ビギニング1
これまでのあらすじ
とある場所で目を覚ましてから何故か何も思い出せない青年、氷牙。頭を整理する間もなく連れられた空間で、彼は好奇心から力を試す為の大会を開く。
「そうね、あの氷弾って言うの?魔法みたいで格好よかったわ」
「え?もしかして闘技場の声って・・・」
近くのモニターを見ると、モニターからなのか何なのか、そこからは微かに闘技場内の声が聞こえてくる。
「えぇ、モニターの前に居るとよく聞こえるわよ」
映像だけじゃなくて音も拾ってたのか、あの監視カメラ。
「そうか」
なるほど、ここからモニターの2人を見て作戦を考えることも出来るということかな。
他の闘技場からも戦闘を終えた人達が出てきたみたいだ。
6組が全て出る度にほんの少し休憩があり、その後におじさんがまた組を決めていく。
次の組ではユウコが相手みたいだな。
扉に向かっているときに声がした方に目を向けると、駆け寄ってくるユウコが見えたので、扉の前でユウコが来るのを待った。
「次は私達みたいだね」
「あぁ、それじゃ行こうか」
「ねぇ、私さっきまぐれで勝っちゃったんだよ?見てた?」
薄暗い通路を歩いていると、ユウコはそう言いながら嬉しそうに微笑みかけてきた。
「いや、僕も戦っていたから」
「そっかぁ、そっちはどうだったの?」
「まぁ、勝ったよ」
「やっぱそっか」
そして先程と同じく闘技場の真ん中でユウコと向かい合う。
「皆さん準備出来たみたいですね。それでは」
少し間が開いた後に金属音が闘技場に響くと、ユウコの表情に若干の自信が滲み出たように感じた。
「行くよ?」
「どうぞ」
小さく両手を広げながらそう応えると、ユウコは手から炎を燃え上がらせ、そのまま燃え盛る炎を物を投げるような動作で投げつけてきた。
全身を覆うような炎が氷の防壁に当たったが、炎はこちらに届くことはなく、そのまま周りに広がりながら呆気なく消えていった。
「あれ?・・・ちょっとズルくない?」
その様子をまじまじと見ていたユウコは、どこか戦いの中の緊張感というものを感じさせない態度で膨れっ面を見せてくる。
なるほどユウコは火を操れるんだな。
「そうかな?シンジは叩き割ったけど」
「まじで?んーえいっ」
ユウコが力を溜めながら再び炎を投げつけると、氷の防壁は炎が当たったところから焼け爛れて崩れ落ち、その周りは目に見えるほど白く変色した。
「やったぁ」
「あーあ」
割れ落ちた辺りに手をかざすと、防壁はゆっくり再生していく。
「ちょっとズルいよ」
するとユウコはムキになって炎を立て続けに投げつけてきたので、仮面を被り素早くすべての炎をかわす。
「な、何?・・・それ」
仮面を見たユウコは手を止め、驚きの表情を浮かべると、その表情からは若干の恐怖心も伺えた。
「まぁ、気合いかな」
「何か怖いね・・・」
「そう?」
ユウコが炎を投げる動作をしたその瞬間にすかさず氷弾を撃つと、氷の弾は炎で防がれたが、氷の弾の破裂の衝撃はユウコを少し吹き飛ばした。
「きゃっ痛っ」
尻もちをつきながら声を上げたユウコはすぐさま立ち上がるような素振りは見せず、すでに落ち着いた眼差しでこちらを見ていた。
「・・・ふぅ、なんか・・・もういいかな」
すると地面についた手を軽く払いながらユウコは座り込んだままそう呟いた。
「降参?」
「うん」
「そうか。じゃあ、行こうか」
手を差し出すとユウコは手を取って立ち上がり、共にホールに戻るとユウコはすぐにおじさんのところへ向かった。
何話してるのかな。
ホットミルクを持って空いている椅子に座っていると、話を終えたユウコがどこかすっきりしたような顔色で同じテーブルの椅子に座ってきた。
「どうかした?」
「ん?棄権してきたの」
ユウコはコップの中をティースプーンでゆっくりかき回しながら微笑んでそう応える。
「そうか」
「別に私優勝目指してないし。力を試したかっただけだもん」
まぁ、それもありかな。
「そうか」
見るからにユウコはあんまり戦いが好きじゃなさそうな感じがしてたからな。
・・・だとしたら、おじさんは何でそんなユウコをここに呼び込んだのかな。
「氷牙、モニター見ないの?」
「うーん、別に見なくてもいいかな」
「そっか、あ、ミサちゃんだ。2番で戦ってるみたいだよ」
「ん?」
