シークレット・ミーティング2
これまでのあらすじ
女王直属の兵士として過ごしていく中、兵士が行方不明になる事件が起こり、そして行方不明の兵士達が潜むと思われる拠点に赴くことになる。
「あぁ、それで頼めるかな?」
「はいっ」
続いて全員の注文を聞いたリコリスはどこか嬉しそうにすぐに厨房へと去って行った。
「エナも大変だね」
「いえ、こういう事は慣れてます」
お酒を飲んでない訳じゃないみたいだ。
よく見ると頬や耳が若干赤くなっている。
強いのかな。
「氷牙って、よく見れば変わった格好だよねー」
するとにたっと笑うミレイユの服がずれ、右の鎖骨があらわになった。
「まぁお互いね」
「えー?・・・あっちょっとホルスさん、何見てんのー?」
自分の服を有様を見たミレイユは肌を隠すようにずれた服を戻しながら、ホルス大尉に顔を向ける。
「そりゃあ見るだろぉ男なんだから」
「もーやだー・・・あっ来た来た」
料理が運ばれてくるとリコリスに任せた料理は最後に運ばれた。
「これはカルテスコルのテールステーキです。ソースは私が考えました」
ステーキよりも、この付け合わされた見たことのない食べ物の方が気になるけど。
「そうか、ありがとう」
1つはオレンジ色のアスパラガスに似たものだが、もう1つの付け合わせは玉葱をスライスしたような形で、外側から内側にかけて虹色のグラデーションになっている。
とりあえずお肉にナイフを入れ、ソースを絡めて口に運んだ。
まるで滝のように爽やかな柚子に似た香りが口の中に広がり、そのまま溢れるように鼻から抜けていく。
その後に若干の胡椒に似た辛みが効いてくるが、その辛さは逆に肉そのものの味が引き立たせた。
お肉にも独特の甘みと酸味があるみたいだ。
「今回は香り重視にしてみました。どうですか?」
感想が気になるのか、リコリスは持ち場に戻らずにその場に立っていた。
「うん、僕はすごい良いと思うよ」
「やったぁ」
リコリスは満面の笑みで喜ぶと、弾むような足取りでテーブルを離れていく。
「氷牙ぁ?」
すると緩んだ笑みを見せながらミレイユが絡んできた。
「その黄色いソースおいしそうだねー、ちょっとちょうだーい?」
「あぁ」
向かいの席から手を伸ばしたミレイユはスプーンでソースを掬い、口の中に運ぶと、少しの間目を閉じた後に鼻でゆっくりと深呼吸した。
「んー・・・」
そして唸った後にようやく目を開けたミレイユの目は、どことなく気が抜けたようなものになっていた。
「おーすごーい・・・爽やかすぎて、酔いが醒めちゃった」
ミレイユは目を見開き手で軽く口を押さえながらソースを見つめる。
なるほどそれはあるかも知れない。
「ミレイユ、これ、何て言うの?」
虹色の何かをナイフで差した。
「それはマカネリだね。おいしいよ」
「そうか」
マカネリとやらをフォークとナイフで挟んで引き寄せ、フォークを刺してかぶりつく。
まるで蒸した人参のような甘みとしっとり感だ。
まぁこっちで言う人参とかコーンとかの役割なんだろう。
「やべぇ・・・どうしよう。飲み過ぎた・・・頭が重たい」
夕飯が終わってもホルス大尉は椅子に深く座り込み、辛そうな顔で天を仰いでいる。
「ホルス大尉、明日は大事な任務です。どうするんです?」
まだ耳や頬が少しだけ赤いエナだが、普段と変わらないような落ち着きでホルス大尉を責めている。
「氷牙、それ」
そんな時にふとミレイユがニヤつきながら黄色いソースに指差した。
「ああそうだね」
残りのソースをスプーンいっぱいに掬ってホルス大尉に渡してみる。
「あぁー・・・ん?・・・んんーっごほっごほっげほっ」
おっと盛りすぎたかな。
「・・・ふぅ、悪ぃちょっと休ませてくれ」
ホルス大尉が目を閉じて深く背もたれると、しばらくしてリコリスが皿を下げて行った。
「じゃあそろそろ宿舎に・・・ん?」
立ち上がろうとしたホルス大尉の目線の先に何となく顔を向けると、そこにはログが立っていた。
いつの間に・・・。
「まさか・・・ずっとそこに?」
するとミレイユが驚いたような顔で口を開く。
「い、いえ、本当に今参りました」
若干焦ったように微笑むと、ログはいつものようにかかとを揃えて手を前に組みながら軽く礼をした。
