サムライ・オーバーロード
「いや、2人は休養中だ」
「休養・・・そっちは分かるけど、そっちは?何で?」
可憐な顔立ちには似合わないぶっきら棒な物言いのアテナに、オスカーは困惑を噛み潰すようにシワを寄せソウスケを見る。
「そういう、条件だからな」
「条件?何それ」
「個人的な問題だ」
「個人的?どういうこと?」
「おいおいそんなに気になんのかよ」
ソウスケが口を挟んでもアテナはまったく強気な態度を崩さず、まるで好奇心に身を任せる子供のような真っ直ぐな眼差しを返す。
「勿体ぶられる方が余計気になるでしょ」
「え?んまぁ・・・いやぁ、俺らの子供をさ、研究対象として観察したいっつって、しかも産まれるまで龍形態で居ろっつうから、だったら俺だって産まれるまでエンジェラの傍に居るっつう条件を出したんだよ」
「へぇ、いい奴だね」
「あは、まぁ、どうも」
「オスカー殿、新しいディビエイトの顔合わせが済んだのなら、拙者はもう戻るが。まだ何かあるのか?」
「1つ、バスターの概要を説明しておく。これまでのディビエイトの特徴は知っての通り、ソークアップだ。だが、バスターには世界龍の血晶が無い」
何?・・・。
「おいおい、それじゃ強くなれねぇよな?」
誰もが思っている事を代弁するようなソウスケの問いにも、オスカーは言わずともそれが答えだと思わせる、いつもの厳粛なシワが寄った眼差しを見せる。
「わざわざ新開発するのに、既存の物と同じでは意味が無い。新開発というだけの強みがある。君達は覚えているだろう。龍形態が出来る前段階、エニグマという生物を強制的に作っていた作業を」
エニグマ、小さい動物をエニグマにして、そのデータで龍形態が生まれたんだったな。
「この場合、君達がエニグマだ」
・・・え?
「もうっ勿体ぶらないでよ、早く言ってよっ」
アテナの言葉にオスカーはその厳粛さから困惑というより物悲しさを見せ、思わず同情してしまうほど落胆したように俯いた。
オスカーのペースを崩す者が、現れるとは・・・。
「結論から言ってよね」
「・・・分かった」
何と声を掛けてやれば・・・。
「バスター4人が飲んだ進化薬には、これまでのディビエイト12人全ての細胞が組み込まれている」
・・・何、全て、レテークもセレナも・・・。
「そらすげぇな。けど、ソークアップよりもすげぇとは思えないが」
「特徴はもう1つ。龍形態時の細胞を解析した結果、その細胞は極めて柔軟性が高い事が分かった」
直後にアテナは黙ってオスカーに1歩歩み寄り、まるで先程の言葉をそのまま訴えるような眼差しと空気をぶつけるが、そんなアテナにオスカーはすぐに黙って頷いて見せる。
「結論から言えば、そのシステムの名はアダプテーション。戦えば戦うほど、自分のスタイルに細胞がその都度適応、進化していく」
アダプテーション・・・。
「まじかよ、ソークアップ無しでも、永遠に進化し続けんのかよ」
「理論上は。そして4人も是非ナオから魔法を教わって欲しい、魔法さえも取り込み、適応すれば、そのスタイルはより進化するだろう」
ソウスケが漏らした感心する声にその場の雰囲気も無言で共感に染まり、エイゲンとハリスが去っていくと同時にリリー達女3人がエンジェラに歩み寄る中、オスカーはミレイユ達バスターの4人を集め、通信機を手渡した。
「君達は全員前線基地に居て貰うことになる」
「あの、私はハルクと同じ所が良いです」
ミレイユの発言にオスカーがこちらを見たので少し歩み寄ると、オスカーはそのままソウスケ達を一瞥する。
「オスカー、俺達は子供を作るのは戦争を終わらせてからだとちゃんと決めているから、心配しなくていい」
