その出会いはまるで蝶が花に止まるようで
「ご覧頂けますでしょうか。アンスタガーナ防衛軍により、現在墜落した侵略者の調査が行われています」
異物であるはずのその巨大な機械が大破し、横たわる風景が不自然に見えないほど破壊された街並みの中、皇帝軍ではなく、アンスタガーナ国の軍人が機械に入り込んだり、解体しようと手を付けていく。
そんな事を映すテレビから何となく離れ、息抜きしようと庭園に出てみるが、植物達を抜けるとその街並みの一角にはすでに一昨日までにはなかった大損害による衝撃、絶望感がこちらにまでひしひしと伝わるほど渦巻いていた。
ほんとに宇宙から来たのかな。
「ハオンジュー」
あ、リリー。
「すごい事になっちゃったね」
「うん。多分、また来るかも」
悲しげに表情を曇らせるリリーと一緒に街を一瞥した後、ふと朝の匂いに空腹を思い出した。
「朝ご飯食べよ?」
「どうも」
「またですか」
受付嬢のくせに何故か楽しそうにニヤつくその素振りに、ふと別の意味で怖くなる。
「誰が留守かどうかは分からないんですか?」
「ちょっと分からないですね」
何の為の受付なんだ。
何だか意味もなく気になってしまう。
「あなた方は主に、どんな事をしてるんですか」
「え?そりゃあ受付ですよ。誰も居ないと、変に不安になりますから」
変に不安に・・・。
確かに受付が居ないと進んでいいか不安に・・・いやいや。
「それだけの為に居るんですか」
するとその女性は何故かお気楽そうに笑みを浮かべ、隣の受付嬢と顔を見合わせる。
「事務職ですから、他にも情報整理なんかもやりますよ?」
「そうですか」
どこかバカされてると思うような笑みを見せる受付嬢に内心で首を傾げながら、その静寂さが少し不気味なエントランスを進んでいた時、突如近くの壁に扉が現れ、そこからぞろぞろと男女が出てきた。
え?・・・え?
「いやぁアンスタガーナは派手にやられたよなぁ」
お?
「うんー、宇宙人とか、リアルに映画じゃんね」
宇宙人?・・・。
10人ほどの人間が出てきた後、最後の1人が閉めた扉の真ん中にある何かの紋様をシールのように剥がすと、直後に扉は消え、その現象に自然と足が止まった。
うわぁ・・・撮れなかった。
何だよ今のは、ブルーの技術か。
「すいませんっ」
響いた声に1人の男性が振り返ると、すぐにその隣の女性も振り返る。
「自分はこういうもんです」
男性に名刺を渡すと男性はすぐにそれを女性に渡す。
「今の、消える扉について伺ってもいいですか」
「おい、ブラス・・・何してんだ?」
奥から1人の男性が引き返してくるとつられるように皆もぞろぞろと歩み寄ってきて、その人数とその人達がエネルゲイアだという事実にふとたじろぎそうになるほどの威圧感が差し込む。
「シールキーの事、記者に言ったらマズイか?」
ブラスと呼ばれた男性が問いかけながら名刺をその男性に回すと、名刺を見た革グローブの男性は呆れたような笑い声を吹き出した。
「いやダメだろ。てか何で記者がここに?」
「カイザーがレッドの軍本部を落としてから5ヶ月、かつて戦争の渦中にあった人達を取材してます」
「え?アンスタガーナとか行かないのか?」
「これから行きます。その前に、昨日来た時には留守だったトウ・ファンザさんを訪ねに」
「えっお父さん?」
え?