「そうか、じゃあ指示が出たの?」
「そうでございます、よろしいでしょうか?」
「あぁ、ちょうど今から出ようと思ってたんだ」
ホルス大尉が立ち上がると後に続いて皆が立ち上がったので、ログの後について女王の下に赴いた。
「女王様、お待たせしてすいません」
ホルス大尉は無事に酔いが醒めたみたいだな。
「いいのよ、さっき2人の王に相談したけど、明日、新勢力の拠点に攻め込むのを許可してくれたわ」
「そうですか」
「編成に加える兵は各自ここに集まるように言って置いたから、あなた達4人も朝食が終わったらここに集まりなさい」
「はっ」
「それじゃ今日はもう戻りなさい」
「はっ失礼します」
朝食が終わったら集まるんだから、早くにここを出発するのかな。
部屋に戻ると、リビングにある黒いソファーではアゲハが寝ていた。
何度も寝返りしたせいか、服がずれて脚や胸元が大きくあらわになっている。
「アゲハ」
声をかけるが、アゲハは全く起きる気配が無くすやすやと眠っている。
テーブルに目を向けると、ジュースと割って飲むという主旨が手書きで書かれたラベルの貼られたお酒の瓶があった。
しかも空だ。
大きさは3、400ミリリットルくらいかな。
一緒に飲みたくて持って来たのだろうか。
ベッドの布団をめくってから、背中と膝の下に手を通してアゲハを抱き上げると、ベッドに寝かせ布団をかぶせた。
ループルシードを入れソファーに座り、朝が来るのを待っているといつの間にか眠っていたみたいで、扉がノックされている音でふと目が覚める。
ジュースを一口飲み、扉を開けた。
「ログか」
「おはようございます。ところで姫様を見ませんでしたか?起こしに部屋に行ったのですが・・・」
「アゲハならこっちのベッドで泥酔してるよ」
そう応えながらログを部屋に入れる。
「泥酔ですか?」
すると少し表情を引き締めたログがアゲハの下に小走りで近寄っていった。
「姫様っ・・・姫様っ」
ログはアゲハの肩を掴み、呼びかけると同時に軽くアゲハの肩を揺らす。
「んー・・・」
少しの間ログが呼びかけていると、ようやくアゲハは薄く目を開け始めた。
「・・・ぉグ?・・・ぉおしたのぉ?」
寝起きなのか、ろれつが回らないのか、それとも両方かな。
「起きて下さいっ朝ですよっ」
「あさぁ?」
ログに肩を支えられて起き上がったアゲハは、すぐに小さく唸りながら額を覆うように手を当て、その重たそうな頭を支えた。
「お待ち下さい」
種の袋がしまわれている棚を開けたログは、シエッドシードと初めて見る種類の種を取り出すと、その2種類の種をブレンドしながらジュースを作り始めた。
そしてジュースをコップに注ぐとログは忙しなく歩きだし、アゲハにジュースを渡した。
「姫様どうぞ、お飲み下さい」
「うん」
一口飲むとすぐにアゲハはジュースをログに渡して立ち上がり、ふらふらと歩き出してソファーに向かった。
「大丈夫?」
アゲハがこちらに顔を向けると、ログはアゲハの前にジュースを置く。
少しずつ表情を緩ませ笑みを浮かべていくアゲハは、最終的には何かを企んだかのような笑みをこちらに向けてきた。
「それでは朝食の準備が出来ましたらまたお呼びに参ります」
「あぁ」
ログが部屋を出たので顔を洗って歯磨きを終え、まだ少し顔色が悪いアゲハの隣に静かに座る。
「ごめんね、迷惑かけちゃって」
「構わないよ。それより気分はどう?」
「良くはないけど、さっきより悪くないよ。これ飲んだし」
コップに目を向けると、薄く黄色づいたジュースの量が先程よりもだいぶ減っていた。
「そうか。ログはシエッドシードと何かを混ぜてたみたいだけど、何を入れたの?」
「スミスミの種だよ。酔いを醒ますのに効果があるんだけど、そのままじゃ酸っぱい臭いが強すぎるから、普通はシエッドシードと混ぜて飲むの」
「そうなのか」
扉をノックする音が聞こえてくると、すぐにアゲハがこちらに笑顔を向けた。
「ログかな」
「そうかもね」
扉を開けるとログが立っていたので、アゲハと共に朝食のテーブルについた。
「アゲハ、もう酔いは醒めたのかしら?」
