観衆たちが上げる声
カイザーの背中から吹き出した4分割する半透明の槍は、エネルゲイアや翼の無いディビエイト共々ビルや車、まるで映画のように激しく吹き飛ばしていく。
「ハオンジュ達大丈夫かなぁ」
大きなお腹を無意識に擦りながらそう呟いたエンジェラはふとこちらに顔を向け、何かを訴える。
「サモンは置いといてさ、行ってよ」
しょうがねぇなぁ。
「ウィンドサンダーっ」
翼の質感と鎧の一部の色を変えたナオの手に手を重ね、リリーと共にナオの手に魔力を注ぐ。
「せーの、雷光天貫っ」
プラズマと霧状のオレンジ色の光を纏った黄色い雷光は、肘から指先を覆う、3色の刃が反り立つ籠手となりナオの右腕を覆った。
「エクスカリバー・ウィンドアーーム」
腕に作り出したガトリングガンから何かを撃ち出してくる赤いブーツの人を殴り飛ばした時、カイザーの懐に目にも留まらぬ速さで何かが突っ込むと、その瞬間に激しい電撃音が鳴り、赤いブーツの人を数人巻き込みながら3色の爆風が広がる。
うわぁ、すごいな、僕も誰かと魔法を合体させたいな。
カイル達は、あれだし、そういえばリーチどこだろ・・・あっちかな。
まだ戦ってんのかな。
潰れた衝撃音の直後、カイザーの懐に飛び込んだディビエイトは吹き飛びビルの中にまでめり込んでいき、すぐにカイザーに目線を移すと、カイザーは緊迫感をも捻り上げるような機械音と共に6本の手を真ん中に寄せ、巨大な半透明の球を作り出していた。
絶対ヤバイよ、あれ。
クウカクを混ぜた黒氷の壁を前面に突き上げた直後、それはカイザーの真下に撃ち落とされた。
イザナギが振り下ろした鱗の刀を両腕の刀で受け流しディビエイトの腹を蹴り上げると、直後に岩影が飛び上がって斬りかかり、イザナギはそれを素手で受け止めるも同時に白火が斬りかかる。
「ムーンライトっ」
しかし直後、イザナギはそう言いながら天に掲げた手から放った全方位に及ぶ赤い閃光で、2人もろともこちらの体を吹き飛ばした。
くっ何だ今のは・・・。
そんな時に遠くのとある場所が轟音と共に半透明の衝撃波で天高く突き上げられ、イザナギもすぐに振り返る。
「何かあっち面白そうだなぁー」
するとイザナギはその場所へと向かっていき、その場には倒された上に置き去りにされた虚しさだけが残った。
遊ばれていただけとは・・・。
「はぁーあ、初陣にしては立ち回れた方だろ。動いたら何か腹減ったな。理一戻るか?」
「いや、バクト殿の様子を見よう」
「ハル、あっちにみんな集まってるよ?まさかトウ・ファンザかな」
「どうだろうな。俺達から逃げて別の奴の下に行くような奴だとは思えないが、気配もあるし、行くか」
飛んでいく最中、真っ先に見かけたのはナオを支えながらビルの屋上へと降り立つハオンジュとリリーだった。
「リリー」
鱗がボロボロじゃないか。
「あっディレオ大尉にミレイユさん、トウ・ファンザは」
「逃げたよ、それより大丈夫なのか?ボロボロじゃないか」
「大丈夫ですよ、でもカイザーが、すごく強くて」
カイザー、まだ居るのか。
「ミル、行こう」
「うん」
ふぅ・・・。
こんな時の体の丈夫さには感謝だな。
「バクトっ」
まぁ火爪達はそもそも不死身だけど。
アテナ大丈夫かな。
「精霊は丈夫なんだよ」
空を見上げた時に黄色い光線がカイザーを襲い、カイザーがお返しに半透明の球を撃ち出した方を見ると、その上空には鱗粉で球を防ぎながら飛び交うアテナが居た。
あの鱗粉、ルーニーの力も防いでたしな。
「セー・・・ンクウラっ」
ん?
少年のような声でそんな言葉を発した別のディビエイトが、両肩の大砲からほとばしる黒い球を連射しながらカイザーに近付いていき、そして至近距離にまで近付いた瞬間、そのディビエイトはカイザーが放った半透明の衝撃波に覆われる。
「ミラー・・・ジュ・ボルトっ」
しかし直後にその半透明の衝撃波はカイザーへと跳ね返り、カイザーはビルの中へと盛大に吹き飛んでいった。
すごいな・・・。
「来たのかよタウロス」
「タウロスっていうの?」
「まあな」
凄まじいという言葉では言い表せないほど破壊された街並みの中、アテナとその向こうに居るタウロスを確認した後、ふとビルの下に目をやると地上にはヒョウガ達が居て、直後に凄まじい轟音と共に内側から押し出されるように破壊されていくタウロスの近くのビルから、6本腕の人型の機械と同化したカイザーが現れる。
街を破壊したのは、カイザーか?それとも、戦いの犠牲か?
