ホワイトスレード・アンド・ディテクティブ
「テロを止められるよう、お力を貸して頂けませんか?」
北村が再び緊迫感を訴える表情でミサに頼み込むが、ミサはまるで躊躇するように目線を落とす。
「北村刑事、僕が行きますよ」
「あ、ありがとうございます」
北村がそう言って頭を下げると同時に、ミサは再び怒ったような顔でこちらに振り返りながら腕を強く引っ張ってきた。
「ミサは離れて待っててよ」
ミサの手を優しく引き離すとミサは不安げな表情を浮かべ、期待を寄せるようなものに顔色を変えた北村に目を向けていく。
「・・・無理しちゃダメよ?」
「あぁ」
「じゃあ、ついて来て下さい」
「はい」
足早に歩き出す北村の後を追い、少しずつ、しかし確実に疑惑に満たされていく人混みを抜けていく。
聞こえてくるパトカーのサイレンが徐々に大きくなってくると共に、逃げるようにこちらの方に歩いてくる人達が感じさせる緊迫感は、ミサのこちらの腕を掴む力を徐々に強くしていった。
「北村刑事、人数とか分かりますか?」
「1人だと聞いてます」
北村がすぐに応えたとき、遠くの前方に5、6階建てのビルと並ぶほどの巨人が見えてきた。
「何あれ・・・」
全身を滑らかな質感の皮で覆った巨人の全貌が見えると立ち止まり、同時にミサが怖じけづいたような口調で小さく呟く。
「ミサ、ここで待ってて。北村刑事も」
あれじゃ警察が駆けつけたからって何にもならないな。
「はい、お気をつけて」
敬礼する北村の隣に立つミサは不安げな表情を浮かべていたが、こちらと目が合うとすぐにミサは不安感を抑えるかのような微笑みを見せた。
2人から少し離れた後に絶氷牙を纏い、パトカーをたやすく踏み潰している巨人の下へと飛んで行く。
氷牙なら大丈夫でしょうけど、問題なのは街と一般人への被害よね。
死人なんか出たらマスコミも集まるし・・・。
ふと北村と呼ばれた刑事を見ると、北村は呆気に取られたような顔で飛び去った氷牙を見つめていた。
「北村さんと言ったかしら?」
よく見れば結構若いのね、新人さんかしら?
「あ、はい」
我に返ったように北村は慌てて返事をしながらこちらに顔を向ける。
「能力者でも雇ったらどうかしら?」
「いえ、正式にそんな話が決まる間にも、こうしてテロは起こるので、今は自警団に力を貸して貰うしか方法がありません」
北村が落ち着いて応えているときにふと氷牙に目を向けてみると、氷牙は素早く飛び回りながら巨人を翻弄していた。
「なら、北村さんが能力者になったら?」
「え?」
北村は驚いてこちらに振り向くが、すぐに深刻そうな表情を浮かべながらうつむいた。
「それは・・・」
あら、何気なく言ったのに、そんなに思い詰めた顔するなんて。
「でも、警察がいつまでも人に頼ってたら、テロなんて無くならないわよ?」
たとえ戦車や戦闘機を出したとしても、あんな巨人を抑えられるかしら?
「それは、そうかも知れませんけど・・・」
はっきりしない顔ね。
「今のままで良いの?」
「でも力を手に入れる方法なんて分かりません」
そう言って素早く顔を上げ氷牙に目を向けた北村は、嫌悪感や怒りというよりかは、自分自身を責めるような悔しさを感じさせる真剣な横顔を見せた。
もし鉱石のこと教えたらどうなるのかしら?
北村さんに言ったら、きっと国があの鉱石を独り占めするようになっちゃうのかしら?
そしたら奪い合いで戦争になったりして。
「ねぇ、北村さんは能力者をどう思う?」
急に話題を変える質問をしたからか、北村は驚いたような表情でこちらに顔を向けるものの、すぐに若干の純粋さを残した大人っぽさを感じさせるものに顔色を変える。
「・・・あの人のように正義感がある人や、逆にテロを起こす人が居たり、正直、普通の人間と変わらない気がします」
見た感じそこまで偉くなさそうだし、ここで鉱石のことを言うのはあまりに軽率かしらね。
氷牙の方に目を向けてから時間も経たないうちに巨人が力無く倒れ込むと、地面を打ち付ける大きな音を響かせながら、巨人は少しずつ小さくなり始めた。
「行きましょう」
北村が小走りでテロリストに近づいて行くと、遠くで地面に降り立った氷牙も人間の姿に戻ったのが見えた。
気を失っているテロリストの腕を掴み上げると同時に北村がベルトの辺りから手錠を取り出し、やじ馬や警官に見守られながらテロリストの手首に手錠を掛ける。
そんなものが役に立つのかしら?
