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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第三章

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隣人たちの名もなき抗争

「え?シャワーを浴びてきたんだけど」

するとミサは一瞬にして目を見開き、驚きと怒りが混ざったような表情を浮かべて嫌悪感を訴えてきた。

「ちょっと何よ、体を洗うなんて話してないけどみたいなその態度。まさか、本当にただ浴びてきただけなの?」

「あぁ」



それでもまるで表情を変えない氷牙に、心の底の怒りの火は、瞬く間に戸惑いによって掻き消されたのが自分でも気が付いた。

何なのかしら?

無愛想もここまでいくと、何かあるのかしら?

「でもほら、体も洗わないと、垢とか溜まっちゃうわよ?」

何か深いトラウマとか?

一瞬だけどこかに目を逸らしてからこちらを見る氷牙の表情は、依然として戸惑いすら感じさせない。

「いや、大丈夫だよ」

・・・大丈夫って、どういう意味よ。

でも考えてみると、今まで氷牙から汗臭さを感じたことは一度もないのよね。

「もしかして、髪も洗ってないの?」

「え、そうだけど」

えって、そうだけどって・・・。

何かあたしが理不尽に責めてるみたいな雰囲気になっちゃってる?

いやいや、そんなはずはないわよ。

「もう良いわ?じゃああたしシャワー浴びてくるから」

「え?」

何故か驚くような声を出した氷牙に顔を向けるが、氷牙のその表情はやはり驚きを感じさせるようなものでは全くなかった。

「自分の家の方が楽だと思うけど。わざわざホテルで浴びなくても」

「そう、だけど、あれよ、気分転換よ。それにもういつも使ってるシャンプーとか持ってきたから」

「そうか」

そうかって、また興味があるのかないのか分からない顔しちゃって。

パジャマを脱衣所に置いて浴室に入り、愛用のシャンプー等を並べ、そしてシャワーヘッドを手に取って蛇口を捻る。

「きゃっ」

冷たっ・・・。

シャワーヘッドを遠ざけながら温度調節のバーに目を向ける。

何よこれ、設定温度低すぎるじゃない。

もう、びっくりした。

そういえば、ヒョウガは氷に牙で氷牙だってヒカルコが言ってたわよね。

どうして本名を隠してるのかしら?

本名を隠してることと、感情を出さないこと、何か関係があるのかしら?

しばらくしてムダ毛の処理を終え、トリートメントを洗い流し、浴室を出る。

脱衣所を出ながら小さなタオルで髪をまとめ、バッグからミュージックプレーヤーを取り出す。



さっきから何だか連続的な小さな唸り声が後ろで聞こえる。

ふと後ろを見ると、そこには髪をまとめた小さいタオルの間に音楽プレーヤーを挟み、音楽を聴きながらストレッチをするミサが居た。

テレビを消そうとしたが、ニュースが始まったみたいなのでリモコンをテーブルに置いた。

「今10代の女性を中心に幅広い人気を得ている歌手の、那波凛子さんも出演予定の夏のライブフェスタの会場を襲撃するという主旨の文章が、インターネットの掲示板に載せられていたことが分かりました・・・」

キャスターの下には、ライブ中止か?という見出しが大きく出ている。

どっかで聞いたことがある名前だ。

確かヒカルコがファンだって言ってたかな。

「続いてのニュースです。イングランドの南部に壊滅的被害を負わせたとして、翼を持った3人組への軍事的解決を示唆しているイングランド政府から、先ほど3人の遺体が確認されたとの発表がありました・・・」

「あら、あなたがやったこと、ニュースになってるじゃない」

ミサは向かいのソファーに座ると、銀色の棒状の物を頬の上で転がしながらこちらに微笑みかけてきた。

「僕だけじゃないよ、テイラーやジェイク達と一緒にやったんだ」

「あらそうなの?良かったわね」

おでこや頬と、転がす場所を変えながらミサは笑顔で相槌を打っている。

「この度の、突如特殊な能力を持つ人間が現れたことで、世界中での宗教的活動が強まっていて、様々な集会を模したイベントの傍ら、破壊的活動が目的の集会による事件が多発しています」

