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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第三章

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その眼差しは寂しげで

これまでのあらすじ

自分の世界に戻り、堕混の動向を気にしながらも第二覚醒や鉱石の新しい使い方を知っていく氷牙。そんな中、イングランドに堕混が現れたことを聞いた氷牙はイングランドの能力者組織に出向くことにした。

笑顔で手を振り合うテイラーとミサを傍から眺めていたジェイクがすぐに背を向け、遠くにある自動ドアに向かうのを見ながら組織に続く扉を開ける。

「はぁ良かったわ、テイラーと話せて。個人的にメル友になれそうかも」

「そうか」

満足げな笑みを見せるミサに応えながらおじさんの部屋に戻ると、キーボードを叩いていたのを止めたおじさんは椅子を回して体をこちらに向けた。

「お帰りなさい、どうでした?」

「あぁ、順調にいったよ。今後イングランドからメールが来たらすぐに呼んでくれる?」

「分かりました」

会議室に入るとそこにはアキとユウジの姿はなく、マナミが1人で静かに過ごしているだけだった。

「お帰り」

「あぁ」

リラックスした態度のマナミは笑顔をこちらに向けるとすぐに開いている本に目線を戻し、椅子に座ったミサは腕時計に目を向けると、軽く深呼吸してから再びブレスレットを編み始めた。

おじさんの部屋に椅子を戻して会議室に戻ると、ちょうどミサが腕のファーから出した糸で持ち上げたホットミルクを、自身の目の前に置いてあるティーカップに注ごうとしていた。

直後にミサと目が合うと、ミサはすぐに戸惑いを隠すような笑みを浮かべる。

「ちょっと貰っていいかしら?」

「あぁ」

ミサが放したホットミルクを持ち、ホールに出ながら何となくホットミルクを一口飲む。

堕混と戦うときになったらミサは連れていけないし、テイラー達とはどうコミュニケーションをとればいいかな。

適当に椅子に座ってモニターを眺めているとヒカルコが前に座ってきたが、ヒカルコは特に何も言わずに雑誌を広げ始める。

「そういえばイングランドの方で出たテロリストって、異世界から来たみたいだね。ミント達から聞いたよ」

しかしヒカルコは雑誌を見ながらも淡々とそんな話題を切り出した。

「あぁ、またイングランドに行くから、上手く行けば堕混を倒せるかもね」

「またってことは、行ったの?」

「まぁ、さっきね」

驚いたような表情を見せていたものの、そう応えるとヒカルコは小さく頷いて再び雑誌に目線を戻した。

「その堕混って、そんなに強いの?」

雑誌のページをめくりながら、ヒカルコは呟くように問いかける。

「そうだね、シンジが鉱石を使った上にアクセサリーを2つ着けたら何とかなるかもね」

すると顔を上げたヒカルコは再び驚くように眉をすくめながら小さく唸り出した。

そんな時にどこからともなく音楽が聞こえてきたので周りを見渡してみると、遠くのテーブルで話している人達が、何やらプレーヤーを使って音楽を流しているのが見えた。

日本語で歌ってはいるみたいだけど、遠くて歌詞までは聞き取れないな。

ん、聞き覚えは無い声だけど、メロディーはどこかで聞いたことあるような。

「リンリンだ」

するとその音楽が聞こえる方に目を向けたヒカルコはすぐにその言葉を口にする。

リンリン?

