アイスファング・アンド・ディテクティブ
素早く立ち上がり、タツヒロが銃を撃つ前に絶氷弾を撃ち出す。
「光よっ」
タツヒロが上に向けて銃を撃つと、銃口からは光の膜が地面に向かって降り注ぎ、タツヒロを守るように包み込んだ。
バリアか。
光の膜に阻まれて氷の弾が消え入ると、光のバリアは強気な眼差しを見せるタツヒロの銃口に素早く戻っていった。
「歌えっ」
続けてタツヒロがそう言ってこちらに向けて銃を撃つと、その銃口からは巻き込むように風を纏いながら口笛のような音を出す、大きな空気の球が撃ち出された。
すかさず紋章を重ねた絶氷弾を撃つと、空気の球は破裂した氷を巻き込んで更に膨張しながら爆発する。
そして風を凍らせた冷たい爆風が辺り一面に撒き散らされると、巻き添えを食らったタツヒロは後ろに吹き飛び、勢いよく尻餅をついた。
「うわっ・・・いてっ」
タツヒロが倒れた拍子に銃が宙を舞うと、地面に転がると同時にその銃は光と化し、空気に溶けるように消えていった。
あ、もう終わりかな。
しかし立ち上がりながらタツヒロが手を広げると、まるで呼び寄せられたかのように銃はタツヒロの手の中に姿を現した。
何だやるのか・・・。
タツヒロは落ち着きを取り戻そうとゆっくりと息を吐き、再び銃口をこちらに向ける。
「まだまだ行くよ」
「あぁ」
「はじけろっ」
タツヒロはそう言ってこちらに向かって撃つと、更に素早く左右に1発ずつ銃を撃った。
逃げ道を封じたか。
ブースターを噴き出し、真上に飛び上がりながら絶氷弾を構える。
「集まれっ」
すると直後にタツヒロの言葉に反応するように、数百もの花火のような弾はこちらを囲むように渦巻き始めた。
何っ囲まれた。
そして数百の弾達はきらびやかに光りながら周りをぐるぐると回り始めた。
下手に動いて当たったら、連鎖を呼んで全部爆発するかも知れない。
しかもこんなに動き回られたら、合間を縫うように絶氷弾を撃つことも出来ないな。
「解き放てっ」
タツヒロがそう言うと、銃口に向かって光がちらついた瞬間、銃口は暖かい光のような色をした極太のビームを放った。
逃げ場が無いな。
そして暖かい光は弾の花火を爆発させながら、力強く視界を満たしていった。
両手に紋章を出しながら少しの間うずくまり、爆発の衝撃を感じなくなるまで待つと、晴れた視界に真っ先に映ったタツヒロは特に残念がるような表情は浮かべずに銃を光に包み消していった。
「何だぁ、しぶといね」
「どうも」
もう止めるみたいだな。
鎧を解きながら、2人の下に歩き出すタツヒロの後に続く。
「3連戦でも2つ目の覚醒の力は出さなかったか」
ホールに向かい始めたときにノブが呟き始めると、ノブがふとこちらの方に振り返った。
「そういえばお前、さっき何でオレの動きが読めたんだ?」
確かにあれは反応は出来ないけど。
「不意打ちをする時に死角を狙うのは、大体は予測出来るよ」
「あーそうかぁ、そう言われればそうだよな」
「ノブさん、今度は3対1でやろうか?」
ノブがタツヒロに顔を向けると、薄暗い通路の中でもはっきりと笑みを浮かべたのが分かった。
「いや、お前のビームに巻き込まれるのは御免だ」
「そっか」
ホールへの扉を開けると同時に、すぐにホールに響き渡るユウジの声が聞こえてきた。
「なので、とりあえずブレスレットかネックレスにしようと思います」
元々居たテーブルに目を向けたときにミサと目が合うと、すぐにミサは笑みを浮かべながら手招きしてきた。
「そこでまたチームを組んで、鉱石を発掘しようと思います。志願してくれる人は会議室までお願いします。以上です」
ミサの隣に座ると、こちらの顔を覗くミサの笑顔がすぐに何かに対して喜んでいるようなものだということが分かった。
「実験、成功したみたいよ」
「そうか」
「1人2つまでなら問題無く持てるみたいね」
「そうか」
それでどれだけ変わるかが問題だけど。
「3つ持ったらどうかなったの?」
「それがね、簡単に言えばショートしたのよ」
すると少し笑みを薄めたミサは小さく首を横に振りながらそう応えた。
ショート?
