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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第三章

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ストーリー・オブ・ドリーム・アンド・アースクエイカー

遠くから小さなざわめきが湧き立った瞬間、その人物は素早く体の向きを変えると、小さなざわめきが湧き立った辺りにまるでその炎を投げようとするかのように大きく右手を振りかぶる。

しまった、間に合わないっ。

氷弾を撃ち出し、その人物が軽く地面に倒れ込む頃には、投げ込まれた凶炎はその小さな人だかりを、爆発するように散らばる炎で勢いよく呑み込んでいた。

こんな時に、テロか。

あんな数の負傷者、マナミ達じゃ庇いきれない。

悲鳴がこだまし、その悲鳴がざわめきを肥大させていく中、その人物はすでに立ち上がり悠々とした佇まいでこちらに体を向けていた。

氷牙を纏ったらイヤホンも凍るし、そしたらおじさんからの通信が受けられなくなる。

ここは、氷の仮面だけでやるしかないか。

氷の仮面を被り、掌の前に紋章を出す。

「タツヒロ、氷じゃ相性悪いから、僕は援護に回るよ」

「え・・・無理だよ、僕、テロリストとなんか・・・」

ああ、じゃあ仕方ないな・・・。

「じゃあこれ持っててよ。もしおじさんからの通信があったら言ってくれれば良いから」

「え・・・」

タツヒロにイヤホンを受け取らせた後、戸惑いを見せるタツヒロに背中を向け、氷牙を纏う。

「分かった」

掌の前に出した紋章をその人物に向けるが、少しだけ顔を上げただけで、その人物はただ悠然と立ち構えている。

何も、しないのか?

氷弾を撃ち出すと、白い冷気を尾に引きながら、氷の弾は真っ直ぐとその人物に向かって飛んでいく。

しかし氷の弾はその人物に当たる直前、突如その形を失い、そして一瞬にして跡形もなく消え去っていった。

ん?・・・。

その直後、その人物の口角が少しだけ上がったのがふと目に焼き付いた。

すぐにまた氷弾を撃ち出していくが、正確に照準を合わせられたテニスボールほどの氷の弾のそのすべてが、まるで砂漠に落とされた一滴の水が如く、瞬く間に掻き消えていく。

何だって?・・・。

何だあいつ、一体、何をしたんだ?

もしかしたら、最後にアリサカ達と会った時に倒した、自分の周囲にあるすべてを一瞬で捩じ伏せる力を持ったテロリストと、同じような力なのか?

「はじけろっ」

タツヒロの声で小さな銃声が鳴り、直後に数十の光る球がその人物に向かって飛んでいくが、その光る球もその人物に当たる直前、まるで空気に溶けるように呆気なく消えていった。

遠距離がダメなら、普通に殴りに行けばいいだけの話だ。

ブースターを噴き出して飛び出した瞬間、その人物は立ち尽くしているその佇まいからは想像出来ないほど素早く右手を上げ、そしてこちらに向けて真っ直ぐ人差し指を突き出した。

直後にその人物の人差し指に電気がほとばしると、小さな雷鳴が立ったその一瞬の間にその人物の指先から一筋の閃光が走り、そしてその閃光は左肩に強い衝撃を覚えさせた。

思わず地面に倒れ込んでしまったがすぐに顔を上げ、こちらに指を差しながら堂々とした立ち姿を見せるその人物を見据える。

しかしその一瞬に再び小さな雷鳴が立ち、閃光はこちらの胸元に強く突き刺さる。

なるほど、あいつは炎と電気の、2つの力を使える訳か。

ブースターを噴き出し、再び放たれていく閃光の衝撃を和らげながら氷弾を撃ち出していく。

この雷、意外と衝撃が強いな。

ブースターの出力を全開まで引き上げながら、その人物に向かって飛び掛かった瞬間、その人物は拳を振り上げるこちらよりも素早く、こちらの腹に炎を纏った膝を突き付ける。

そして若干の風圧に体の鈍さを感じたときには、すでにその人物は体を回転させながら、炎を纏う片足を振り出し始めていた。

速いっ・・・。

腹に強い衝撃を受けたと同時に、ふとその人物が被るフードが勢いよく外れたことが目に焼き付いた。

ブースターを噴き出して反動を緩和し、見るからに慣れたような身のこなしを見せながら、こちらに体を向き直すその人物の顔に目を向ける。

お、女・・・。

「その体、ウザいほど硬いんだね」

炎と雷を操るだけじゃない・・・。

「どうも」

この人、格闘技も出来るみたいだな。

「褒めてないし。でも、他の雑魚よりはマシかな」

「踊れっ」

背後からタツヒロの声が聞こえ、直後に6発の光る球がその女性に襲い掛かるが、四方八方から各々自由に飛び交うその光る球達でさえも、その女性に当たる直前になると、まるで何かに阻まれるかのようにその存在を掻き消されていく。