それが名前なのかな。

「中国人なの?」

「え?違うよ」

ヒカルコはどことなく嬉しそうな微笑みを見せながらそう言うと、まるで困惑するように小さく眉を竦めた。

「知らないの?」

「あぁ」

小さく首を傾げたヒカルコは微笑みを浮かべながら、雑誌のページを素早くめくり始める。

ふとモニターを眺めたときに、ヒカルコがこちらの向きに合わせるように回しながらその雑誌を見せてきた。

「この人だよ。ナナミリンコ。リンリンはあだ名なの」

これまでにないほどの弾んだ笑みを見せるヒカルコを見てから、指を差されている人物に目を向ける。

那波凛子。

大学生シンガーで今1番注目のアーティスト、か。

服装もシンプルで、清純そうな雰囲気の人だな。

「そうか、ヒカルコはファンなの?」

「うん、まあね」

ヒカルコは照れと嬉しさを混ぜたような微笑みでそう応えると、ゆっくりと雑誌を自分の手前に戻した。

「氷牙は音楽とか聴かないの?」

再び雑誌を見ながら、ヒカルコは呟くようにそう問いかけた。

「どうかな」

「ふーん」

一瞬こちらを見たが、素っ気なさのある返事をしながらヒカルコはすぐに目線を雑誌に戻していった。

「あらヒカルコ」

声がした方に顔を向けたヒカルコは頷きながら微笑みを返す。

「ミサ、順調にいってる?」

「えぇ、じゃああたしもう帰るわね」

「うん」

ミサが笑顔で応えると、ヒカルコは安心した様子で雑誌に目線を戻したが、ふとこちらに顔を向けたミサは落ち着いた表情の中に、若干見下すような眼差しを見せてきた。

「氷牙はどうするの?」

「もう少しイングランドからの連絡を待ってみるよ」

「あらそう」

どことなく呆れたような口調でそう言うとミサはすぐに目線をずらし、そそくさと廊下への扉に歩き出していった。

ホットミルクを注ぎ直そうと壁際に設置されたテーブルに向かい、ホットミルクのスイッチを押そうとしたとき、唐突に背後から聞き覚えのある声で呼びかけられた。

「あぁタツヒロか。どうかしたの?」

「まあね。ちょっと氷牙に頼みたいことがあって」

ホットミルクを持ち、見るからに悩み事があるように見える表情のタツヒロと共に、近くのテーブルに向かう。

「氷牙、アリサカ達と戦ったことあるんでしょ?」

アリサカソウマか。

そういえば今頃どうしてるんだろう。

「まあね」

アリサカ絡みの悩みでもあるのかな?

「まぁアリサカソウマは良いんだ。ネットでも良い話はたまに聞くし」

「そうか」

やっぱり今も結局はテロ鎮圧に勤しんでるのか。

「問題はさ、ホンマって奴なんだ」

ホンマ・・・?

確か最後にアリサカ達と会ったときにそんな奴が居たような。

「もしかして、自在に地面を隆起させてた奴?」

「そうそう、そいつ」

やっぱりそうか。

「そのホンマがどうかしたの?」

その時にふとタツヒロの眼差しに寂しさのようなものと若干の怒りが伺えた。

「そいつ、巨大化する動物を殺し回ってるんだ」

殺し回る?

話だけ聞けば結構残酷だけど。

「でも、アリサカ達は自称テロ組織だし」

「あ、いや、ここは正確に言った方が良いな。ホンマって奴はさ、アリサカのグループの中じゃ、人間に危害を加える動物を殺すのが担当らしいんだ」

「なるほど」

凶暴な巨大生物なら、テロの部類に入ると考えられてもおかしくないか。

「それで、ホンマが殺した動物の中に、僕の友達がいてさ」

「友達?」

「でも、マルは人間を襲うような性格じゃないんだ。それに、ホンマは大した被害も出してない動物も襲ってる。だから僕、ホンマを止めたいんだ」

でも元々は悪名高い組織を作るって言って出ていったんだしな。

「でもアリサカに話せば、アリサカが止めるんじゃないの?」

しかしタツヒロは落胆するような顔色を見せながら小さく首を横に振る。

「この前、ノブさんについて来て貰ってアリサカのところに行ったんだ」

「そうなのか」

行けたのか。

「でもアリサカは、別にリーダーとかは居ないから、止めたいなら直接ホンマの所に行けって」

まぁ、アリサカだってホンマを止めたいなんて思ってないんだろう。

それならやっぱり、直接本人に会うしかないか。

「それで会ったの?ホンマに」

「ううん、アリサカに会ったのがつい一昨日のことだから、まだホンマとは話してないよ」

「そうか」

「ノブさんは他のテロ組織のことでも忙しいみたいだからさ、次は氷牙がついて来てくれない?」

あ、テイラーの連絡があるまでは迂闊に外には出れないよな。

「別に良いよ」

まぁおじさんに頼めば何とかなるだろう。

「そっか、じゃあとりあえず、巨大化する動物が出る場所に行こう」

そう言って安心したような表情を見せながら、タツヒロがマグカップを口に運ぶ。

巨大生物が出る場所?

