ビギニング3
「分かった」
足早に舞台を降り、飲み物が出る機械のある場所に向かうと、並べられたコップの前にはミサがいた。
「あら?ホットミルクかしら?」
こちらを見るなりミサは素早くコップを取り、ホットミルクをコップに注ぐ。
「あ、ありがとう」
「いいのよ」
ミサは笑顔で応えるとすぐに歩き出したので、共に椅子に座り、コップを口に運んだ。
そういえば、他の組織ってどういう感じなんだろう・・・。
ここみたいに大会なんて開いてないだろうし。
何となくミサの前に置かれているティーカップに目が留まったが、すぐにティーカップが持ち上げられて視界から消えると、ふと我に返ったような気分になった。
「・・・ミサはいつも何飲んでいるの?」
「今日はローズヒップかしら」
一口飲んでからティーカップを置いたミサは微笑みながらそう応える。
「そうか」
まぁ、気にしたところで何がある訳じゃないか。
でももしおじさんに頼んだら、他の組織に行けるのかな?
「それより、舞台ではどんな話してたの?」
「それは明日分かるよ」
「あらそう」
ミサが眉をすくめてティーカップを口に運ぶのを何となく見ていると、ふとその向こうからユウコが少し慌てた様子で駆け寄って来るのが目に入った。
「何か、アメリカの方でテロがあったみたいよ?」
「アメリカ?」
ゆっくりとユウコに顔を向けたミサは小さく眉間にシワを寄せたものの、落ち着いた表情は崩すことなく冷静にそう聞き返す。
「テロって、どんな?」
「なんかね、マンガみたいなことが起きてるみたいよ」
やはり外国じゃ、展開が早いみたいだな。
「あらそれって・・・」
ミサがこちらに顔を向けると、その眼差しにまるで続きの言葉を話すことを委ねられたような空気を感じた。
「アメリカにも組織があるってことかな」
「そうなるわね」
ミサは少し真剣な表情でそう言ってティーカップを口に運んだ。
テーブルの数を数えればこの組織には100人の能力者が居ることになる。
しかもその組織が複数もあるなら日本には能力者がかなり居ることになる。
そしてもし、世界中の国も日本と同じような状況になっているとしたら。
「なんか怖いね」
ミサの隣に座りながらミサに悲しそうな表情を向けるユウコからは、その反面少しの落ち着きを取り戻したような印象を受けた。
「そうね」
わざわざ家に帰ってテレビを見てきたのかな。
「ユウコはどこで聞いたの?」
「テレビだよ。ホテルの部屋の」
「なるほど、それじゃ日本でも遠くない内にテロとか起きるかもね」
「そんな・・・」
小さく呟きながら、ユウコの表情が徐々に青ざめていったように見えた。
「大丈夫だよ。ユウコは戦えるんだから」
「そうだけど・・・」
あら?この光景どこかで見たような。
「・・・氷牙」
「ん?」
「貴方って、八方美人なのかしら?」
「自分では意識したことないけど・・・」
小さく首を傾げただけで、氷牙は顔色を全く変えずにそう応える。
でもわざわざ意識する人には見えないわね。
「あらそう・・・」
「そういえばミサちゃんって、美人だよね」
さっきまでの表情が嘘かのように、ユウコは純粋な笑顔をこちらに向けながらそんな話題に変えてきた。
「ユ、ユウコいきなり何よ」
「氷牙もそう思うでしょ?」
とっさに氷牙の顔を見ると、氷牙も依然としてまったく色のない表情でこちらに顔を向ける。
「そうだね」
・・・ホッ。
「そ、そんなことないわよ」
何なの?この胸の高鳴りは。
「そういえばトーナメントは8人出ることになったよ」
「あらそう」
何故かミサの頬が少し赤くなっている。
「そうなると、ユウジって人が優勝候補だね」
するとユウコは急に落ち着いた表情になってそんな話を切り出した。
「そうか」
「うん。結構話題になってるよ」
ユウジは電気を操るバリエーションが豊富だしな。
まさかおじさんは、戦いのセンスがある人材を捜してたりするんだろうか。
「そうか」
「確かに人気があるのって大事よね」
するとミサも冷静な表情に戻り、ユウコの話に入り始める。
「ミサだってモニターを釘付けにしていたよ」
「あたしが?」
「なんか、ミサちゃんが戦っている番号のモニターの下に、やけに人がいたような」
人気があるのはミサも同じみたいだな。
それにミサだって戦い慣れしてはいるみたいだし。
「き、気のせいよ・・・あら?もうこんな時間。また明日ね」
「あぁ」
「うん、おやすみ」
