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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
完結章 救世主たち
346/351

あの人は今3

ディビエイトに会えたのは収穫だった。

ここじゃ他にディビエイトの目撃情報は無いし、明日朝一でアンスタガーナかな。

ここからは近いし、そこでディビエイトに取材したら次はブルーオーガだな。

あいつら、今頃どうしてるかな。

ホテルに戻るなりテレビを何となく点け、HIチャンネルを探すと、映っていたのは街の所々に仕掛けられていて、数分ごとに自動で順番に切り替わるようになっている固定カメラ達の映像だった。

人の手で撮るようなものはないって事だ。

連絡が無いのが良い知らせとかいうけど、オレらにしたら逆なんだ。



街を眼下に出来る高さのある庭園からでも、見上げるほど高いビルが沢山立つその街を見通しながら朝日を浴び、腕を伸ばしながらゆっくり深呼吸する。

ふぅ。

「おはよう」

あ、リリー。

「うん」

「朝ご飯食べよ?」

このまま、リリーとナオとのんびり出来ないのかな。

中に甘酸っぱいクリームが入った、見た目からして丸くて可愛いパンをかじり、角切りの色々な野菜が顔を出す、栄養たっぷりのスープが入ったコップ片手に、まるで監視するように街を映すテレビを見る。

スープを飲む度、ほくそ笑む満足げな表情で美味しさを語るリリーにこちらまでニヤけてしまいながらも、昨日の夜から伺えるナオの疲れたような表情がふと気にかかる。

聞いちゃおうかな。

「昨日どうだったの?」

こちらに顔を向けたナオはモグモグしながら、何となく良い話ではない事を思わせる大人しい表情を見せた。

「最初は優しそうだったけど、要はディビエイトとやりたかっただけみたい。夜ご飯食べてる時からずっとイヤらしい目で見てね」

するとリリーは話の内容になのかナオの落ち込んだ表情になのか、こちらにまで聞こえるほど音を鳴らして何かを飲み込み、眉をすくめる。

「特にリリーは気を付けてね。話題が欲しいだけとかで口説いてくる男とか」

「う、うん。その、変なこと、されたの?」

「ううん、逆に痛めつけたの、ふふっ」

最後の笑顔にちょっとした悪寒が走りながら、そんなナオを心配そうに見つめるリリーの純心さが逆に心配になる。



「新人はどんな感じ?」

「学生の時写真部だったらしいし、扱いは全然悪くないよ」

「そうか」

するとミケエラは何故か端末の向こうで笑いだした。

「拗ねちゃったの?」

「ちょ、拗ねてないから」

「んで?女神には会ったの?」

「あぁ、これからアンスタガーナに行く」

「ああ、唯一カイザーからの支配を免れた支部か。次はディビエイトね、じゃ頑張って」

はぁ・・・まぁ暇よりマシか。

端末をしまい、カードキーをかざして車のエンジンをかける。

しばらくしてアンスタガーナ支部が見える路肩に車を停め、支部を出入りする人達を眺めながら、記者でも何でも何も考えず扉を開ける自動ドアを抜け、障害物の無い見通しの良すぎるエントランスに構えられた受付カウンターに立つ。

「自分はこういうもんです」

緊張や疲れからか、表情に陰気さが見える若い受付嬢に名刺を渡すと、名刺を見た女性は貼り付いた微笑みのまま小さく首を傾げ、その一瞬、面倒臭そうに眼差しをほんの小さくすぼめた。

「ディビエイトのハオンジュさんにインタビューしたいので、とりあえず呼んでくれませんか、取材の交渉はこっちでやるんで、とりあえず呼んで頂ければ」

「えっと、まぁ少々お待ち下さい」

すると女性はそんな陰気さを忘れたように、引き締めた表情でパソコンを触りだした。

あれ、思ったより仕事熱心だった?

「ファブ・クラチカさん、確かにHIチャンネルに名簿がありますね」

ありゃ、思ったよりしたたか。

「ハオンジュさんとアポは・・・無いですよね」

「は、はい。いやオレスパイとかじゃないですよ、ただの報道カメラマンですよ?」

「報道の人間なら尚更、建物の内部は見せられませんから」

くそぉ・・・ここは運か。

「受付のサエラです。受付にハオンジュさんに取材したいという、HIチャンネルの方が来てます。はい。1人です。大丈夫です。分かりました」

いけそうだな。

「今お呼びしますので少々お待ち下さい」

おー、持ってるオレ。

「はい」

「それと、取材はエントランス内だけでお願いします」

エントランス内・・・なるほど。

「はい」

えっと、あそこの待ち合い席でいいか。

何だろ、オレ、結構目立ってるよな、軍事施設にセールスマンなんて来ないし。

ソファーに座りしばらくエレベーターホールの方を見ていると、やがて出てきた人は何かを探すようにキョロキョロし始め、手を挙げて見せると、その人はすぐにこちらの方へと歩き出した。

