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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第三章

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面接

するとミサは期待が外れたような表情でそう呟きながら、再びゆっくりと枕に頭をつけた。

「あたし、あんまりレイティン好きじゃないのよね。刑事のくせに拳銃と手錠に触れないなんて、何で刑事になったのよって話だわ?」

「でも結構ドラマ見てなかった?」

「あ、でもストーリーは好きよ」

「そうか」

朝日で部屋が明るくなっているのを感じて目を覚まし、体を起こして時計を見ると、アラームがなる1時間前みたいなのでゆっくりとベッドから下りて水を飲む。

「聞いた?渋谷の交差点でまたテロだって」

「朝のニュースでしょ?全くよくやるわよね」

ユウコとミサの世間話に耳を傾けながらラザニアを口に運ぶ。

あれだけの広さと人通りじゃ、狙われやすいのかも知れないな。

「朝からこってりしてない?」

ふと目が合ったヒカルコがトーストを小さく噛みちぎると、そう言って首を傾げる。

「まぁ何となくね」

「ふーん」

食事が終わるとすぐにミサに部屋に連れられたので、何となくソファーに座った。

「午後までここでのんびりしててね」

ミサは笑顔でコーヒーが入ったマグカップを2つ、そして砂糖やミルクが入った小さなバスケットをテーブルに置き、向かいのソファーに座った。

「そうか」

2人きりなら逆に説得しやすいかもな。

「じゃあ、ミサが学校に行ったら、またちょっと異世界に行って来るよ」

何気なくミルクを1つ開け、コーヒーに入れる。

「あらどうして?」

少しトーンが下がった声が聞こえたので、ゆっくり目線を上げてミサを見ると、ミサは微笑みを浮かべているものの目が笑っていないように見えた。

「堕混を倒すためかな」

すぐに目を下に向け、砂糖を1本コーヒーに入れるが、その瞬間、その部屋にふと沈黙が流れた。

「どうして?」

「え?」

「どうして、貴方が堕混を倒さなければいけないの?」

「もし1つの異世界が堕混に支配されて、大勢の軍隊を率いてこの世界に来たらどうする?」

ミサは黙ってゆっくりとコーヒーを一口飲むと、またゆっくりテーブルにマグカップを置きながら小さくため息をついた。

「・・・そうよね、貴方が行かなかったら、イングランドも救われなかったかもね」

案外早く説得出来そうだな。

「ライブまでには帰るわよね?」

「1ヶ月なんてかからないと思うよ。前は1週間くらいだったし」

「そうよね」

ミサは考え込むように下を向くと、すぐに何かを理解したかのように微笑みを見せてきた。

「・・・もう分かったわ。一緒に行っていいかしら?」

「え?」

「旅行だと思えばきっとすぐよね、あたしも、ちょっと気になってたのよ」

どこかすっきりとしたような微笑みを浮かべながら、ミサはそう言ってマグカップを口に運んだ。

「だめだよ、ミサには危険だよ」

するとミサはマグカップをテーブルに置くと同時に、眉間に小さくシワを寄せてこちらを見る。

「貴方は危険じゃないとでも言うの?」

「危険じゃないよ」

即答すると眉間のシワが少し深くなったままミサが固まった。

「・・・な、何よ、どうして?ちゃんと説明して」

「僕には、身に危険が迫ると自動的に発動する、完全自律型全方位バリアがあるから」

「あ、あの・・・氷の防壁のこと?」

ミサは素早くまばたきしながら小さく首を傾げる。

「あぁ」

「・・・なるほどね」

「そういえば、前に異世界に行ったとき、いきなり襲われたんだ。しかも大群にね」

「そうなの?」

驚くように目を見開きながら、ミサは少し身を乗り出す勢いで声を上げる。

「だけど、防壁があるから問題無いよ」

「・・・んー」

真剣な表情で考え込み始めながら、ミサはちらちらとこちらの方に目線を上げていく。

あともう一声かな。

「もし一緒に行ったとして、もちろんミサの事はちゃんと護るけど、1番安全に護る方法はミサをここに置いて行くことだよ」

すると小さくため息をついて頷いたミサの顔から、若干の呆れを感じたような微笑みが戻る。

「・・・分かったわよ、分かったけど、食糧はどうするのよ」

ミサは優しい口調でそう言い放つ。

「どこの世界だって、親切な人は居るよ」

「んー・・・考えたんだけど、3日くらいに目処を付けて食糧を持っていって、無くなったら帰ってきてまた食糧を持って行く、なんてどうかしら?」

