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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第三章

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拳は常に空を切る2

ブースターを噴き出すと間一髪で拳をかわせたので、すぐさまシンジに氷弾砲を撃つが、シンジも左肩から空気を噴き出し素早く氷の弾を避けていく。

やっぱり、左肩のあれはブースターだったのか。

シンジの左肩に目を向けたふとした瞬間、シンジに足を掴まれた。

おっと油断した。

勢いよく投げられて地面に叩きつけられるとシンジは拳を引き、立ち上がるときにはシンジはすでに殴る体勢をとっていた。

また来るか。

シンジの動きに合わせるようにブースターを使い動き出したものの、シンジはこちらが飛び出したタイミングから一瞬だけ動きを遅らせて拳を突き出した。

動きが読まれたか。

視界を覆った拳が遠ざかっても凄まじい衝撃は風圧となって体に纏わり付き、考える間もなく全身は再び強い風圧と闘技場の壁との間に押し潰された。

なるほど、それなりに強くなったみたいだな。

小さな石片と氷片が足元を鳴らしていくと同時に、体は滑り落ちるように壁から離れるが、あまりの体の重さに膝は曲がり、直後に膝が地面に突き立つ鈍い音が闘技場に小さく響いた。

ダメージの蓄積が予想以上だな。

「やるね」

「そろそろ尻尾とやらを出せば?」

余裕が滲み出るような表情でシンジが応えた後に鎧を見ると、全身の所々には小さいものとは言えないヒビや亀裂が入っていた。

「そうだね」

立ち上がり、絶氷牙を纏う。

「うわ、狼男だ」

こちらの姿を見ながら怠そうにそう言って左手で軽く頭を掻くシンジは、依然として佇まい全体から余裕を感じさせている。

「そうか」

小さく頷きながら落ち着いた表情を一変させたシンジは走り出すような構えを取り、醸し出す余裕を再び闘志に変えていく。

「来いよ」

紋章を重ねた絶氷弾を撃つと、氷の弾を叩き落とそうとシンジは氷の弾目掛けて拳を突きつける。

その瞬間にブースターを全開にして飛び出し、氷の爆風がシンジを覆っている間に左側に回り込み紋章を重ねた絶氷弾を撃つと、シンジは右手を出しとっさに身を守る。

その瞬間にブースター全開で更に回り込みながら回転し、尻尾をシンジの背中に叩きつけた。

「いっ」

シンジは前に倒れ込むが膝と左手をつき体勢を留め、反射的に右腕を後ろに振り回す。

しかしすでにシンジの真上に滞空していて、それにシンジが気づくと同時にシンジの右肩に絶氷弾を2発撃ち込んだ。

シンジから少し離れた位置に降り立ちながら、凍りついた右肩を必死に動かしながらゆっくりと起き上がるシンジを眺める。

「つぅ・・・くそ」

間近で絶氷弾を受けてもこの程度のダメージか。

見た目からして相当頑丈なんだな。

「近くで見たらほんとに犬みたいな顔だな。チワワかよ」

腕の変化が解けないところを見ると、まだやれるみたいだな。

「そうか、まだやる?」

するとシンジは右肩を回してほぐしながら、小さくニヤついた。

「あぁ」



やはりあのシンジでも尻尾を出した氷牙には敵わないのね。

「ほんとだぁ、カワイイね」

「あんな大きな腕、重くないのかな」

ユウコったら、もうライムと親しくしてるのね。

「本人にとっては重さは感じないんだって」

ユウコの無邪気な笑顔に応える、ライムの興味を示してはいるが落ち着きのある笑顔に、ふとユウコに似たあどけなさを感じた。

「それも1つの能力なのかな」

ライムからミントに目を向けると、ふと目が合い微笑みかけてきたミントにどこかライムにはない大人っぽさを感じた。

「ミント、夕食はお口に合ったかしら?」

「うん、美味しかった」

「良かったわ」

そのときにこちらを見つめるミントは、その眼差しに戸惑いを感じさせるほどの優しさを伺わせる。

「それより、手は握れた?」

「う、うん・・・一応」

ふぅ、顔が熱いわ。

「ちゃんと目はまっすぐ見れた?」

するとミントは更に嬉しそうにそう聞いてきたので黙って頷いたとき、脳裏にはやはり何を考えているか分からない無表情な氷牙の顔が浮かび上がった。

それにしても、いきなり恋してるでしょだなんて。

何で分かったのかしら?

