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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第三章

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天使の陰り

「あたし?」

何食わぬ顔でそう言ったユウジに、ミサは落ち着いた表情のまま小さく声を上げる。

「ほら、糸を編んで作った方が、つけ心地良さそうだし、俺、若干鉄アレルギーだし」

「あらそうなの?だから腕時計つけてないのね」

するとミサは少しはしゃぐような声色に変わるが、ユウジはまるでそんなミサの態度に慣れたように、落ち着き払った表情を崩さないでいた。

「うんまあ、それもあるかな。石を包むようにする編み方でやれば、問題無いと思うんだ。ミサさんどうかな?」

「良いわよ。やってみるわ」

ミサが笑顔でそう応えると、ユウジも安心したように小さく頷いた。

何か後ろが少し騒がしい気がするな。

「あら?今帰ってきたみたいね、発掘隊」

ミサがホールの後方に振り向くと落ち着いた口調で口を開いたので、ふと後ろを見ると、後方の壁の中央にある扉からは、まるで何かから逃げてくるようになだれ込んできていた発掘隊の人達が居た。

怪我人でも居るのかな。

「ミサさん鉱石運んでくれる?俺、一応マナミを呼んでくるよ」

するとユウジが素早く立ち上がりながらミサに指示を出す。

「分かったわ」

ユウジが舞台に向かうと同時にミサも素早く立ち上がり、発掘隊の下へと歩き出していく。

ユウジっていざという時は、リーダーとしてちゃんと動くみたいだ。

ホットミルクを注いで椅子に戻り、ふとモニターを見渡すと、1つの闘技場が少し注目を浴びていることに気がついた。

ホットミルクを飲んでいると、膨らんだ座布団のような形の鉱石に糸を絡めて運んでいるミサがテーブルのすぐ側を通って行き、同時にマナミを連れたユウジがミサとすれ違う。

注目を浴びているモニターにはシンジが映っていて、シンジと共に修業に励む人達とは動きの俊敏さが長けているシンジに、ふと目を捕われる。

鉱石は使ったのかな。

「氷牙」

声がした方に振り向くと同時に歩み寄ってきていたミントに気がつくと、ミントは静かに隣の椅子に座った。

「あぁ、ミントはこの世界には慣れそう?」

「うん、食べ物も美味しいし、みんなも優しいよ」

ミントは笑顔を見せるものの、その笑顔には若干の疲れが伺えた。

「そうか、天使の目には、ここの人間はやっぱり心が痛むかもね」

するとミントは驚くように目を見開く。

その顔からすると図星みたいだな。

「会議室のね、テレビを見ると、ちょっとね」

思い返すように目線を落としながら、ミントは悲しみを抑えるかのように微笑みを見せる。

「帰りたくなったら帰って良いんだよ?僕が勝手に連れてきたようなものだから」

するとミントは笑顔を見せながらも、まるでその話を嫌悪するかのようにゆっくりと首を横に振り出す。

「ううん。悪い話ばかりじゃないし」

「そうか」

「そういえば、さっきミサが持って行った物って何?」

「あれは、僕達が持ってる力を強くしたり、もともと力を持ってない人が、力を得られるようになるための物、かな」

「へぇー」

ミントが大きく頷いていると、ミサがミントの隣に座った。

「ミントも鉱石使ってみる?」

「ちょっと氷牙、何言ってるのよ」

ミサは落ち着いた様子ではいるものの、注意するような口調でそう言ってこちらに鋭い眼差しを向けてくる。

「鉱石って、さっきミサが持って行った物?」

「あぁ」

「どうやって使うの?」

どうやら食いついてきたみたいだ。

「ミント、戦える力があるなら、鉱石なんて使わなくても良いのよ?」

