ターン・オブ・カイザー
ミルは弓使いだからな、力を得たからといって接近戦は慣れてない。
走り出したトウ・ファンザにミレイユが光矢を放つと、光矢はトウ・ファンザの胸元に穴を空けそのままビルの縁を抉った。
え・・・。
しかし胸元に空いた穴は穴から湧いて流れ込んだ銀色の液体によって瞬時に埋められ、その現象に戸惑うミレイユにも構わずトウ・ファンザは飛び上がり、腕を剣のように尖らせる。
その間に素早くエクスカリバーを突き出し、切っ先をトウ・ファンザの胸元に突き刺す。
しかし手応えはなく、まるで柔らかい何かを刺したような感覚と同時に、トウ・ファンザは体を水のように波打たせながら抜かずに脇へと剣身を押し出した。
何だこいつ・・・。
そんな戸惑いにも構わず、トウ・ファンザは銀色に染まったその顔をこちらに向け、銀色の瞳を光らせ、そして剣身となった銀色の腕を突き出した。
とっさに上体をずらしながらエクスカリバーを盾にし、そしてそのまま剣身を滑らせてトウ・ファンザの腕を斬り付け、再び切っ先を胸元に突き刺し、更に切っ先から白黒の水刃を撃ち放つ。
すると白黒の刃は鈍い音と共に弾け、トウ・ファンザの胸を抉り、頭を跡形も無く吹き飛ばした。
やった・・・。
しかしそれでも立っているその現象にふと恐怖が湧いた直後、体から湧いた銀色の液体は瞬時に裂かれた胸を繋ぎ、頭を作り出した。
「その程度か」
な、んだと・・・。
「俺の体は金属なんだ。そんな中途半端な力じゃ死なない」
金属?・・・。
銀色の顔を微笑みで歪ませた直後、トウ・ファンザはこちらに剣身を突き出したが、その瞬間に勢いは止まり、トウ・ファンザは自身の右腕を左手で掴むミレイユに振り向く。
しかし直後に一瞬だけトウ・ファンザの全身が平になると、ミレイユが掴んでいた右腕は左腕になっていて、そんな戸惑いにも構わず、瞬時にトウ・ファンザはミレイユの左脇に右腕の剣身を突き刺した。
「あっ」
ミルっ・・・。
「くそっ」
しかし先にその言葉を溢したのはトウ・ファンザで、振り出したエクスカリバーから逃げるように離れたトウ・ファンザは体の色を戻し、何故か悔しさを噛み締めるように表情を歪めた。
「ミルっ」
「平気、平気、うわすごいね、もう治ってる」
ふぅ・・・。
「俺は一撃で敵を殺すことがモットーだ。だが、次に会った時はお前の体を貫くほどに進化しているからな」
そう言うとトウ・ファンザは戸惑うミレイユやこちらにも構わず背を向け、離れていった。
モットー・・・か。
「ハルぅ」
ん?
甘えるような声に振り向くと、ミレイユはこちらの首筋に手を置きながら唇の無い尖った口先に口づけしてきた。
「な、何だよ」
「ハル、その姿もカッコイイね」
「そいやっ」
振り下ろされた鱗の刀にマリアンヌの節足は容易く斬り落とされるが、悔しがるような顔色を見せずむしろ闘志を深めるように微笑む素振りにふと恐怖を感じた直後、突き出された短い棒とそれに集まった節足の先端の中央に群青色の光球が作られ、撃ち放たれた。
「わっ」
イザナギの声が掠れて消えるほどの爆風が生まれて思わず顔を背けてしまい、風圧や巻き上がる瓦礫に体も思考も身動きが取れない中、ふと見えたマリアンヌの傍にはトウ・ファンザが居た。
まさか助太刀?
ディビエイトが負けたのか?
しかしトウ・ファンザはどこかへと離れていき、マリアンヌは再びイザナギに群青の光球を撃ち出すとその場から離れていった。
しかし追う間もなく爆風は広がり、視界は塞がれた。
逃げたのか?・・・。
視界が晴れるとすでにマリアンヌは見えなくなっていて、岩影と白火からイザナギに目線を移すと呆然としていたイザナギもふとこちらを見下ろしてきた。
「第三勢力の人達だよね?」
ん?
「いかにもそうだが」
「何か消化不良だし、このままやっちゃおっかなぁー」
な・・・。
「んーやっぱり止めよっかなぁー」
そう言いながらイザナギは天を仰いでいく。
元々戦うのが定めだ、仕方ない、来るなら来い。
「どうしよっかなぁー」
・・・来ないのか?来るのか?