そんな時に飛んでくるイザナギが視界に入ると、イザナギはタウロスの近くのビルに降り立ち何やら地面を一踏みして音を鳴らした。
「人の波も世の波も、月夜の下じゃ凪の闇。音無き至福にその身を委ね、今日もまた独り、はっ空の下ぁ」
何だ?
「月影のイザナギ、ここに見参っ」
そしてまた地面を一踏みしてから何やら変わった構えを見せると、イザナギは反った鱗の剣をカイザーへと向けた。
「エネルゲイア、覚悟っ」
ようやくイザナギが飛び出した矢先、カイザーの背中から半透明の槍が吹き出す。
全速力を緩め急停止するとすでに眼下には空爆にでも遭ったかのように破壊された街並みがあり、今正に半透明の槍のようなものが地面を突き上げ、ビルを盛大に破壊していた。
あれか、ハオンジュ達とやり合ってたのは。
カイザーねぇ、大したネーミングだが。
どうやら、目立ってんのはあいつだけらしいが。
・・・ん?
カイザー越しにふと地上を歩く人影に目が留まり、遠くて小さく見えるからか何となく目で追っていると、やがてそいつはふと立ち止まり、手に持っている何かを振り上げた。
するとそいつから纏まった深緑色のオーラが吹き上がり、カイザーの背中を激しく斬り裂いた。
お、何だ何だ?
味方?バクトの仲間ってか。
カイザーが振り返るとすでにそいつは飛び上がっていて、その姿に記憶が呼び覚まされるような衝撃が走る中、そいつは再び深緑のオーラを剣から吹き下ろし、カイザーを地上へと叩き落とした。
まさか・・・。
いや似てるだけか。
とっさにカイザーを追うそいつを追って地上に降り立ち、カイザーと対峙するそいつを見ると、そいつはやはり信悟だった。
パラレルワールドじゃねぇ、あの格好、深緑のオーラ、あの信悟だ。
「貴様っ第三勢力か」
「違うな。強いて言うなら、トウ・ファンザ側だな」
「は?貴様」
信悟が深緑のオーラを纏う剣を突き出すとその風のような気迫と殺気にカイザーは黙り、破壊された街で完全な静寂が流れる。
「お前はブルーオーガの反逆者、ここで始末する」
「ハッ貴様になど」
その瞬間、すでに剣は深緑のオーラそのものとなりカイザーの胸元を貫いていた。
「・・・がっ」
おおっ。
そして深緑の剣はそのままカイザーの左胸から血しぶきを連れて斬り抜かれ、カイザーはそのままゆっくりと倒れ込み、直後にカイザーは人間に、6本腕の機械は2人の人間へと姿を変えて動かなくなった。
瞬殺かよ・・・ディビエイトがこんだけ居たのに。
「信悟」
こちらに顔を向けた時に人間の姿に戻るが、その冷たく、風のような殺気の籠った表情はまるで得体の知れないものを見る眼差しだった。
「おい、俺だよ、総助」
「ディビエイトに知り合いなどいない」
は?どういう・・・。
「何だよ、この世界に来る前に会ってんだろうが」
「この世界に来る前の記憶が無いんだ」
は?・・・記憶・・・。
どういう・・・いや、強制的にか?
「それよりお前はディビエイト、ブルーオーガの敵だ、ここで排除する」
ちょ・・・。
「わー」
は?・・・。
間抜けな声に振り向くとそこには翼の無いディビエイトが居たが、ふとこちらを見た信悟の、冷たくはあるが殺気の無い眼差しに人間らしさとあの頃の面影を感じた。
「と、言いたいとこだが、カイザーは侮れない。この瞬間にも、何かをするかも知れない」
は?・・・。
ふとした沈黙を突くようにどこからか何かが落ち、瓦礫の一片の如くそれは信悟の近くに転がると、その白い球体は直後に真上に四角いスクリーンのようなホログラムを吐き出した。
え・・・。
「ディビエイト、並びにレッドワイバーンとその同盟国諸君、これは生中継だ」
カイザー・・・。
てか隣に居るの、エイゲン。
「俺は皇帝軍のリーダー、カイザーだ。そしてここはレッドワイバーンの軍本部、この時をもって、ここは皇帝軍が占拠した」
・・・くっそぉっ。
エンジェラっ。
ドラゴンになったソウスケがロケットのように飛び立ってもシンゴはまるで目も向けず、してやられたような苦い表情で画面のカイザーを睨みつけている。
この死んだカイザーは?・・・。
「政府は政権を放棄せざるを得なくなるだろう。そしてディビエイトは反逆者としてレッドワイバーンから追放する。これはブルーオーガの勝利ではない、カイザーオーガの勝利だ。ディビエイト諸君、追放に従わない場合、我が皇帝軍が生み出したディビエイトによって相応の処分を下すことになる」
すると画面は消え、ホログラムを吸い込んだその白い球体は黙り込んだ。
ていうかこれ、誰が・・・。
「なるほど、カイザーの狙いはディビエイトの製造データか。女神やディビエイトを誘き寄せたのは影武者って事か」
え?・・・。
「それって、エネルゲイアがディビエイトの力を持つの?」
しかしシンゴはこちらに顔を向けるとすぐに背を向け、まるで風のように素早く静かに去っていった。
このカイザー、影武者か。
でも覚醒した時のはさすがに本物だろう。
ならいつから入れ替わった?