宗教か。

たとえ平和的な宗教でも、勢力争いとか起こりやすいし、能力者が居れば結局は武力抗争になり兼ねないかもな。

「嫌ねぇ変な宗教とか」

「そうだね」

ニュースが終わったみたいなのでベッドに向かい、ベッドの布団の上に仰向けになる。

目を閉じてしばらくすると、次第に頭の中にある意識が軽くなり、体中に感覚が戻っていったので、ゆっくりと起き上がり朝日を透かす窓に顔を向ける。

デジタル時計に目を向けると早朝みたいなので、体を起こし、何となく腰を回して骨を鳴らしてからベッドから下りた。

朝の習慣を済ませてソファーに座ろうとしたとき、ちょうどベッドのサイドテーブルに内蔵されたデシタル時計からアラームが鳴ると、間もなくしてミサが小さな唸り声を上げ始めた。

「・・・ふあぁ、あら氷牙、おはよ。早いのね」

「まあね」

しばらくミサの部屋でミサの支度が終わるのを待ち、そして支度が済んだミサと部屋を出る。

朝食も終わりいつものようにミサが学校に行った後、ノブに呼ばれたのでノブ達が集まるテーブルに向かうと、そこにはシンジとセイシロウが居た。

「まぁ神奈川の奴らに合流するのは11時だから、今はリラックスしてろよ」

「そうか」

ノブは気軽にそう言って椅子に座りコップを手に取ったが、シンジ達は少し緊張したような面持ちで椅子に座っていた。

まぁ、無理もないか。

ホットミルクを注いでいるときに声をかけられると、顔を向けた先にはレベッカが居た。

「あぁレベッカ」

「うん、大きな姿なら自由にして良いって、カズマが言ったの」

「そうか、良かったね」

「うん」

満面の笑みで頷いたレベッカはマグカップを1つ取り出して、コーヒーを2種類、マグカップの半分くらいまで混ぜて注き、その後にホットミルクを加える。

好きなようにブレンド出来るのは便利だな。

続けてレベッカは隣のトレーの棚から砂糖が入った細い袋を1本取り、砂糖をマグカップに入れ、マドラーで混ぜていく。

「手際が良いね」

「うん、カズマの動きずっと見てたからね」

マドラーで混ぜながらこちらに顔を向けたレベッカは嬉しそうにそう応える。

「そうか」

マドラーを棚下のゴミ箱に入れるのを見てから、レベッカと共に近くのテーブルに向かう。

「氷牙はいつも何してるの?」

「特に決めてないよ」

「そうなんだぁ。あたし、自由になれたのは良いけど、何すればいいのか分からないの」

「それなら、ライムとミントの2人と友達にでもなれば良いよ。レベッカと同じ異世界から来た者同士、同じ悩みも分かり合えると思うよ?」

するとレベッカは少しずつ屈託のないその笑顔を深めていく。

「そっかぁ、氷牙も色々教えてね」

「あぁ。あとマナミもずっと居るみたいだし、仲良くなるといいよ」

レベッカは満面の笑みで頷きながらカフェオレを飲み、しばらくそんなレベッカと話をしていたとき、ふとこちらの方に向かってくるタツヒロが目に入る。

「あのさ、ちょっと良いかな?」

「あぁ」

どことなく緊張感のある表情を見せるタツヒロが隣に座ると、マグカップを口元に上げながらふとレベッカも落ち着いた眼差しでこちらに目を向けた。

「僕さ、あれからまた別の場所にも行ったんだけど、その時にちょっと気になることが出来てさ」

「気になること?」

「そこでカサオカを見たんだけど、そこに居た巨大動物がさ、まるでカサオカの手振りに従うように動いてたんた」

カサオカが?