ミサはなだめるようにミントにそう言って微笑みかける。

「そうだけど、ちょっと気になるかも。堕混を倒すためには強くならないとダメだし」

しかしそんなミサの表情に、ミントはむしろ意思を固めていくようにその眼差しに真っ直ぐさを見せていく。

「いいのよ、そんなに思い詰めなくても」

「・・・でもこの世界に住むからには、役に立ちたいの」

天使だから、責任感とやらが強いのかな。

「ミント、歳聞いていいかしら?」

ミサの唐突な問いに、ミントは少し戸惑うような顔色を見せる。

「えっと、21かな」

ミントは小さく首を傾げて応えると、頷きながらミサはどこか納得したような微笑みを浮かべた。

「ふーん、この時代にしては、ちゃんとした若者って訳ね」

「どういうこと?」

「偉いってことよ」

ミサが笑顔で応えると、ミントは照れるような笑みを浮かべて小さくうつむいた。

「ミサさん」

ユウジがミサの後ろから話しかけると、ミサは不意に後ろを振り返る。

「そろそろ会議始めていいかな?」

「分かったわ」

2人が去っていくとミントが席を立ち、ふと窓に映る青空が目に入ると、ホールに流れ始めた乾いた空気が、何となくその青空をいつもより遠く感じさせた。

しばらくしてミントが飲み物を持ち席に戻ると、ふと何かを言いたそうな顔を向けてくるミントと目が合った。

「そういえば、ここから出るにはどうすればいいの?」

「おじさんに言えば、シールキーを貰えると思うけど、どこか行きたい所でもあるの?」

マグカップから口を放しながら、ミントは笑顔で小さく首を横に振る。

「ううん、ちょっと外ってどんな所か気になっただけだよ」

そりゃあずっとここじゃ、息が詰まるよな。

「それなら援軍要請とか受けてみたらどうかな?外にも行けるし、仲間も一緒だから、色々教えて貰えるよ」

話を聞きながらミントは徐々に笑みを深めていき、最後には満面の笑みになりながら大きく頷いた。

「ミントちゃん」

そんな時にカナコと知らない女性が1人、ミントの下へと歩み寄ってくる。

「あっカナコ」

するとカナコに気がついたミントはすぐに2人に笑顔を見せた。

カナコとミントが話している時にふと知らない女性と目が合うが、人見知りしているのか、カナコと同世代の歳に見えるその女性はすぐに目を逸らす。

大学生同士、同じ世代で集まるのが自然なのかな。

ミントがカナコに後について去っていき、日が落ちていく頃になると、ミサが何かを持ちながらおもむろに隣の椅子に腰掛けた。

「これ、作ってみたのよ。どうかしら?」

そう言いながらミサは小さめの幅広い輪の形をした白い編み物を渡してきた。

持ってみると、軽くてよく伸びるが、ゴムのように反発力がある。

「ミサが編んだの?」

「えぇ、今のあたしにとっては簡単なものよ」

そう言ってミサは得意げに笑みを浮かべる。

「着けてみて?」

「あぁ」

手をくぐらせるとぴったりと手首に収まり、若干暖かさを感じた。

見た目は毛糸なのに、肌触りは絹みたいだ。

鉱石と思われる膨らみを上に回してみると、膨らみの見た目ほど重さを感じないことに気がついた。

「違和感とかある?」

するとミサは先程までの笑みとは裏腹に、不安感を募らせているような表情を見せてくる。

「いや、問題無いよ」

「良かったわ」

安心したように表情を緩めながら小さく頷くミサに毛糸のブレスレットを返すと、今度はまた違う形の編み物を渡してきた。

さっきよりも大きめの輪だが、鉱石と思われる膨らみは真ん中ではなく外側にあった。

恐らくネックレスとして着けるものだろう。

細く編まれた方を上にして頭を通してみると、ぴったりと首元を巻かれる感覚と共に胸元辺りに若干の暖かさを感じ、そして鎖骨のちょうど中間の位置に鉱石と思われる微かな重みを感じた。

