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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第二章

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アイスファング・アンド・カオス

「それ忘れてたな。まぁそうなったら何とかするしかないだろ」

頭を掻き始めるホルス大尉だが、それでもその表情からはまるで緊張感を感じさせなかった。

しばらく歩くと前方に数人の死神が立っていて、先頭にはレイと呼ばれた最初に会った死神が居た。

「お前・・・ちゃんと生きてたみたいだな」

レイはこちらを見るなり少し安心感に似た表情を見せながらそう口を開いた。

「まあね」

「あ?知り合いか?」

するとホルス大尉がすぐにそう問いかけてくる。

「まぁ、知り合いの知り合いってところかな」

アリシアの知り合いとは言えないしな。

「そうか。それより5人か?」

「あぁ、手紙届いただろ?俺ら王派は少数派なんだ。こっちから話を持ち掛けたのに少なくて悪いな」

「いや、いいんだ・・・じゃあこれ」

どことなく戸惑った表情を見せながら、ホルス大尉は女王に渡された物をレイに渡す。

「ああそうか、悪いな」

快く受け取ったレイはすぐにそれに腕を通し、ゴムのように緩く締め付ける紋様の刻まれたバンドを肩まで引き上げていく。

同じ軍の印ってとこか。

そしてバンドを着け終えたレイは後ろの兵士達にもそのバンドを渡していく。

4人の死神がバンドを着けるのを見届けてから、レイはホルス大尉に体を向き直した。

「よしじゃあ行こうぜ」

「あぁ」

そして死神兵を加えた三国の精鋭部隊が新勢力の拠点に向かって歩き出す中、何となく死神と三国の兵士達がお互いに顔を見合わせていくのを眺める。

「俺はジンバーセ・ホルスだ。階級は大尉」

「あぁ、俺はレイ・グリース。俺も大尉だ」

歩きながらホルス大尉と軽く握手した後、レイはすぐに戸惑いの眼差しをこちらに向けてきた。

「えっと氷牙だよな、こいつも連れて行くのか?」

「あぁ、こいつは女王様直属の少佐だからな」

親指をこちらに差しながら、ホルス大尉はいつもの呑気そうな表情と気楽そうな口調で応えている。

「何だって?少佐?確かに普通の人間じゃないようだが、無心兵を追い払っただけだぞ?」

「いやいや、こいつはエニグマを1人で倒せるんだと」

「何だって?1人で?・・・まぁ、それなら大尉と同等の力はあってもおかしくないかもな」

納得したように頷くレイを見たホルス大尉は満足げな表情を浮かべると、ホルス大尉は更にレイに親しみを向けるような笑みを見せていく。

「戦力には変わりないだろ?」

「まあそうだな。そういや何故反乱軍が生まれたか知ってるか?」

「そんな事知ってるのか?」

ホルス大尉は驚いた表情を見せながら聞き返すが、今度はレイが自信の伺える親しげな微笑みをホルス大尉に返していた。

「あぁ、ある時突然、3人の人間が死神国に現れたんだ」

3人の人間・・・その人達も下から来たのかな。

「そっちにも下界の人間が出たのか」

「下界?そう言われればそうかも知れないが、まぁ人間達は新しい力が欲しいならついて来いと言って、反乱を望んだ死神達と共にすぐに消えて行った」

新しい力?

しかもついて来いだなんて、あの人間とは考え方が違う人間達か・・・。

「おいおい、反乱を望む奴らをみすみす見逃したのか?」

ホルス大尉が少し問い詰めるようにレイを見るが、レイは怒りではなく、落胆したような表情をホルス大尉に返した。

「いや、人間の力には敵わなかった。どうすることも出来なかったんだ」

「何だそれ・・・」

どういうことだろう。

下界の人間とはお互いに武器が効かないはず。

なのに敵わなかった?

