アイスファング・アンド・カオス3 エンカウンター
「まさかそれが?」
「あぁ、その存在がダコンだ。混沌に堕ち、混沌をも支配する者、古文書にはそう書かれている。だが結局ダコンは、更に月日を重ねて各々進化を遂げた3つの部族によって滅ぼされたとされているがな」
混沌、堕ちた、か。
だから堕混ってことか?
何にしろ、ここは完全に人間の死後の世界って訳じゃないんだな。
「じゃあ、今の天使と死神も、天使と悪魔みたいにまとまることが出来るのかな?」
「それはどうだろうな。堕混のことが書かれた古文書は代々死神にだけ受け継がれてきたと聞くからな、それに今の若い死神だって、そんな昔のことは知らないさ」
「昔ってどれくらい?」
ベイガスは再び目線を上げるが、すぐに答えを委ねるかのようにレイに顔を向けていった。
「確か2千年くらい前だったはずだ」
さっきから思ってたけど、このベイガスって人からはハルクから感じた異様な雰囲気が感じられないな。
「それよりレイ、俺は嬉しいよ。成り行きとは言え、この力を手にすることが出来て」
話し方だって、何か、普通過ぎるっていうか。
ベイガスの眼差しが若干の狂気さを纏い始めると、ベイガスを見つめるレイはどことなく呆れたような表情をしていた。
「嬉しい?それは、好戦的な王子を慕う兵士としての言葉か?」
「少し違うな。いいか?俺は堕混だ。三国と死神国を同時にたたみ込める力を持っている。だから俺は死神としてではなく、堕混として今の戦争を終わらせる」
要するに・・・組織を出ていったアリサカ達と同じような考え方なのか?
「お前、何言ってるのか分かってるのか?お前の力で戦争を終わらせるってことは」
「分かってるさ。2つの国を、滅ぼすってことだ」
そんなことしたら、平和も何もないだろうが。
「いや分かってない。古文書の堕混は確かに戦争を終わらせた。だけど、後に堕混が滅ぼされたのは壊滅的な被害を負わされた部族達の憎しみがあったからだ。そんなやり方で戦争を終わらせたって、その先に平和はない」
その直後、ベイガスは一瞬にしてその表情に強い怒りを伺わせた。
「ゼンゲル王はいつもそうだ、平和的解決なんか、所詮は上辺だけのものだ。本当に敵対する部族の間を埋めるのは平和じゃなく、共通の敵だ。だが心配するなレイ、俺は前の堕混のようなヘマはしない。いくらお前達が進化しようと、俺は滅ぼされない」
・・・こいつは前からそうだった、体制的には王子側についてはいるが、思想は王に近いものを持っていて、いつか同じような考えを持つ者と国を出て独立すると言っていた。
だが同時に、周りと同じ力を持った一兵士が独立しようと、世界は何も変わらないと嘆いていた。
「どうやら言葉じゃお前を説得出来ないみたいだな。ベイガス、俺は、死神としてお前を止めなきゃならない」
強い力を得たこいつを止めるには、もう、こいつを殺すしかない。
するとこちらの態度に応えるように闘志を宿した眼差しを見せたベイガスは、ゆっくりと両手を広げた。
「・・・なら来い」
ベイガスの両手に集まるように赤い光がちらついた直後、突如その両手から極太の赤いレーザーが放たれた。
とっさに飛び上がりながら闇の球を撃ち放つが、ベイガスは羽ばたかせた翼でその闇の球を軽々と叩き落とす。
すぐに両手の甲の上に力を具現化させた円形の刃を出し、ベイガスに向かって飛んでいく。
赤いレーザーをかわして絶氷弾を撃つが、レイの撃ち放った闇の球を叩き落としながら、ベイガスはもう片方の翼で絶氷弾も軽く叩き落とした。
直後にベイガスに向かっていったレイは、何やら手の甲の上に、甲よりも少し大きめなドーナツ状の刃を浮かせていた。
変わった武器だな。
翼の解放とやらをすると、その人だけの固有の武器が使えるようになるのか。
レイは滞空しながら手を振り出し、円形の刃を勢いよく飛ばしていく。
しかしベイガスが薄く引き伸ばされた赤い光を盾のように扱うと、弾かれた円形の刃はヨーヨーのようにレイの手の甲の上に戻っていった。
絶氷槍を出し、ベイガスに向けて振り下ろすが、ベイガスは赤い光を細く尖らせて剣のように扱い、絶氷槍を受け止める。
