アイスファング・アンド・カオス2
エナが声を上げたのですぐに絶氷弾砲をハルクに構えると、突如怒りに顔を歪ませたハルクの周囲一帯に白黒の水しぶきが勢いよく吹き込んだ
おっと・・・。
思わず顔を背けてしまったのですぐにハルクに目線を戻すと、ハルクは光と闇の球を携えた掌をエナに向けていた。
あっ。
その瞬間に1人の天使が放った光の球がハルクの腕に当たり、ハルクが放った光と闇の球はエナのすぐ横を通り過ぎる。
「くそっ」
すぐさまハルクに絶氷弾砲を連射すると、吹き飛ばされながら立て続けに直撃を受けたハルクは、氷の破片が激しく散らばる爆風と共にそのまま寂れた街中に消えていった。
悪いね。
ハルクはよそ見した方が良かったかもね。
「氷牙少佐、お見事です・・・あっ」
おお・・・。
盛大につまづいたエナに歩み寄り、エナの腕を掴むと、こちらに顔を向けながら照れ臭そうに笑みを零すその表情からは強い疲労感が伺えた。
敵は2人だしな。
「僕はあっちに加勢するけど、エナ達は休んでた方が良いんじゃない?」
「はい、じゃあ少し休ませて貰います」
ホルス大尉達の下に向かう途中に、何やら瓦礫にうなだれるように座り込んでいるミレイユに近づいてみる。
「ミレイユ」
鎧を解いて話しかけると、ミレイユはゆっくりと顔を上げた。
ヴィルは無事に意識を取り戻してホルス大尉達と共に戦っているみたいだな。
「・・・ハルは?」
ハルクが飛んで行った方を指差した。
「・・・殺したの?」
その顔からすると戦意を喪失してるみたいだな。
「分からない」
「ハル、戻る気が無いなんて・・・私・・・」
そんなにショックを受けるなんて、確かに傍から見てて2人の距離感はすごい近いように見えてたけど。
「とりあえず全部終わるまでそこに居れば良いよ」
小さく頷いたミレイユを後にして敵を見ると、2人がローブの上から着ている鎧は、天使のものとも死神のものとも言えるようなものだった。
「氷牙」
ふとこちらに顔を向けたレイと目が合うとすぐに呼びかけてきたので、レイの方に駆け寄る。
「ここは任せて俺らは城に入るぞ」
確かに人数は足りてるかな。
「分かった」
大きさの割には軽い扉を開けて城に入ると、今の魔界と同じような広さのエントランスの中央には、2人の天使の女性が待ち構えていた。
双子かな。
「死神と・・・人間?」
右側に立つ女性が首を傾げながら口を開く。
「何で人間が居るの?」
すると続いて口を開いた左側の女性も、右側の女性と同じように首を傾げた。
「戦えるからかな」
「ふーん」
「1つ聞くが、その後ろの扉の先に首謀者が居るのか?」
外側に向けて緩やかなL字型に曲がった刃が付いた、鉄製の小さなグローブのようなものを携えながら、レイは強気な口調で2人に問いかける。
2人の背後には一際豪華な扉があり、2人はまるでその扉を守るように立ちはだかっている。
「もう居ないよ」
すると2人は表情を変えずに声を揃えた。
「もう居ない?じゃあどこに行ったんだ?」
顔を見合わせた2人は、小さく首を傾げるとすぐにレイに目線を戻した。
「色んなとこ、かな」
色んな・・・?
