方より知ってるつもりですけど」

少しずつ表情が険しくなっていくその男性の背後に、ふと別の男性が緊迫感のある表情で歩み寄る。

「オンダ中佐、お時間が迫ってます」

オンダ中佐と呼ばれた男性が不意に後ろを振り返ると、こちらに目線を戻したその眼差しには警戒心とは別に、どこか期待を感じさせるようなものがあった。

「2時間後にまたここに来て、俺の名前を出せ。俺はオンダ・シアルクだ」

「・・・分かった」

そう言うとオンダは足早にその場を去っていった。

何とか話は出来るようになったみたいだな。

と言っても、時間が分からないな。

「今何時か分かりますか?」

「ああ・・・13時36分だ」

門番は少し戸惑いながらも、内ポケットから懐中時計を取り出してそう応える。

「どうも」

門番にいちいちこの世界の事を聞くのは、仕事の邪魔になるかな。

適当に街を散策していると知らずに郊外に出ていて、気が付けば周りには木々が生い茂っていた。

迷ったかな。

空でも飛んで見下ろしてみようか。

そんな時にふと何だか遠くから、まるで気合いを入れるような声が間隔を開けて何度も聞こえてきた。

「っ・・・やぁっ・・・えぃゃっ」

何となくその方に近づいてみると、そこには大木に巻き付けた布に打ち込んでいるレモンがいた。

「あ、師匠」

こちらに気が付くと、レモンは笑顔を浮かべながら額の汗を拭った。

「修業してるの?」

「はい」

薄いグローブのような物を着けているレモンは満面の笑みで応えながら、小さなタオルをベルトのようなものに挟む。

「そうか」

ふと目に留まった大きな幹に腰掛けた。

「師匠って、南のエネカトから来たんですか?」

「違うよ」

「じゃあ北のアーリックですね」

黙って首を横に振ると、レモンは眉をすくめて小さく両耳を下げる。

「もしかして、ユキが言ってた・・・異世界ですか?」

「あぁ」

「ほんとなんですね」

神妙な面持ちでゆっくりと頷くレモンだが、その表情からは特に疑心や警戒心は伺えなかった。

「もしかして修業の邪魔になっちゃうかな?」

「そ、そんなことないですよぉ・・・あの、もし良かったら・・・」

すると照れるような上目遣いで喋りながら、レモンはポケットに入れていたグローブを取り始める。

「少し手合わせする?」

「はいっ」

レモンが笑顔で応えたので立ち上がりながら氷牙を纏うと、レモンも拳に電気をほとばしらせ、構えの体勢をとった。

しばらくしてレモンが打ち込みを終えると、一休みするために村に入り、井戸に向かった。

「ふあぁ・・・やっぱり相手が居ると修業が弾むなぁ」

洗った顔をタオルで拭きながら、レモンは気持ち良さそうな表情で呟く。

「いつも1人で修業してるの?」

「前はお姉ちゃんが相手してくれたけど、偉くなってからは少し忙しくなって、最近はずっと1人かな」

「そうか」

「でもいつも会いに行ってるから寂しくないの」

レモンはタオルを服にしまいながら微笑んで話しているが、その表情からはほんの少し寂しさのようなものが伺えた。

「そうか、そういえば、同じ獣人でもレモンとユキは全然違うね」

「ああはい、種類が違うんです。私は人間に近いヒューマンタイプで、ユキは獣に近いネイティブタイプなんです」

「なるほど」

「あの、師匠は、この世界には何をしに来たんですか?」

まるで片付けるのが苦手かのように無造作に置かれている丸太に座ると、レモンはどこか緊張したような微笑みを浮かべながらそんな話題を切り出した。

「簡単に言えば、旅、かな」

「へぇ・・・あ、じゃあ、宿はもう決まったんですか?」

すると少し微笑みが深くなったレモンから、どことなく興味が引かれたような様子が伺えた。

「いや、それはまだ決まってないね」

「じゃあ、この村に居て下さい」

「人間が居たら迷惑じゃないかな?」

「私は大歓迎ですけど、あ、ちょっとお父さんに聞いてみます」

笑顔で応えたレモンはそう言うと、どこかに向かおうとしてかおもむろにに立ち上がった。