そう言えばホンマって人も、もしかしたら急に暴れ出す巨大生物は能力者に操られてる可能性があるって言ってたな。

「じゃあ、カサオカが巨大生物を操ってるって?」

「んー、でもまだちょっと確信が持てないから、また一緒に巨大生物の様子を見に行って欲しくてさ」

「それは良いけど、今何時か分かる?」

急な問い掛けに驚くような表情を浮かべながらも、タツヒロは素早くズボンのポケットに手を入れ、携帯電話を取り出した。

「11時前だけど」

「悪いんだけど、これからノブ達と一緒にあるテロ組織を潰しに行くんだ。だからそれはその後で良いかな?」

「あ、うん。そのテロ組織って?」

そういえばまだ詳しい事は聞いてないな。

「普通の人間と能力者が混ざってるから、人数は多いってことくらいしか聞いてないよ」

タツヒロが小さく頷いていると、ノブがシンジとセイシロウを連れてテーブルに近づいてきた。

「おい、そろそろ行くぜ?」

「あぁ」

ノブについて行き、会議室を抜けておじさんの部屋に入る。

「オーナー、ちょっと良いか?」

ノブが喋り出すと同時におじさんはゆっくりと椅子を回し、体をノブの方に向けてくる。

「はい、あ、神奈川の組織ですか?」

「あぁ、繋げてくれるか?」

すでに話は通してあるみたいだな。

「はい」

おじさんが素早くキーボードを叩き、おじさんの合図を見て奥の扉を開けたノブに続いて部屋を後にすると、そこは窓がなく、ホワイトボードと大きなテーブルが置かれた、広くはないが狭くもない会議室を思わせる部屋だった。

巨大なモニターがあるから、ここは恐らくこの組織のオーナーの部屋だろう。

「よぉ」

近づいてきた5人の中の1番前にいる人に、ノブが軽く挨拶をする。

「ああ来たな・・・この人がもう1人の第二覚醒した人か?」

ノブと挨拶を交わした後にその男性はこちらを見ながらそう口を開いた。

「あぁ、こいつは氷牙って言うんだ」

ノブがそう言うと男性はこちらに近寄り、手を差し出してきた。

「はじめまして、俺は横浜にあるこの組織を拠点に活動する自警団のリーダーをしている、ツガワシントだ」

少し日焼けしていて爽やかな微笑みが特徴的だな。

「あぁどうも」

握手を終えると、シントに大きな正四角形のテーブルに案内され、そして皆でテーブルの上にある大きな地図を囲み始める。

神奈川県と東京都近辺が載せられたその地図には、何かの目印と思われる赤い丸が幾つか書かれていた。

「警察からの情報によれば、東京との県境にある廃墟にアジトがあるらしい。ここを拠点にして、神奈川と東京の2つが主な活動範囲みたいだな」

シントの淡々とした話を聞きながら、他の自警団の顔ぶれを確認してみる。

「それから非能力者は武装しているらしい」

この女性はどこかで見たような気がする。

ふと女性と目が合うと、女性は少し目線を上にしながら困ったような顔で目を逸らした。

「アジトは要塞みたいに周りを塀で囲んでいて、入口が1つしか無い」

「そらぁ、入ると同時にオレらは格好の的って訳だな」

ノブが一言加えるように口を挟むが、シントはどこか余裕の感じるような表情を見せながら小さく頷く。

「まあどこから撃って来るか分からなくても、心配はいらない」

シントはそう言うと1人の男性に顔を向ける。

「サカハラは磁力を操るんだ。スナイパーライフルだろうがマシンガンだろうが、サカハラが居ればすべてが無力化される」

自慢げに微笑みながらシントが話していると、ノブは考え込むような表情でセイシロウを見る。

「それなら、うちのセイシロウも重力を操るから、似たようなもんだな」

「そうか、だったらこの2人に先頭に立って貰おう。良いかな?」

落ち着き具合や、頭のキレ具合とか、似た者同士のノブとシントは気が合いそうだな。

「あぁ」

「分かった」

サカハラとセイシロウが返事をすると、その後もノブとシントによる配置の確認や、基本的な動きの話し合いが続いた。

「それじゃここに扉を繋げて、このルートで行こうか」

「あぁ」

シントの仕切りに一同が席を立ち、壁に貼ったシールキーから外に出ると、そこはイングランドとまではいかないが街全体が寂れたような空気が流れていて、人気がかなり減っているのをひしひしと感じた。

サカハラとセイシロウを先頭にして歩き出していくと、少ししてビルの角の向こうから、縁に刺々しく針金が張られた、まるで静寂を町中に広げている張本人であるかのような不自然に高い塀が見えてきた。

まったく向こう側が見えないな。

塀づたいに進んでいくと、やがて唯一の入口と思われる塀の切れ目が見えてくる。

見張りらしき人は居ないみたいだな。

やはり、油断させて入ったところを狙うのだろう。

「それじゃ2人共、準備は良いか?」

津川 進斗(ツガワ シント)(21)

大学生。だがある日を境に出席日数は下降の一途を辿る。その理由はもちろん自警団での活動だが、YouTubeによりその姿が密かに大学で話題になっている。


ありがとうございました。

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