ピクニックじゃないんだから。

それに極点を纏ったら、衝撃波でリュックも食糧も全部凍りついちゃうな。

「戦う時に、いちいちリュックを降ろすの?」

するとミサは不服そうに頬を小さく膨らませる。

「何よ、こっちは真剣に考えてるのに」

「大丈夫だよ、ちゃ」

「ダメよっちゃんと納得させてよ」

まだだめか。

何て言おうかな。

「僕、実は少食なんだ」

しかしミサは黙って真っ直ぐこちらを見つめている。

「精神的にじゃなくて、物理的に」

「どういうこと?」

「氷牙を纏うとき、体に負担が掛からないために体温を極端に下げるんだ。簡単に言えば仮死状態みたいにね、だからもともと食事なんて必要無いんだよ」

言葉も出せずに口をぱくぱくさせてこちらを見ているミサを、コーヒーを飲みながら眺める。

「・・・え、・・・い、今も?・・・仮死状態なの?」

絶氷牙についてはあまり深く説明しない方が良いかな。

「あぁ、絶氷牙を纏えば、より長く仮死状態が続くよ」

ミサはおでこに手を当ててため息をつくと、そのまま髪を掻き上げるように頭に手を乗せた。

普通の人と変わらずに話していた人が実は普通の状態じゃないという事が、そんなにショックが大きい事なのかな。

「どうして、黙ってたのよ」

「聞かれないなら、わざわざ自分から喋る理由は無いよ」

「その・・・じゃあどうして毎日食事してるの?」

「んー・・・必要は無くても、美味しい物を食べてると何となく気分が良いから、かな」

ミサはゆっくりと頷くと、少しだけ表情を綻ばせるような顔色を見せた。

「つまり派遣調査には打ってつけの体って訳だね」

「はぁ・・・何か一気に知りすぎたかも」

そう言うとミサはソファーに深く背もたれながら、少し悲しそうな眼差しをこちらに向けた。

「聞かれたらでいいから、ユウジには異世界に行ったって言って置いてよ」

「えぇ・・・1つ聞いて良いかしら?」

魂が抜けたような返事をしたミサの声色に、何となく元気の無さを感じた。

「あぁ」

「どうしたら仮死状態が治るの?」

「方法は、自然解凍しか無いと思うよ?」

「じゃあ、いつ解凍されるの?」

「まだ一度もなってないから分からないけど、ただ、食事したり、シャワー浴びたり、普通に体を温めるようなことをしたら、解凍は早まるかもね」

「そう・・・」

ゆっくりと頷きながらマグカップを手に取ったミサは、ふと我に返ったような顔色を浮かべる。

「氷牙、コーヒーおかわりする?」

「あぁ」

ソファーに座ってコーヒーをゆっくりと飲んでいるミサの表情からは、次第に落ち着きが見られるようになってきた。

「落ち着いた?」

「えぇ」

笑顔で応えたミサはマグカップを口に運びながら腕時計に目を向けると、マグカップをテーブルに戻して何やら少し冷静な表情で考え込み始めた。

「ねぇ、1回だけで良いから、体を解凍させてみてよ」

「・・・何のために?」

するとうつむいたミサの目が少し泳ぎ始めた。

「その・・・ていうか、それに関しては断る理由があるのかしら?」

「まあね、僕は氷牙だから」

コーヒーを飲みながら若干の上目遣いで見つめてきたミサだが、すぐに眉をすくめながら首を傾げると再び腕時計に目を向けた。

「そろそろ、ランチ行きましょうよ」

「あぁ、ホールで?」

「ううん、外でよ。パスタの美味しいお店があるのよ」

「そうか、でもお金、持ってないよ」

するとミサは驚くような表情を見せながら部屋を見渡し始めた。

「ここ、貴方の家なんでしょ?財布、置いてあるでしょ?」

「無いよ」

「おかしいじゃない。いくらニートだからって、財布も無いなんて。じゃあどうして無いのよ?」

「分からないよ。最初に組織に来たときには、もう何も持ってなかった」

ため息まじりに唸りながらうつむいたミサは、腕を組むと再び険しい顔で考え込み始める。

「もう良いわ。また何か衝撃的な話を聞いたら、心臓がもたないもの。支度するからちょっと待ってて」

「あぁ」

小さく首を横に振りながらミサがマグカップを2つ持って席を立ち、しばらくすると、うっすらと化粧をしたミサと共にミサの家を経由して外に出る。

「行くなら、ブレスレット着けて行ってね」

ミサの家の門を出て歩き出すと、そう言いながらミサは手をこちらの腕に優しく絡めてきた。

「そうだね」

「改めて触ると、かなり冷たいわね」

袖を捲られると、こちらの手首から肘までを触りながらミサが呟く。

「まあね」

静かな住宅街から広い歩道に出ると、前とは違う道に曲がって進み、大きなカフェのようなお店に入る。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