この世界には2つの国以外に国は無い、はず。
もし人間達が異世界から来た者達なら、人間達はハルクのような奴らを連れて異世界中に侵略にでもに行ったってことか。
「じゃあ君達は何をするの?」
「・・・三国と死神の国に、反乱かな?」
右側の女性が応えると、左側の女性は黙って小さく頷いた。
とりあえず止めるしかないか。
「悪いけど邪魔するよ」
「出来るものならやってみなさいよ」
左側の女性がそう言うと2人は翼を広げて体を包んだので、絶氷牙を纏うと、レイもローブの上から翼を広げ、翼の解放とやらをした。
2人が翼を広げると、天使と思われる2人の首から下の全身を覆う白い鎧の所々は、黒くいびつに変化していた。
「ちょうどいい、1人ずつ相手するか」
「あぁ」
レイが左側の女性の方に向かったので、ブースターを全開で噴き出し一気に距離を詰めながら回転し、尻尾を右側の女性の脇腹に叩きつけた。
「あっ」
吹き飛ばされた右側の女性を見た左側の女性がこちらに向かって飛び出そうとするが、すぐさまレイが邪魔をするように左側の女性の前に立ちはだかる。
あっちはレイに任せようか。
吹き飛んだその女性は立ち上がると両手に闇を集め、直後にその両手を手袋のように更に厚くいびつな鎧で覆った。
この女性は弓じゃなくて格闘派なのか。
女性が飛んでくると殴り掛かってきたので拳を紋章で受け止めたが、女性は左足で着地すると、すぐにそのまま浮かせていた右足でこちらの腹を蹴りつけてきた。
すると女性は後ずさりしたこちらに向けてすぐに追い打ちをかけてきて、みぞおちに拳の直撃を受けると、衝撃の強さに体は勢いよく後ろへ飛ばされた。
いくら鎧が丈夫でも、こればっかりは武術の差か。
「そんなものなの?」
立ち上がったこちらを見据えながら、女性は見下すような目付きでそう口を開く。
今度ミサにでも空手を教わろうかな。
「どうかな」
ブースターを全開で噴き出し、女性の胸元目掛けて膝を突き出したが、女性は更に闇を纏った手で押されながらもこちらの膝を受け止める。
すぐにその場で回転して尻尾を振り回したが、女性に尻尾を掴まれるとそのまま勢いよく床に叩きつけられた。
そして女性は尻尾を掴んだまま掌に闇を集め始めたので、尻尾の先に紋章を出し、女性の腹辺りに絶氷弾を撃ち込む。
女性が尻尾を放した時に両手に紋章を出し、3つの紋章から女性に向けて絶氷弾を乱射する。
しかし氷の爆風が空気に溶けて視界が晴れてくると、そこには交差する腕に纏う濃い闇に守られた、無傷の女性が立っていた。
何だって?
「ぐあっ」
その時に後ろの方からレイの声と床に倒れ込む音がしたので立ち上がり、レイの方を見ると、レイはすでに立ち上がり体勢を立て直していた。
「ミントっ」
レイと戦っていた女性がもう1人の女性に呼びかけると、遠くの2人がお互いに掌を向ける。
すると瞬時に2人の手から稲妻のように闇がほとばしり、2人の手を繋ぐと、瞬く間に2人を繋いだ闇の線の中央辺りに巨大な闇の球が作り出される。
でかいな・・・。
そして更に膨張したその巨大な闇の球は、身構えながら後ずさりしたレイに向かって、まるで恐れをなした敵にも躊躇なく刃を突き出すが如く襲い掛かった。
すぐにブースター全開で巨大な闇の球に横から体当たりすると、少し軌道がずれたのか、球がレイに直撃せずに真横の床に落ちたのがかろうじて分かった。
漆黒に色づいた凄まじい風圧に体が押し潰される中、ふと周りの景色が意識から遠退くような感覚がしたと同時に、激しく吹き荒れる闇の向こうに1人の女性の姿が見えた。
とっさにその女性に向けて絶氷弾砲を撃つと同時に、闇の嵐を巻き起こした爆風はそよ風と化して空気に溶けて消えていった。
「ライムっ」
もう1人の女性が吹き飛ばされた女性にそう呼びかけながら駆け寄る。
「無理すんなよ」
呆れたような表情を見せながらもこちらの脇の下を掴むレイに、ふとどことなくアリシア達から感じた優しさに似たものを感じた。
「悪いね」
そういえば、何で死神とか天使とかに分けられたんだろう。
多分本質的な感情とかは人間と変わらないと思うけど。
女性達に目を向けると、2人は背中合わせに立ちながら、1人は左手、もう1人は右手をこちらの方に向けていた。
「また何か出んのか?」
少し姿勢を下げながらレイが下に向けた掌に闇を集め始めると同時に、2人の女性の手にも渦巻くように闇が集まり始める。
直後に女性達の闇が1つになり渦巻く闇の勢いが増すと、その闇から弾丸のように回転する太い闇のビームが放たれた。
