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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第二章

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お花を追って

「僕達3人だけ?」

「あぁ、人捜しなら最低限の人数で十分だ」

「そうか」

多すぎても困るしな。

「それでは第一演習場へ行きましょう」

そう言ってエナはホルス大尉の顔を見上げるように覗く。

「演習場?」

「あぁ。行方不明者は、三国で合同演習をしてた兵士達の中から出たんだ」

「そうか」

2人と共に宿舎から直接広場に出て、そして門を出るとすぐに左に曲がり、今まで見た中で1番小綺麗さを感じる道を進む。

「大半ってことは無事だった目撃者がいるってこと?」

「あぁ、その場にいた奴の証言じゃ、突然巨大な火の玉が大量に降って来たらしい」

この世界にそういう力を持つ人種はいたかな?

それともエニグマかな。

「それで?」

「そいつはそれで気を失ったらしく、目を覚ました時には数人の姿が見えなくなってたんだと」

「そうか」

「やはり死神に襲撃されたんでしょうか」

エナが重々しく口を開くと、ホルス大尉も悩むように唸り出すが、その横顔からはまるで厳粛さは感じなかった。

「だとしても、死神にそこまでの力があるとは考えられない」

演習場ってどんな場所にあるんだろう。

「前もって演習の情報を手に入れてれば、奇襲は可能なんじゃない?」

「じゃあ火の玉はエニグマで、死神がエニグマを操りながら演習場を襲撃したってことか?」

そう言ってこちらに顔を向けたホルス大尉は若干驚くような表情を見せてくるが、やはりその中には重々しさや不安感は伺えなかった。

「そうだね」

「どうやって情報を手に入れるんです?」

するとエナも真剣な眼差しでこちらの顔を見上げるように覗いてきた。

「死神に手を貸した裏切り者とかは?」

「まさかそんな・・・」

呟きながら少し険しい表情を浮かべたエナは考え込むように目線を落とす。

「だけど、殺さずに連れ去る理由が分からない」

エナと同じように深刻そうな口調で呟くホルス大尉だが、天を仰ぐその表情は不安げなものではなく、どこか寂しげだった。

「そうか」

しばらくして演習場に辿り着くと、そこは襲撃されたときのままの形で残されていて、火の玉なのだろうか、地面にはそこらじゅうに窪んだ穴があった。

「こりゃひでぇな」

ホルス大尉がそう呟いて辺りを見渡しているときにふとエナに目を向けると、エナは絶句してただ立ち尽くしていた。

「エニグマだってここまでやれるか?」

「もしかしたら、新種のエニグマとか」

すぐ新種で片付けるのは良くないか。

「行方不明じゃなくて、新種のエニグマに食べられてしまったのでは?」

すると怯えるように表情を曇らせたエナがすぐにホルス大尉にそう話しかけた。

エナは信じたみたいだ。

「お、お前まで何言ってんだよ、ビビらせるなよ」

「す、すいません」

「いくら新種でも、現場にはハルクがいたんだ。あいつが簡単にやられるとは思えない」

ハルクがいた?

「ハルクが行方不明になったの?」

「あぁ、そうだ。死神の襲撃にしたって、あいつがやられるとは・・・」

殺せないとしても、下界の人間が何らかの強力な兵器を使ったとしたら、ハルク達を人質に取ることは可能だろうか。

「だけどおかしいな」

何かひらめいたようにホルス大尉が呟くと、少し離れた場所で窪みを眺めていたエナが振り向いた。

「何がです?」

「ここは天魔界から北西にある。死神の国は天魔界から遥か南東だ」

「真逆ですね」

ホルス大尉に応えながらエナが歩み寄ってくる。

確か人間の拠点があったのは三国から南々西だったっけ。

「いくら奇襲でも、三国の周りをうろつかれたら、高台の見張りが黙っていない」

「ものすごく遠回りしたのでは?」

「演習の場所が決まったのは謎の襲撃の前日、つまり一昨日だ。裏切り者がいたとしても、気付かれないように回り込むには時間が無さすぎる」

「確かにそうです」

森が濃いなら隠れる場所くらいはありそうだな。

事前に計画を立てて常に演習場を監視して、昨日演習が行われたから急襲したとするなら・・・。

そしてもし昨日の天魔界への侵略が、演習場襲撃を悟られないための囮だとしたら・・・。

「気付かれないギリギリの距離に拠点があるんじゃない?」

「それが本当なら敵はすぐそこにいるってことか」

もしいくつもあったら包囲されちゃうな。

「もしかしたら、ここにその拠点の場所の手がかりがあるのでは?」

「じゃあ探すか」

「はっ」

背筋を伸ばして返事をしたエナはすぐに走って行くが、ホルス大尉はそんなエナを見ながらゆっくりと歩き出した。

足跡とかで逃げ道を辿れるかな?

