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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第二章

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ルーキーズ・アンド・アイスファング

「この世界には慣れたかしら?」

どうやら女王は食事の時間になると重そうな鎧を脱ぐみたいだな。

「はい少し」

「それは良かったわ」

「お母様、明日アリシア達とピクニックに行くの」

「いつもの場所?」

アゲハに向ける女王のその微笑みに、何となく女王らしき高貴さを感じないことがふと気にかかった。

「うん」

「あらそう、日が暮れる前には帰ってきなさいね」

「うん」

女王というよりは母親という感じの眼差しだな。

「ところで氷牙は、いつでも自分の世界には帰れるのかしら?」

「そうですね」

「そう、いつも任務があるわけじゃないわ、休暇を取りたいならいつでも取って良いのよ?」

王座の前にいる時とは違う、良い意味でどこか親近感のある優しい微笑みだ。

「いえ、目的を果たすまではこの世界に居ようと思います」

「そう、あまり無理はしないようにね」

「はい」

何も無いまま1週間くらい経ったら1回は戻ろうかな。

ミサにも1週間前後って言っちゃったし。

食事が終わり、特に気になることもないので真っ直ぐ部屋に戻り、街灯もない漆黒に包まれた外を眺める。

戦争と言っても、そんなに激しくは無いのかな。

扉がノックされるとアゲハの声がしたので、部屋に入れるとアゲハはすぐにソファーに座った。

「ねぇえ、あたし喉渇いちゃったかも」

そしてすぐにアゲハは脚を組んで小さくニヤつきながらそう言って、妙に何かを訴えかけるような上目遣いを見せてくる。

「そういえば、飲み物はどうすれば良いのかな?」

「コップ取って、そこの棚の」

差された指の先を見ると、そこにはコップが入れられた腰ほどの高さの棚にがあり、その隣の同じような棚の上には飲み物が出そうな見知らぬ機械が置いてあった。

棚からコップを2つ取ったときにアゲハが近づいて来ると、機械の前に立ったアゲハは別の棚から小さな種のようなものが詰まっているのが見える袋を取り出した。

「それ何?」

「ループルシードだよ」

掌ほどの袋の折りたためられた上部分を開けながら、アゲハはすぐにそう応えて笑顔を浮かべる。

ループル・・・シードは種だろうけど、新しいワードだな。

30センチくらいの高さがある、一見するとコーヒーメーカーを思わせるような大きさの機械の天辺にある蓋を開けたアゲハは、馴れた手つきでループルシードとやらを機械に流し込む。

「これをこうするの」

そう言って蓋を閉め、右にある縦の回転式のレバーを外側に回し始めた。

ゆっくりなミキサーで胡麻を潰すような音が鳴り出したが、少しの間レバーを回していくとやがてその種の潰れる音がしなくなると、まるでそれが合図かのようにアゲハはレバーを回す手を緩めていった。

「コップ、ここに置いて?」

機械の下半分に作られたスペースにコップを置き、アゲハが機械の蓋の手前にあるボタンを押すと、コップの中に透き通ったような黄色い液体が流れ出した。

なるほど、ジューサーか。

取り出したコップを眺めていると、そのコップを取ったアゲハはこちらに顔を向けながらコップを口に運んだ。

「んーおいしい」

そのままアゲハはソファーに向かったので、もう1つのコップを機械の中に置き、ジュースを注ぐ。

コップを取り出すとアゲハが手招きしているので、歩きながら一口飲んでみると、メロンに似た味がすると同時に柑橘系の香りが鼻を優しく抜けていった。

アゲハの隣に座り、コップを目の前の低いテーブルに置く。

「便利だね、あれ」

「うん、他にも色々な種があるんだよ」

「そうか」

ラフーナの種もジュースになるのかな。

「あたしはこれが1番好きなの」

ジュースを一口飲みながらアゲハが笑顔でそう言うと、その面影はふとアリシアを思い出させた。

「そうか。アゲハはやっぱりこの国を継ぐの?」

「そうだね、今は一人っ子だから、あたしが結婚して子供産まないといけないね」

戸惑うような表情をかいま見せたものの、アゲハは落ち着いた表情で応えながら再びジュースを一口飲む。

「そうか」

「氷牙、目的を果たしたら本当に帰っちゃうの?」

「あぁ、やっぱりいるべき世界に居ないといけないと思うし」

小さく頷き、少しずつ減らすようにジュースを一口飲んだアゲハは天井を見上げながらどこか楽しむような笑みを浮かべた。

「そっかぁ。前に来た異世界の人、少し話したことあって、もうちょっとでお友達になれるかなってところで帰っちゃったの。だから・・・あたし氷牙が目的果たせないように邪魔しちゃおうかな」