とっさに紋章を4つ四角形の辺の位置に出して盾を作り、ブースターを全開で噴き出しながら、レイの前に飛び出してその闇のビームを受け止める。
「氷牙っ」
「いいから早く」
跳び上がったレイが、2人に向けて氷槍のような形に作り上げられた闇を投げ込むのが見えると、紋章にぶつかりながら辺りに広がる闇の勢いが増し、同時に紋章に亀裂が入り始める。
紋章が砕けると、視界は漆黒に染まり、そしてすべての音が遮断された。
「おいっ大丈夫かっ」
レイの声が聞こえると、すぐに意識がはっきりとしたものになったので体を起こす。
ふと自分の体に目を向けてみると、胸元から膝元にまで、まるで1つの巨大なドリルか何かで掻き回されたように深く削り込まれた跡が残っていた。
絶氷牙にここまでするとは。
「問題は無いよ」
そう言って立ち上がり、すぐに鎧の傷跡を消していく。
傷口の底から湧き出るように形成されていく鎧が、見る見る内に傷の形をすぼませていく情景に、レイは呆気に取られてた。
「・・・え?ど、どうやった?」
「この鎧は氷で出来てるから、空気中の水分でいくらでも直せるんだよ」
「何だ・・・驚かすんじゃねぇよ、まったく」
レイはこちらの肩を叩くと、安心したような表情を見せながら背を向けていった。
「あの2人は?」
倒れたまま動き出すような素振りを見せない2人に目を向けてみると、レイもそんな2人を見ながら、若干の安堵感がある小さなため息をつく。
「槍自体は当ててないから、死んではないだろう」
「そうか」
風圧だけで気絶させられるなんて。
「じゃあ、あの部屋に入るか。居ないとは言っていたが、一応見て置こう」
「分かった」
中央に作られた、堂々とした威厳の感じる広い階段を上がり、その先にあるいかにも王間に続いていると思わせるような、分厚い扉を開けて中に入る。
そこは真っ直ぐな道のりをした、何の変哲もない王間そのものだった。
死神の国の王間より、横幅が倍くらい広いな。
色が抜け、月日の経過という名の足に踏み潰された風化した絨毯の先に、ふと小さな人影があった。
奥に誰か居るようだ。
「いくぞ」
「あぁ」
かなり高い位置の窓から漏れる日光が優しく見下ろす、まるで手がつけられずに丸ごと風化したようなその王間に、何となく神秘的なものを感じた。
半分まで進むと一旦足を止め、その人影を眺めるが、錆びれた王座を見つめているその空虚さを纏う背中に、ふとどこかで見たような感覚が頭を過ぎった。
「おい」
「・・・レイか」
何故俺の名を・・・。
聞き覚えのある声を発したそいつが、ゆっくりとこちらの方に振り返る。
「・・・ベイガスっ・・・お前だったのか」
しかも、すでにさっきの三国の兵士と同じ格好だ。
それにしても胸元にある赤い宝石のようなものは一体・・・。
「もう1人は何だ?エニグマにしては小さいな」
ベイガスはヒョウガに目を向けるが、透き通るような青白い鎧に全身を包んだその奇妙な姿にも、ベイガスは全く表情を変えようとしない。
「新種かもよ?」
氷牙ってこんな状況でも冗談を言う奴だったのか。
「新種?・・・喋るエニグマか」
そういえばベイガスも真面目な顔して冗談に受け答えるような奴だったな。
面倒臭い奴らだ。
「ベイガス、その姿は一体何だ?」
一瞬の沈黙の後、ベイガスは目線を上に向ける。
「・・・古文書に書かれている、俺達の起源となる堕混、多分それに近いものだ」
「まさか・・・いや、だけど何故そんな姿になったんだ?お前達がついて行った人間が関係してる訳じゃないんだろ?」
「そのまさかだ。人間達が俺や三国の兵士を堕混にした」
「何だって?」
あの人間達が・・・一体どうやって・・・。
「堕混って?」
ヒョウガが口を開くと、ベイガスは敵意や殺気のない落ち着いた眼差しをヒョウガに向ける。
「天使と悪魔、そして死神は元はひとつの存在で、この世界には最初、お前達のような人ではないもの、すなわちエニグマと、俺達のような人の姿をしたもの、マンキンド、この2つの存在しかなかった」
元はひとつ・・・?
天使や死神が?
「月日が経ち、マンキンドは様々な文化に分かれて自らを天使や死神と名乗り始め、異文化間での戦争を繰り返した。だが最初の戦争を終わらせたのはどの部族でもない、3つの部族の特徴的な力を持ち合わせた存在だった」
極力ルビを振らなくてもいいようにしてるつもりです。主人公の目線の違いや、重要な会話シーンで分かるかと思います。恐縮です。笑
ありがとうございました。