・・・来た来た。

「どうも、報道カメラマンをしてるファブといいます」

微笑みも見せず、ハオンジュはただ惚けたような表情で頷く。

警戒心は無さそうだ、けど人が良いんじゃなく、世間知らずなのか。

「あの、取材、させて貰ってもいいですか」

「取材って何の?」

「カイザーがレッドの軍本部を落としてから5ヶ月。かつて戦争の渦中にあった人達にインタビューして回ってます。2、3質問に応えて頂ければいいので、取材させて貰ってもいいですか」

まぁ力があると自覚してるなら、恐怖も警戒も無用か。

「うん」

「どうぞ」

遠くの受付嬢に背を向けるような形でソファーに座り、ハオンジュを向かいの壁際に座らせる。

これだけ敵意も警戒も、隙も微笑みも無い相手は初めてだ。

「カメラ入れてもいいですか?」

「カメラ、撮ってどうするの?」

まるで子供のような眼差し。

「特番を組んで、取材映像をノーカットで流します。今の時代、下手な編集はウケが悪いですからね、はは」

「そっか」

・・・っておい、良いのかダメなのか。

「いいですか?カメラ」

「別にいいよ」

受付嬢に見えないように、自分の体を壁にするようにテーブルにカメラを立てる。

「ではよろしくお願いします。先ずは事実上の停戦をもたらしたカイザーについて、どう思われますか」

相変わらず惚けた感じだけど、ちょっと俯いたか。

「カイザーのことどう思うかって?」

ん?

「えぇ」

「別に興味ない。私は戦う為に生きてきたから、相手は関係ない」

「戦争を、止める気は無いと?」

「そういう訳じゃない。でも人は戦わないと前に進めないから」

うお、思ったより哲学的。

「なるほど。では、カイザーというより、レッドブルー抗争を止めた者は救世主だと思いますか?」

お、わりと目つきは真剣だ。

「救世主って、結果論でしょ?これから戦争を再開させればカイザーは憎まれるし、再開させなければ救世主になる」

ほー、結構ちゃんとしてるらしい。

「そうですね。あの、この5ヶ月、ずっとここに居たんですか?」

「うん。ここは支部の中でも本部から1番遠いし、たまたま私達が居たから、守れたの」

「あなた以外のディビエイトは、どれくらいですか」

「んー、8人かな」

ソウスケさん達を抜いて、裏切り者のディビエイトを抜いて・・・。

「全員ですか」

「うん」

そりゃ守れるか。

ある意味最強の砦だな。

ふと視界に入ってきた2人の女性の顔に頭の中の記憶ファイルが目まぐるしく捲られる中、ハオンジュは今まで浮かべなかった笑顔を2人に見せる。

「様子、見に来ちゃった」

リリーがそう言うとハオンジュは照れ臭そうに笑顔を返す。

「報道カメラマンをしてるファブといいます。良ければお2人にも2、3聞かせて貰えませんか」

「良いの?」

え?

「えぇどうぞどうぞ」

何故聞く・・・。

そんな問いをかけるリリーの笑顔にどこかカイルを思い出させる中、雰囲気からして1番まともそうなナオの警戒心の伺える眼差しに、逆に安心してしまう。

「ではよろしくお願いします。事実上の停戦をもたらしたカイザーについてどう思われますか、じゃあリリーさんから」

「戦争が止まるのはすごい良いことだと思うよ?」

やっぱり、雰囲気はカイルさんに似てる。

「事実上だし、それにこの支部には刺客を送ってるし、安心なんて出来ないよ」

ナオさんに話を聞くのが1番良さそうかな。

「刺客ですか」

「龍形態になるっていう、ディビエイトの力を持ったエネルゲイア。1週間前にも戦ったばかり」

ほう、刺客か。

「カイザーを救世主だと言う声についてどう思われますか。ではナオさんから」

常識人らしい悩み顔と、ディビエイトとしての余裕かな?