力が使えなかったってことか?
ふと舞台に目を向けると、ちょうど志願者と思われる人達が会議室に入っていくのが見えた。
「氷牙、あんなに攻撃を受けて大丈夫?」
ユウコに目を向けると、ユウコは少し心配するような眼差しでこちらを見ていた。
「まあね、我慢強さには自信があるんだ」
「だからって、最後のタツヒロのアレを受けても普通にしてるのはちょっとおかしいんじゃない?」
落ち着いた口調で話すヒカルコも、ユウコに目を向けるその表情はどこか呆れ顔を見せている。
「僕は攻撃よりも防御を重視してるんだよ」
「ふーん」
しばらくすると編成されたチームが舞台を下りてきて、チームはホールの後ろにある扉からシールキーを使って鉱石の発掘に向かって行った。
「氷牙、これからランチ行きましょ?」
もうそんな時間か。
「僕、お金持ってないんだ」
「財布も無いの?」
すると笑顔で顔を寄せてきているミサは、小さく首を傾げながら驚いた表情を見せた。
「持ってないよ」
しかしそう言うとすぐにミサは気を許したように満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ今回はおごってあげるわ」
「良いの?」
「えぇ、スープの美味しいお店があるのよ。行きましょ?」
「あぁ」
するとミサは廊下に向かい、そのままホテルの部屋に連れられた。
「靴、持って来てね」
そう言いながらホテルの部屋に招き入れたミサと同じように、靴を持ってシールキーの貼られた扉を抜けると、そこはホテルとは全く違う内装の部屋に繋がっていた。
見渡すとホテルの部屋とそれほど変わらないくらいの広さを感じ、家具はすべて薄いピンク色に染められていた。
「ここってミサの家の部屋?」
「そうよ」
ミサが満面の笑みで振り返りながら開けた扉を抜けると、そこは豪華なシャンデリアが真っ先に目に入る、円い内観のエントランスに繋がっていた。
重厚な雰囲気を感じさせるような手摺りや、石材を思わせる白い壁など、目に留まるものすべてに高級感を醸し出すエントランスの、壁沿いにカーブした階段を下りているとき、ふと階段の先に1人の男性が立っているのに気がついた。
「ミサお嬢様、この方はどちらから?」
階段を下りた時にその執事のような男性は、警戒するような眼差しをこちらに向ける。
「お友達よ、例のホテルから連れて来たの」
ミサが笑顔で執事のような男性に応えた後に、一応お辞儀をした。
「はじめまして、氷牙です」
「あっはじめまして。私はナガミネ様の家で執事をさせて頂いております、シナガワと申します」
そう言うとシナガワという執事の男性は丁寧にお辞儀を返した。
「そうですか」
見た目は30代くらいだろうか。
「シナガワ、すぐに出るわ」
そう言ってミサが玄関に向かうと、シナガワは素早くミサの背後につく。
「はい、車はお使いになられますか?」
「いらないわ」
「かしこまりました」
ミサが靴を履き終えると同時にシナガワは玄関扉に向かい、ミサが立ち上がると同時にシナガワはドアノブに手を掛ける。
「ランチが終わったら帰るから」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
ミサと共に玄関を出ると、すぐに整えられた綺麗な芝生と、玄関から門へ真っ直ぐ続く石畳の一本道が目に入る。
そしてふと視界の右隅に見えた木に目を向けてみると、その大木よりも、その大木をも納める広い敷地の方にふと目を奪われた。
門に近づくと門は勝手に開き出し、また門を抜けると同じく門は勝手に閉まり始めた。
「ねぇ氷牙はたまに家に帰ったりしないの?」
こちらに笑顔を見せながら、ミサはまるで自然な動きでそっとこちらの腕に手を掛けてくる。
静かな住宅街だな。
「僕の家はあの部屋だよ」
するとミサは小さなため息をついた後にどこか寂しそうな顔色を見せた。
「・・・そう、貴方ってほんと読めないわよね」
「鉱石をアクセサリーに出来るなら、ミサも1つくらいは持ったら?」
「そうね・・・心配してくれてるの?」