革グローブを着けた20代くらいのその男性は、はっきり聞こえたからこそ余計に疑問が漂うその沈黙の中でも、まるで素の表情を見せてくる。
「お父さんって・・・」
「はは、トウ・ファンザだからお父さんだ、流行ってんだぜ?」
おトウさん、か・・・。
「あはは、なるほど。あの、皆さんにもカメラ取材、させて貰ってもいいですか。質問は2つだけなんで」
「え?どーするぅ?」
1人の女性が口を開くと、顔を見合わせるその人達には、エネルゲイアと言えども見た目は大学生の集まりと思えるような気楽さがあった。
「良いんじゃん?」
「むしろテレビ出れんだろ」
「えぇ?んまぁ、そう?」
有名所じゃないエネルゲイアの映像があれば、逆にシンゴさんが引き立つかな。
カメラを向けると若者らしくテンションが上がったのか、特にブラスと呼ばれた男性と革グローブの男性はすぐに前に出て表情を作った。
「ではよろしくお願いします。事実上の停戦をもたらしたカイザーについてどう思われますか」
これからカイザーの取材、出来るかな。
「カイザーの事か、元々エネルゲイアだしな、レッドを落とした事についてはすげぇって感じだけど、今じゃ第三勢力扱いだからな」
「つうかその内、カイザーも越える奴くらい出てくるかもだしな」
ブラスが口を挟むと革グローブの男性もすぐに頷く。
「それは、確実ですか?」
「エネルゲイアに限界は無い、それは確かだ」
限界は無い、か。
「カイザーが救世主だという声については、どう思われますか」
直後に革グローブの男性は他人事のような態度で、何やら何かを思い付いたように微笑んだ。
「さっき来た宇宙人にも取材したらどうだ?救世主について、良い話聞けんじゃないか?」
え・・・。
「そりゃいいな、はっはっは」
くそ、一瞬でも共感してしまった自分がイタイ。
けど、もし宇宙人に取材出来たら・・・。
「また、来ますかね」
「いやぁ来るだろ。逃げたって事は上司に泣きつきに行ったって事だからな」
いやぁ・・・はは、宇宙人に取材・・・。
やってみたい。
どうやら態度からして宇宙人がブルーオーガぐるみの策略ではなさそうだ。
シンゴさん1人の策略なのか。
「ありがとうございました」
・・・救世主か、停戦をもたらしたカイザー、自然を守ると言って、戦争をする人類を滅ぼそうとする宇宙人。
救世主・・・。
「ご覧下さいっ大破した機械から姿を現した何者かが、軍人を襲っています」
うわぁ・・・。
「陶器のような服でしょうか鎧でしょうか、頭上に、正に天使と言うべき輪っかを浮かし、調査中の軍人を何か発光するもので撃ち倒しています」
天使?・・・。
「クラスタシア、助けないと」
「どっちを?人を?それともあの天使?」
えっと、まさか、僕の世界とは違う世界の天使かな。
「あたし達も襲われちゃうよ?あの天使はあたし達だって敵だと見なすよ?」
んー・・・。
同じ天使なら、きっと話せる。
「ちょっと行ってくる」
「俺も行くよ。何か面白そうだし」
「うんっ」
カイルの転送筒とやらで瞬間移動し、アンスタガーナの大都会を作るビルの1つの上に立ち、墜ちた宇宙船を目に留めると、機械で出来た正に映画に出てきそうな宇宙船と言った感じのそれの穴から、逃げてくる軍人と共にキャスターの言う天使が出てきた。
「カソウさん」
「降りてみっか」
業火爪を纏い、翼を解放したカイルと共に軍人達と銃撃戦を繰り広げてる天使達の1人の背後に降り立つ。
「あの、あなたは天使ですか?」
いきなり話しかけんのかよ。
振り返ったその天使は案の定固まり、Y字のアイガードしかないその陶器のような仮面と被ったフードで表情も性別も分からないが、外套のような鎧だか服だかからこれまた陶器のように滑らかな細い腕を見せ、円い何かが埋め込まれた掌をカイルに向けた。
「ちょっと待て、俺らは敵じゃねぇよ。お前らどっから来たんだ?宇宙か?異世界か?俺ら異世界から来てんだ、だからあっちとは関係ねぇぜ?」
てか、言葉通じるのか?
