2人の進言者
「えー現在ここアンスタガーナでは天使のような姿で、自らをフォールと呼ぶ侵略者と、カイザー率いる皇帝軍、アンスタガーナ軍が交戦していて、入った情報によりますと侵略者はブルーオーガにも現れ、エネルゲイアとも交戦している模様です。付近の皆様は直ちに避難をして下さい」
天使・・・。
「この支部は何としても損害の無いように。ハオンジュ、ナオ、リリーは既に出撃したようだが、君達はディビエイトとして総出で支部を守ってくれ」
リリー達なら大丈夫だろう。
「最近鈍ってたし、良い退屈しのぎになるかなぁー、新しい技試そっかなぁー」
「呑気だねぇイーちゃん」
「敵は多数だ、なるべく1人になるなよ?」
日頃から戦いの事を教えているソルディが口を開くと、バスターの3人は素直にソルディに顔を向け、呑気な事を言っていたイザナギもそれに乗っかっていたアテナも静かに頷く。
屋上に出ると、空にはまるで雲のように大勢の飛行物体が浮いていて、まるで雨のように発煙弾が降るその風景は、正に戦場だった。
「深追いはするなよ?2人1組で動く事にしよう」
「じゃあ私イーちゃんと」
「ならタウロスはオレとだな」
龍形態になって飛んでいくバスターの3人とソルディを見送りながら、ミレイユと共に龍形態となり、大小様々な飛行物体の群れを見渡しながら心の中から剣を出す。
「なぁミル、テレビの中の奴は天使だと言っていたが、本当にそうかな」
「私達とは違う異世界の天使かな」
「もしそうなら、話し合えるかな」
「そうかも知れない。だけど」
この状況じゃあ・・・。
「もう、謝って済む事じゃないよ?」
「だよな」
きっと、冷静さを失ってるだけかも知れない。
何にしても、戦わなければならないか。
何だよ、こいつら、何しに来たんだ?
列を作る渡り鳥のように、サメ型を基点として飛行船型がV字を描く編隊を組みながらも、低速で、沈黙を決め込んでいるそれらの近くに滞空しているが、いつ攻撃してくるか分からないその緊張は次第に疑心と苛立ちを生んでいく。
まさか・・・戦争をしてない国は無闇に攻撃しないなんて言わねぇだろうな?
・・・だが、見るからにただ眺めてるだけなんだが。
バクトの方は大丈夫かな。
このまま何も無かったら、俺もあっちに行くかな。
お?何だ?
サメ型から、何か出た・・・。
水平に作られた胸ビレの付け根から出た、天使の輪っかが特徴的で陶器のような光沢を見せる肌色の外套を纏い、Y字のアイガードしかない仮面を着け、フードを被った奴はまたもや何をする事もなく、ただこちらの方に体を向けた。
んー・・・1人で出るって事は、あっちも偵察か。
そういや昨日、普通に分かる言葉を使ってたな。
怖いもの見たさで近付いて見てもそいつは動かず、胸ビレに乗るとそいつはようやく動き出し、歩み寄ってきた。
お?やんのか?
「お前は何だ」
は?何だって。
「何だって、あんな街を破壊した奴らが来りゃ、そりゃ警戒すんだろ。てかあんたらこそ何なんだよ」
「昨日伝えたはずだ、戦争をする人間を滅ぼし、自然を守る」
「じゃあ何で襲って来ない。まさか、戦争してない国は無闇に攻撃しないとか言うのか?」
「戦争をしない国を襲ってどうする」
あ?まじかよ、何かめんどくせぇな。
「じゃあ何で来たんだよ」
「ここは自然が溢れる、守るべき場所。これからこの国の長と対話を試みる」
「マジでこの国は襲わないんだな?」
ったく、人と話す時くらい顔見せろよ。
「俺の知り合いがアンスタガーナに居て、俺もこれから向かう。あっちじゃモロにやり合ってるからな、もしかしたら俺もあんたらの仲間を殺すかも知れねぇ、それでもこの国は襲わないんだな?」
「お前はこの国の者ではないのか」
口調は大分尖ってるな。
「この国に住んではいるが、そもそもこの世界の住人じゃねぇ、異世界から来た」
おや?ちょっと戸惑ったのか?