すぐにもう片方の手にも絶氷槍を出し、ベイガスに向けて槍を突き出す。
するとベイガスももう片方の手に出していた赤い光の盾で、難無くそれを受け止めた。
更に尻尾に紋章を出し、脚の間からベイガスに向けて絶氷弾砲を撃ち上げるが、ベイガスは氷の弾をかわすように瞬時に跳び上がった。
何っ・・・。
そして勢いよくこちらの顔を踏み台にして、ベイガスはそのまま高く飛び上がった。
しかしベイガスが飛び上がった先には、円形の刃を飛ばそうと構えているレイが居た。
しかしベイガスは瞬時に赤い光を集め、レイの居る辺り一面に無数の細いレーザーを一気に放った。
かなりの瞬発力だな。
レイが閉じた翼を盾にしている最中に、ベイガスの背中に絶氷弾砲を着弾させる。
ベイガスのレーザーが止むと同時にレイは翼を広げ、氷の紋章のように拳の前に浮かせた闇を纏わせた2つの円形の刃から、陽炎のように揺らめく闇に包まれた闇の球を撃ち出した。
お、何か僕と似てるな。
ベイガスは2つの闇の球の直撃を受け、陽炎のように揺らめく闇の爆風と共に王座の背後の壁に勢いよく背中を叩きつける。
怒りに表情を歪ませたベイガスから距離を取ると、壁に背中をつけながらベイガスは胸元辺りに激しく赤い光をちらつかせた。
「はぁぁっ」
するとちらついた赤い光は広範囲に広がりながら、瞬時に赤い球として形作られた。
何だ?
そして直後におおよそ20を越える全ての赤い球から、一斉に太いレーザーがこちらとレイに降り注いだ。
「くそぉぉ」
レイは翼を閉じる間も無く赤いレーザーの雨に打たれていく。
ブースターを使い飛び上がるが、瞬く間に飛び交った赤い球に周りを囲まれると、すぐに全包囲から赤いレーザーが体中に打ち付けられていった。
くっ・・・これは、まずいな。
間もなくしてレーザーは止み、赤い球は自然と消えていったが、その短い間でも衝撃は体に強い余韻を残していて、床に着地して後ろを見るとレイは力無く床に倒れ込んでいた。
「レイ」
立ち上がりながら呼びかけると、レイはすぐに動き出した。
「・・・くそぉ」
ふらふらと立ち上がり始めたレイはすぐに崩れ落ちるが、片膝をつきながらもベイガスを力強く睨みつける。
するとベイガスはまっすぐ立ちながら、睨み返すようにそんなレイを見下ろした。
相当なダメージだな。
今なら一瞬でも問題無いかも。
いや、敢えて囮になれば・・・。
「レイ、さっきのあの槍出せる?」
「・・・あぁ」
返事をした後に素早く深呼吸すると、レイは力むように表情を歪ませながら立ち上がり始める。
「しぶといな、エニグマよ」
その時に急にそう呟きながら、ベイガスがこちらに顔を向けた。
「あ、どうも」
とりあえず返事をしてからブースターを全開で噴き出し、絶氷槍をベイガスに突き出した。
ベイガスは赤い光の盾で防ぎながらも反動までは完全に殺せず、勢いよく壁に背中を叩きつける。
すぐにもう1本絶氷槍を出し、片翼に貫通させながら氷の槍を壁に突き刺すと、翼に貫通した槍に目を向けたベイガスは驚くような表情をかいま見せる。
氷の槍の形を残したまま槍から手を抜いて片翼の動きを封じ、後ろに飛びながら絶氷弾をベイガスに向けて数発撃ち込む。
ベイガスは赤い光の盾で氷の弾を防いでいくが、その間に滞空しながらもう片方の翼に絶氷弾砲を撃ち込むと、その片翼は壁に張りつくように凍りついた。
これで翼は動かせないだろう。
動きを封じられたベイガスを見ながらレイが手に闇を集め始める。
「おのれぇぇ」
ベイガスが怒り、声を荒げながら赤い光を体中に纏っていくと、翼に刺さった氷の槍も、もう片方の翼に張りついた氷も、一瞬で砕き、弾き飛ばした。
「調子に乗るなぁっ」
そしてベイガスは胸元にちらつかせた赤い光を辺りにばらまいた。
来たっ。
その光は瞬時に無数の赤い球にまとまり、こちらに向けてレーザーを撃ち出していく。
「氷牙ぁっ」
レイの叫び声が王間に響くが、無数のレーザーはすぐに体全体を叩き付ける衝撃音でその声を掻き消すと同時に、とてつもなく凄まじい衝撃を体中の内側にまで響き渡らせた。
極点氷牙、氷結!