いやでも、昨日はテレビでカイザーに向かって喋ってたな。
「危ないっ」
口を開くと同時に腕のスピーカーからマシンガンのように光球を放ったカイルは素早く天使の腕を引き、銃弾が瓦礫を鳴らす中、何故か天使を庇って物陰に隠れた。
するとカイルの腕を振り払い、表情は分からなくとも天使は見るからにただ戸惑うように目線を泳がせるような素振りを見せた。
どうやらこいつは喋れねぇみたいだな。
「カイル、何で助けてんだ」
「え、えへ、とっさに」
とっさ・・・まぁいいか。
「どうすんだ?言葉話せないみてぇだぞ?」
んー・・・。
「クル」
ん?あっ。
そう言うと突如天使は機械を飛び登っていったので追いかけると、天使はある程度登ると他の天使達に一声かけ、みんなが振り返るとまた更に理解出来ない言葉で二言ほど号令のように声を発した。
「おいカイルっ狙われてるぞっ」
えっ。
視点が高いせいか、アンスタガーナの軍人がみんなこちらの方に目を向けているのが分かり、とっさに手を合わせスピーカーから音波の壁を広げると、直後に目の前の壁の所々に何かがぶつかり、細かく弾けていった。
そんな時、ふと上空の雲から何かが出現し始めたのが見えた。
ん?あれは・・・。
うわ・・・。
あんなに、いっぱい。
おおっ。
「ソウスケっ」
こっちにも来たのか、しかも、あんなに・・・。
「・・・まじかよ」
飛行船型が4つに、リーダーと思われるサメ型が1つの部隊が・・・5隊か。
あの数がこっちに来るなら、アンスタガーナは・・・。
「ソウスケ、とりあえず行こう」
「あぁ、エンジェラ、行ってくるからな、ブライトもじっとしてろよ?」
火爪達の所行かないと。
「ソウスケ、火爪達の所寄るから先行っててよ」
「あぁ」
庭に降り立って裏口を開けると皆一斉にこちらに顔を向け、テレビの前に集まっている皆の下に向かうが、ふとカイルと火爪の姿が無い事が気にかかった。
「ハルンガーナにも、来てるよ、昨日よりも沢山」
「ええっ」
庭に出ると攻撃はしてないものの、昨日の今日だけにその佇まいは緊張せずにはいれず、皆もその軍隊を前にただ立ち尽くしていた。
「カイルと火爪は?」
「アンスタガーナ、様子見に」
空を見上げたまま、クラスタシアは呟くようにそう応える。
えっ。
「じゃあ、すぐ呼んでくるよ」
「うん」
「うし、おめぇら、いつでも戦闘出来るよう構えてろよ?」
シドウの言葉に皆の表情は引き締まり、水拳や雷眼は姿を変えていき、ロード達も翼を解放していく。
「バクト殿、私達も行こうか」
「ううん、リーチ達はここを守ってよ、カイル達呼んでくるだけだから」
「分かった」
「何故、私を守るの」
あ、喋った、しかも女の人だ。
「だって、僕も天使だから」
女の人らしいその天使が首を傾げた時、小さい方の機械の腹下から撃ち放たれた数発の発煙弾が視界に居るアンスタガーナの軍人達を襲い、辺りは爆音と緊張に包まれた。
「どうして、いきなり襲うの?」
「昨日、伝わったはずだ、戦争をする人間を滅ぼし、自然を守ると」
確かに戦争はいけない。
「だけど、人間を滅ぼすことないよ。いい人だっていっぱい居るのに」
「お前らは異世界から来たと言った。なら何故関係もないこの世界で戦争をする」
「僕はこの戦争を止める為に来たんだ、あそこのカソウさんだって、自分から両国の間に入って第三勢力として戦ってる」
「おいカイルっあれ見ろっ」
下から叫ばれた声にとっさにカソウを見下ろし、更に差された指の方へと目線を移すと、その先の空には大きい方の機械よりも更に巨大な機械が浮いていた。
何あれ・・・。
まじかよ、ボス機ってか。
てか、このまま天使と戦ったら、カイルはどうなるか。
でも街が・・・。
「おいカイル、天使と戦うのか?このままだと街がヤバイぞ?」
するとこちらに顔を向けたカイルは何となく返ってくる言葉が分かってしまうような、真剣な表情を見せた。
「僕、あの1番大きいやつに入って、攻撃を止めるように頼んでくるよ」
・・・出たよ。
まぁボスを倒すかしねぇと、どっちみち終わらねぇか。
仕方ねぇ。
「1人じゃ無理だろっ俺も行くって」
カイルが笑顔で頷いた時、雑音が潰されるほどの爆音が耳を突くと、近くの軍人と撃ち合っていた飛行船型が爆炎を吹かしながらこちらの方へと墜ち始める。
うおぉっ来るっ。
あれ、カイルもう居ねぇ。
昨日から横たわる飛行船型にぶつかったその飛行船型が更に轟音を掻き立て、爆発したように鉄片を撒き散らす。
くそっ何も見えねぇ。
更に飛んできた大きめな機械片の直撃を受け、吹き飛ばされながらもようやく離れるが、粉塵も舞うその場所ではよく見えず、カイルを捜そうと高くなった機械の山に登る。
「カイルーっ」
くっそ、ビルの間に飛行船型が挟まって、全然・・・。
「火爪さーん」
お?
