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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第二章

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暗雲を見上げて

困ったように眉をすくめながら微笑んで応えたウェイトレスが去って行くと、ホルス大尉は膝の上で小さくガッツポーズをしてから食器を手に取った。

「よっしゃぁ・・・うめぇなぁやっぱ」

随分と嬉しそうだな。

そんなホルス大尉を見てか、ふと目が合ったエナはモグモグしながら笑顔を浮かべていた。

「結構すいてるんだね」

「はい・・・昼ですので。夜になれば賑やかです」

「そうか」

「そういやお前、女王様と食事してんだろ?」

緊張が解けたようにお肉を頬張り、先程よりも大分リラックスした表情を見せながらホルス大尉が口を開く。

「あぁ」

「本当なんだな。やっぱり近くで見たら女王様のオーラがすげぇのか?」

直属ということだから少しは噂になってるのかな。

「どうかな。食事の時は女王様って言うより母親って感じかな」

「そうなのかぁ」

「鎧を脱いでるからかな。そういえばホルス大尉は着たままだね」

「脱ぐのは女だけだからな」

「そうか」

でもアゲハ達は脱がなかったな。

エナや女王様とは違う薄手の鎧だからかな。

しばらくして食事を終え一旦バーを出る。

「これからどうします?演習場には手がかりはありませんでした」

エナがホルス大尉の顔を見上げると、ホルス大尉は腕を組み、初めて深刻そうな表情を見せた。

「そうだな、直接行方不明者の居場所が分かる手がかりは無かったな」

空を飛んでもあの森じゃ分かりづらいか。

「じゃあ女王様に報告するか。事態は思ったより複雑かも知れねぇな」

うつむき加減で頭を掻き始めたホルス大尉に、常に落ち着いた態度を見せていたエナの表情にも深刻さが移っていく。

「そうですね。不可解なことが多いです」

そして城に戻ったが、迫り出した2階にある王座には女王の姿はなかった。

「こんな時間じゃ女王様も休んでいらっしゃるか」

「じゃあ、ちょっとログを呼びに行くよ」

「あぁ、悪いな」

階段を上がると食事をする部屋の前にはログが立っていて、呼びかけるとこちらに気がついたログは驚くような表情を浮かべながらも、すぐにこちらの下に歩み寄ってきた。

「どうなされました?」

「女王様に報告に来たんだけど」

「分かりました、呼んで参ります」

「あぁ」

迫り出した2階の下で待っていると、間もなくして王間にどことなくリラックスしたような表情をした女王が現れた。

「恐れながら戻って参りました」

そんな女王にも、ホルス大尉は少し緊張した面持ちを見せていく。

「早かったのね。どうかしたの?」

「はい、不可解な事が多く、行き詰まりまして、今分かっている事を報告しに参りました」

行き詰まったら素直に帰って来ないと、返って怒らせるかも知れないからな。

「あらそう、分かったわ。じゃあ状況を説明してちょうだい」

気品のある微笑みを見せながら、女王が手すりに肘を置いた。

「はい。まず移動手段ですが、入口から出入りした足跡しか確認出来ませんでしたし、別の道に足跡が分かれている形跡もありませんでした」

ホルス大尉もちゃんと確認してたんだな。

「そして証言にあった火の玉は恐らく入口とは逆の方向から降って来たものと思われます」

普通に考えたら演習場を裏から襲撃したことになるし。

やはり空でも飛んでたのだろうか。

「死神の移動は翼の解放、または無心兵に乗れば可能ですが、エニグマまで乗せるのは無理があります」

小さく頷きながらうつむく女王も、少しずつ表情を引き締めていく。

「また何故殺さずに連れ去るのかも理解に苦しみます」

人質にするなら、兵士より一般人の方が良いのに。

「そして1番分からない事が、何故演習場を襲撃出来たのかです。我々の意見は、情報を流した者がいる、またはすぐ近くに我々も知らない死神の拠点がある、ということですが、どちらも考えにくいです。我々からは以上です」

