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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
完結章 救世主たち
345/351

あの人は今2

また少しして開けられた扉の前には20代くらいの特段変わった服装でもない女性が居たが、その顔は正に世間を騒がせたあの女神だった。

おー近い。

「どうも、主に戦場への突撃撮影をやってます、ファブ・クラチカです。あなたは自分が映ったニュース見たことありますか?初めてあなたをカメラに収めた取材チームのカメラマン、あれがオレです」

とりあえず一本通しでそう言うと、決して好印象を感じていないような表情の女神は黙って最後に小さく頷いた。

「で、カイザーがレッドの軍本部を落としてから5ヶ月。とりあえずというか様子見というか、これから女神やディビエイト、エネルゲイア、あとカイザーにもインタビューして回ろうと思ってます」

「え、カイザーにインタビュー?無理でしょ、ほんとにただの報道カメラマンでしょ?」

お、疑問系の言葉を返す。

否応なしに拒絶する理由はない、そして少なからず興味を持った。

「ははは、まぁ出来たらです、それにカイザーを撮らないと上司が出張費出してくれないんでね」

「ふーん」

「あの、良ければ上がらせて貰ってもいいですか」

「ああ・・・うん」

よし。

家に上がると真っ先に感じたのは案の定人の視線で、こちらを見る人の多さに少し驚きながらもふと見覚えのある男性に目が留まった。

ほうほう、エネルゲイアの、なるほど今も第三勢力として集まって暮らしてる訳か、道理で家がでかい訳だ。

女神は8席の椅子があるダイニングテーブルに向かったので、家と人を見渡せるように壁際の椅子に腰掛ける。

「あの、カメラ入れてもいいですか?」

「え」

「ダメならボイスレコーダーにします。でも女神は1番欲しい画なんで、出来たら撮らせて欲しいんですけど」

すると女神は終始こちらの方に目をやる他の人達を一瞥する。

不安か。

「何でしたらカソウさんも一緒にどうですか」

「は?・・・俺?」

「第三勢力のエネルゲイアとして有名ですから」

目を合わせた女神とカソウが流した沈黙に2人の距離感が伺える中、カソウはまるで自分で決めたように女神の隣に腰掛ける。

「まぁ俺はいいけど」

「・・・じゃああたしも」

お、やった。

バッグからカメラと三脚を取り出し、カメラを構えるとふと気になったのはやはり未だにこちらの方へと目をやる他の人達の、警戒心ではなくまるで好奇心で事件現場を傍観する人集りような眼差しだった。

「ではよろしくお願いします。まず、ブルーオーガとレッドワイバーンの両方を支配し、事実上の停戦をもたらしたカイザーについて、どう思われますか」

手を差し出して見せると女神は眉をすくめて純粋に困惑し、それから苦笑いを見せた。

「別に。あたしは第三勢力として2つの勢力を見てただけだし」

小さく頷き返し、目線をカソウに差し出すと、その表情は明らかに呆れているものだった。

「てかあいつは、ハーレムを作りたいだけなんだよ。まぁ国も乗っ取れたし、今の状態で満足してんじゃねぇかな、だから結果的に静かになったんだろ」

ハーレム・・・。

・・・結果的、か。

「そうですか、では、カイザーが救世主だと言われてることについてはどう思われますか。今度はカソウさんから」

するとカソウは呆れ顔のまま吹き出すように、まるでどんな人物かを知った上で見せるような苦笑を見せた。

「いや救世主じゃねぇだろぉ。てかそれも結果的にそうなってるだけだろ」

「あたしは興味無い。停戦ならそれで、別にって感じ」

別に、か。

心の中では溜まった何かがある、けど言わない。

取材だからか。

「なるほど。世間はあなたを女神と呼んでますが、本当に戦争を止める為に来たんですか?」

目線を落とすか、言葉を選んでる。

「あたし達の力がどれほど役に立つかは分からないけど、一応第三勢力になる為に動いてたかな」

一応か、元々第三勢力とはまた少し違う目的があったのか。

「ではここ最近の事についてですが、そもそも何故ハルンガーナに?」

「翼の無いディビエイト知ってるだろ?」

「えぇ」

「それの知り合いがこの国に居て、まぁトウ・ファンザの奴らにも、ディビエイトになったカイザー達にも敵わねぇし、それに追いかけてまで潰しには来ないみてぇだし、とりあえずって感じだ」

「そういえば、その翼の無いディビエイトの方はどちらに」

「そもそもあいつはディビエイトじゃねぇ。似てるだけだ、まぁ人間じゃねぇから、牧場だよ、王族に仕える動物の戦士の牧場」

ハルンガーナは同じ面積の他国と比べて人口が約半分。

この世界で1番動物と共存共栄してる国。

ていうかディビエイトに似てるだけだって軽く言える動物って何だ。

「それと、あなたが最初に乗っていたあの獣はどちらに」

「あれは魔法で作ったやつ、生き物じゃないよ」

え・・・魔法?