そして警官達がテロリストを抱えながらパトカーに乗り込むと、北村はパトカーの運転席にある無線を使って報告を始めた。
「いやぁ、今回もありがとうございました。やっぱり自警団が居て頂けると助かりますね」
「北村刑事、東京に自警団なんて居るの?」
「え?あなた方が自警団なんじゃないんですか?」
北村の安心したような笑顔や驚いた顔にも、氷牙はまったく表情を変えることなく北村と顔を合わせている。
「違うよ。この前だってたまたま居合わせただけだし」
「そうなんですか」
困ったように微笑みながら北村が人差し指でこめかみ辺りを掻き出すのを、ただ無表情で見つめる氷牙を何となく見つめる。
「あの・・・じゃあ、今から自警団を名乗ってみるのは、どうですか?」
「どうかな、僕はこれからも自警団を名乗るつもりはないよ」
氷牙が表情を変えずに平然とそう言い放つと、北村は苦笑いを浮かべながら気まずそうに頷く。
案外冷たいのね。
「そうですか・・・」
「でも、一応北村刑事の連絡先を聞いて置こうか?もし警察の応援に応えたい人が居たら、連絡出来るように」
あら、案外優しいのね。
氷牙は表情が変わらないから、本当に読めないわ。
「本当ですか?」
すると北村は嬉しそうに顔を上げ、素早く胸ポケットに手を入れる。
「じゃあ、これどうぞ」
「どうも」
北村が名刺を差し出すと、氷牙は依然として表情を変えることなく名刺を受け取り、名刺をデニムのポケットに入れ、そしてこちらに顔を向ける。
「帰ろうか」
「えぇ、そうね」
「それじゃ」
「はい」
満足げな笑みで応える北村を見てからミサと共にミサの家に向かう。
「ミサ、これユウジに渡してよ」
「そうね、会議で相談するわ」
ミサは笑顔で名刺を受け取るとバッグから取り出した財布に挟む。
「どうして自警団を名乗らないなんて言ったの?さっきも戦ったじゃない」
「別に僕は戦いたいだけで、自警団になりたかった訳じゃないよ」
「あらそうなの」
ミサは関心がなさそうな口調で返事をしながらバッグを肘に掛け、こちらの腕に手を回してくる。
しばらくしてミサの家に近づくとミサはおもむろに携帯を取り出し、こちらの腕からは手を離さずに誰かに電話を掛け始めた。
「もしもしシナガワ?すぐに着くわ・・・えぇ」
ミサが携帯をバッグに戻し、間もなくして門に着くと、気にならないほどの小さな機械音と共に門は自動で開き始めた。
玄関に近づくと扉が開き、シナガワが出て来ると、シナガワは扉を開けたまま外側に立ち、ミサが通るのを待ち始めた。
「ありがと」
「お帰りなさいませ」
すれ違い様に挨拶を交わす2人に挟まれながら家に入ると、扉を閉めたシナガワは素早くミサに歩み寄り、靴を脱ぐミサを見守るように見下ろした。
脱いだ靴を黙ってシナガワに持たせたミサの後ろについて歩き出そうとしたときに、ふとシナガワがこちらに手を差し出してきた。
「靴、お持ちしましょうか?」
「あ、いや、僕は大丈夫です」
ミサは自分の部屋の扉を開けるとシナガワから靴を受け取り、同時にシナガワはミサが手を放したドアノブを代わりに持つ。
「ありがと」
ミサが礼を口にしてシナガワが軽く頭を下げる一連の動きにはまったく隙がなく、シナガワが扉を閉めた後に見せたミサのふとした表情も、一連の動きの延長かと思うほど冷静さに満ちていた。
自分の部屋を素通りしてホテルの部屋に入ったミサは靴を置き、腕時計に目を向けながらベッドに向かうと、ベッドにバッグを軽く投げるように置きながらそのままベッドに深く座り込んだ。
「ふぅ、ちょっと疲れたかも」
そしてそう言いながらミサはそのままベッドに仰向けに倒れ込んだ。
「水飲む?」
「あ、うん」
驚くように起き上がり返事をしたミサは、何故か照れるような表情を見せながら小さくうつむいた。
キッチンに行き、コップに水を入れてミサの下に持って行く。