「・・・さっきは、どうして分かったの?」

モニターに夢中のユウコ達に聞こえないようにと思いながら、ミントに顔を近づけそう聞いてみる。

「あのね、天使の職業の中で、キューピッドって言うものがあるの」

すると天を仰ぎながら、ミントは思い出を思い返すような表情を見せる。

キューピッドって、あのキューピッドかしら?

まさかね。

「・・・私、兵士になる前はキューピッド業が長かったから、今でも顔を見るだけで恋をしているかどうかが分かるの」

でも恋をしてるかどうかなんて、やっぱり、そうなのかしら。

「それってまさか、恋の応援でもするのかしら?」

「え?何で知ってるの?」

え、うそ、当たっちゃった。

「そうなの?・・・この世界にも、キューピッドって言葉は存在するのよ」

「へぇー」

ミントが感心するように頷くと、再び見せた思い出を思い返すような表情はどこか嬉しさを感じさせた。

まさかあのキューピッドが職業としてあるなんて。

さすが天使だわ。

「じゃあライムもキューピッドだったのかしら?」

「ううん、ライムは転生の祠の受付嬢だったの」

聞き慣れないわね。

「転生の祠?」

「うん、死後の人間の魂を整理をする所だよ」

当然の如くそう説明するミントの笑顔を見た瞬間、再び脳裏に氷牙の姿が過ぎる。

「し、死後?」

天使って言うぐらいだから、やっぱりそうなのかしら。

「もしかして、ミントの世界って人間の死後の世界だったりするのかしら?」

「んー簡単に言えばそうかな」

でも氷牙は死んだ訳じゃないのよね。

オーナーの助けを借りたから行けたのかしら?

どちらにしても、同じ言葉もあるくらいだし、もしかしたらあたし達が思うのとは違うルールのパラレルワールドって可能性も無くはないわね。

「すごかったねぇ」

ふとユウコの声が耳に入ってくると同時に、闘技場から戻ってきた氷牙が視界に入った。

「あら氷牙、お帰りなさい」

「あぁ」



「あら、シンジは?」

シンジが隣のテーブルの椅子にぐったりと座ったので、黙ってミサと共にシンジに顔を向ける。

するとユウコはおもむろに席を立ち、シンジの前に水を置きながらシンジの隣に座った。

そんなユウコをどこか見守るような眼差しで見ていたミントが、ふとこちらに笑顔を向けてくる。

「氷牙、次の形態にはならなかったね」

極点氷牙のこと言ってるのかな。

「まあね」

もしかして、レイと共に堕混と戦った時、2人は覗いてたのか。

「あら、今のが次の形態なのよ」

そう言ってミサが自信を見せつけるような微笑みをミントに向けると、ミントは首を傾げながらその笑顔の中に若干の戸惑いをかいま見せた。

「え?堕混を倒す時に、さっきのよりもっと強くなったんだよ?ね?」

ミントが純粋な笑顔をこちらに向けてきたとき、何となくその場の空気が静けさに包まれていくのを感じた。

「まあね」

「え?・・・それって」

「何だよそれ」

ミサが戸惑うようにミントからこちらに目線を変えてきたとき、突如その場の空気を更に尖らすような声が背後から上がる。

すぐに後ろを振り返ると、若干の怒りが混ざったような呆れ声を上げたシンジは、怒りというよりかは疲労感の伺えるような呆れ顔でこちらを見ていた。

「お前、あれより強くなんのかよ。何回覚醒してんだよ」

「そう考えるなら、2回かな」

「は?・・・じゃあ、オレと同じか?」

すると嫉妬のようなものが伝わってきていた表情のシンジがふと落ち着いた表情を見せる。

「いやいや、あの強さが最初の覚醒なんておかしいだろ」

「実は、氷牙の姿には最初からなれたんだ。だから、さっきの絶氷牙が1回目の覚醒と数えるのが正しいんだよ」

「ゼッヒョウガ?」

オウム返しで呟いたシンジは表情を曇らせ、不本意ながらも理解したような顔を見せながらゆっくりと椅子に座り始めると、ミサは少し戸惑ったように笑みを浮かべながらこちらに顔を向けた。