裏切り者なんてすぐに考えられないか。

「うーん・・・そう、じゃあ、少し遠い距離までの周辺を探って貰おうかしら。ホルス大尉、兵を集めて引き続き調査をお願いね。指揮はあなたに任せるわ」

「はっ」

宿舎に向かうとホルス大尉は真っ先に待機室と書かれた看板の掛けられた部屋に向かい、その部屋で待機している兵士を集めた。

そして会議室と書かれた看板が掛けられた部屋に入り、奥にある四角いテーブルに大きな地図を広げた。

「1班から時計回りに6班までを配置して各班この範囲を調査する。班は3人ずつだ。良いな?」

「はっ」

「拠点を見つけたら、見つからないようにすぐに戻れ。エニグマにも十分注意してな」

「はっ」

会議室を出ていく兵士達を見ているホルス大尉の横顔には、これまでに見たことのないリーダーとしての爽やかな威厳が伺えた。

「じゃあ俺達も行くか」

「あぁ」

日が暮れる前に会議室に戻ると他の班はすべて戻って来ていて、すぐにホルス大尉は地図の前に立ち班の代表から情報を集めていく。

「ありえない・・・」

ホルス大尉は近くの椅子に座り込む。

単に拠点を作ってなかったってだけかもな。

「これだけ探して何も無いなんておかしいです」

「何も無い所から現れてまた消えたってことか?」

見たところこの世界にはワープ機能を持った何かがある訳でもない。

死神に出来ないならやっぱり人間か。

でもワープが出来るとしたらわざわざ走って逃げたりはしないはずだ。

「まぁいい、女王様に報告だ。お前らは解散して良いぞ、俺とこいつだけで十分だからな」

こいつ?って、エナかな・・・僕かな。

「はっ」

「ホルス大尉、氷牙少佐、何か見つかったの?」

「いえ、何もありませんでした」

「・・・そう、おかしいわね。分かったわ、戻って良いわよ」

「はっ」

胸を張りはきはきと返事をすると、ホルス大尉はどこか落ち込むような顔色を浮かべながら宿舎の方へ去って行った。

「氷牙も戻りなさい」

「はい」

階段を登ると、王間の裏にはこちらを待っていたかのように立つ女王が居た。

「あなたはどう考えてるの?」

「状況から見たら、死神よりかは下界の人間の仕業と考えた方が自然だと思います」

小さく頷く女王の眼差しはこれまでにないほどに真剣さを帯びているが、同時にその表情は不安感を募っているようにも感じた。

「そう・・・火の玉のことは?」

「未知なる兵器を持つ人間の仕業と考えれば、つじつまを合わせることが出来ますけど、確証の無い今は無理に決めつけるのはあんまり良くないんじゃないかと思います」

「分かったわ」

女王は豪華な扉の部屋に入って行ったので、自分の部屋に戻るとソファーではアゲハがくつろいでいた。

「あ、氷牙ぁ」

するとこちらに気がついたアゲハはすぐに笑顔で駆け寄って来た。

「ピクニックは楽しかった?」

「うん」

アゲハが笑顔で応えるとすぐにソファーに連れられて隣に座らされる。

そういえばいつもピクニックしてるのかな?

「ループルシード入れてあげるから待っててね」

「あぁ」

今日は機嫌が良いな。

アゲハは機械で種を潰すときも終始微笑みを浮かべていて、ジュースを注いだコップを2つ持ってソファーに戻ってくるときも何故か上機嫌に見えていた。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

そしてアゲハは密着するように隣に座り、ジュースを一口飲んだ。

「いなくなった人は見つかったの?」

「見つからなかったよ」

「そうなんだぁ」

「死神でもエニグマでもないなら下界の人間ってことになるけど、それでも決定的な確証は無いから、まだ何も分からないんだ」

ジュースをテーブルに置いたアゲハは、ふと何かを思い出したかのようにこちらに顔を向けた。

「そういえば、アリシア達が今朝変な事を聞いたって言ってたよ」

「変な事?」

「死神の国でもいなくなった人達がいるって」

三国の行方不明者と関係あるかな?

「いつのこと?」

「確か・・・おとといだったかな」

演習場が襲撃される前日かな。

「アリシア達は誰から聞いたの?」

するとアゲハは強い意思を宿した眼差しで、こちらをまっすぐ見つめてきた。

「お母様に言わない?」

きっと最初に会った死神だろう。

「死神の国の話は女王様に言うけど、誰から聞いたかは言わないよ」

「ほんと?・・・レイから聞いたの」

「レイって、もしかしてアリシア達と仲の良い死神?」

アゲハは一瞬驚くように目を見開いたものの、どこか神妙さのある態度で小さく頷いた。

やっぱりそうか。

「他に変な事とか言ってなかった?」

「レイもね、他の死神から聞いたみたいなんだけど、人間が連れて行ったんだって」

人間が死神の国にも現れた?