「ありがと」
水を飲み始めたミサの隣に座ると、水を半分残したミサは下から顔を覗くようにこちらを見ながらコップを差し出してきた。
「貴方も喉渇いたでしょ?」
そう言って笑顔を見せるものの、その眼差しには何かを強く訴えるような力強さがあった。
何となくコップを取り、とりあえず残りの水を飲み干した。
「鉱石の発掘、終わったかな?」
「貴方の時はどれくらいかかったの?」
「2時間くらいかな?野生の動物と戦ってると、それなりにかかるかもね」
「そうなのね」
コップをシンクに置いてベッドの近くの椅子に座ったとき、ふと自分の部屋に続く扉が目に留まった。
「あの扉、ずっとあったら迷惑じゃない?」
ミサは扉に顔を向けるが、すぐにこちらに目線を戻しながらどことなく不機嫌そうな眼差しをかいま見せた。
「大丈夫よ、あのままにして」
「そうか・・・じゃあ僕はホールに行くよ」
そう言って立ち上がると、まるで後を追うようにミサも素早く立ち上がった。
「あたしも行くわ」
満面の笑みを浮かべてそう言ったミサと共にホールに入ると、ふと目に留まったテーブルにユウジが居ることに気がついた。
珍しいな、ユウジがホールに居るなんて。
「やぁやぁ、氷牙」
天を仰いでいたユウジはこちらに気づくと、いつものような呑気そうな表情を見せる。
「あぁ、ユウジって、鉱石使ってないよね?」
「うん、まあね」
いつも会議室に居るんじゃ、やっぱり退屈にもなるのかな?
「リーダーの座とか狙われたりしないの?」
「氷牙が異世界行ってる時に戦いには誘われたけど、別にリーダーの座を賭ける人はいなかったよ」
ユウジは気の抜けたような微笑みには疲労感は見えないが、かと言ってまるで何も考えていないような表情でもない。
「そうか」
「あ、そうだ、この前氷牙が言ってた堕混と、あと堕天使?・・・イングランドに出たってさ」
モニターを見ていたユウジがこちらに顔を向け、そんな話をし始めるが、その表情はまるで世間話でもするようなものだった。
やっぱり、この世界にも来たか。
「そうか、イングランドか」
この前ユウコが言ってた、イギリスに出た翼の生えた3人組って、堕混のことだったのか。
まぁ運よく日本に来るなんて、ある訳ないか。
「うん、胸の赤い宝石とか何とか言ってたし、多分そうだよ」
しかしそんな話をしながらユウジが一瞬だけ見せた真剣な眼差しも、呑気さとは対照的ではあるものの、とても自然な表情に見えたのも確かだった。
ユウジもネットで情報とか集めたりしてるのかな。
「そうか・・・ミサって英語喋れる?」
「え?・・・えぇ、喋れるわよ?」
少し戸惑いながらもそう応えたミサは、すぐに何かに感づいたかのように眼差しを鋭くして見せた。
「まさか・・・イングランドに行くつもり?」
そしてそう言いながらミサはすぐに困惑したような表情で顔を寄せてきた。
「あぁ、まずはおじさんにメールして貰おうかな」
「イングランドの組織と友好関係築くのかい?・・・それは斬新だね」
ユウジが呆れるように微笑んでいるが、こちらの顔色を覗き込むように伺うミサは、困惑した表情の中に強い不安感と若干の嫌悪感を伺わせた。
「氷牙、それはただのお節介よ?氷牙にしか倒せない訳じゃないのよ?あっちの事はあっちに任せなさいよ」
そしてミサはこちらに言葉を挟ませないように言い包めてきた。
何だろ、まるで堕混がどんな奴か知ってるかのような言い方だけど。
でも確かに、能力者が束になれば脅威では無いだろうし、まぁいいか。
「そうか、まぁそれもそうかな。そういえば、鉱石のアクセサリーはどうやって作るの?」
鉄の仕入れもおじさんに頼めば簡単に出来るかも知れないけど。
「それなら、ミサさんに作って貰うよ」
今更ですが、第二章に出てきたレイは、ゲスト主人公というジャンル、と言わせて下さい。笑
ありがとうございました。