「注意した方がいい。相手はただの天使や死神じゃないかも知れない」

もしかしたら全く別の世界から来たってこともあるかも知れないな。

僕みたいに。

「そうか、戦う前にそれが知れて良かったよ」

でも僕と同時期に下界じゃない別の世界から人間が来るなんて、いや、おかしくはないのか。

もしかしたら僕の世界の人間かも。

「あれが潜伏拠点だ。気を引き締めろよ」

ホルス大尉の言葉に、ホルス大尉自身やレイ、他の兵士達も皆表情を引き締めていく。

そして少し進むとすぐに木々の向こうに古びた城の様な建物が見えてきた。

「あの城は?」

でもあれはもう廃墟みたいになってるけど。

「あれは旧魔城だ。天使と同盟国になる時に、新たに天界のそばに新しい魔界を作ったんだが、ここは取り壊さずに放置することにしたらしい。まさかここに潜んでいたとは」

ガルーザスの説明が終えると皆は寂れた門の前に立ち止まり、時間の経過というものを凄まじく物語る門の向こうを見据える。

ということはここは旧魔界ってことか。

同盟国になってから何百年か経ってるって言ってたし、あんなになっててもおかしくないか。

旧魔界に入るとずっと向こうにまた門が見えると共に、辺りに疎らに建つ寂れた建物は、手入れがされずに伸びきった草木に覆い尽くされていた。

建物の多さから見ると、ここは恐らく居住区だな。

「ホルス大尉、敵は城でしょうか」

周りを見渡しながらエナが静かに口を開く。

「恐らくな」

ホルス大尉が呟くように応えると、兵士達は警戒しながら各々辺りを見回り始めた。

外壁や道の曲がり具合から見て、きっとドーナツ状に居住区があり、真ん中に城がある形なんだろう。

遠くからでも城にツタが絡まっているのが分かる。

全員が城へ続く門に向かい始めたとき、突如城へ続く大きな門が錆び付いた金具を動かすような鈍い音と共に勝手に開き出した。

「何だ?」

兵士達が足を止めて身構えると、開いていく門の向こうには3つの人影があり、2人が門を開けていくに連れて徐々に日光が真ん中に立つ人物を照らし出していく。

「ハル?」

ミレイユの声が乾ききった空気に満ちた旧魔界に響いたとき、真ん中に立つその人影がハルクだと確認出来た。

あの2人はローブを着てるし、死神だろう。

門が開き切ると3人は颯爽と歩きだし、そして城への道を塞ぐように兵士達の前に立ちはだかった。

「ハルっ」

再びミレイユが叫ぶと、ヴィルはミレイユの腕を掴み、走り出そうとしたミレイユを制止する。

「ジンか、意外と早く来たんだな」

何だか、ハルクの雰囲気と目つきが前とちょっと違うな。

「ちょうど良いか、俺達も今から出るところだったからな」

ハルクがふとこちらに顔を向けてくると、狂気に満ちた眼差しで睨みつけてくると同時にその口元をゆっくりとニヤつかせて見せる。

「氷牙、お前も居たか」

「まあね」

するとハルクはその眼差しに宿る狂気を更に尖らせ、同時にニヤつかせた口元を素早く元に戻した。

「・・・俺はこの時を待っていた」

その直後、ハルクから白い翼が勢いよく生えると同時に、水が沸き立つように現れた黒い光がハルクの全身を優しく纏っていった。

「翼っ解放っ」

翼がハルクを包むと同時に、ハルクの周囲一帯に黒と白の光を渦巻かせながら強い風が吹き荒れると、ホルス大尉やミレイユ達は皆強風に怯むように少し身を屈めた。

そして翼が広がると、ハルクは白黒の分厚い鎧で包まれていて、胸元には赤く反射するひし形の宝石のような何かが埋め込まれていた。

「ハルっ」

表情から態度まで変わり果てたような雰囲気を感じさせるハルクに再び強く呼びかけながらミレイユが前に出る。

「悪いな、ミル」

同時にハルクは胸に手を当て、剣を取り出した。

「もう戻る気はないんだ」

呟くようにそう告げたハルクが光と闇を纏わせた剣を水平に振り抜くと、一瞬にして光と闇が混ざり合った衝撃波の大波が皆に襲い掛かる。

とっさに絶氷牙を纏うが、まるで本当の津波に呑まれたかのような重たい衝撃で、ブースターを噴き出しても身動きがとれなかった。

やがて波が通り抜けていくと体が軽くなったので、立ち上がるとすぐにミレイユの声が遠くから聞こえてきた。

「ヴィルっ・・・ヴィルっ」

結構遠くまで流されたみたいだな。

その場を見渡すと辺りの木や建物はすべて薙ぎ倒されていて、兵士達の半数も瓦礫や木片と共に地面に倒れ伏していた。

ヴィルはミレイユをかばったみたいだな。

「ヴィル・・・ハルっどうして?」

倒れたヴィルの横に座り込み、ハルクに向かってミレイユが叫んでいると、ホルス大尉とガルーザスが前に出てハルクと対峙する。