「2人です」

「ではご案内します」

ミサがウェイターに応えて案内されるのを黙って後ろからついて行き、椅子に座るとメニューがテーブルに置かれた。

「よく来るの?」

メニューを開きながら何気なく聞いてみた。

「えぇ、大学の友達とね」

「そうか」

一通り見るとメニューを閉じて水を一口飲む。

「決まったの?」

「あぁ」

するとミサはメニューを少し下げ、こちらを覗くように微笑み掛けてきた。

「言って、あたしが頼むから」

「ペペロンチーノとメロンソーダ」

「分かったわ」

笑顔で応えたミサが店員を呼んで料理を頼み、少し経つと料理が運ばれたので、フォークで麺を巻いてパスタを口に入れた。

「味覚はあるのよね?」

するとそう言ってミサが少し不安げにこちらを見つめてくる。

「あぁ、オリーブオイルの味もガーリックの匂いもちゃんと感じるよ」

「美味しい?」

「あぁ」

そう応えるとゆっくりと微笑みを浮かべたミサは食器を取り食事を始めた。

カフェを後にすると、ミサは何やら周りをキョロキョロと見渡しながら足早に歩き出した。

「そんなしょっちゅうテロは起きないよ」

「分からないわよ?ほら、北村さんに捕まる前に帰りましょ?」

少し強めに腕を掴まれながらミサの家に着き、自動で開いた門を抜けると、ミサは玄関の扉を開けてミサを待つシナガワの前で一旦立ち止まった。

「あたしすぐに学校行くから送ってくれる?」

「かしこまりました」

扉を押さえながら軽く頭を下げるシナガワを見ていると、ふとこちらに笑顔を向けたミサと目が合った。

「じゃあ氷牙、気をつけてね」

「あぁ」

笑顔で手を振るミサを見ながら1人で家に入ると、脱いだ靴を持ってすぐ右手の壁に沿って緩くカーブしている階段を上がり、そして右手にある扉を開けた。

ミサの部屋に入ると、すぐに本棚に手を伸ばしている女性と目が合った。

「あ・・・」

見た感じミサより年上だろうか。

「どうも」

扉を閉めて声をかけてみた。

「あの、どなたですか?」

すると本棚から手を離した女性はすぐに怯えたような少し霞んだ声で喋り出した。

「ミサの友達、かな」

「ミサの?・・・あのぅ、もしかして、例のホテルの・・・」

どことなく怯えていなさそうにも見える、ゆっくりと喋る女性から、少しずつ警戒が解けていくのが感じられた。

「はい」

「じゃあ・・・能力者の方?」

ミサには感じられないゆったりとした雰囲気で、まるでその人だけゆっくりと時間が流れてるような印象を受けた。

「はい、あの、あなたはミサのお姉さん?」

「えぇ、レイコです」

まるでこっちまで動作が遅くなるような笑顔だ。

「はじめまして、氷牙です」

「ミサから、聞いてるわ。・・・それより、何故、この部屋に?・・・靴まで持って・・・」

肘を曲げ、本棚に軽く手を伸ばしたままのポーズで、レイコは落ち着き払ったような表情を見せている。

「あの扉からホテルに行けるので、少しお邪魔してます」

「そうなのね・・・それじゃあ、ミサに、よろしくね」

「あ、はい」

ゆっくりと頷いたレイコに会釈してからホテルの部屋に入り、静かに扉を閉めた。

すごくおっとりしているのか、それとも凄まじく肝が据わっているのか。

リビングを通ったとき、ふとテーブルに置いてあるブレスレットが目に入ったので、一応ブレスレットを1つ着けて部屋を出た。

ホールに入るとマナミがライムミントやレベッカと仲良く食事していて、それを横目に見ながらホットミルクを一口分注ぎ、すぐに飲み干しておじさんの部屋に向かう。

「ちょっと良いかな?」

「あ、どうぞ」

扉を閉めて歩き出すと、おじさんはいつものように椅子を回して体をこちらに向ける。

「異世界に行きたいんだけど」

「一応目的を聞いても良いですか?」

「堕混を倒す旅、かな」

するとおじさんはほんの少しだけ片方の眉を上げ、一瞬だけ黙る。

「分かりました、じゃあキーワードを言って下さい」

そう言うとおじさんはすぐに体をキーボードに向けた。

表情は変わらないが納得したみたいだ。

もしかして、今のが面接だったのかな?

「獣の人と書いて獣人で」

「分かりました」

キーボードを叩く音が続いた後に、モニターの中の信号みたいなものが1つ、赤から緑になったのにふと気が付いた。

「じゃあどうぞ」

「あぁ。そういえば、僕が帰ってきてから、他に異世界に行きたいって人とか来た?」

「えぇ、何人か来ましたよ」

もし、今みたいな何も聞かないような面接しかしてないなら・・・。

そんなことを何となく考えながら扉を開け、薄暗い通路に足を踏み入れる。

随分と短い面接でした・・・。笑

ありがとうございました。

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