周囲の空気を急激に凍りつかせながら更に強固な鎧を纏い、同時に全包囲に向けて超低温の衝撃波を発生させる。
視界を覆う微かに青白く色づいた膜は一瞬にして無数のレーザーを押し退け、すべての赤い球を消し飛ばし、そしてベイガスを勢いよく壁へと押し付ける。
「今だっ」
床に降り立つと同時にレイの投げ飛ばした闇の槍がすぐ横を通り過ぎていくと、弾丸のように回転しながら闇の槍はベイガスの胸元に向かっていった。
「うおぉっ」
しかしベイガスはとっさに赤い光を纏った両手で、その闇の陽炎を激しく揺らめかせる闇の槍を受け止める。
「極点氷槍・龍牙」
その間に肘から手の先にかけて更に氷の鎧を槍状に構築する。
「奥義」
槍の根元に紋章を出し、矛先をベイガスに向けながら腕を引き下げ、狙いを定める。
「龍ノ咆哮」
そして槍を前に突き出すと同時に槍の根元にある紋章から、槍の形をした氷が弾丸のようにベイガスの胸元目掛けて撃ち出された。
「ぐおぉおお」
青白い氷の槍が澄んだ闇の槍の真ん中に入ると、闇の陽炎は青白い旋風と同調し、凍りつきながら空気に溶けていく黒い粉雪となって辺り一面にはかなく散っていく。
ベイガスの胸を貫通していったと同時に青黒い槍が形を失い消えていくと、その場に倒れたベイガスの辺りには、日光に反射していく黒い粉雪だけが、まるでベイガスを弔うかのように優しく煌めいていた。
「・・・やったか」
そう呟いたレイがベイガスの下に歩み寄ると、ベイガスを見下ろしながら立ち尽くしたその背中は、純粋な寂しさを感じさせた。
「・・・はっ・・・はっ・・・」
胸元に大穴を開けられたベイガスは今にも消え入りそうな虫の息で、天を見上げる目も虚ろだった。
「ベイガス・・・」
レイが立ち尽くしていると、半分消し飛んでいた胸元にあるひし形の赤い宝石のようなものが更に砕け散り、そしてベイガスは動かなくなった。
「・・・終わったか」
小さく呟くと共にどこか安心したような表情を浮かべたレイは翼を消し、元のローブ姿に戻った。
天使と死神が混ざったような人達よりも断然強かったし、ハルクもベイガスも、この赤い宝石によって力を得ていたのかな。
「その姿は、翼の解放と同じような感覚なのか?」
「まあね」
するとレイはふと何かを思い出したような微笑みを見せる。
「お前も俺と同じ技を使うなんてな。戻ろう、あいつらも終わってるだろう」
そう言うとレイはそそくさとエントランスに向かって歩き出した。
「あぁ」
ベイガスは、このままで良いのか?
鎧を解いてレイの後について歩き出しエントランスに戻ると、階段の下には先程の女性達が、何やら妙に落ち着いた物腰で座り込んでいた。
翼が無いから、元の姿に戻ったみたいだな。
階段を降りたときにふと2人のひそひそ話が聞こえてきた。
「まさかあの死神も倒しちゃうなんて」
「そうだよね、もう私達だけじゃ反乱なんて無理だよね」
諦めるのが早いな。
心変わりでもしたのだろうか、何となく2人からは先程とは違うような、どことなくハルクよりもベイガスに似た雰囲気が漂っていた。
「おい」
レイが立ち止まり、2人に話しかけると2人は黙ってレイに顔を向ける。
「死神の反乱の動機は分かるが、あんたらに不満なんかあるのか?」
確かに進んで反乱するようには見えないな。
まぁいくら天使でも不満くらいはあるだろうけど。
「・・・そういえば、無いね、不満なんて」
左側の女性がそう言いながら2人が向かい合うと、右側の女性も応えるように黙って頷く。
「無い?じゃあなんで反乱なんてしたんだ?」
レイがそう聞くと2人は再び顔を見合わせたが、2人は揃って小さく首を傾げた。
「よく分かんないけど、何だかさっきまで自分が自分じゃないような気がしてたかも」
「そうだよね、何かすごく頭がぼーっとしてて、よく覚えてないよね」
何言ってんだこの人達。
自分が自分じゃないような気がしてた?
よく覚えてない?
「今は違うの?」
「うん、今はさっきより体が軽いよ」
極天の読み方は相当後の話の会話で出てくるので、とりあえずここで書いておきます。
極天氷牙の極天は、キョクテンではなく、ゴクテンです。絶氷牙はゼツではなくゼッヒョウガですか。
漢字の後にふりがながあったりするの、少し苦手なんですよね、僕。笑
なんでこういう場所で説明した方がいいのかなと。
ありがとうございました。