「・・・お前、何やってんだよっ。こんなことのために、そんな力を望んだのか?」

ホルス大尉の声が遠くで響いたとき、小さく身を屈めたハルクから狭い範囲の周囲に凄まじい白黒の水しぶきが噴き出した。

「おわっ」

ホルス大尉達が顔を背けながら身を屈めると、ハルクはまっすぐこちらの方に飛び出し、光と闇を纏った剣を振りかざした。

絶氷槍でその剣を受け止めると、ハルクは素早く回転し、胴を狙って剣を振り出した。

とっさに紋章で受け止め、ブースターで反動を相殺しながら絶氷弾を撃つ。

しかし近距離で直撃を受けたにも関わらず、ハルクは怯みもせずこちらの腕を掴むと、素早く剣を振り上げた。

光と闇の衝撃波に呑まれ、白と黒に視界が覆われた中、轟音と共に瓦礫や木々に激突していく衝撃が体中に響き渡る。

その中で、ふとハルクの笑い声が聞こえたような気がした。

衝撃波が消え去ったので立ち上がり、ハルクの方に顔を向けると、ちょうど他の兵士達がハルクに向かっていっていた。

しかし次々と切り掛かっていく兵士達を軽々と立ち回って捌いていくと、兵士達を見据えながらハルクは再び剣に光と闇を集め始めた。

ブースターを全開にして噴き出し、ハルクに近づきながら絶氷弾砲を撃つが、再び氷の弾の直撃を受けたにも拘わらず、ハルクは少し吹き飛んだだけですぐに立ち上がり始めた。

「氷牙少佐、大丈夫ですか?」

ハルクから距離を取り、素早く弓を構えながらエナが声を掛けてくる。

「あぁ」

立ち上がったハルクは一瞬だけ動きが止まるが、すぐに腰を落とし、剣をゆっくり引き下げながら剣身に光と闇を纏わせ始めた。

ハルクはまたさっきの津波を出す気だな。

剣が振り出される前にブースターを噴き出して飛び出し、剣が振り出されたと同時に絶氷槍を剣に向けて思いっきり振り下ろす。

光と闇を纏った剣と氷の槍がぶつかったその瞬間、氷が砕ける音が響き渡ると同時に氷の破片が宙を舞い、そして再び光と闇の津波のような重たい衝撃波に飲み込まれた。

絶氷槍が・・・砕けた。

白と黒だけの視界と、激しい水流を思わせる音だけが感覚を支配する中、ブースターを全開にして噴き出し、体で津波を受け止めていく。

レイが見た人間達は、一体ハルクに何をしたんだろう。

衝撃波が自然に消えていくと波の音も引き、間もなくして視界が晴れたとき、目の前にはすでに大きな光と闇の球を掌に携えてこちらに飛び込んできているハルクの姿があった。

まずいな・・・。

押し付けるようにぶつけてきた光と闇の球を紋章で受け止めると、その球は紋章にぶつかった衝撃で破裂すると同時に、辺り一面に光と闇を水しぶきのように広げ、再び視界からハルクの姿を消していく。

足を踏ん張り、紋章を前に突き出したと同時に姿を現したハルクは、すでにもう片方の掌に作り上げていた光と闇の球をこちらの懐に向けて突き出していた。

しまっ・・・た。

気がつくとみぞおち辺りに衝撃を受けた感覚は遠くなっていて、体はすでに激しい水しぶきと共に宙に投げ出されていた。

絶氷牙で、押されるなんて・・・。

ブースターで反動を消して体制を立て直していき、地面に降り立ちながらハルクに目を向ける。

この水気は厄介だな、衝撃が重たい。

「何故立ってられる?」

このままじゃ埒が明かないし、一気にでかいのを叩き込むしかないか。

「我慢強さには自信があるんだよ」

一瞬だけならいいか。

「そうか」

ふとホルス大尉達の方を見ると、ホルス大尉達は残りの死神と思われる2人の敵と戦っていた。

「よそ見するなよ」

そう言われたので目線を戻すと、ハルクは何となく違和感を感じる眼差しでまっすぐこちらを睨みつけていた。

「何で力を望んだの?」

「分からない」

分からない?

自分で望んだんじゃないのか?

「今は何も考えられない・・・」

そう言うとハルクは妙に遠い眼差しでこちらに真っ直ぐ剣を向けながら、剣先に光と闇を集め始める。

まずいな。

その直後にどこからともなく降り注いだ1本の矢のような光がハルクの腕に当たると、ハルクは思わず剣を手放し、剣は空を切りながら宙を舞った。

「ぐあっ」

誰だ?

「氷牙少佐っ」

三国の兵士達には基本的に大尉以上の階級を与えられることはない。三国の兵士達にとって、階級はただ年功の序列を分けるための名前に過ぎない。

天魔女王が何故氷牙を少佐にしたか、それはただお客さまだから、ということです。

ありがとうございました。

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