「カッコイイ名前ね」

「まあ良い」

するとシンジは急に自信を取り戻したかのような眼差しでそう言って、再び立ち上がった。

「鉱石使って覚醒すれば、それでお前とイーブンだ。今度こそ倒してやる」

「ねぇ、シンジと氷牙は仲が悪いの?」

立ち去ったシンジを目で追っていたライムが、ふと不安げにそう聞いてくる。

「そういう訳じゃないと思うよ」

「競い合って共に強くなるライバルみたいなものよ、きっと」

「じゃあ、仲が悪い訳じゃないんだね」

ミサの宥めるようなフォローに納得するように頷いたライムは、どこか安心したような笑みを浮かべながらこちらに顔を向ける。

「私も部屋に戻るね」

「えぇ、おやすみ」

手を振るミサに笑顔で応えながら歩き出したユウコが見せた、不安が伺えた横顔がふと気にかかったそんな時、ライムが眠気を訴えるような眼差しをミントに向ける。

「私も部屋に行きたい」

「じゃあ行こうね。ミサ、これの使い方、教えて貰える?」

ミントは折り巻かれた袖に挟まれていたカードキーを取り出して見せる。

「もちろんよ」

そして笑顔で応えたミサはミント達を連れて、ホールを出て行った。

ホットミルクをコップに注いで席に戻り、何となくモニターを眺めていると、ふとノブがテーブルに近付いてきたのに気がついた。

「よぉ、旅行は楽しかったか?」

そう言うとノブはグラスとボトルをテーブルに置き、右に1つ飛ばした椅子に座った。

「あぁ」

どことなく緩んだ表情のノブは自身の前に引き寄せたグラスに、何やら赤く濁った色をしたお酒を注いでいく。

赤ワイン・・・じゃなさそうだな。

「あっちで鉱石使ったんだって?」

「まあね、ノブは使ったの?」

「あぁ、神奈川の援軍要請に積極的に応えるつもりだからな」

「そうか」

その表情から見て、この人にもこの人なりの正義があるみたいだな。

「新しい力にしたの?」

「あぁ、やっぱ時代はサポートリンクだな」

口からグラスを放し、そんな言葉を発しながらノブは照れ臭そうにニヤついて見せた。

「何それ?」

「ショウタいるだろ?あいつの炎と風の力は、どっちか1つだけでも戦えるのは分かるだろ?」

グラスを片手にノブはリラックスしきっているような緩ませた表情から、若干頬が赤くなったと思わせるほどの得意げな表情を見せてくる。

お酒の力もあるのかな。

「あぁ」

「例えばヒカルコの光と鏡の力は、鏡だけじゃまともに攻撃出来ない。光の力をより複雑に扱えるようになって、初めて鏡の力が生きるって訳だな」

「なるほど」

鏡か、頭を使って戦うヒカルコならではの組み合わせだな。

「あくまで攻撃する力を補助をするためだけに繋ぐ、それがサポートリンクだな」

そう言うとノブがホットミルクの中にシャンパンを注いできた。

ミルク割りか。

「そうか、ノブもそれなの?」

飲んでみると意外と悪くない・・・かな?

「あら、ノブ、またお酒なのね」

するとノブに話しかけながら戻ってきたミサが静かに左隣の椅子に座る。

「よう。・・・あぁ、オレのは時を跳び越える、ジャンプの力だ」

時を跳ぶ?

確かノブはシンジの足バージョンみたいな感じだったよな。

「せっかくだし、あんたも飲みなよ」

「え?でも・・・」

ノブの誘いにミサは戸惑うような表情を見せるものの、こちらの顔とお酒の入ったホットミルクに目を向けたときのその表情には、すでに戸惑いや嫌悪感は見られなかった。

「まぁちょっとなら」

ミサはテーブルに置かれたベルを鳴らし、ウェイトレスを呼ぶ。

「呼びましたぁ?」

「ロゼワインとレモネード下さる?グラスは1つで良いわ」

「はーい」

「そういや、あんたは鉱石使ってないよな」

ふとノブが持っているボトルに目を向けると、ラベルには日本酒と書いてあるのに気がついた。

「あたしはそこまで力なんて欲しくないもの」

「それじゃあそもそも何でここに居んだ?」

「え?そんなこと言ったって、みんな来たくて来た訳じゃないでしょ?」

お酒が運ばれてくるとミサはワインをグラスに注ぎ、その後に少量のレモネードをワインに加えた。

「ノブのも自分で作ったの?」

こちらに顔を向けたノブはボトルを手に取る。

ミントの動向を見ると、やっぱりユウコも恋をしてるんでしょうかね。

ありがとうございました。

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