「入口ってそこだけ?」

「あぁ」

裏道とかあるかな。

腰より少し低い塀に沿って歩いてみる。

死神なら自分達を無心兵に運ばせれば足跡は付かないけど、人間は無心兵を使えないしな。

大きなテントの焼け跡に近づき、かろうじて焼け残った骨組みのようなものだけしか確認出ない、まるで激しい爆発跡のようなテントを一通り眺める。

これじゃ手がかりは探せそうにないな。

いくら調査でも、のんびりしすぎじゃないかな。

ふとそんなことを考えていたとき、エナがこちらの方に歩み寄って来るのが見えた。

何かあったかな?

「氷牙少佐、何かありました?」

「いや、そっちは?」

「無いです。おかしいくらい何も無いです」

「逃げた跡と思われる足跡とかも?」

「はい。恐らく入口から出て行ったとしか・・・」

分からないように入口から出入りしたのかな。

「そうか」

ふと窪んだ穴を眺めながら、演習場の奥に立って何やら遠くを見つめるホルス大尉に目を向ける。

「火の玉って全部あっちから来たのかな?」

指を差すとエナもその方に顔を向ける。

「土の盛り上がり方を見るとそのようです。入口と逆ですね・・・やっぱりおかしいです」

死神がエニグマに指示したなら、演習場の外にエニグマの足跡があるはず。

「エニグマの足跡を探してみよう」

「はい」

「それならもう探したが、無かったぜ」

ホルス大尉に目を向けると、ホルス大尉は遠くで瓦礫に座りながら空を見上げていた。

「ますますおかしいです」

足跡が分からないほど小さなエニグマかな。

でもそんな小さなエニグマがこんな大きな穴を空けられるかな。

「なぁ・・・そろそろ昼飯行かねぇか?」

諦めを感じているような表情でそう言いながらホルス大尉が立ち上がると、こちらに顔を向けたエナはすぐにリラックスしたような笑みを見せた。

もうそんな時間か。

「はい。氷牙少佐、バーに案内します」

「あぁ」

入口から出入りしたなら、足跡がどこかで分かれてるはずだ。

「お前、さっきから何キョロキョロしてんだ?」

「足跡が分かれてないか見てるんだ」

「もうすぐ天魔界だぞ?さすがにもう無いだろ」

「そうか」

分かれてなかったな。

おかしいな。

「空でも飛んだのかな」

死神なら翼を解放すれば問題無いけど、人間は・・・。

「氷牙少佐も冗談を言うんですね」

すると噴き出すように上品な笑みを浮かべたエナがそう言ってこちらを見上げる。

「あ、待てよ。出来ないことも無いぞ」

何かひらめいたみたいだな。

「え、何がです?」

「翼を解放出来る奴はそれで良いが、新兵でも無心兵に乗って来るなら足跡が付かないぞ?」

「エニグマもですか?」

「あ・・・」

さすがに巨体は運べないだろう。

天魔界に戻り、宿舎に隣接する壁一面をガラス張りにして建てられた高級感の漂うバーに入る。

ガラス張りは日光を店内に入れるためかな。

「いらっしゃいませー」

天使のウェイトレスが出迎えると、ホルス大尉は馴れ親しんだような微笑みをそのウェイトレスに向ける。

「よう」

「あ、ホルス大尉、ルカ少尉・・・あれ?」

こちらに目を向けたそのウェイトレスは、微笑みを浮かべたまま小さく首を傾げた。

「あ、こいつは女王様直属の氷牙少佐だ」

「そうですかぁ、じゃあこちらにどうぞ」

案内されているときにふと周りを見渡すと、広さの割にはほとんどが空席だということに気がついた。

「ご注文は?」

案内を終えたウェイトレスはそのままその場に留まり、メモ帳とペンを取り出しながら笑顔でそう聞いてくる。

どうやら、メニューは無いみたいだ。

「グラッジラの腹肉のステーキ」

「はい」

「私はカリレのグリルをお願いします」

迷うこともなく2人が続けて応えると、ウェイトレスも躊躇することなくすらすらとメモを取る。

「はい・・・そちらは?」

「オススメは?」

「グラッジラのお肉は良質でとろけますよ」

そう言ってウェイトレスは満面の笑みを浮かべる。

グラッジラってのは人気があるんだな。

「オススメの部位で何か適当に出来る?」

「あ、はいっ」

するとウェイトレスは何故か更に嬉しそうに大きな笑顔を浮かべた。