ホットミルクを飲みながら何となく2番のモニターを見ると、モニターの下にはかなりの観客がいた。
良い戦いをしているのか、それとも・・・
「ミサちゃんってモデルみたいだよね」
ユウコは少し羨ましそうにそう呟きながらミサの映るモニターを観ている。
まぁ、両方ともってことかな。
「聞いてる?」
「あ、あぁ」
「ミサちゃんって空手出来るんだって」
「なるほど」
少しは戦いを知っているみたいってことか。
それからユウコ同様に何人かの棄権者が出たり、何組もの連戦の後に昼食の時間が取られると、おじさんは特別にと言って朝食と同様の形態の料理をホールに並べさせた。
「そういえばまだミサとはやってないね」
「そ、そうね」
しかし何故かミサは少し戸惑ったように目を逸らしながらそう応える。
「ん?」
「ううん、それより氷牙、全戦全勝みたいじゃない。やっぱりやるわね」
「まぁ、それよりミサは空手が出来るって聞いたけど」
「たいしたことないわ。今となってはね」
そう言ってミサは微笑みながら小さく肩をすくめる。
「そうかもね」
昼食が終わる頃になるとちょうど舞台奥の部屋からおじさんが出て来て、再び組を決めていった。
今まで何してたんだろ。
おじさんも何か食べてたのかな。
「あら、噂をすればね」
次はミサが相手か。
5番の扉に入る時に、近くにたまたまあったリーグ表に何となく目を向けた。
全勝は2人いるみたいだけど、もう1人は知らない名前だ。
闘技場に入り、位置についた後、いつものように金属音が闘技場に響いた。
「ねぇ、早速気合い入れて下さる?」
するとすぐにミサはそう言って挑発するような目つきでニヤつき出す。
「そうか、そう言うなら、分かったよ」
仮面を被るとミサはその微笑みを深くして見せ。その態度から若干の闘志を伺わせた。
「行くわよ?」
「どうぞ」
直後にミサの首周りと両手首、両足首に白い毛皮のようなものがまるで生えてくるように現れた。
「ファー?」
「・・・えぇ、そうね、ファーね」
気品のある笑い声を混ぜながらそう応えた後にミサが片手を前に出すと、手首のファーから無数の白い糸が飛び出し、同時に真っ直ぐと伸びるそれはこちらに向かいながら何本かに束ねられていき、そして数本のその太い糸は勢いよく防壁に突き刺さってきた。
「あら、想像以上に硬いのね」
「まあね」
ミサが念じるように眉間にシワを寄せると、数本の太い糸は更に捻り合わされて1本になり、まるで大木の枝を思わせるようなかなり太いものになった。
そしてそのまま防壁ごと縛り上げて少しずつ締めつけ始めると、遂には縛ったところから防壁にヒビが入った。
防壁が割れる寸前にとっさに真上に飛んで氷弾を数発撃つが、胸元のファーから飛び出た無数の糸によって、氷の弾はミサに届く前に全て打ち落とされてしまう。
厄介だな、あれ。
再び何発か氷弾を撃ちながらミサの目の前に素早く飛び出し、ミサの胸元目掛けて掌を突き出す。
しかしミサは掌が胸元に触れる前にこちらの手首を掴むと、そのまま流れるような動きで足を振り上げその足をこめかみに直撃させた。
氷の防壁が砕ける音と共に一瞬目の前が大きく揺れると気が付けば地面を勢いよく転がり、そしてようやく自然と仰向けになっても意識はまだ少し遠のいていた。
や、られた・・・。
動け、ない。
体の感覚が戻ったのですぐに起き上がるが妙に視界がぐらつくので、一旦片膝をついて少し休んだ。
懐に飛び込んだのはまずかったな。
「大丈夫?」
そう聞いてきたミサは不安げな表情を見せていて、その眼差しからは先程の闘志は感じなくなっていた。
「あぁ」
予想より衝撃が凄かったな。
「気分とか悪くない?」
「大丈夫だよ」
この姿じゃ、楽勝は無いかな。
これからまだ戦いが続くんだし、体力は温存しておいた方が良いかな。
それに・・・。
「ミサ」
そう言って仮面を外す。
「ん?」
「やっぱりちょっと休んでいいかな」
それに、少しくらい黒星も取っておかないとな。
「もちろんよ、行きましょう」
ミサが慌てた様子で駆け寄って来たので、共にホールへと向かっていく。
おじさんは、戦わせるために僕達を集めた訳じゃないよな・・・。
「医療班呼ぶ?」
「いや大丈夫」
大会を始めたのは僕だしな。
「部屋で休む?」
「いや大丈夫」
じゃあ、何のためにミサのような人達を集めたんだろう。
