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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第二章

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宝の山

「・・・恐らく心操術だな」

するとレイはふと納得したような顔を見せながらそう口を開いた。

シンソウ?

「何それ?」

「心操術は本来、無心兵を造る時に施すものだ。だが、心がある者に使っても、行動や思考をある程度操ることが出来るんだ」

ある程度・・・。

「じゃあ私達はそれにかけられたのかな」

「あぁ恐らくな」

ならハルクも操られてたのかな。

「しかし、心操術を無心兵以外に使うのは禁じられている。それを使うってことは、少なくとも死神の方は自らの意思で動いているということになるな」

いきなり現れた人間と反乱を望んだ死神が手を組んだなら、三国の兵士は巻き込まれたってことか。

「それで何でこの2人は正気に戻ったの?」

ある程度ってどれくらいのものだろうか。

「まぁ、術の施しが甘かったか、何かしらの強いショックがあったんだろう。心のある者に施した心操術は不安定だからな。さっきの、俺の槍の衝撃で正気に戻ったと考えるのが妥当だろうな」

「そうか」

ならハルクも、あれで死んでなきゃ正気には戻ってるかも知れないな。

「もう戦う気がないなら、あんたらも国に帰れよ」

2人にそう言うとレイはそそくさと外に向かって歩き出す。

「無理だよ。反逆者になっちゃったもん」

しかしそう応えながら右側の女性が肩を落とすと、すぐにレイは足を止め振り返り、2人に顔を向けた。

「事情を話せば、天王様なら許してくれるんじゃないの?」

揃って肩を落とす2人を慰めるように声を掛けるが、2人は揃って首を横に振った。

「天王様が許して下さっても、国に帰るなんて出来ないよ」

「罪悪感に押し潰されちゃうよ」

新しい力を得ただけで国に帰れないなんて、さすが天使だな。

にしてもすごい落ち込みようだ。

「じゃあどうやって生きていくんだ?」

話を聞いていたレイが再び2人に歩み寄り、面倒臭そうにそう言い放つと、2人はただ淋しげな表情を浮かべて黙り込んだ。

他に行く当ても無いみたいだし、放っておく訳にも・・・。

「ほんとに、国に帰る気ないの?」

こちらに顔を向けた2人は表情を緩めるが、揃って小さく頷くその表情はむしろ若干の安心感が伺えた気がした。

「でもすぐに食べ物とか住む家とかに困るよ?」

そういえば、死神の国に来た人間達はどこから来たのかな?

すると2人はまるでふて腐れ、嫌悪感を示すような表情を見せて目を逸らしていった。

もし僕の世界から来たなら、その人間達がやったことの責任が僕にもあるのかな?

それなら、これも何かの縁か。

「なら、僕の世界に来れば?」

「え?」

2人の女性が揃って驚くような声を漏らすと、すぐにレイも戸惑うような表情をこちらに向けてきた。

「行く場所が無いなら、僕の世界に来れるように女王様に頼んでみるよ」

するとお互いの顔とこちらを交互に見る2人の表情から、徐々に期待感が伺え始めた。

「まぁ俺には関係無いが、良い考えじゃねぇか?この際、新しい人生でも始めれば」

関心がなさそうな口調でそう言いながらも、どこか安心したような表情を浮かべたレイが再び外へと歩き出すと、2人は再びアイコンタクトを取りながらゆっくりと立ち上がった。

「どうして、引き取ってくれるの?」

「タダでとは言わないよ。きっと堕混はこっちの世界にも侵略して来ると思うし、せっかくだから戦力として来て貰おうと思って」

「そっか、分かった」

納得したように微笑む左側の女性に顔を向けた右側の女性も、左側の女性につられるように照れ臭そうな微笑みを浮かべる。

「そうだよね、きっちり働かないとね」

どうやら話がまとまったみたいだな。

ふと門の方に目を向けると、レイは門のすぐ前に立ちながら、待ち兼ねているような表情でこちらを見ていた。

「じゃあ自己紹介しないとね。私がミントで、こっちが妹のライムだよ」

レイの下へ歩き出すが、すぐにミントの言葉で思わず足を止め、2人を見比べる。

顔の作りが同じだ。

「・・・右目に泣きぼくろがあるのがライムだね」

「うん」

すると右側に立つライムが笑顔で頷いた。

目印はそれだけみたいだな。

2人を連れて城を出ると、すぐに城を囲む塀の内側に、隠れるようにもたれ込む数人の兵士にその場の緊迫感を感じさせられた。

中には気を失っている兵士もいるみたいだけど、何かあったのか?