でもエネルゲイアは、本当に何でも出来るからな、このままじゃ世界が本当に支配されちゃう。
カイザーが映る画面が消え、テレビに釘付けになっていたクラスタシア達やシドウ達が一様に表情を青ざめていく中、突然の爆音に思考は止まり、向けた視界にはただ爆炎と共に吹き飛ぶ玄関が映っていた。
「おいっ」
シドウの一声に戦う力の無い人達が裏庭に逃げ始め、シドウが玄関へと向かっていったのでロード達とシドウを追うと、外には赤いブーツの数人が擬態光を通り抜けてきていた。
わっバレちゃった?・・・。
「第三勢力だな?」
先頭の人が口を開いた直後、擬態光の向こうから全身を包んだ黒い鱗の上に鉄鎖を巻かせ、羽毛を刺々しく逆立てた4枚の黒い翼を生やしたディビエイトが出てきた。
「は?ディビエイト?何で」
「何故カイザーが軍本部を落とせたと?それは私とエイゲンが手を貸したからだ」
「まじか」
すると直後にディビエイトは更に体を大きくさせると同時に全身の所々を機械で覆い、そして素早く両腕を囲んだ筒から発煙弾を数発撃ち出した。
火爪達、リーチ達、ストロベリー達と共に拠点に戻るが、真っ先に理解出来たのは破壊された建物と人気の無い平原だった。
・・・そんな、拠点が。
「おいっシドウっ」
しかしどこからも声は返ってこず、その平原には爆撃されたかのように残された建物の残骸が虚しく散らかっていた。
バレちゃったのは仕方がないけど、皆の姿が無いなんて、捕まったりしたのかな?
「皆さん」
突如目の前にカイルが現れると、皆の顔を見れたからか、カイルはこんな状況でもどこか安心したような顔色だった。
速陣ってやつか。
「カイル」
「皆さん無事で良かった」
「いや、これ」
「大丈夫です、皆さん避難しましたから」
軍本部が見えてきた途端、エンジェラの顔が目に浮かぶと同時に自然と体は力み、ただカイザーへの怒りが募ると共に体は壁に激突するが、視界が閉ざされようとも意識は衝撃を忘れ、地に足が着くと同時に頭はここがどこら辺かをただ探った。
ガラス片や歪んだ窓枠を踏む感覚など構わず、怒鳴り込みながら飛び掛かってきた赤いブーツの人間を叩き落とす。
壁を焼き崩し、廊下を進み、研究部に入り、赤いブーツの人間を吹き飛ばす感覚など構わず再び壁を突き進みようやく植物園に出ると、エンジェラの周りには倒れている数人の赤いブーツの人間が居た。
「総助」
「とりあえず逃げるぞ」
「どこに?」
「分かんねぇけど、ここはヤバイ」
「オスカーからこっちの司令官に連絡があった、どうやら殺すのが目的じゃないらしい。それで今はこっちに集まれだとさ」
「そうか、分かった」
通信機を下ろすとハルクはポケットにしまいながら龍形態になる。
「支部にもやがて危険が迫るかも知れないが、ソルディの居るアンスタガーナ支部で落ち合うように指示が出た」
「私達はエンジェラを迎えに行きます」
「・・・分かった。無用な戦闘は避け、こっちに来ることだけを考えろ」
「はい」
リリーが応えるとハルクとミレイユは別方向へと飛び去り、ナオとリリーと本部に向かいながらふとナオの魔法を思い出す。
エンジェラ・・・。
「ねぇソクジン使う?」
「あっそうだよね」
ナオが応えながらリリーを見るとすぐに頷いたので、ソクジンを使い、風が無く空気の重い張り詰めたような景色を飛んでいくと、やがて本部の近くで止まっているエンジェラとソウスケの姿を見つける。
良かった・・・。
「エンジェラっ」
ソクジンを解いて声をかけるとエンジェラは驚きながらもすぐに抱きついてきて、屋上からソルディの居る支部に入ると司令部は空気さえ緊張しているものの、特に襲撃されたような跡は無かった。
「支部長が情報部に来いだと」
1人待っていたハルクについていきエレベーターで情報部に入ると、真っ先に目に付いたのはすべての目線を集めている、中央テーブルに立つ画面に映るニュースだった。
「このまま、世界はカイザーの手に落ちてしまうのでしょうか。希望と謳われたディビエイトが反逆を起こし、奇しくも敵対する者同士が共謀し、カイザーはブルーオーガとレッドワイバーンをまとめ、戦争を止めるのでしょうか。もしそうならなかった場合、カイザーを止める新たなる希望は出現するのでしょうか。人々の中には、カイザーこそが次世代の希望だと声を上げる者もいるようです」
次世代の希望、まぁ人によって違うとは思いますけども。
ありがとうございました。