「え?」

「・・・冗談に決まってるでしょー」

そう言いながら笑顔で顔を寄せてきたアゲハはジュースを一口飲んだ後、こちらの肩に軽く頭を乗せてきたり、突如思い出し笑いのような声を漏らす。

・・・酔ってる訳ではないみたいだけど。

そういえばミサも冗談って言いながら、結局全部ほんとだったな。

注意しておこう。

ジュースを飲み干ししばらく話すと、アゲハは自分の部屋に帰ったので真っ先にベッドに向かった。

朝になりノックされた扉を開けると、迎えに来ていたログは丁寧に軽く頭を下げてからこちらに顔を向けた。

「朝食の準備が出来ました」

「あ、はい」

ログに後につき、夕食の時と同じ部屋に招かれると、女王とアゲハはすでに椅子に座っていた。

「おはよう。昨日は良く眠れたかしら?」

「はい」

「良かったわ、どうぞお座りなさい」

「はい」

アゲハが手招きするので隣に座ると、間もなくして料理が運び込まれた。

そして目の前に置かれたものは、少しオレンジがかったクリーム色のスープのようなものと、葉脈が透き通って見えるほど透明感のある野菜が使われたサラダのようなものに、全体的に薄く黄色づいた丸いパンのようなものがついていた。

食べ方はこっちと変わらないみたいだな。



「これはディレオ大尉、朝早くからご苦労様です」

「あぁ、後から解体の作業隊が来る。それまではこっちで見張っておくから、もう戻っていい」

「はい」

高台から下りてきた天魔兵に入れ替わり天使兵が高台に上り始めたとき、別の高台に居る天魔兵が鐘を鳴らした。

「どうかしたか?」

「500メートル先に無心兵の群れです。数は約30です」

何だよ・・・。

「荷物は?」

「はい、各々角材らしきものを持ってます」

懲りない、というか懲りな過ぎだ。

こっちが解体する前からもう新しい砦の準備か。

「エイネ、代わりにここを頼む」

「えっえっあたし、1人でですかっ」

「作業隊が来るまでには戻る。それまではただの留守番なんだから、大丈夫だろ?」

「・・・はい」

砦を出てしばらくすると、小さくとも存在感のある気配を感じると共に角材を運ぶ無心兵の群れが見えてきた。

指示を出してる奴が居るはずだ、そいつを叩けば・・・ん?

無心兵の群れがこちらの存在に気がつくが、その無心兵達はこちらの方に向かってくるような素振りは見せずに、ただ砦を建てるために必要なものを運び続けた。

その瞬間、木々の陰という陰から更に十数体の無心兵が飛び出してくる。

・・・そうか、なるほどな。

「翼、解放」

すぐに剣を出し、剣身に天力を集中させて光の剣身を作り出し、そして剣を思いっきり水平に振り抜くと同時に無心兵の群れに向けて光の刃を飛ばす。

「ふぅっ」

数本の木々、数十の無心兵、そして無心兵が担いでいた角材が同時に吹き飛んでいくの見届けてから剣をしまうが、その静か過ぎる空気にすぐにある疑問が頭を過る。

これで取り敢えず無心兵は問題ない、後は・・・。

急いで砦に戻り、中を見渡せる塀に飛び乗ると、そこには高台に居た天魔兵、そしてエイネと対峙する3人の死神が居た。

「今回はそこそこ頭を捻ったようだな」

エイネ達と共に死神達がこちらに顔を向けると、死神達はすぐに驚きの表情を浮かべると共に苛立つように殺気を伺わせた。

「くっそ戻ってくるの早過ぎだろ、何故だ、待ち伏せさせてた無心兵を合わせて50は居たはずだ」

「いくら数が増えようと、無心兵ごときに遅れは取らないさ。それに、わざわざ見張りに気付かせて囮にしたのは感心したが、指揮者を置かなかったのは詰めが甘かったな、すぐにあいつら全体が囮だと分かった」