やっぱりあの人間達は死神の国にも侵略しようとしてたんだ。

「氷牙、そろそろ夕食の時間だよ?」

「そうか」

アゲハに連れられ食事をする部屋に入ると、すでに鎧を脱いでいる女王は小さな丸渕の眼鏡を掛けながら本を読んでいた。

アゲハの隣に座り、しばらくして料理が運ばれるときになると、女王は外した眼鏡を本と共にログに渡した。

「女王様、ちょっと宜しいでしょうか」

ある程度食事が進んだところで話を切り出した。

「あら、何かしら?」

「行方不明者の事で何か分かりましたか?」

「いいえ、色々考えたけど・・・ダメね」

そう言いながら女王はお肉を口に入れた。

「風の噂で聞いたんですが、死神の国でも行方不明者がいるようです」

女王は眉を少し上げ、軽く驚いた表情でこちらを見るがすぐに料理に目線を戻し、お肉にナイフを入れていく。

「しかもあっちにも人間が現れたらしいです」

「まあ」

するとこちらに顔を向けると同時に、女王は声を出しながら先程よりも深い驚きの表情を見せた。

「それは本当なの?」

「断定は出来ませんが・・・」

「誰から聞いたのかしら?」

女王が問いかけてくると、すぐにアゲハはあからさまに不安げな表情でこちらに顔を向けてきた。

「それは・・・ちょっと・・・」

どうしよう、嘘はすぐ見抜かれるしな。

ふと女王がそんなアゲハに目を向けると、すぐに女王は何かを理解したかのように優しく微笑みを浮かべた。

「アゲハから聞いたのね?」

「え?」

アゲハが驚いて女王に振り向くと、女王は確信を抱いたかのようにその穏やかな眼差しの中に一筋の力強さを宿す。

やはり見抜かれたか。

「アゲハ、どうしてそんな事知ってるの?」

女王は優しく聞いかけるが、アゲハは黙って女王と見つめ合っている。

「秘密じゃダメ?」

すると女王は小さなため息をつき、少し残念がるような表情でアゲハから目を逸らした。

「・・・分かったわ」

そんな簡単に許して良いのか。

「それで、氷牙はどう考えてるのかしら?」

「下界の人間であるなら、ここと同じように侵略しようとしてるんでしょうけど、もし僕のように異世界から来たとするなら、何かを企んでるんじゃないかと思います」

考え込むように小さく眉間にシワを寄せた女王は、ふとこちらにどこか女王らしくない、より親近感のある眼差しを向けてきた。

「・・・そうね。私はあなたを信じてるけど、あなたはよからぬことは何も企んでないわよね?」

「はい。たとえ目的を果たしても、ずっと女王様の味方です」

すると少しうつむきながら、女王は緩む口元を押さえ込むような微笑みを浮かべた。

女王が照れるのは初めて見たな。

部屋に戻ると、ソファーに座ったアゲハはどこか気の抜けたような表情を浮かべた。

「死神の国にも氷牙みたいな人がいるなんてね」

「ただありえない事じゃないってだけだよ」

アゲハに応えながらループルシードのジュースを2つテーブルに置く。

「何だか、その人達ってまるで兵士達を集めてるみたいだね」

ジュースを一口飲んだアゲハの何気ないその呟きに、ふと小さな疑問が頭を過ぎった。

演習場を襲撃した者と、死神の国に現れた人間に関連性を持たせたら、今回の首謀者はやっぱり人間か。

でもそれなら何のために集めるのか。

「反乱するとしたら、三国の兵士と死神は一緒に戦うことになるけど」

「おかしくないよ、レイとだって仲良くなれたし」

そう言いながらアゲハは腕を組んできた。

いやいや、そんなことになったらまた新たな戦争が起こるのに。

でももしそうなら、さらわれた兵士達は人間の拠点に居るのか・・・。

「それじゃあたし寝るね」

「あぁ」

もし僕がこの世界に来たことで何らかの問題が起きてるなら、興味本位だけで来たのは勝手すぎたかな。

アゲハが出て行った後、そんな事を考えながらベッドに入る。

天魔女王が読書の際に使用する眼鏡は、以前ログが使っていたものだそうです。笑

ありがとうございました。


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