ちょうどそこにエナが滑るように駆け込んで来るのが見えると、エナは地面を転がりながら門をくぐり抜けてきた。

「エナ、何があった?」

まるで焼け焦げたように翼も鎧もボロボロだ。

「あっ氷牙少佐っ・・・エニグマがっ・・・」

起き上がながらこちらに顔を向けたエナは涙目で、辛そうに言葉を発する表情から何となく事態の深刻さが理解出来た。

「ホルス大尉達は?」

「戦って、ます・・・えほっ・・・」

聞くより行った方が良いか。

「分かった」

レイはもう先に行ったみたいだし、とりあえず加勢しなきゃな。

「気をつけて下さい」

歩き出すと同時にエナが声を掛けてきた。

「あぁ」

エナはともかく、ホルス大尉達がいるならさほど問題無さそうだけど。

絶氷牙を纏い半分だけ開けられた門を抜けると、すぐに倒れているエニグマが3体ほど確認出来た。

そして居住区と思われるその場所が先程よりもかなり荒れ果てていると共に、旧魔界の入口辺りで、今まで見た中で1番大きなエニグマとホルス大尉達が戦っていた。

「あれはっ・・・メギドラグっ」

するとそのエニグマを見たミントはすぐに聞き慣れないその言葉を口にした。

「え?」

「あのタイプはエニグマの中で1番大きくて、1番凶暴なの」

「そうか」

蜘蛛のように長い6本の腕に3つの頭、まるで阿修羅のようなティラノサウルスだな。

「しかもあれ、ロウショウ種だよ」

ん?

「何それ?」

またも聞き慣れない言葉を発したミントに顔を向けると、ミントは緊張したような表情を見せる中で、何故か若干の嬉しさのようなものを伺わせた。

「ロウショウ種はね、老いることで普通の種類よりも更に強靭な体に成長する変わった種類で、普通のよりも肉質がすっごく良くなって美味しくなるの」

「・・・そうなのか」

美味しそうには見えないけど。

それより、今はもうホルス大尉にガルーザス、ヴィルとレイの4人しか戦ってないみたいだな。

ロウショウ種とやらはそんなに手強いのか。

「行こう」

「うん」

「おう、来たか」

頭上から地面に叩きつけられる太い腕をかわしながら、ホルス大尉がこちらを見ると、すぐにホルス大尉はミント達を二度見する。

「なっライムミントか」

確かにその言い方はリズムが良いな。

「訳は後にしようよ」

「それもそうだ」

ホルス大尉が飛び去って行くとミント達も各々立ち回り始めたので、とりあえず頭上から振り下ろされる太い腕をかわしながらエニグマから距離を取る。

でか過ぎるなこのエニグマ、まるで山だな。

真ん中の頭の首元辺りに絶氷弾砲を撃つと、真ん中の頭は強い爆風にのけ反るものの、その瞬間に左右の頭がこちらに向けて極太の熱線を吐き出した。

反応が速いな。

押し潰すような熱気と背中を削ぐような強い衝撃の後、熱気を感じなくなると地面が何かにえぐられたような跡が足元に見え、すぐにそれが背中への衝撃の正体だということに気がついた。

熱線の太さはベイガスのなんか比じゃないな。

ブースターを常に全開にしながら立ち回り、絶氷槍を構えて突撃していく。

しかしエニグマはそれを阻むようにその太い腕を連続的に振り下ろし、その度に地面はまるで重機でスタンプを押されるかのように地響きという名の悲鳴を上げていく。

山のような体からこの速さは驚異的だな。

太い腕をかい潜り足に絶氷槍を突き刺すと、すぐに刺さった槍の先に紋章を出し、足の内部に絶氷弾を撃ち込む。

エニグマの雄叫びがこだましたので一旦離れ、助走をつけて再び同じ所に絶氷槍を刺し込む。

すると凍りついていた筋肉の繊維が突き刺した衝撃で砕け、氷の槍は更に深く刺さった。

再びそのまま氷の槍から絶氷弾を撃つと、エニグマがいきなり跳び上がったので踏み潰される前に氷の槍を抜き、一目散にエニグマから離れる。

しかし直後にエニグマが地面に下りた衝撃で轟音が響き渡り、一瞬にして舞い上がる土や砂が視界から光を掻き消した。

何も見え・・・。

その瞬間に頭上から振り下ろされたと思われる何かによって身動きが出来なくなり、地面に体全体がめり込む凄まじい衝撃を感じると、すぐに体にのしかかるそれがエニグマの腕だということが理解出来た。