すでにログから聞かされていたのだろう、落ち着いた態度を見せながら女王はそう言っていつものようにメガネと本をログに渡す。
「うん、まだちょっと食欲無いけど」
「そう、なら少し食べたら部屋で休んでなさい」
そう言いながら女王は優しい母親の眼差しをアゲハに向ける。
「うん」
料理が運ばれると食事を始めるが、スープを飲み終えたアゲハはすぐに席を立ち、そんなアゲハを見送った女王は、ふと嬉しそうに微笑みを浮かべながらこちらに顔を向けた。
「氷牙少佐、内容は皆が揃ってから言うけど、今回の任務はあなたの昇進がかかった大事な任務だから、頑張ってね」
「はい」
「あら?もっと喜べばいいのに」
「いえ、僕は感情が表に出ない性格なので」
「そうみたいね」
アゲハが居たときには見せなかった気品溢れる笑みを浮かべ、小さく笑い声を噴き出しながら、女王はサラダを口に運んだ。
朝食が終わると女王と共に部屋を出て、階段を下りるとすでに迫り出した王間の下に整列していた兵士達の中に加わる。
この人達全員、三国の精鋭なのか。
間もなくして女王が迫り出した王間から兵士達を見下ろした。
「今朝、天使と悪魔の姫が一通の手紙を受け取ったのよ。その手紙は死神の王から宛てられたものだったわ」
死神の王から手紙?
しかも敵対国の姫に。
兵士達がざわめき始めるが、女王が手を下にかざすと兵士達はすぐに揃って口を閉じた。
「朝の散歩道で、いきなり使いの死神が茂みから出て来て手紙を渡したそうよ。内容は、新勢力の拠点への侵攻においての共同戦線のお誘いだったわ」
共同戦線・・・。
天使と悪魔が仲良くなれたんだから、死神とだってありえない事じゃない・・・のか?
再び兵士達がざわめき出したが、女王は再び兵士達に手をかざし、驚きと不安に包まれている兵士達を鎮めた。
「あなた達の気持ちは分かるわ。でも聞いて。手紙の内容によれば、今死神の国は王と王子の2つの派閥で分断されていて、我々が戦っているのは王子派の死神だけだそうよ」
派閥か・・・でも証拠とか無いし、もしかしたら嘘ってことも。
「死神の王にとっては戦略の1つでしかないかも知れないけれど、死神との停戦に繋がるかも知れない良い機会だと思うのよ」
停戦か、他に国も無いみたいだし、死神と仲良くなればこの世界は平和になるのかな。
「だから私はこのお誘いに乗るわ。異議を唱える者は前に出なさい・・・出れるものならね」
そう言った女王は最後に笑顔を浮かべて皆を見下ろす。
まぁ誰も出る訳ないよな、目が笑ってないし。
「じゃあまず南東に向かって死神と合流しなさい。死神の国と三国の中間辺りで待ってるらしいわよ。そしてそこからまっすぐ南下して潜伏拠点に向かうの。良いわね?」
「はっ」
兵士達の揃った返事がエントランスに響き女王が王間を出ていくと、兵士達は門の方に歩き始める。
ふと階段を下りて来る女王が見えると、ホルス大尉を引き止めた女王はホルス大尉に何かを手渡した。
「合流した時に死神の皆に、これを服につけるように言ってくれる?」
「分かりました」
ホルス大尉が掌に収まるほどの平たいものを受け取ると、女王は安堵したような表情を浮かべて階段を上がって行った。
天魔界から郊外に出ると、魔界を右手に死神の国に続くとされる踏み固められた広い道に入る。
「ホルス大尉、人数は?」
「ちょうど10人だ。まぁ死神が加わるから、20はいくだろう」
「そうか」
行方不明になった人達が確か10人くらいだったし、劣勢ではないかな。
「敵はエニグマを放つ可能性があります。同じくらいの戦力でも油断は出来ません」
エナは緊張しているような面持ちでホルス大尉を見上げるが、ホルス大尉は実力から来る余裕なのか、いつもの呑気な性格からくるものなのか、その表情は至って落ち着いたものだった。
「まぁエニグマは氷牙に任せれば問題無いだろ」
「それより例の火の玉が来たらどうする?」
するとヴィルがその低く勇ましさのある声でその場の空気を引き締めた。
ヴィランテ・バウス(29)
階級は大尉。
主に薬の材料になる果物を育てる農家に生まれる。退役したら教官ではなく、農家を継ぐことに決めているらしい。
運搬方法は無論人手に限るとのこと。
ありがとうございました。