生き物じゃない?

「そ、それはすごいですね。あの、見せて頂くことは出来ますか」

結構なネタだよな。

「今無理。やる人出かけてるから」

はぁ・・・。

「そうですか」

「ただいま」

ん?

「うんお帰り」

女神が親しげにそう声をかけた20歳前後の男性はこちらに顔を向けると、すぐに人が良さそうな笑みを浮かべて見せた。

「お客さん?」

「自分は報道カメラマンをしてます、ファブといいます」

「ほーどー?カメ?」

え?・・・何だその反応は。

今までの報道人生で、未経験のリアクション。

報道とは何か?

しかも哲学的じゃなく、まるでその言葉を知らないかのような。

「ほら、テレビに映ってる風景を実際に撮ってる人だよ、こういう仕事の人がいるから、遠くの景色が見れるんだよ」

女神がそう言うと男性はぱっと笑みを深め、更に感激するように目を輝かせた。

「へぇーっすごいねそれ」

え、テレビを知ってて、カメラマンを知らない?

何だ何だ?

「あ、僕カイルだよ」

「ああどうも」

「産まれた?」

女神の唐突な問いにカイルは嬉しそうに満面な笑みを浮かべて頷く。

「すごい可愛かったよ。僕が来るちょっと前に産まれたんだって。これくらいでちゃんと喋れるし、でもとぼとぼ歩く感じとか、しかももう空飛んでたよ」

産まれたばかりなのに、喋る?歩く?飛ぶ?

「へぇーバクトとか元気だった?」

これくらいって腰辺りを差して、産まれたばかり?

「うん、バクトさんも、ソウスケさん達もみんな元気だよ」

ソウスケ・・・え?

何だ、報道人生で培った勘が働くぞ?

「ちょっとごめん。ソウスケって、ディビエイトの?」

「えっはい。知ってるんですか?」

おお。

「まぁ、調べるのも仕事なんで」

ディビエイトがここに。

「あの、ソウスケさんは今どちらに居るか聞いてもいいですか」

ついでに行くか。

「じゃあお2人共、ありがとうございました」

「こっちです」

扉を閉めるとカイルはそう言って、良い意味で子供っぽく、珍しいと思えるほど、そして思わず見入ってしまうほどに警戒心の無い笑みを浮かべて見せた。

「あの、どうやって、テレビに景色を映してるんですか?」

えっ・・・。

「カメラで撮ったデータ、っていうか映像は、アンテナっていう機械で電波に乗せて飛ばし、そしてその電波を受ける役のアンテナはテレビに繋がれてるから、テレビに映像が映るんですよ」

「んー、そうなんですかぁ」

分かってないな、この顔は。

テレビを知らない民族か?

それにしては小綺麗だな。

発音はケレニーズ地方の訛り方か。

「女神の方やカソウさんからも話を伺いましたが、あなたからも2、3聞いてもいいですか」

「あ、はい」

まるで人と話すのが好きなんだろうか、またもや屈託の無い笑みを見せるカイルに頷きながら、ボイスレコーダーを胸ポケットに入れる。

「事実上の停戦をもたらしたカイザーについてどう思われますか」

「んー、カイザーは狂暴だけど、戦争が止まったのは良い事だし、このまま平穏にして欲しいです」

「カイザーを救世主だという声にはどう思われますか」

「でも、レッドブルー抗争が止まっただけで、ニュースでは他の国の戦争の事も話してるので、何とも」

「そうですか」

単に第三勢力としての役目が必要無いからここに居る、か。

「もう戦う気は無いんですか?」

ん、一瞬俯いた、迷ってる。

いや、その逆か。

「カイザーが、また戦争するなら、止めますよ」

公園に入るような軽い感覚で、とても戦士として調教された動物が居るとは思えない、ほのぼのとした町の雰囲気をそのまま取り込んだ牧草地を歩くと、やがてその先には2体のディビエイトとディビエイトのような小さな生物の姿があった。

「カイル、どうした」

ゴム質の白肌で翼は無く、ジェットエンジンを浮かせている者と酷似しているがそのジェットエンジンも無いディビエイトに、少し腹の弛んだ赤紫色の肌の、これまた翼の無いディビエイトに、薄く赤がかった肌の小さな翼の無いディ・・・。

そうかディビエイトじゃないのか。

ただの似た生物家族か。

ソウスケ違いか?いやでもな。

「家に帰ったらこの人が居て、クラスタシアとカソウさんに取材っていうのしてたんだよ」

でもこんな喋れる生物、知らないな。

オレが知らないだけか?