全然分かんねぇな。
「何故この世界に居る」
「元々は戦争の道具として連れてこられた。けど今は戦況が変わって、部外者みてぇなもんかな」
「望んで戦争をしてた訳ではないと?」
「まあな、それに子供も出来たし、このままここに居るかもな」
「子供か、だからそんなに我々を気にしてるのか」
「あぁ」
何だ、宇宙人も意外と普通なんだな。
「安心しろ、将軍はこのような国は襲わない。それにお前ごときにいちいち干渉しない、我々は戦争をする人間を滅ぼす為に来ただけだ」
「あんたら、ちょっと頭悪くねぇか?」
「・・・何だと?」
「もっと簡単な方法があるだろ」
「簡単な方法だと?」
あのカイザーが居る限り、すんなりいく訳ねぇよな。
「今、2つの国の政権は1人の男の手の中だ、要は、そいつが停戦を宣言でもすりゃ、戦争は止まるだろ?そいつを狙い撃ちして屈服させればいいんじゃねぇのか?」
「僕はカイル、こっちはカソウさん、あなたは?」
「デミリュムーシュ」
え・・・っと。
「じゃ、じゃあ、デミリーでいい?」
今にも笑みを吹き出しそうなカソウに眼差しでもって落ち着きを促してからそう聞くと、デミリーは黙って小さく頷いてから何やら壁に手を着けた。
直後に扉も無いその壁に突如扉のような窪みが出来ると、それは内側に向けてスライドし、そこはまるで扉が開いたかのような四角い穴となった。
うわぁ・・・。
デミリーに続いて入るとそこは左右に延びた一本道の狭くはない廊下で、肌色の壁や床の陶器のような光沢と、天井に食い込んだどこまでも続く直線上の青い照明はとてもキレイで、初めて見るという事もあってか、それは思わず見とれてしまうほどだった。
デミリーが歩き出すと同時に前方の方から空気が抜けるような機械音が聞こえると、直後に内側の壁から数人の天使が姿を現した。
するとデミリーはフードを外して紫がかった長い黒髪を晒し、脳天から耳にかけてまで隠れる仮面を外した。
え・・・。
デミリーの肌は青く、耳は尖っていて、ふとこちらを見たその瞳は外側の黄色から中央の白にかけてのグラデーションがキレイな、また思わず見とれてしまうほどのものだった。
キレイな瞳だな・・・。
理解出来ない言葉で天使の1人が、男性だと分かる声でデミリーに話しかけると、デミリーも理解出来ない言葉でその天使に言葉を返したが、その後に何となくではあるが天使の3人は困ったように顔を見合わせる。
「2人共、私を人質にしろ。そうすれば将軍の下に行ける」
え?人質?
「はぁ、まぁ仕方ねぇか」
するとカソウは全身を燃え上がらせ、デミリーはこちらに仮面を手渡してきた。
「お前が持っててくれ」
「う、うん」
おお、これが宇宙船かぁ。
つるっつるな感じとLEDっぽい光、いかにも宇宙人の船だな。
てか、何で招かれちゃったんだ。
いきなりついて来いって。
「あんたら、宇宙から来たのか?」
「お前と同じ、異世界からだ」
ふーん。
一本道の廊下の道中、空気が抜けるような機械音の直後に内側の壁から天使の輪っかを浮かせた、青い肌にヒレのような耳の見るからに宇宙人チックな2人の男が出てくるが、理解は出来なくとも気楽そうに話しているそいつらはこちらに気付くなり案の定見上げたまま固まった。
うほ、モロ宇宙人だ・・・。
案内役の天使が何やら喋り出すと、戸惑いながらも正に軍人のような気迫と筋肉がある2人の男は納得したような態度を見せ、そのまま案内役の天使と共に歩き出した。
何だ?俺は侵入者扱いにはならないのか。
まぁ案内役も居るし、すぐドンパチなる映画みたいにはならねぇか。
カイルどこかなぁ。
気配がいっぱいあるから全然分かんないや。
あっちかなぁ。
何やら宇宙船とは違う小さなものと戦っている、気配を放つ者達の方へ向かうと、その内の1人がすぐにハルクだと分かった。
「ハルクー」
振った剣から水の刃を放った後にこちらに顔を向けるとハルクはすぐに手を挙げてみせてくれたのでそのまま近付くが、同時にハルクの下に見知らぬディビエイトが寄り添うように歩み寄ってきた。
「見たことないディビエイトだけど」
「え?私だよ、ミレイユ」
あっ。
「あは、そういえばミレイユのディビエイト姿見たことなかったよ」
「そっかぁ、あれから会ってないもんね、カイル達元気?」
「うん皆元気だよ。カイルと火爪がアンスタガーナに行ったって聞いて来たんだけど、見てない?」
「えっ」
顔を見合わせるところを見ると・・・。
「見てないよ?」
「そっか、じゃあ僕カイル達捜しに行くから」
「あぁ」
「うん」
空気が抜けるような機械音と共に肌色の扉が開くと、前方の数メートル先には1人の天使の後ろ姿があった。
「サークシュソラ」
ん?サー?英語か?
