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その眼差しは寂しげで2

「まあ、マナミが来たからな」

セイシロウがそう応えながらマナミを見ると、マナミは照れるように微笑みながら小さくうつむく。

「じゃあ、戻るか」

ノブの声がした方を見るとノブはシントの隣に居て、北村の方を見ると、北村は森阪と共にパトカーに乗り始めていた。

「ミヤビ、ハンマー男と戦ったことあったんだって?」

「え、ううん・・・私は、えっと・・・」

するとミヤビは何かを言いたそうな顔でこちらに目を向ける。

「ヒューガ君?」

「氷牙だよ」

「あ、私はただ氷牙君に助けて貰っただけなの」

そう言ってミヤビは少し恥ずかしそうに微笑んでシントを見る。

「そうなのか」

「それじゃ、何かあったらまた連絡くれよ」

納得したように頷いたシントがミヤビと微笑み合っていると、ノブがそう言いながらシントに向けて軽く手を挙げ、組織への扉に体を向ける。

「あぁ分かったよ」

シントの手を挙げる姿を見てから神奈川の組織を後にした。

「お帰りなさい。皆さんお怪我は?」

「いや、大丈夫だ」

「そうですか」

ノブが応えるとおじさんは真顔で頷きながらモニターに目線を戻していく。

「いやぁ、とりあえず昼メシだな」

ホールに出るとノブがそう呟きながら真っ先にテーブルに向かう。

「あ、マナミ」

笑顔のレベッカが舞台下からゆっくりとマナミの下に飛んでくると、マナミもすぐに笑顔を浮かべながらレベッカに手を振る。

あの大きさでも普通に飛べるみたいだな。

「お帰りー」

「うん」

笑顔で舞台を降りていくところを見ると、2人は順調に仲良くなれたみたいだな。

ノブがテーブルの真ん中にあるベルを鳴らしたので、何となくそのテーブルに椅子に座った。

「お呼びでしょうか」

ウェイトレスがテーブルに着いたときに、何となくそのウェイトレスが一瞬だけノブに微笑みかけたような気がした。

「ランチメニュー貰えるかな?」

「かしこまりました」

丁寧にお辞儀したウェイトレスはまた一瞬、ほんの小さくノブに微笑みかけてから歩き出した。

よく見ないと分からないくらいの微笑みだけど、ノブとは親しいのかな。

まぁ毎日お酒頼んでたら、少しはウェイトレスとも話すようになるのかもな。

「この分じゃ、完全に捕まえないと、ただ追い詰めてもすぐに逃げられるな」

あのゴリラ達が能力者の仕業だとしたら、囮にされてまんまと逃げられたということかな。

「ワープの条件を見極めてからじゃないと、作戦を考えるのは難しいね」

セイシロウがノブの呟きに応えているときに、シンジは黙々とチャーハンを頬張っている。

確かにシンジは作戦とか考えなさそうだな。

「お前、何か良い案とかあるか?」

何気なく話を振られたシンジは一瞬動きが止まるが、モグモグと口を動かしながら首を傾げているのを見たノブは、小さく頷きながらゆっくりと目線をセイシロウに戻す。

渋谷でワープする前にハンマー男が叫んだ言葉が呪文じゃないとしたら、その名前の人を捕まえれば何とかなるのかな。

「陽動とか?」

こちらに顔を向けたノブは、軽く眉間にシワを寄せながら小さく唸り出す。

「さっきので言えば、校庭で戦ってるときに誰かが裏から回り込む感じってことかな?」

「あぁ」

「んーあのアジトは入口がひとつしか無いし、もしあの高い塀を越えて回り込めたら、かなりの確率で不意打ちが出来るかもな」

「回り込んだって、ワープされたら意味無いんじゃないの?」

急に喋り出したシンジに、こちらに応えていたセイシロウとノブは少し驚いたような顔でシンジに目を向ける。

「じゃあスパイは?」

するとセイシロウの問いに、シンジはすぐに嫌そうな表情を浮かべる。

「面倒臭いな。時間もかかるし」

「そりゃあそうだよな」

ノブがカレーを頬張りながら相槌を打つと、セイシロウも考え込みながら黙って食事を再開した。

ワープされる前に気でも失わせれば、逃げられなくなりそうだな。

ハンマー男はノブ達に任せても大丈夫だろう。

そういえばタツヒロはどこに居るのかな?