ミサが足早に去って行って少し経つと、ユウコが少しそわそわと周りを見渡し始める。
「私も帰ろうかな」
「あぁ」
周りを見渡すとホールにはわずかしか人がいないみたいだ。
きっと遅い時間なのだろう。
おじさん、時計くらい置けば良いのに。
部屋に戻ろうとして席を立って歩き出したとき、名前を呼ばれたので声がした方に目をやると、そこにはノブが居た。
「お前歳いくつだ?」
「・・・はたち」
「よしじゃあ来い」
半ば強引に連れられたテーブルには、おつまみやお酒がたくさん置いてあり、他のテーブルでも何人かでお酒を飲んでいるのが見えた。
「昨日も飲んでたの?」
「いや、昨日はさすがにな」
「そうか」
確かに1日だけじゃ皆警戒してるか。
あれ、2日目だってたいして変わりないと思うけどな。
「まぁ座れよ」
「あぁ」
どうなることかと思ったけど、なかなか紳士的な飲み会みたいだ。
話をしながらそのまま2時間くらい経ったような感覚がした頃。
「ところで、世の中はこれから変わるみたいだな」
ノブが一点を見るような真剣な眼差しになると、おもむろにそんな話を切り出した。
「平たく言えば、戦争ってこと?」
するとノブは軽く眉間にシワを寄せてゆっくりと小さく頷いた。
「突き詰めればそうだが、そんなシンプルな物じゃねぇってことだ」
おじさんはただ世界を変えたかっただけなのか?
「大変だね」
「何だ?ずいぶんと冷静だな」
お酒を飲もうとしたノブは不意に手を止め、コップをテーブルに置いた。
「まぁ、戦争になっても、抵抗出来るだけの力はあるつもりだよ」
「そうだな。そういえば、外国じゃもう始まってるって噂だ」
「ふーん。ああアメリカのテロのこと?」
「テロ?まじかよ・・・おっと、つまみがもう無いな」
驚いたってことはノブは違うことを言っていたのかな。
それほど世界中で何かが起こってるということなのか。
空にしたコップをテーブルに置くと、ノブはおもむろにテーブルの中央にあるベルに手を伸ばし、それを鳴らす。
すると直後にホールの後方にある扉からウェイトレスが出て来て、そのウェイトレスはそのままこちらの方まで歩み寄ってきた。
「お呼びですか?」
「ああ、いかさきとドライソーセージ貰える?」
「かしこまりました」
そして数分後にウェイトレスによりおつまみがテーブルに届けられた。
「え、呼べるの?」
「知らなかったのか?」
そう言いながらノブはお酒を注いでおつまみに手を伸ばす。
「知らなかった」
「オーダー式の夕食も出来るらしいぜ」
「なるほど」
おじさんは言い忘れたのかな。
「それよりお前、あの、光を操る奴いただろ?」
「あ、あぁ」
光を操る・・・。
「名前・・・ほら、何て言ったっけ?」
ノブはいかさきを噛みながら何故か目を泳がせ、おどおどした素振りを見せ始めた。
「ヒカルコ?」
「おうおう、それそれ」
「うん」
「・・・お前、どう思う?よく話してんだろ?」
お酒のせいなのか、ノブの顔が少し赤く見える。
「そうだね、わりと」
「いやぁ、ミサも良いけど、オレはヒカルコも良いかな、あれだな、隠れたバックボーンだよな?」
「え?ダークホースじゃなくて?」
「え?あぁそうか?」
ミサの評判はユウコから聞いていたが、ヒカルコも結構評判良いみたいだな。
「なんかお前があの2人と話してるとこ、オレの周りの奴らジロジロ見てんだよな」
「そうなのか」
「あの2ショットは羨ましいよな」
照れ隠しでなのか、ノブは目線を落としながら呟くように話している。
「そうか、そういえばノブはユウジのことはどう思う?」
するとノブは不意をつかれたような顔でこちらに目線を戻す。
「ユウジって・・・あの全戦全勝の?」
「あぁ、リーダーとしてはどうかな?」
「ああ・・・まぁ良いんじゃないか?」
まるで興味を示さないかのような少し投げやりな口調でそう応えると、ノブはお酒に手を伸ばした。
「そうか」
「あぁ・・・つまみも無くなったし、ここらへんでお開きにするか」
「あぁ」
部屋に戻り、時計を見ると3時を回っていたのですぐ眠ったが、5時頃に目が覚めたので小さい窓を少し開けて風に吹かれた。
この景色は、確かにホテルの最上階ぐらいと言われても納得出来る高さだが、場所は本当なのだろうか。
確かここは、プリンスホテルの姉妹ホテルとして、新しく建てられたものだったはず。
六本木ヒルズやスカイツリーは見えるかな?