いかにもリーダー的存在感を醸し出す中年の男はこちらに気付くと見上げながら眉間を寄せるが、案内役の男が事情を説明すると敵意は見せないものの、代わりに終始警戒心と迷惑そうなしかめっ面で案内役の男と話していく。
そして最後に中年男は、3段ほどの階段を下った先にある、パノラマを見下ろせる壁際に座っていかにも宇宙船を操縦をしてそうな4人の天使達に何やら指示を出した。
「お前、名は何だ」
「総助」
「ソースケー、これからカイザーの下へ行く」
え、伸ばすなよ。
「進言者なのだから責任をもって援護しろ」
まじでか。
「あ、あぁ」
どうしたんだ?
5つの内、1つの集まりが方向を変えていく。
「あ、逃げてくよ?」
「いや、逃げるとは違うのだろう」
「んー」
どこか退屈そうに飛行物を見上げる黒桜や白火と共に沈黙さえ忘れるほどにそれらに見入っていると、やがて20ある内の1つが頭を出すが、それでも緊迫感を掻き立てる速度はなく、その動きはただこれから何が起こるかを見定めさせる沈黙を生んだ。
あの集まりは変わらずあそこに留まっているが、もし戦を始めるとして、集まりを置いてたった1つでわざわざ敵陣に向かったりするものか?
それに、どこに向かっておるのだ。
「理一、行ってみようよ」
「そうだな、シドウ殿、様子を見に行ってくる」
「あぁ」
天蹄と地翼を腰に挿し、黒桜と白火、雷菖蒲と風杜若を腰に挿した岩影と共にまるで空を行くカラスを追うように街を進んでいくと、やがてそれはハルンガーナの王が居るという城がある方へと向かっていった。
知っていて向かっているのだとすれば、やはり国を取る気なのか。
たった1人で向かうのは油断させる為か。
「あ、降りてくよ?」
すでに武器を持ったり鎧などを着ている動物と人間が警戒するように集まっている牧草地に、ゆっくりと、中から小さく響くような振動音を携えながら降り立つと、直後に山のように巨大で黒光りするその魚に似たものの腹下から、頭上に輪っかを浮かせ、陶器のような光沢を見せる肌色の外套を着た、肌の青い、妖魔のような出で立ちの者が3人、浮力を持つかのようにゆっくりと地面に落ちてきた。
なんと・・・体つきは人のものだが・・・。
この国の姫だというエリザベスが鬼のような体格の白い猿を従えて前に出ると、黄色く縁取った外套の1人が肌色だけの2人を従える形で異国人がエリザベスと対峙する。
「何しに来た」
「我々はフォール、自然を守る為、世界を渡り、戦争をする人間を滅ぼしている。同時に、自然と共に生きる国とは敬意を込めて友好的な対話を望んでいる」
友好的な対話か。
「対話だと?本当に攻撃しないという根拠を示せるのか?」
すると黄色い外套の1人が前に出始め、お互いの丁度真ん中に立ち、注目を引き立たせると、その場で片膝を地面に着き、両手を立てた膝に乗せた。
「この国では膝を地面に着くのは自然に尊重を込める意味があるのであろう。そして、レッドワイバーンとブルーオーガ、我々フォールとの戦いの火の手がこの国に及ぶ時は、ご要望とあらば我々フォールの自軍共々全力で排除する」
何?・・・。
「自分達の軍ですら撃ち落とそうと言うのか、そんな事出来る訳がない」
「その時が来れば分かる」
なんと・・・。