「どう?苦しくない?」

「あぁ、大丈夫だよ」

素材も軽いせいか、つけているのを忘れられるくらいつけ心地が軽い。

だけどこの位置じゃ自分からは見えないな。

「どうかな?」

「似合ってるわ」

微笑んではいるが、ミサの眼差しにはどことなく真剣さが纏っていた。

ネックレスを外してミサに渡すと、受け取ったミサはその毛糸のネックレスを優しくたたんでポーチにしまい始める。

「じゃあちょっと待っててね」

するとすぐに立ち上がったミサはそう言って足早に舞台に向かうと、間もなくしてヒカルコが前方の椅子に静かに座った。

「氷牙、アクセサリーは出来たの?」

いつもは落ち着いているのに、そんなに待ちきれないのかな。

「出来たみたいよ?今さっきミサが試作品を持ってきたんだ」

「ふーん」

小さく頷くヒカルコは平静を装っているように見えるものの、その表情は明らかに嬉しそうだった。

「何かね、2つ持てば1回の覚醒に近いくらいに強くなるみたいよ」

「そうか」

力を2つ持ってたら、2つの力が同時に覚醒するようなものかな。

そうだとしたら、人によっては重宝するものになるな。

「ヒカルコも戦いに興味が湧いてきたの?」

するとヒカルコは照れるように表情を緩ませながらも、得意げな微笑みを浮かべた。

「まぁ・・・個性が出れば出るほど、作戦次第でより能力自体の隙が無くせるからね。ちょっと自信出て来たんだ」

「そうか、さすがヒカルコだね」

「・・・まあね」

しばらく話していると料理が運ばれてきて、料理を皿に取ってヒカルコと共にテーブルに戻った頃、ミサが急いだ様子で料理を隣の席に運んできた。

「ふぅ、話、長引いちゃったわ・・・あら、ヒカルコ」

ミサは落ち着きを装うような笑みをヒカルコに向けながら椅子に座り、フォークとナイフを手に取っていく。

「アクセサリー、いつ貰えるようになるかな?」

そんなミサを見たヒカルコは少し遠慮がちに喋り出す。

「んー全員分はちょっと分からないわね。でも明日の朝には1人1つくらいは持てるかもね」

しかしすでに完全に落ち着いた態度を見せるミサに、ヒカルコは安心したような表情で頷いた。

間もなくすると料理を持ったシンジが隣に座ってくる。

「氷牙、後で闘技場行こうぜ」

そしてそう告げたシンジは黙って早々と食事を始める。

隣に座ってきたら必ず誘って来るみたいだな。

「そうか」

いちいち鉱石の事を聞くのも良くないかもな。

「皆さん、どうも」

しばらくしてユウジの挨拶が始まると、会場の目はすぐにユウジに集まると共に、話し声などは徐々に小さくなっていった。

「朝の実験では大きな問題は無かったので、本格的にアクセサリーの製作に取り掛かろうと思います。素材は鉄ではなく、ミサさんのお手製なので大事に扱って下さい」

「ミサが作るの?」

ヒカルコが驚くような表情をミサに向け、ミサが照れるように微笑みを返すと、その一瞬にヒカルコの表情にほんの小さな自責の念が伺えた。

「と言っても、クオリティーはすごい高いので安心して下さい。明日の朝から、会議室にて渡しますので、欲しい人は会議室までお願いします。それから、神奈川の組織同様に警察からの応援要請に応えてくれるという人は、グループとして括りたいので、この後に会議室までお願いします。以上です」

「ふぅ・・・それじゃあ、頑張って来ようかしら」

ユウジが会議室に歩き出すと、すぐにミサはそう言ってこちらに目を向けながらゆっくりと立ち上がる。

「徹夜しないでいいからね」

「えぇ」

そう言って優しく微笑んだヒカルコに、ミサは笑顔で応えながら会議室に向かっていった。

「・・・そろそろ、行こうか」

そう呟いたシンジは素早く水を飲み干し、コップをテーブルに置きながら、落ち着た眼差しをこちらに向けた。

「そうか」

「あんたもやるか?」

シンジがヒカルコを誘うなんて、珍しいな。

「ううん、私はまだいい」

「ああそうか、アクセサリー待ちって訳か」

「まあね」

2人の会話の合間に、一瞬だけ間がある。

何となく2人って、妙な距離感だな。

「他に誰か誘うの?」

「んーショウタでも誘うかぁ」

シンジは怠そうに応えながらセイシロウの居るテーブルに向かう。

「あれ、ショウタは?」

テーブルの前に着くと、シンジが周りを見渡しながらセイシロウにそう問いかける。

「あぁ、ノブさんと会議室に行ったよ」

なるほど、ショウタも意外とそういうタイプなのかな。

「シンジは自警団には入らないの?」

「あー・・・」

するとシンジは迷うような表情で頭を掻き始める。

学校もあるし、忙しいと言えば忙しいのかな。

「・・・一応行って置くかな」

「そうか、じゃあそれまで待ってるよ」

「あぁ悪いな」

シンジはまだ若干悩んだままの表情で足早に舞台に向かったので、のんびりと歩きながら周りを見渡す。

ちなみに会議室にテレビを置いてから、マナミは更に引きこもるようになったそうです。笑

ありがとうございました。

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