「空に上がれば分かるだろっ」
炎帝爪を纏い、墜ちた飛行船型から出てくる天使達を見ながら飛び上がっていく。
「得体の知れない者を行かせる訳にはいかない」
こちらの手を振り払いながら、その天使は掌の穴から剣のように長く、細い光の槍を作り出す。
「でも、これじゃただの戦争だよ?こんなのおかしいよ」
表情は分からないが、天使は目線を落とし、周囲の爆音が少し遠ざかるほどの沈黙と緊張を流した。
「お前1人が行った所で、将軍の下に辿り着く前にやられる」
「大丈夫だよ、カソウさんが居るから、それに、話せば必ず分かり合えるから」
「話せば分かり合えるなんて、そんなものは理想論だ。私だって何度も話そうとしたのに、将軍は取り合わず、こんな侵略じみた真似を」
この人は、この侵略を望んでないのかな?
「でも、理想の為に努力するのは当たり前でしょ?じゃあ今度は僕も一緒に説得するよ」
すると天使はただ首を傾げた。
「何故そこまでする」
「えっと、人を助けるのに、理由は要らないでしょ?」
まさかこっちにも来るなんて。
つまりあれはシンゴさんの策略じゃないのか。
カメラのモニター越しに、ブルーオーガの空に舞い降り、攻撃はしてないもののその佇まいだけで緊迫感を日光のように降り注ぐ侵略者を見つめる。
昨日のリーダー機が5、小さいのを合わせて25か。
まさか本当に人類を滅ぼすつもりか。
くそ、ミケエラ達・・・。
ふぅ。
「えー、ご覧下さい、昨日現れた侵略者は数を増やし、ブルーオーガにも現れました」
とりあえず撮った・・・。
「・・・もしもし、ミケエラ」
「ちょっと何?今侵略者撮ってんだけど」
無事って事か・・・。
「ブルーオーガの領空にも侵略者が出てきたんだよ」
「まじっ?・・・何かね、ブルーオーガにも出たって、あ、もしもし?ちゃんと撮った?」
「撮ったよ、だからすぐそっちに行く」
「何で?そっちに居た方が」
「何言ってんだチームだろっ」
「・・・え、うん、そう?分かった」
と言っても、あんなのが飛んでたら飛行機は無理だ、車でなんて行ったら明日になる。
どうすれば・・・。
そうだ・・・エネルゲイアなら、何でも出来るんだよな・・・。
さっきの、話してくれた人達どこ行ったかな。
あ、カイル、え?
「火爪さんっ」
やっと来たかと思えば。
「何で一緒なんだよ」
人質か?んな訳ねぇか。
「一緒に攻撃を止めるように頼んでみるんだよ」
あはは、何じゃそりゃ。
「まじすか。てか、そっちは納得したのか?」
無言ながらも天使は頷いてしまったので、仕方なく2人と共にボス機に向かっていく。
「2人共あれ」
小さい方の物体のお尻から飛び降り始めた何かに指を差す中、6つのそれがこちらの方に向かってくると、それは右腕が正に腕のように太い銃身となっている、頭上に光の輪を浮かせた、陶器のような滑らかな質感の肌色の外套のようなものを着た何かだった。
「リリー、ハオンジュ、軍隊戦だから離れないでね」
「うん」
あっちにも、別のあっちにもいっぱい降りて来てる・・・。
6つの内、鎧の縁が赤く色付けされた1つがリーダーだと考えられる中、右腕の銃身から光の弾が放たれるとそれは手の前に張ったクウカクを突き破りこちらの胸元に強く突き刺さった。
あっ。
見た目より強い。
ラスト4話はプラス1000字になってます。
ありがとうございました。