「く・・・」

死神達の前に降り立つと3人は警戒するように身構え、更に真ん中の死神は悔しがるような表情でこちらを睨みつけてくる。

その時に真ん中の死神は何かを取り出そうとするようにローブのポケットに手を入れた。

また無心兵を呼ぶ気か・・・。

「また雑魚に頼るのか?50もの無心兵でも足止めすら出来ないと知ってて」

すると死神は手を止め、煮え切らないような表情で目線を落とす。

「お前ら自身で戦えよ、俺が1人で相手してやるから」

「・・・は?」

顔を上げたその死神はすぐに驚きの表情から、相手を馬鹿にするようなふてぶてしい笑みを浮かべた。

「何言ってんだ?せっかくそっちも3人居るってのに、死神ナメてんじゃないのか?」

「それとも何か?俺ひとりに無心兵を使わなきゃ不安だってか?」

「チッふざけるなよ?良いぜ、後悔させてやるよ、覚悟しろ」

ポケットから何も持たずに手を出したその死神は掌に闇を集め、反り返った短刀を作り出した。

「ひとつ忠告してやる。お前らだって分かってるだろうが、あと数分もすれば解体作業隊が来る。それまでにこの俺を倒さなければ、お前らがここを奪還することは出来ないということだ」

「はっそんなことは分かってる。それが何だ?」

「本当に分かってるか?天使軍精鋭部隊隊長のこの俺をたった数分で倒さなきゃならないってこと」

その死神が言葉に詰まると、同時に他の2人の表情にも焦りの色がはっきりと伺えた。

「た、隊長・・・だと」

「さぁ、本気の俺と渡り合える自信があるなら、来いよ」

「ふっ・・・ふっ砦なんてな、いつだって、す、すぐ作れんだよ。お、覚えてろ」

死神達が逃げ去っていくとエイネがため息をつき、エイネに顔を向けるとエイネは不安感を訴えるような眼差しを向けてきた。

「あたし、やっぱり兵士になるの止める」

「まぁそう言うなって、俺達の家系はほとんどが兵士なんだ、お前にだって素質はあるってことだろ?」

「でもあたし、子供の頃からずっと下界に行きたかったんだもん」

下界か・・・。

「ディレオ大尉、ひとつ聞いて良いですか?」

天魔兵のその若々しい強気な眼差しに、ふと若い頃の自分を思い出した。

「あぁ」

「もし死神が挑発に乗ったら、どうするつもりだったんですか?その・・・」

「分かってる。無用な争いはしないのが三国の掟だって言いたいんだろ?」

天魔兵が小さく頷くと、エイネも答えを聞こうとするようにこちらに顔を向けたきた。

「真ん中に居た、恐らく3人のリーダーと見られる死神。感じた気迫から見たら少尉クラスだろうが、余程の馬鹿じゃなきゃ、あの状況なら逃げるのが正解だと判断するはずだ。それに、エイネはまだ研修兵だから戦いに巻き込む訳にはいかない。つまり、無心兵を呼ばれるのを阻止して無駄な戦いを避ける、挑発はそのためのものだ」

「な、なるほど、そこまで考えてたなんて、やっぱりさすがです」



「よし、整列したな。今回の訓練はエニグマとの実戦だ。知っての通り、エニグマはその巨体さゆえ通常は3人以上の編成を組まなければ命取りになる危険な生物だ」

そもそも何でエニグマってあんな大きくて複雑な生態なんだろう。

「先ずは各自3人ずつに分かれろ」

ガルーザスの指示に新兵達は素早く列を崩し始め、それぞれ3人にまとまっていくが、1つのグループだけ1人足りないのにふと気がついた。

ガルーザスの分かな。

「氷牙、あそこに入ってくれ」

「え?」

女王様からは見学って言われたんだけどな。

「ハルクから聞いた。エニグマをやったらしいな、このまま見学は退屈なんじゃないか?」

「まぁ、そうだね」

グループに加わると、2人の男性は揃って青ざめたような顔色を伺わせた。

「いいか、危険だと感じたらすぐにここに戻るんだ。もし怪我などして動けない場合はさっき配った閃気弾を使え」

グループになった天使と悪魔の2人の男性がキーホルダーのように腰からぶら下げている、ウズラの卵のようなものにふと目を向けてみる。

火じゃなくて、場所を探知出来る気みたいなものが出る手榴弾、ってことでいいんだよな。

「それじゃ各自散開っ」

エニグマってそんなにすぐ見つかるものなのかな。

「あの、女王様直属って本当なんですか?」

「まあね」

どうやらここらへんは草原がちらほらとあるみたいだな。

とりあえず見通しの良い場所に出るか。

「でも、そんなの聞いたことないよな?」

「あぁ、実力は隊長クラスだってハガン大尉は言ってたけど、どう見たって人間だしな」

ん・・・何か居るな、まだちょっと遠いけど。

「ねぇ、あれってエニグマ?」

エイネ・フラウ(16)

ハルクの遠い親戚にあたる。

戦いは好きではないが、護身用の為と諭されて仕方なく兵士になる為の研修を受けている。


ありがとうございました。

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