朝食の時間になりホールに入ると、昨日に比べて何となく人気が少ないような気がした。
あまり気にせず食器をとっているとき後ろから声をかけられると、そこにはミサが居た。
「氷牙、おはよう」
「あぁおはよう、ミサ」
料理をテーブルに運び、共に椅子に座る。
「ミサはホテルには住んでないんだっけ?」
「そうね、でも2つの部屋はシールキーで繋いであるから、行き来は自由よ」
ミサは笑顔で応えながらフォークとナイフを手を持ち、ステーキを一口大に切り取り始める。
「そうか、そういえばここって本当に赤坂かな?」
「景色を見る限りはそうみたいね。昨日、確かにずっと前に出来たスカイツリーがちゃんと見えたし、反対の方面にヒルズだってあったわ?」
「そうか、じゃあそうなのかな」
徐々に人が入ってきたホールを見ながらスクランブルエッグをスプーンで掬って口に運び、朝を感じるような雰囲気が満たされていくのを眺めながらマグカップを口に運ぶ。
「それより氷牙、お酒飲んだの?」
微笑んだ表情のまま、ふとミサが顔を覗き込むようにそう聞いてきた。
「え?臭う?」
「そうね、ちょっぴり」
少しミサから顔を遠ざけると、笑顔でそう応えながらミサが大丈夫と目で語った気がした。
「昨日、部屋に戻ろうとしたら、ノブに誘われたんだ」
「あらそう。確か最初のテーブルで一緒だった人よね?」
「あぁ」
「どんな話をしたの?」
料理に目を向けているミサは、サラダをフォークでつつきながら何気なく問いかけてきた。
「聞きたい?」
「え?そ、そうね。もしかして下品な話?」
そういえば最後は若干そんな話になったような。
でも下品ってほどでもないよな。
「いや、違うよ。普通の世間話だよ」
「あらそうなの」
「思っていたより紳士的だったよ」
「良かったわ」
するとミサはどこか安心したような顔をしてサラダを口に運んだ。
「ミサちゃんおはよう」
間もなくしてユウコとヒカルコが料理を持ってミサの隣に並んで座る。
「あら、おはよう。2人共一緒に来たのね」
「うん」
「ミサ達だって一緒に来てたりして」
「違うのよヒカルコ。料理を取るときにたまたま見かけたのよ」
ヒカルコはからかうようにニヤついた表情でミサを見ながら食パンを手に取った。
「氷牙もおはよう」
「あぁ、あ、ユウコ、今日はなんかニュースはある?」
「ん?今日はそれらしいのは無いかな」
素っ気ない態度のユウコはすぐにそう応えると箸を持ち、味噌汁の入ったお椀を口に運んだ。
「そうか」
何か、2人が並ぶとそれなりに話題性があるのは、納得出来るかもな。
「おい氷牙。これ以上無用に敵を作ると面倒だぜ?」
急に明るい口調で話し掛けてきたノブが隣に座って来ると、リラックスしたような表情で話していた3人の顔が、心なしか曇り出したように見えた。
「ん?そうか」
「氷牙、あんまり鵜呑みにしてはダメよ」
ミサは警戒するように顔を近づけてそう囁く。
「でも、ミサのルックスが話題になってるみたいなのは本当だよ」
「・・・そ、そうなの?」
「まぁオレはヒカルコもいい勝負だと思うけどな」
「それは、どうも」
目も合わさずにヒカルコは軽くあしらうように応えると、すぐにトーストにかぶりついた。
「あ、それよりあんた・・・シンジと仲いいよな?」
そんなヒカルコの態度を見たノブはどこか戸惑いを隠すように指を差しながらユウコに話しかけた。
わりと溜め込んでるんで、しばらくは短い間隔で更新出来ますかね。
ありがとうございました。