「私は救世主だとは思わない。今も単なる戦争の続きだよ」

リリーに目で差すと、リリーは不安げに、まるでナオの意見に同意するような諦めを見せた。

「戦いが終わってないのは事実だし、私もそうかな」

「そうですか。では、ありがとうございました」

車に戻り、端末から電話をかけると、出て早々端末の向こうからミケエラの笑い声が聞こえた。

「そうだよね、ファブ」

「いや知らないよ、何だよ、何してんのさ」

「お得意の観察眼でさ、何であたし達が笑ってるか当ててみる?」

「大丈夫です。それより、アンスタガーナ支部、今もカイザーからの刺客とやり合ってる。待機するならそこじゃないか?」

「・・・え、まじ?分かった。これからどうすんの?」

「オレはこれからブルーに行くよ。次はトウ・ファンザだ」

とりあえずこのレンタカーは返して、飛行機か。

ブルーはエネルゲイアの巣窟だ、大丈夫かな。

いや、今なら警戒も薄い。

ブルーにも軍本部はあるんだ、というか何故か本部しか無いけど。

とりあえずこれまでのはあっちに転送させとくか、襲われてカメラ壊れたらアレだしな。

新しいレンタカーを路肩に止め、厳格な門構えも無く、警備員も居ない、手前に広場を構えたただ巨大な高層ビルに入り、人気の無い、まるで静かな美術館にでも入ったかのようなエントランスを進み、2人の受付嬢が座るカウンターの前に立つ。

「自分はこういうもんです。トウ・ファンザさんに取材したいんですが」

「HIチャンネル?トウ・ファンザ様とアポは取っていらっしゃいますか?」

「いえ」

ん?怪しまないのか?

「では40階へどうぞ」

え?・・・。

「いいんですか?行っちゃって」

「取材交渉でしたらご自分でどうぞ」

そう言って受付嬢は手を奥へと差し出しながら笑顔を浮かべる。

うわ。

自信と余裕?いや、度胸試し?

まさか、けど、何だ、まるで敵意の無い笑顔。

逆に怖い。

まじか。

ソファーやテーブルの待ち合い席、観葉植物、正に美術館を思わせる絵画などはあるものの、その人気の無さはどこか不気味で、広大な1階の中央に立つ柱を通るエレベーターの前に立ち、ボタンを押す。

ん?何故エレベーターが2つだけなんだ。

これだけ広いのに、あっちにもあるのか?

緊張を纏う静寂から逃げるように、その狭さに逆に安心感が湧くエレベーターへと入り込み、40を押す。

見たところ5、60階くらいだろうけど。

形だってよく見る、コンセントプラグのように上部が2又に分かれたタイプのタワーだ。

ビジネスかマンションかは分からないけど。

エレベーターを出るとすぐ目の前には大きな窓があったが、見下ろしたものは40階の高さに、ならびに中央の凹んだ部分に、差し詰め空中庭園と洒落込んだ形で作られた中庭だった。

そんな中庭を眼下に出来るエレベーターホールと廊下を繋ぐ連絡口を抜け、そして左右に延びた廊下に並んだ内の1つの、まるでホテルのスイートルームのように高級そうに構えられたドアの脇のチャイムを鳴らす。

表札には名前があるし、トウ・ファンザさんは留守なのかな。

参ったな。

「誰だ?」

振り返るとすでにそこには1人の男性が居て、一瞬心臓が止まったのと同じく、一瞬止まった思考は瞬時に記憶ファイルを働かせる。

「自分は、こういう、もんです」

名刺を受け取るとシンゴは眉間を寄せたものの、その人間味の薄い表情は冷ややかさとは別に何か違うものを感じた。

「記者?」

「はい。あの、シンゴさんですよね?よろしければ取材させて貰ってもいいですか」

「俺?トウ・ファンザに用があるんじゃ」

「エネルゲイアに取材しに来たので、シンゴさんでも全然問題無いです、それにこっちは留守みたいなんで」

「ふーん」

強いから警戒しない、それにそもそも一般人、重役や政治家でもないなら、むしろ取材は好奇心をそそる。

「2、3応えて頂ければいいので、取材、いいですか」

「何で取材なんか?」

やっぱり興味はあるんだな。

「カイザーがレッドの軍本部を落として5ヶ月、かつて戦争の渦中にあった人達にインタビューして回ってるんです。これまでに女神と第三勢力のエネルゲイア、アンスタガーナ支部のディビエイトに取材したので、ここに」

お、納得した感じ。

「何が聞きたいんだ?」

「あの、カメラ入れてもいいですか」

「え?」

「女神とディビエイトは撮らせて貰いましたので、出来れば入れさせて頂きたいんですけど」

カイザーを救世主だと思うか、ファブの問いがそのまま読者の方々にも向けられてる感じに出来てると思うんですけどね。

ありがとうございました。

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