「公爵っ」
下から声がするとそのビルの屋上にはトウ・ファンザが居て、すぐに降りていった公爵を追いかけるが風音が鳴ると体は斬り裂かれる。
しかしその間にも公爵達をタウロスの黒い光球が襲っていくが、爆風が晴れていくとすでにそこには2人の姿は無かった。
おいおい・・・逃げられ、んっ。
地上を走るトウ・ファンザに目が留まり、とっさに追いかけると、その先にはカイザー、バクト、そして見知らぬディビエイトが居た。
え、カイザー、ちょっと変わってるぞ・・・。
てかトウ・ファンザ、何だ?・・・公爵を逃がして、カイザーに加勢か?
いや、カイザーも逃がすってか?
「カイザー、一旦戻るぞ」
トウ・ファンザが駆け寄りそう声を掛けるが、カイザーはトウ・ファンザを一瞥すると何やら狂気を感じる笑い声を上げた。
「逃げるなら勝手にしろよ」
「まぁどうでもいいが、1人で勝てるとは思えないが」
「ハッ・・・出ろっ」
直後に緑色のホログラムと共にカイザーの周囲やビルの上に赤いブーツの人達が数十人、そして上空に何やら変身したゴンスと同じ体格の巨大なロボットが現れる。
おいおい、ゴンス、あんな力持ってたか?・・・。
ああぁぁっ。
ふと目を向けた上空には火爪達が居て、同時に上空に居るアテナも目に入るとすぐに脳裏には未来の雷眼達の姿が過った。
雷眼とアテナが・・・お、同じ場所に・・・。
「バクト、とりあえずカイザーだけでも潰すぞ」
「あ、うん」
「おめぇらっ敵は潰せぇっ」
狂気に満ちたまるで落ち着きの無いカイザーに、トウ・ファンザは残念そうにため息を吐いてから素早く跳んで去っていくが、直後にカイザーは息を吸い込み、アテナに向けて咆哮を上げた。
あ、一気にカイザーの部下が・・・。
「ハオンジュ、ナオ、2人も出てくれ」
テレビのある休憩室越しにデスクに居る課長に頷いて見せてから警護課を出る最中、ナオはポケットから通信機を取り出す。
何でカイザー以外の人は逃げたのかな。
「もしもしリリー、3人で集まろうよ」
ふとカイザーの咆哮の被害を受けた街並みが脳裏に浮かびながら、アテナ、そして翼の無いディビエイトを思い出していく。
エレベーターを降りて階段を上がり、屋上に出て気配を探っていく。
「リリーこっちに来るの?」
「うん」
魔法を3人で合わせるの、練習したし、きっと勝てる。
「リリーっ」
手を振ってリリーを出迎え、2人と一緒に龍形態になってテレビに映っていた国へと飛んでいく。
「力を強化って、どうするの?」
「例えばねぇ、ルーベムーンの時みたいな、膨大な魔力をもう1回吸収するとか?」
んー・・・。
じゃあまたあの世界に行くのかな?
ふと見たクラスタシアの表情はどこか期待感を寄せていて、まるで質問をされるのを待つような笑顔でクラスタシアはロード達を見る。
「オイラこの世界の事知らないしなぁ」
「何だ?まるで心当たりがあるような顔じゃないか」
「え?分かる?」
あは。
「いやぁさ、例えばねぇ、4人で魔力集めたらルーベムーンの代わりになるかなぁって」
おーっ。
「なるほどね、その手があるね」
裏庭に出てロードとテリーゴと共に手を重ね、目の前の空間にクウカクの球を作っていく。
白く、黒く、所によって黄緑に、橙にと、複雑に練り込まれていくその光の球にクラスタシアが手をかざすと、その光球は直後にまるで渦巻くように中央に集まり、そして一周り小さくなって地面に落ちた。
ん?・・・。
「おークラスタシア、何か出来たぞ?」
「早速調べてみるよ」
まだカイザーオーガだかブルーオーガだかの同盟国に入っていないと考えられる距離でも、突如として響いた爆音に空気は緊迫感に凍りつき、地面からは小さく悲鳴が上がる。
何だ?・・・あれは、エネルゲイアかな。
十数メートルほどの時計台が砕け、落ちていくその瓦礫の向こうには赤い翼を持った者や黄色い巨大な腕を持った者、各々体を変化させている3体の何か。
「きっとカイザーが注目されてる隙に攻め込む作戦だと思うよ」
そっか。
「ならとりあえず倒さないと。雷光天貫っ」
低く長い建物を破壊し始めた3体に向かっていき、黄色い巨大な右腕を背後に浮かせ、黄色い鉄甲を体の所々に着けた人にエクスカリバーを振り下ろす。