う・・・まったく、動けない。

すぐに体が軽くなり、動けるようになったと思った瞬間、再び先程と同じ衝撃が背中にのしかかると、その後エニグマは何度も同じようにこちらの体を豪快に押し潰していった。

まずい、鎧が、少しずつ割れてきた・・・。

鎧を直そうにも地面で密封されて、空気中の水分が使えないな。

このままじゃ、粉々になっちゃう。

再び軽くなった感覚がした瞬間に仰向けになり、再び迫り来る腕に向けて絶氷槍を突き立てる。

押し潰されたと同時に絶氷槍が太い腕に刺さると、太い腕は痛みからか反射的に振り上げられた。

そのまま振り回されていると途中で絶氷槍が折れ、体が運よく上空へ投げ飛ばされると、視界には日光が降り注ぐ、透き通った青空に見守られた荒れ果てた廃墟が広がった。

ふぅ、抜け出せた。

再び押し潰すような熱気が体を襲うが、すぐにブースターを噴き出してエニグマから離れると、エニグマはすべての頭から熱線を吐き出しながら、6本の太い腕を思いっきり振り回していた。

怒らせちゃったかな。

驚異的な速さで振り払われたその腕に瓦礫と木片が舞い上がると、同時に激しい土埃の中からサーチライトのように3本の熱線が噴き出していく。

熱線に当てられたレイが吹き飛んでいくのが見えると、レイに気を取られたミント達も熱線によって押し出された瓦礫に襲われていく。

どうにか隙をつけないかな、エニグマの頭上に回り込めれば・・・。

ふと動きが止まったエニグマに向かって飛んでいこうとした瞬間、突如エニグマは6本の腕を上げながら勢いよく跳び上がった。

おっと。

そして直後に山のような巨体を受け止めた地面は地響きを唸らせながら、土埃と石片、大量の木片を上空に打ち上げた。

すぐに視界を覆った土砂から抜け出すと、ちょうどそこは大人しくホルス大尉達を見据えるエニグマの頭上だった。


極点氷牙、氷結!


頭上から発生させた超低温の衝撃波にエニグマが怯むと同時に、背中から腕の関節にかけての体の一部が少しだけ凍りついた。

するとまるで重たくなった腕を動かすように動きが鈍るエニグマに向かって、ホルス大尉達が一斉に飛び掛かっていく。

「極点氷弾・蒼月」

絶氷牙の時よりも一回り大きい紋章を掌の前に出し、エニグマの背中に向けて絶氷弾よりも大きな氷の弾を撃つ。

すると背中に撃ち落とされて破裂した氷の弾の爆風に、背中全体から腕のつけ根、首筋や尻尾のつけ根までが盛大に凍りつき、同時にエニグマは音を立てながら前方に倒れ込んだ。

すぐさま龍牙を出した右腕を、1つ増えたブースターの出力を上げながら、エニグマの真上から首の根元に目掛けて勢いよく突き刺した。

思ったより入ったな。

凍りついた繊維を破壊しながら深く刺さった氷の槍の先に紋章を出し、蒼月を撃ち込む。

脊椎ってこの辺りかな。

上手く当たったならもう動かないだろう。

地面に降り立ち、山の如く身動きひとつしなくなったエニグマから離れ、鎧を解いた。

極点氷牙も扱えるようになったみたいだな。

「お前・・・そんな力あるなら・・・隠してんじゃねぇよ」

歩み寄ってきたホルス大尉に目を向けると、ホルス大尉は呆れたようなため息を漏らしながらその巨体を見上げていたが、その眼差しはどこか期待感を寄せているようなものだった。

「隠してた訳じゃないよ。僕もやっと使い慣れてきたところなんだ」

「そ、そうか・・・ふぅ・・・」

「そういえば、このエニグマはどこの肉が美味しいの?」

「あ?」

戸惑うような表情をかいま見せたものの、エニグマに目線を戻したホルス大尉はすぐに呆れながらも嬉しがるような笑い声を漏らした。

ジンバーセ・ホルス(27)

階級は大尉。

その呑気そうな雰囲気は常に周囲を和ませるが、実は剣の実力は三国で1、2を争うほど。

好きなタイプは天魔軍宿舎のバーで働くリコリス。


ありがとうございました。

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