「何か飲む?」
「いや、あ、うん」
ホールに戻ると飲み物がある場所に行き、コップを取ろうとするが、すぐにミサに優しく手首を掴まれる。
「あたしがやるわ」
「大丈夫だって」
「そう?」
椅子に座りホットミルクを飲みながら他のモニターに目を向けてみる。
その時にふと気になったのは、モニターに映る人達ではなく、モニターを眺める観客達の態度だった。
「いつもホットミルクね、好きなの?」
何気なくホットミルクを口に運んだとき、おもむろに口を開いたミサは微笑みながら覗き込むように顔を寄せてきた。
「まぁ、何となくかな」
誰も、今の状況に強い反発心を抱いてないようには見えるけど、少しの疑問も持ってないなんてことはさすがに有り得ないよな。
「ミサちゃんすごいね、氷牙に勝ったね」
ミサが振り向いた方にはユウコとヒカルコが居て、2人がミサに並ぶように椅子に腰掛けるのを見届けたミサは、微笑みながら小さく肩をすくめる。
「そうね、でもきっとまぐれよ」
「それはどうかな。あのまま戦っても勝てたかどうか」
「もしかしたらミサに弱かったりして」
ヒカルコはそう言ってニヤつくような微笑みをミサに向ける。
今回はヒカルコでも検討外れみたいだな。
「ヒカルコ、からかわないのよ」
おっと、ここでもいつの間にか仲良しになってるのか。
「あたしも何か飲もうかしら」
ミサが席を外すと、離れていくミサを見届けたヒカルコは急に再びニヤつきだしながらこちらに少し顔を近づけてきた。
「ここらへんで黒星取っておかないとね」
・・・やはりヒカルコは侮れないな。
ゆっくり唇に人差し指を立てると、ヒカルコは一瞬ミサに目を向けてからニヤついたまま黙って頷いた。
「氷牙、もう大丈夫みたいね」
少ししてミサがティーカップを持ち込んでくると、安心したようにそう言って微笑みかけてきた。
「あぁ、最初から大丈夫だよ」
ミサが椅子に座ったときにそう応えると、ミサは驚いたような表情でティーカップに伸ばした手を止める。
「何ですって?」
「やっぱりミサに弱いみたいよ」
「もうヒカルコぉ?」
そろそろ次の組が決まる頃かな。
「それでは3組目の発表です」
ホールの所々から賑やかさに若干の騒がしさが混ざった空気が漂っているが、おじさんはそんな空気を気にも留めずに淡々と組を発表していく。
「3組目は氷牙君とナカジマユウジ君です」
さっき見た全勝してる人の名前だ。
「氷牙、頑張ってね」
立ち上がる直前にミサが呼び止めるように声をかけてくると、小さく手を振りながらミサはそう言って微笑みかけてきた。
「あぁ」
「君が氷牙だね」
扉へ向かう途中で横から話しかけられたので、声がした方に振り向く。
この人が・・・。
なかなかの好青年だな。
「あぁ、君がユウジか。そういえば唯一の全戦全勝になったね」
「いやいや、それにしてもミサさんの蹴りはすごかったね」
ゆったりと落ち着いた雰囲気を醸し出すユウジは、少し呑気な印象を受ける口調でそう応えながら扉に向かっている。
「あぁ、僕も驚いたよ」
「俺もちょうど見てたけど、みんなもモニターの前で驚いてたよ」
「そうか」
「手加減はしなくていいからね」
そう言いながらユウジは軽い屈伸を始める。
どうやら見た目とは違ってやる気はあるみたいだ。
「そうか」
金属音が闘技場に響き、ユウジがおもむろに掌を上に向けると、突如掌に電気がほとばしり、そのままその電気は徐々に球状に形作られていく。
すぐにユウジが手を前に出して電気の球を飛ばしてきたので、反射的に氷弾を撃ってそれを迎撃すると、驚いた表情を見せたもののユウジは何故かすぐに微笑みを浮かべた。
「いつもなら最初に相手の攻撃を受けてるのに、今回は違うね」
ユウジは他の戦いも見てたのか。
「まぁ何となくね」
結構研究熱心なんだな。
「俺には本気出してくれるってことかな」
「どうかな」
そう言いながら氷の仮面を被るのを見たユウジがまた少し笑みを浮かべように見えたが、同時にその眼差しには真剣さが伺えた。
ユウジが手を前に出して何かを念じたので、とっさにブースターを噴き出して横に飛ぶと、直後にそこには小さな落雷音と共に雷が落ちた。
今朝、恐れながらアクセス数を確認してみました。少しでも読んで貰えてるとやっぱり嬉しいです。
ありがとうございました。