階段を上がった先にある、紋様が刻まれた何となく豪華そうな扉が勝手に開かれると、そこは広間の中央に真っ直ぐ伸びた絨毯のような赤い光と、その先の王座がまるで天使城のエントランスを思い出させるような場所だった。
うわぁ・・・。
王座に座る男性と、その手前に立つ2人の男女からの肌を爪で擦るような殺気をひしひしと感じ、思わず息を飲んでしまいながらも3人の前で立ち止まると、初老でも突き刺さるような殺気を放つ王座の男性が最初に口を開き、デミリーが堂々とした口調で言葉を返す。
「お前らのような者と話すことなどない、去れ」
「どうして?」
「デミリュムーシュが人質になっている事が偽りだという事くらい分かってる」
う・・・。
「話だけでも」
「クドイっ」
女性が言葉を遮るが、その冷たい態度はむしろ小さな怒りの火を灯させた。
「あなた達の戦いは無意味だ」
「何だと小僧が」
「そもそも停戦してたのに、来たタイミングもやり方も間違えてる。けどまだ間に合う、今2つの国を支配してるカイザーだけを負かせて戦争を止めさせればいいんだ」
「貴様、誰に物を言っているのか分かってるのかっ」
「分かってるからここに来たんだっ」
強く言い返すと女性は睨みつけたまま勢いに押されるように黙り込み、直後に初老の男性が立ち上がるとその威圧感に両側の男女は1歩下がる。
「救世主なら、戦争を止めてよ」
目の前まで歩み寄ってきて見せたその眼差しは、デミリーのように美しくとも天王様のような威厳、そして怒りの火が灯っているからこそ真正面から見える、一筋の稲光のような殺気を宿していた。
「進言者なら責任を持て」
え?
デミリーと女性が驚くような声を上げ、男性も畏れた上で見せるような疑問を感じたような表情を見せると、初老の男性はそのまま王座に戻った。
「意見を通したくば自らの体でもってその意志を見せろ。デミリュムーシュ、お前もだ。サンカルダを使わせてやる」
「サー」
サー?何だろ。
「今の何?」
「サーは敬意と忠義を込めた返事だ」
へぇー。
「あの、サンカルダって」
「小型船だ」
「さっさと行けっ」
は、あっ。
「さーっ」
王間を出るとカソウは人間に戻り、仮面をデミリーに返した時、ふとその眼差しには安堵と闘志と同時に何となく苦悩のようなものが伺えた。
「そんなに見るな」
「あ、ごめん、見たことないキレイな瞳だから」
唇を絞り、素早くまばたきするデミリーからふとカソウに目線を移すと、何やらニヤついているその表情に何となく恥ずかしくなる。
階段を下り、長い廊下を抜け、何度目かの肌色の扉を抜けると、やがて小さい方の飛行物体が幾つも納められた広い倉庫のような場所に出た。
空を飛ぶあんな大きなものが、6つも納められてるなんて、すごいなぁ。
両側に3段ずつ、正面から見ると円を描くような位置でそれぞれ台に乗せられた内の1つに、腹の真下から飛んで入り込む。
うわぁ、広ーい。
少し薄暗いので何となくデミリーについていくと、中央よりも半分ほど天井の低くなる方に向かったデミリーはそのまま半円状の広々とした窓の前まで行き、3つある内の真ん中の椅子に腰掛ける。
そして半円状の窓に沿った形のデスクがそのままパソコンの画面になっているようなものに手を触れた直後、小さく響き出した高音と共にこの空間がより一層明るくなった。
ここまでくると誰がメイン主人公なのか分からない・・・。いえ、みんなが重要なキーパーソンです。笑
ありがとうございました。