そんな時に近くのビルの屋上に1人の赤い服の人、そしてその周りに数十人の人型の機械が出現し、また別のビルの上には槍を持ち、大きな角を生やした巨大な茶色い人型の機械が出現する。
・・・多いな。
ふと気配を感じた方に振り返ると、その先には飛んでくる龍形態のフレッドが居た。
「あの、カイザーのとこに、行くんですか?」
「そうだよ?」
ナオが応えるとフレッドはエネルゲイアの方に顔を向ける。
「じゃあ、ここは、任せて下さい」
ナオとリリーに顔を向けると2人は小さく頷いた。
「じゃあお願いするね」
「はい」
わりとディビエイトの気配が密集している方へと急いでいくと再び聞こえた爆音は街並みを突き上げ、遠くではあるが直線上に粉塵や瓦礫を吹き上げていく。
すると同時にそんな情景を見下ろすように浮いている、腕が6本ある巨大な人型の機械が見えてきた。
うわぁ、何だよ、この力、しかもまるで・・・。
瓦礫を払いのけながら、まるで台風や竜巻か何かで壊滅的被害を受けたかのような街並みを見渡す。
街の事なんかお構い無しか・・・。
「バクトっ」
降り立ってきた火爪に顔を向けた時にふと空を駆ける閃光が目に入ると、その先には胸元にめり込み、6本腕のロボットと合体したカイザーに飛び掛かる雷眼と水拳が見えた。
「あのくそったれ、合体なんて荒業をまだ隠してやがったのかよ」
合体・・・。
その言葉に吊り上げられるように真っ先に脳裏に浮かんできたのは、ショウタやセイシロウ達と闘技場でバトルロイヤルした時の情景だった。
「エネルゲイア同士の力を合わせるのは、未知数ってことかな」
「まぁそうだな。つっても、鉱石でお互いに合体するっつう力でも手に入れたんだろ」
「そっか」
確か、ミント達も、そうだったかな。
雷の速さで翻弄するも雷眼は6本腕の1つから発射された半透明の球に撃ち落とされ、水拳も振り下ろした斧をその腕で受け止められ、叩き落とされてしまう。
「行くぞ」
「うん」
白熱に輝く鉤爪を伸ばし飛び上がる火爪を見ながら立昇の排気口に天魔力を注ぎ、半透明の球を飛び抜けていく火爪に目を向けていくカイザーの側面に回り込んでいくが、カイザーは火爪の鉤爪を拳で叩き、こちらの白炎共々半透明の球で迎撃し、更に雷眼から放たれた天の川のような光線でさえもその半透明の衝撃波でもって防ぎ、しかもそのまま押し通して雷眼をも吹き飛ばしていく。
さっきでも強かったのに、更に強くなってる・・・。
「フォース・グングニルっ」
直後、カイザーの背中から先程よりも倍の太さはある半透明の槍が吹き出した。
あっ・・・。
アテナの翼から吹き出した鱗粉がカイザーを覆うが、半透明の槍は霧を抜けるように地面とビル群を抉り、突き上げていく。
ここら辺はレッドワイバーンの同盟国とブルーオーガの同盟国のちょうど国境になるはず。
だからってブルーオーガの同盟国の被害を考えないなんて。
「ハオンジュ、ナオ、ここは私がやるよ」
「うん」
ナオと共に突き出されたリリーの手に手を重ね、リリーの手に魔力を注いでいく。
「せーのっ」
「雷光天貫っ」
プラズマに炎、そしてそれらを纏う明るいオレンジ色の光が3人の指先の前に生まれると、リリーはそれを矢のように伸ばした。
「エクスカリバー・スティング」
そしてリリーの言葉と共にそれは解き放たれ、3色の光を尾に引きながら光矢はエネルゲイアに当たると、生み出された霧のように細かい爆風は炎とプラズマを纏いながら更に広範囲に渡って光の風圧を伸ばしていった。
やったっ大成功。
直後にその爆風は内側から押し出されるように消えていき、その中からは全身がボロボロに傷付いても立ち姿で浮いているエネルゲイアが居た。
た、倒せなかった・・・。
「次は私ね」
リリーと共にナオの手に手を重ねた時、エネルゲイアから半透明の球が放たれ、プラズマを撒き散らしたもののそれは凄まじい勢いでリリーを吹き飛ばしていった。
あっ。
更に放たれた半透明の球をかわしながら、ビルにめり込んだ全身の鱗を砕かれたリリーを引き抜く。
「リリー」
「うん、大、丈夫・・・」
すぐ横の壁に半透明の球がぶつかり、飛び散ってきた瓦礫をプラズマで押さえながらエネルゲイアを見ると、エネルゲイアには翼の無いディビエイトや他のエネルゲイアが攻撃を仕掛けていた。
次世代の希望、誰でしょうかねぇ。
ありがとうございました。