「氷牙、さっきアジトで第二覚醒しただろ?」

ウェイトレスがお皿を下げ始めると、シンジが何やら軽く肩を回しながら口を開いた。

「・・・まあね」

「そろそろあの姿で相手しろよ」

「んー」

まあシンジなら絶氷牙でも互角くらいだし・・・。

「面白そうだな、オレも入れろよ」

ノブはシンジよりも防御力が無いから、少しまずい気がするけど・・・。

「・・・まぁちょっとなら」

「じゃ、行こうぜ」

2人と共に席を立ったときにふとホールを見渡したが、見える限りではタツヒロの姿はない。

終わってからでもいいかな。

闘技場の中央に着くと2人が各々の体を変化させたので、絶氷牙を纏って観客席の前まで離れ、更に高く飛び上がってから極点氷牙を纏った。

シンジが何度か軽く跳び上がった後に、大きく地面を蹴って巨大な朱い拳を振り上げると、その後ろからノブも空中を蹴り上げ、勢いよく飛び出した。

紋章を出してシンジの拳を受け止めると、すぐに膝蹴りで巨大な腕を打ち上げ、そして関節の内側の角を掴み、ブースター全開で巨大な腕を押し退ける。

勢いよく腕を後ろに投げられたシンジが大きく後ろに飛ばされると共に、シンジの腕がノブに向けて振り回されたが、巨大な腕が当たったと同時にノブは残像となって掻き消える。

ブースターを噴き出し、衝撃波が襲ってきた方に素早く体を向けて衝撃波を耐え、目の前で突き出されているノブの足を掴むが、ノブの体は再び残像となって消え去った。

またか。

素早くブースターを噴き出して旋回すると、顔のすぐ前にあったノブの足に手が当たったので、衝撃波に当てられながらとっさにその足を掴み、そのままのノブを投げ飛ばした。

どうやら2回までは連続でタイムスリップ出来るようになったみたいだな。

これも鉱石を身につけたおかげだろうか。

シンジを見ると、シンジはすでにこちらに向けて拳を振り下げているところだった。

地面を蹴り、跳び上がると同時にブースターを噴き出しながら拳を突き出したシンジの拳に向けて、蒼月を撃つ。

すると氷の弾の激しい破裂に、シンジは拳もろとも吹き飛ばされて地面を転がっていった。

左手をついて立ち上がるところを見ると、シンジの拳は凍りついているみたいだな。

シンジは一旦腕の朱い外殻を煙のように消していくと、二回りほど小さくなった赤黒い外殻の腕を回したり、手を開いたりして動かしたりする。

遠くを見ると、ノブはすでに体勢を立て直してこちらを見据えていて、その後にノブが地面を蹴る構えをしたとき、突如ノブの両足にほんのりと光が帯びた。

あれは・・・。

直後に地面を蹴ったノブの足から強く空気が噴き出し、更にノブは先程よりも速く、まるでロケットのように上空へ跳び出した。

そしてノブの姿が消えたその直後、別方向から同時に3発もの衝撃波がこちらに向かって襲ってきた。

くっ逃げられない・・・しかも威力もさっきより強くなってる・・・。

その直後に後頭部に強い衝撃が襲ってきて、地面を転がりながら上手く受け身をとってすぐに後ろを見るが、そこには誰もいなかった。

素早く立ち上がりながら周りを見渡すと、ノブはまるで先程からそこに居たかのようにシンジの隣で佇んでいた。

速いな。

よく見るとノブのブーツのデザインが少し変わったように見える。

「覚醒したの?」

「まあそんなようなもんだろ。これも鉱石着けたおかげだな」

つま先で軽く地面を突きながら照れるように笑ったノブから、優越感がかいま見えた。

「そうか」

ノブもシンジも、普通の人体が相手なら普通に脅威になるな。

「いやぁ、だけどやっぱりタフだなぁ、氷牙は」

ノブの呟きを聞き流しながらホールに戻ったとき、突如おじさんのアナウンスがホールに響く。

「テロか・・・シンジ、行くぞ」

「分かった」

体力的に大丈夫なのだろうか。

足早に会議室に向かう2人を目で追ってから、ホールを見渡してタツヒロを捜してみる。

「氷牙、そこに居たんだ、ちょうど良かった」

「ああ、タツヒロ」

「今、ちょうど現場に行くとこなんだ」

どことなく信念のようなものを感じさせる眼差しを見せるタツヒロと共に組織を出る。

あれ、ここは、確か。

ビルの壁に貼られたシールキーを剥がし、向かいたい場所が決まっているかのような足取りで歩き出したタツヒロについて行くと、すぐにそこが見覚えのある場所だということに気が付いた。