そう言うとミサは先程までの表情とは対照的な嬉しがるようなニヤつきを見せてきた。
「そうかもね、せっかく力があるんだし、それに攻撃が出来るものなら身を守れるほどのものにはしないとね」
「そういえば、メル友の学校がテロに占領されたって言ってたわ」
本当にテロに占領されたのか、あるいはそこの学生が暴れたのか。
「そうか、ミサは危険な目に遭ってない?」
「今のところは、大丈夫よ」
こちらの腕を更に自分の胸に抱き寄せてきたミサに顔を向けると、同じように顔を合わせてきたミサは満面の笑みを浮かべる。
しばらく歩くと人通りが多い広い歩道に出て、横断歩道を渡るとすぐ目の前にある高層ビルの、1階に構えているカフェのようなお店に入る。
ガラス張りの壁から店内を見渡すと、休日とあってか、主婦仲間やカップルが客の割合を占めているように感じた。
「いらっしゃいませ、こちらでお召しあがりですか?」
「はい」
「ミサに任せるよ」
「じゃああたしと同じで良い?」
「あぁ」
注文を済ますと間もなくして頼んだものが乗せられたトレーを受け取り、空いている席に座る。
小さく角切りにされた具が入ったクリーム色のスープが注がれたカップと、野菜のスティックが盛りつけられたお皿、そして木製のスプーンが1つ。
ミサの動作の見よう見真似で食事を始める。
「美味しいでしょ?」
「あぁ」
新鮮な野菜スティックとスープの中のお肉で、良いバランスだな。
「・・・貴方、学校に行ってないなら、仕事は何かしているの?」
ミサはスープを掬ったスプーンを口に運びながら、ふとそんな話をし始めた。
「してないよ」
「あら・・・何も?」
「あぁ」
沈黙が流れ、ふと周りの客の話し声や店員の掛け声が耳に入ってきたとき、ゆっくりと口からスプーンを放したミサは少し困ったような眼差しを向けてきた。
「それじゃ生きていけないわ?」
「大丈夫だよ」
「それは組織に居ればだけど、あれがいつまでもあると思うの?」
ミサは小さく眉間にシワを寄せながらも、先端にスープを浸けた野菜スティックを頬張る。
「それは分からないけど、無くなっても別に問題無いよ」
ミサは真顔で目を見つめてくるが、すぐに考え事をするかのように目を逸らした。
野菜スティックが無くなったので、スプーンでスープの具を掬う。
確かミサが頼んだメニューにはラム肉って書いてあったよな。
「どうしてって言ったら、ちゃんと説明してくれるかしら?」
スープを一口飲むと、ミサは少し困ったように微笑みながらそう問いかける。
「隠す理由は無いから、そう言うならゆっくりと説明するよ」
「あらそう?」
するとミサは安心したような笑顔を見せ、野菜スティックをスープに浸けていった。
しばらくして店を後にして信号待ちをしていると、ふと後ろから声を掛けられたので振り返る。
「あっやっぱりあの時の能力者の方でしたか」
ん、渋谷で話した特殊犯罪捜査課とやらの刑事か。
その時に警戒心からか、ミサがこちらの腕を強く掴んだのが分かった。
「確か・・・」
「北村です」
その時にただならぬ雰囲気を出しながら、制服警官が北村の後ろを走って通り過ぎて行くのが見えた。
「何かあったんですか?」
「はい、宜しければお力を貸して頂けませんか?」
すると引き締めた表情を見せている北村は、更に緊迫感を訴えるような表情を伺わせる。
「ちょっと何なんですか?いきなり」
直後にそう言いながらミサが北村の前に立ちはだかったとき、走り去っていく警官に周りの人達も疑惑を感じるような素振りを見せ始めた。
「この人刑事だよ」
こちらに振り返ったミサは何故かその表情に若干の怒りを伺わせた。
「だから何よ、貴方には関係無いわ?」
そう言い放ちながらミサが睨みつけるような眼差しを向けてきたとき、まるで不安が伝染するようにあちこちから小さなざわめきが湧き立ち出す。
「もしかして、あなたも能力者の方ですか?」
北村が助けを求めるような口調でミサに向かってそう言うと、すぐにミサが北村の方に振り返る。
どうやらミサが動き出したようですね、積極的ですね。笑
ありがとうございました。