続けて連続的に小さな銃声が鳴り出すと、6発の光る球達は数十発の仲間を引き連れ、再びその女性を襲っていく。

「ウザいっ」

すると消えていく光る球達の中で、その女性が怒りを伺わせながら勢いよく右手を振り上げると、直後に強く吹き上がる暴風がすぐ横を通り過ぎた。

何っ・・・。

素早く後ろを振り返ると、吹き上がるような突風はすでにタツヒロを襲い、タツヒロの体を軽々と宙に投げ飛ばしていた。

「ぅあっ」

勢いよく地面に落ちたものの、ゆっくりと立ち上がり始めるタツヒロを見ながら、その女性は怒りを抑えるような小さなため息をつく。

風を、起こした・・・。

どういうことだ?

炎と雷を操る力以外にも、まだ別の力が?・・・。

「よぉ」

何となく聞き覚えのある声がした方に反射的に顔を向けると、救急車やパトカー、やじ馬が見える方から、ふと見覚えのある2人の男性が姿を現した。

「1週間くらい前から急に見なくなったが、死んだ訳じゃなかったんだな」

「・・・アリサカ」

サイレンを鳴らす救急車やパトカーと、ざわめきを湧かせるやじ馬達が醸し出す緊迫感でさえも、まるで動揺するような態度を見せないアリサカとホンマに、その女性も黙って顔を向ける。