「台場公園に巨大生物を操る人の手がかりがあるの?」

「うん。まあ正確に言えば、東京湾付近の公園に限って、いきなり暴れ出す巨大動物が目撃されてることが分かったんだ」

東京湾付近の公園か。

ならその能力者の活動拠点は大分絞られるな。

「どんな人物かっていう情報はあるの?」

「いや、それはまだ分からないんだ。けど、ネットの書き込みを見ながら毎日公園を巡れば、見つけられると思うんだ」

「そうだね」

砂浜を見渡しながら、タツヒロはおもむろにポケットから小さな双眼鏡を取り出した。

能力者というより、これからテロを起こそうとするような、挙動不審な人を捜せば良いのかな?

潮風を嗅ぎながら何となく街を見渡していたとき、ふと見覚えがあるような佇まいを感じる、1人の男性に目が留まる。

あの人・・・。

何やら街行く人々に何かを訪ねているその男性を何となく見ていたとき、その直後にふとその男性と目が合うと、その男性はすぐにこちらに向かって近づき始めた。

「少し話を聞きたいんだが、良いかな」

すると声を掛けてきながら、その男性は胸ポケットから取り出したものをこちらに見せてくる。

警察手帳・・・。

「須藤刑事?」

その直後、警察手帳をしまいながら、須藤はすぐに何かを理解したかように眼差しを鋭くして見せた。

「君は、アリサカソウマを知っているんだったな。あの後、アリサカソウマか、アリサカソウマのグループの誰かと接触はしてないか?」

警察もあれからアリサカを捜してるのか。

けど、須藤刑事は何も教えてくれないしな。

「したはしたけど、僕をアリサカ達の仲間だと思ってるの?」

「いや、君のことはあくまで貴重な情報源という目で見ているだけだ。もしアリサカソウマの活動拠点の情報を知っていたら教えて欲しい」

「これからどこに現れるかは知りたいけど、活動拠点になんか興味ないよ。それに、聞いたところでアリサカが教えてくれる訳ないし」

須藤の眼差しに鋭さは衰えないものの、その表情には疑い深さのようなものは薄れているように見えた。

そういえばタツヒロにはヒントを与えたって言ってたな。

「という事は、君も個人的にアリサカソウマの行方を調べてる訳か」

念のため聞いてみようかな。

「あの、須藤刑事は、東京湾付近で活動するテロリストについて何か知らない?」

すると須藤はまた少し眼差しから鋭さを緩め、ゆっくりと砂浜へと目を逸らしていった。

「そういった情報は、こちらからはむやみに話すことは出来ない」

・・・聞くだけ無駄だったな。

何やら空を飛び交う鳥達を眺めるタツヒロに声を掛けると、こちらに顔を向けたタツヒロはどことなく落胆したような表情を伺わせた。

「今日は収穫はないみたいだから、また明日頼んで良いかな?」

「良いよ」

夕焼けに染められた空を見ながら組織に戻ると、タツヒロは近くのテーブルに座りながらすぐに携帯電話を取り出し、画面を指でなぞり始める。

「明日はさ、2人で別々の場所に調査しに行ってくれない?その方が効率的だし」

「あぁ」

随分とやる気があるんだな。

「じゃあ番号教えてよ」

「僕、携帯電話持ってないんだ」

「えっ」

通信機ならおじさんから借りられるしな。

「通信端末的なものなら、おじさんに借りられるから、問題ないよ」

「そっかぁ」

「そういえば、カサオカについては何か新しいこと分かった?」

画面をなぞる手を止めたタツヒロは、緊張感のない落ち着いた表情で小さく首を横に振った。

「ネットの中じゃ、カサオカ達を英雄扱いする情報以外はあんまり無いから、やっぱり僕の見間違いだったのかも」

「そうか」

しばらくしてヒカルコがユウコを連れてテーブルにやって来ると、ヒカルコはユウコと世間話をしながらふとタツヒロにも目を向けていく。

斉藤 実耶美(サイトウ ミヤビ)(19)

大学生。引っ込み思案な性格から自ら戦うことはないものの、組織で出会ったシントの頼みならと、シントと共に自警団に入っている。


ありがとうございました。

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