「・・・それでお飲み物は?」

「俺ラフーナサ・・・」

「まだ任務中です」

サワーって言うくらいだからお酒なんだろうな。

「じゃあシエッドシードで」

落ち込むように声のトーンを落とすホルス大尉を、ウェイトレスはどこか冷ややかな眼差しで見ていたが、その眼差しは見るからに親しさが前提にあるものだということが分かった。

「私はループルシードをお願いします」

「はい」

「オススメは?」

するとこちらに顔を向けたウェイトレスは再び笑顔を浮かべる。

「グラッジラですと、すっきりとしたシエッドシードが合いますよ」

「じゃあそれで」

「はいっ・・・少々お待ち下さいね」

そう言ってウェイトレスは軽く頭を下げてから去って行った。

「へぇ、リコちゃんがあんなに笑顔になるとこ初めて見たな」

そう呟きながらホルス大尉はウェイトレスの背中をずっと目で追い始めた。

「そうですね」

そんなホルス大尉にまるで関心を示さないかのように、エナは胸当てを外しながら相槌を打つ。

「おい氷牙、手ぇ出すなよ?俺が最初に目ぇつけたんだからな」

「出さないよ」

ああゆう感じの人が好みなのか。

「氷牙少佐、その服は向こうの世界のですか?」

腕の鎧を外しながら、エナはふとこちらの服に目を向けてくる。

「あぁ」

食事の時は鎧を脱ぐ習慣があるみたいだな。

「その丸いのは何です?」

「ボタンだよ」

「その尖ったのは?」

「これ?襟だよ」

「前が開くなんて斬新ですね」

「そうか」

シャツが斬新なものだなんて、今まで感じたこと無かったな。

「俺はその青い履物の方が気になるけどな」

「まぁそうだよね。皆、白と黒だけだし」

「名前は何です?」

するとエナはすぐにまた問いかけてくる。

「人によって呼び方が違うけど、僕はジーンズって言ってるよ」

「へぇ」

エナもファッションには興味あるみたいだな。

「お待たせしましたー」

ウェイトレスが少し低めのテーブルに飲み物と料理を運んでいくと、置かれていくワイングラスには透明感のある白いものが入っていた。

これがシエッドシードか。

「こちらはグラッジラの首筋のお肉です。ソースの味付けはあたしが考えたんですよ」

ウェイトレスが笑顔で説明するのを見てから料理に目を向けると、それは分厚い角煮みたいなものに、まるで絵の具のような鮮やかな赤いソースがかけられていた料理だった。

「そうか、ありがとう」

「はい」

ナイフとフォークを取る。

「リコちゃん」

「あ、何ですか?」

去ろうしたウェイトレスを、ホルス大尉が慌てるような口調で呼び止める。

角煮の1つをフォークで押さえ、ゆっくりとナイフを入れる。

「次の休みの日、予定空けておいてくれないか?」

柔らかくてすぐにほどける、まるでナイフなんか必要ないぐらいに。

「えぇーでもこの前・・・」

渋るように応えながらもウェイトレスはホルス大尉の向かいの椅子に座る。

裂いたお肉をフォークで刺し、口に運んだ。

「今度は任務よりリコちゃんを優先させるからさ」

「本当ですかぁ?」

最初はカカオに似た香りとほろ苦さが口の中に広がるが、微かに鼻から抜けていく香りが苦みのないすっきりとしたものになると、同時に舌に残る後味は次第に甘みを増していった。

少しだけとろみのあるソースがお肉の繊維によく絡まってクセになる味だな。

ジュースを飲みマスカットに似た味で口の中がすっきりすると、すぐに最初のほろ苦さが恋しくなる。

「おいしいね」

「本当ですかっ?」

するとウェイトレスはすぐに笑顔でこちらに振り向いた。

「あぁ」

「良かったぁ。料理長に報告しよっと」

そう言って立ち上がるウェイトレスをホルス大尉はまたすぐに引き止める。

「お願いだリコちゃん」

「分かりましたから。次、空けておきますよ」

三国の服は1枚の布地をそのまま体に巻きつけるものと、Tシャツのように型どった布地を着るものとの2通りに分けられている。

ありがとうございました。

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