「カイルさん、ソウスケさんは」

「えっこの人ですよ」

人ではないがまぁいい、この人?、いやいやいや。

「オレの知ってる限り、この姿のディビエイトは知らない」

「それは俺らが翼を解放してないからだ」

ん、翼の解放・・・。

「てか、取材って、あんたは記者か?」

「報道カメラマンのファブです。カイザーがレッドの軍本部を落としてから5ヶ月経った今、かつて戦争の渦中にあった女神やエネルゲイア、ディビエイトにインタビューして回ろうと思ってます。なんで、取材させて貰っても」

「これなーに」

わーっバッグ噛むなっ。

「ちょちょちょ、何だよ」

「ちょちょちょー」

あ?

「ブライトおいで」

赤紫のディビエイトがそう言うとブライトと呼ばれた生物は母親に甘えるように歩いていったが、すぐに振り返ると少しの恐怖を感じるほどの、獰猛さではなく好奇心しかないような眼差しを真っ直ぐ向けてくる。

長居は出来ないかな。

「あの、2、3質問に応えて頂くだけで良いんですが、取材させて貰ってもいいですか」

「まぁ、別に良いけど?」

ふぅ。

表情が分かりづらい。

「もし良かったらカメラも入れさせて貰ってもいいですか?先程女神の取材の時もカメラを入れさせて貰ったので、ディビエイトの方の画も欲しいんですよ」

「カメラってなに?」

ん?

「テレビに映れるものだよ、君のお父さんとお母さんは有名人だからね」

「おー、じゃあブライトもゆうめいになれる?」

「あぁ、なれるよ」

話してみると普通の子供か。

「いや、こいつは映したらまずいだろ」

子供を出しには出来なそうか。

思ったより冷静か。

「他にもディビエイトの取材行くんだろ?カメラはそっちで回してくれよ」

仕方ないか。

「えーパーパぁ」

「いやダメだろぉ」

「娘さんですか?」

「え?あ、いや、まだ分からねぇんだよ」

「そうなんですかぁ」

さすがに子供の話をすれば和むか。

「ではボイスレコーダーで録らせて貰います。よろしくお願いします」

「あぁ」

「パーパー」

「静かにするの」

母親が抱っこして宥めると返事だけは駄々っ子だが、その手はしっかり母親の首にしがみついて、その仕草はやはりディビエイトの子供と言えども可愛らしさがあった。

「ではまず、事実上の停戦をもたらしたカイザーについて、どう思われますか」

「カイザーか」

ん、浅くともため息からか。

「話したことはねぇからあれだけど、ディビエイトはともかくエネルゲイアは自分から力を得た訳じゃねぇから、エネルゲイアがブルーに恨みを持つのは不自然じゃねぇ」

「何故、そこまで知ってるんですか?」

「俺は元々エネルゲイアだったから」

・・・え、ディビエイトのソウスケが。

「えっソウスケ、そうだったの?」

「ソウスケさんが?」

元々エネルゲイアだった?

「まぁ色々あってディビエイトになってから、どっちかっつうと残酷なのはブルーの方かなって思ってた」

残酷なのはブルーの方。

「ではレッドは、どちらかと言えば優しいという事ですか」

「ブルーは世界人口規模でエネルゲイアを作り、その世界で起こる戦争なんざ構わずに役に立つ奴らだけをこの世界に引き入れてる。レッドは1人ずつディビエイトになるかどうかを聞いた上でディビエイトにしてるからな」

結構話してくれるもんだな。

「質か量かの違いですか」

「あぁ」

「では、カイザーが救世主だという声についてはどう思われますか」

「まぁ結果的にそうなりゃ、それはそれでいいんじゃねぇか?」

「そうですか」

根本はどちらも異世界での徴兵には変わりないよな。

レッドブルー抗争を起こした張本人達を忘れちゃならない。

ファブの取材チーム、実は完結章の最初から関わってたんですね。

ありがとうございました。

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