「え、分かるの?」

「ん?ああ、ノブさんがさ、アリサカにホンマの居場所を聞いて、まぁそれは教えてくれなかったんだけど、代わりに巨大化する動物が出る場所が書き込まれてるスレを教えてくれたから」

「なるほど」

フェアプレー精神ってやつだな。

タツヒロが去ってしばらくすると、ノブがテーブルに近寄ってきたが、何気なくノブの手元に目線を向けてしまった。

お酒は持ってないみたいだな。

「よぉ、暇なら闘技場行かねぇか?」

いい暇つぶしにはなりそうだな。

「あぁそうだね」

おじさんなら闘技場に居ても見つけてくれるだろう。

闘技場に向かうと、扉の前にはノブに軽く手を挙げて合図を出すヒロヤが立っていた。

「ヒロヤは援軍要請には応えるの?」

「まあな、一応名前は入れて置いた」

「そうか」

何となく期待感を寄せているようなヒロヤの横顔を見ながら闘技場に入る。

「なあ、とりあえず、最初っから第二覚醒出してみないか?」

中央に着くと、喋り出しながらノブは何やら気まずそうに遠くに目を向けていく。

「あんまり安売りは出来ないよ」

「何だよ・・・じゃあ、しょうがねぇか」

ノブは頭を掻きながら落ち込んだような表情を見せると、ゆっくりと距離を取り始める。

1時間くらい経ったような感覚がした辺りで2人がバテて来たので、ノブの合図で戦いを終わらせるとホールに向かった。

「やっぱダメだなぁ、アクセサリー待つしかねぇなぁ、こりゃ」

薄暗い通路を歩いている途中、天を仰ぎながらノブは疲れ果てたような表情でそう呟き始める。

「同じ第二覚醒でも、シンジとは攻撃と防御のバランスが逆だな」

同じように疲労感が伺える声でも、ノブに応えるように喋り出したヒロヤは先程の戦いを冷静に分析し始めた。

似たもの同士でも、どちらかというとヒロヤは頭を使うタイプなのかな。

おじさんからの呼び出しも無いし、部屋に戻ろうかな。

「それじゃあ僕は部屋に戻るよ」

「あぁ」

ホールに出てすぐに口を開くと、ノブは小さく返事をしてヒロヤと共に近くのテーブルに向かった。

ふと思い出したホットミルクの下に向かうが、ヒカルコの姿は見当たらない。

コップを空にして、飲み物が出る機械の横にある、底が浅いシンクのような場所にコップを置いてからホールを出る。

朝になればあっちは夜だろうし、堕混も動かないだろう。

カードキーをドアノブにある差し込み口に入れ、信号が緑に光ったのを見てからカードキーを抜いて扉を開ける。

部屋に入った瞬間、廊下よりも部屋の温度の方が少し高く感じたが、気にせずに扉を閉めて少し照明を明るくする。

熱気も少しだけ伝わってくるが、ガスが漏れてるような臭いは感じない。

キッチンを見ながらキッチンを通り過ぎたとき、天井から小さな重低音が聞こえてきた。

何だ暖房か。

あれ、でも何で暖房なんて・・・。

ベッドに目を向けてみると、窓際にあるベッドには誰かが布団に入っているかのような大きな膨らみがあった。

まさか・・・。

ベッドに歩み寄り、枕元を覗いてみると、そこにはやはり静かに寝息を立てているミサの姿があった。

後ろを振り返ったりするが、ミサの部屋に続く扉はストッパーが嵌められて開けっ放しになっている。

どうやら部屋を間違えた訳じゃないみたいだ。

まぁいいか、ベッドならもう1つあるし。

照明を落としてソファーに座り夜景を眺めると、映画館のスクリーンよりも大きな窓ガラスには、漆黒の宇宙との同化を拒むかのように漂う雲と、そんな雲達を堂々と見下ろす月が見えた。

しばらく眺めていても居心地が変わらないのは、やっぱり暖房のおかげなんだろう。

ベッドの上に横たわり目を閉じると、布団を掛けなくても何となく寝心地が良さそうな気もする。

ふと意識がとても軽くなり、頭の中に居るような感覚から体の重さを思い出していくような感覚に変わっていくのを感じると、真っ先に理解出来たのは、サイドテーブルから鳴り出す小さなアラームの音だった。

目を開けてすぐに体を起こし、アラームを止める。

直後に少し高い唸り声が聞こえると、窓際にあるベッドの膨らみがゆっくりとうごめき始めた。

何となく首を回して骨を鳴らした後にベッドから下り、照明を明るくすると、名前を呼ばれたのでベッドの方に振り返る。

朝日に照らされながらミサは前髪に指をかけ、髪を撫で下ろしながら微笑みを見せる。

「おはよ」

「あぁ」

歯磨きしていると、鏡越しにミサがトイレに入っていくのが見えた。

タツヒロは幾つもネックレスを持ってるそうですが、そのどれもがクラスの女子にウケるそうです。笑

ありがとうございました。

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