「あ、ちょっと、今何時か分かるかな?」

「ううん、獣人は時間には捕われないんです」

「そうか」

街に行って聞くしかないな。

「ちょっと街に行くよ」

「あぁっ、ちょっとだけ待って下さいよぉ」

少し慌てながら耳を大きく下げたレモンに立ち上がろうとしたのを止められると、すぐにレモンは割と家が密集している方に消えて行った。

こんな自然体の村に時間があったら、確かにちょっと似合わないか。

「おい氷牙」

声を掛けてきた方に振り返ると、そこには鉢巻きをして軍手を着けたユキが立っていた。

「あぁユキか、どうかした?」

「これからきのこ狩りなんだ。それよりまだここに居んのかよ」

ユキは胸は張り、自信を見せつけてくるようにニヤついた表情でそう応える。

「まぁでもこれからちょっと街に行くよ」

「そうか、でもまさか氷牙とここで会うなんてな」

「そういえば、カズマとは会ってるの?」

「まぁたまにな、レベッカとガスタロも一緒にな」

「そうか」

ユキはレベッカが大きくなったことを知ってるのかな。

遠くからユキを呼ぶ声にユキが振り返ると、その方に歩き出しながら、ユキはこちらに向けて軽く手を挙げた。

「じゃあ」

「あぁ」

ちゃんと2本足で走っているんだな。

しばらくするとレモンが少し落ち込んだ様子でこちらに歩いてきた。

「お父さんに聞いたらダメって言われた」

耳を下げながら上目遣いになったレモンは悲しそうにそう言う。

「そうか」

結構厳格な父親なのかな。

「ごめんね、師匠」

「気にしないで良いよ。寝る所くらい自分で何とかするから」

それにやすやすと人間を入れたら、わざわざ人里を離れて暮らす意味が無いからな。

「ちなみに、予算はどれくらいなんですか?」

「この世界のお金は持ってないよ」

「えぇっ?」

するとレモンは耳を真っ直ぐ立てながら、驚くように声を上げる。

「その・・・滞在予定は?・・・」

「はっきり決めてないけど、1週間くらいかな」

「ええぇっ?・・・お金無いのに、1週間?」

更にレモンは大きく目を見開くと、一瞬だけ後ろを振り返った。

「あ・・・じゃあその事情を話せば、お父さんも分かってくれますよぉ」

「大丈夫だよ、自分で探すよ」

するとレモンは耳を下げ、眉をすくめる。

「でも・・・」

「じゃあ街に行くよ」

「・・・あぁはい」

耳を下げて上目遣いでこちらを見つめているレモンを見ながら茂みに入り、街に続く道に出るとそのまま広場に向かった。

しかし周りを見渡すと、どうやら知らない場所に出てしまった。

さっきより広い場所みたいだが。

少し高めの建物や、カフェにあるような外に置いてあるテーブルと椅子がある店もある。

どうやらすべての建物は薄い青が基調になっていると共に、形もすべてひらべったく屋上のあるタイプに統一されていた。

そんな時にふと遠くに大きく案内板と書かれた看板が見えた。

ここが本当の広場だったのか。

近づいて見ると看板には街の地図が載せられて、どうやらこの広場は街の1番南にあるらしいということが分かった。

氷の仮面を被り、空を飛んで屋上を転々としながら、時計台のある丘へ向かってみる。

少し高めの丘にある時計台を見ると、約束の時間の10分ほど前だという事が分かったので、ついでに街を見下ろし、軍の紋章が描かれている旗がついている建物を確認する。

少しの間街を眺め、時間を確認してから再び氷の仮面を被り、そして軍の旗がある建物の門の前に降り立ち、仮面を外す。

場所はここで合っているみたいだな。

「お前、どこから・・・」

振り返ると目が合った門番は、すぐに呆気にとられた様子でそう呟いた。

レモン(推定18)

苗字は無く、年齢という概念がない種族の女性。氷牙から見ればその顔は猫のようなものらしい。武術に興味があり、日夜修業に励んでいる。


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