捜す手間が省けたな。

「それにしても、よく俺達がここに居るって分かったな」

そう言ってアリサカは、殺気の無い冷静さに満ちた強気な眼差しをタツヒロに向ける。

「おい、それどういう意味だ?」

口を開いたホンマの、アリサカと同じような緊迫感に全く感化されていないその佇まいに、ふと以前の2人には無かった強い気迫を感じた。

「あいつ、前にノブを連れて俺の所に来たんだ。お前の居場所を教えて欲しいってな」

「何で・・・つうか、それより俺達がここに来ること、教えたのかよ」

「んなこと教える訳ねぇよ。ヒントをやっただけだ。そしてそのヒントを見て、俺達がここに来ることを予想したってことだろ?」

ホンマが小さく頷いた後、アリサカは闘志の伺えない、まるで何かを見定めるような眼差しでテロリストの女性に顔を向ける。

「戦いを見てたが、あんたの力の仕組みはどうなってんだ?2つ以上力を持ってるのか?」

すると表情や佇まい、そのすべてから清楚さのある威圧感を醸し出すその女性は、小さく首を横に振る。

「持ってる力は1つだけ。仕組みは仲間にしてくれたら教えてあげる」

仲間だって?・・・まさか、このテロは・・・。

「まあいいか、とりあえずあんたは合格だな。今日から俺達のメンバーだ」

ホンマの時と同じ、このテロは仲間に入れるためのテストか。

「よろしくな、ナカオ」

「ちょっとっ・・・ナカオじゃない。ナカオカ。ナカオカ、リア」

「おお、そうか悪ぃ」

ナカオカと名乗った女性が頷くと、すぐに闘志を宿らせた眼差しをこちらに向ける。

「こいつは?あんたの知り合い?」

「いや、同じ組織に居たってだけだ。じゃあナカオカ、とりあえず最初の仕事だ。これからテロ鎮圧に来る奴らを追い返してくれ」

「え?こいつは?」

ナカオカがこちらを顎で差すと、アリサカは見下すような眼差しと佇まいで、静かに威圧感をこちらに向けてくる。

「どうする?まだやるのか?」

このナカオカって人も、結局はテロ鎮圧のために・・・いや。

「アリサカとカサオカの言い分は分かったけど。この人は本当にテロ鎮圧する人間かどうか分からない」

「別に、私は正義なんかには興味ない。ただアリサカの考えに少し共感出来るだけ」

「そうか」

共感、か・・・。

それだけでも、十分と言えば十分かな。

鎧を解くとナカオカは表情を緩ませ、アリサカも全身から醸し出すその気迫から威圧感を消していった。

「そうだナカオカ、俺達の活動にはルールがある」

「ルールぅ?」

ナカオカが若干の嫌悪感を表情に浮かばせるが、アリサカはそんなナカオカに親しげな笑い声をかけた。

「安心しな、ルールは至ってシンプルだ。殺して良いのは能力者だけ。どんだけムカつこうが、やじ馬や警察を殺したって意味は無いからな」

「ふーん。別に良いよ。能力者でもない雑魚、相手にしても退屈だし」

「よし、じゃあホンマ、俺達はここでテロ鎮圧しに来る奴を相手するから」

「ちょっと待てっ」

小さく頷いたホンマが歩き出そうとしたとき、タツヒロが強い口調でホンマに声をかける。

「ああ、そういやお前、俺に用があんだって?」

「どうしてマルを、台場公園に出た巨大化する動物を殺したんだっ」

首筋を軽く摩りながらホンマが目線を落とし、2人の間に沈黙が流れると、間もなくして掴みどころのないような飄々とした表情のホンマはゆっくりと顔を上げた。

「ああ・・・台場公園のって、あのカモメか」

「マルは、絶対に人を襲うようなやつじゃない。なのに、どうして何の罪も無い動物を殺したんだ」

「俺が巨大動物を殺す上で、取り決めているルールがある。それは、殺すのは人間に危害を加えたやつだけ、だ」

「嘘だっ」

タツヒロが声を上げ、怒りを伺わせる表情を見せるが、タツヒロを見るホンマはただ小さく片眉を上げただけだった。

「マルは知能が高かったんだ。だからちゃんと人間を襲わないって約束してくれたんだ。なのに、あんたらはテロリストじゃなきゃならないから、何の罪もない動物だって無差別に襲ったんだ」

「おいおい、俺を能無しの三流テロリストと一緒にするなよ。俺はただ、そいつが人間を襲ってるのを見たから殺しただけだ」

「そんなの、嘘だ」

するとホンマはため息を漏らしながら、嫌悪感を募らせたように眉間にシワを寄せる。

「お前、あの時あの場所に居なかっただろ?言っとくけどな、俺がその巨大動物を殺すと決めるのは、2回以上暴れたっていう情報を確認した上でだ。だから俺はちゃんとそのカモメもマークしてた。お前はただ、あのカモメが暴れた姿を見てないからそんなこと言ってるんじゃないのか?」

言葉に詰まったタツヒロが涙を浮かべたような目でホンマを睨みつけるが、ホンマは依然として見下すような眼差しをタツヒロに向けている。

「お前、あのカモメは知能が高かったって言ったな。それなら尚更、人間のようにいきなりカッとなることくらいあるんじゃないのか?」

ゆっくりと目線を落としたタツヒロは表情を歪ませ、握りしめた拳を小さく震わし始める。

「でも・・・」

「まぁ、そんなに信じられないなら、ひとつ教えてやる。俺だって、ただ危険な巨大動物を殺してる訳じゃない。確かにあのカモメは、お前の言う通り人間を襲うようなやつじゃなかった」

顔を上げた涙目のタツヒロは、言葉を返さずに小さく首を傾げる。

「あのカモメが暴れ出したとき、あのカモメの周りには何も無かった。縄張り争いをするような別の動物も、ましてや、ちょっかいを出す馬鹿な奴らもだ。だが、あのカモメはいきなり暴れ出した。何故だか分かるか?」

タツヒロがゆっくりと首を横に振ると、ホンマはタツヒロから目を逸らしながら首筋に手を当てた。

「たまにだが、あのカモメのように何の前触れもなくいきなり暴れ出したっていう情報が出てくる。その度に俺はある仮説を立てる。多分そいつらは、能力者に操られてるんじゃないかってな」

「え?」

「おいホンマ、こっちの相手がお出ましだ、早いとこ様子見に行け」

口を開いたアリサカの目線の先には、やじ馬やパトカーを背後に悠然と立ちながらアリサカ達を眺める、2人の男性が居た。

「分かった」

「行くぞナカオカ」

「うん」

アリサカとナカオカがテロを鎮圧しに来たと思われる人達の方へ、ゆっくりと歩き出すと同時に、ホンマはアリサカ達とは逆の方へと歩き出す。

巨大生物が能力者に操られてる可能性か・・・。

「おい」

その時にふとホンマが立ち尽くしているタツヒロに声をかける。

本間 大雅(ホンマ ダイガ)(24)

アリサカと共に活動するテロリスト。

ケンカは強いが、実は情報を集めてから動くタイプ。手に包帯を巻くのは趣味でもあり、皮膚を守る為でもある。


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