するとすぐにアテナは噴き出すように笑い出し、そんな声に緊張の糸が切れたのか、逆にきっかけとなったのか、オスカーはこれまでにないほどの厳粛さを伺わせ、まるで責めるような厳しい眼差しを見せてくる。
「本当だな?」
「あぁ」
「・・・分かった」
「えー、私も自由に決めさせてよ」
「前線基地の中でなら、自由に決めていいが」
話を終えてオスカーが去っていくとすぐにナオが4人に歩み寄っていった。
「じゃあ魔法教えてあげるからね」
「種類は?難易度は?」
まったく、アテナとかいうの、せっかちだなー。
「んっと、簡単なのが2つ、少し難しいのが、2つ、難しいのが1つで、すごく難しいのが1つかな」
「すごくってどれくらい?」
「センスがある人でも、最低でも1、2ヶ月はかかるかな。後は感覚が掴むのが難しいだけで2、3日あれば出来るよ」
「総助、元気にしてるか」
うは、何だその質問・・・親戚かよ。
「おう、元気にやってるよ。てか、あんたも彼女居たのか」
するとナオと話すミレイユと呼ばれる女を一瞥したハルクは照れ臭そうに笑みを溢す。
「あぁ。知ってるか?女神の勢力の中に、氷牙が居る」
氷牙?まじか。
「女神って、確かカイルとかいうのも居るんだよな?」
「・・・あぁ」
「でも、どうせあいつらとは戦わないんだろ?ドラゴンは何か言ってたか?」
「カイル達の下にはエイゲンとハリスに向かわせると言っていた」
あの2人か、前も居たしな。
「そうか」
まぁハオンジュ達から聞く限りじゃディビエイトでも倒せないみてぇだし、心配は要らなそうだが。
「心配ないだろハルク。女神ほどの勢力なら味方にした方が良いって、オスカーも分かってるさ。ところで総助は魔法の鍛練くらいはしてるんだろ?」
やべ、考えたこと無かったな。
「あはは、いやぁ」
「おいおい、いざという時の鍛練は1番大事だろ」
確かにそうだよな。
魔法やっててもセレナは殺られたんだしな・・・。
「でも、少なくとも後5ヶ月はここを離れることはないだろうしな」
「それならサモン使えば?」
口を挟んできたハオンジュに目を向けるとリリーもソルディに歩み寄り、ミレイユがハルクに見せるような親しげな笑顔をソルディとハルクに見せていく。
サモン・・・。
「まぁそれならここに居ても外には出られるんだろうけど。あんたらサモンは出来んのか?」
するとハルク、ソルディ、リリーは顔を見合わせ、その表情が答えだと思わせるほど揃って諦めのムードを漂わせる。
「ナオの言う通り、サモンは1番難しいからなぁ」
「あっ」
ソルディが漂わせた神妙さを弾くように何やらリリーが閃いた顔を浮かべると、リリーはそのまま笑顔を浮かべハオンジュを見た。
「ナオと3人で、女神のサモンみたいなのを作ろうよ。どっちみち1人じゃあのエネルゲイアには勝てないんだし」
終始持ち前の惚けた顔をしているハオンジュでさえも良い事を思い付いたと言わんばかりに表情を明るくさせると、2人はすぐにナオの下に向かっていった。
「サモンってどうやんだ?」
「改めてナオに聞いた方が良いんじゃないか?」
応えながらソルディの向ける目線を追いかけ、しばらくしても立ち去らないハオンジュ、ナオ、リリーを横目に植物園に入ってきた研究員達と恒例のステーキとフルーツの盛り合わせに目を向ける。
サーロインステーキ張りの豪華な1枚肉をつまみ上げ、一口で食べるとナオは何やら面白がるように笑い出した。
「そんな、ステーキをクッキーみたいに」
「いや、実際一口サイズなんだから。てか、ステーキを一口でってのは男のロマンだろ」
「あは、そっか」
「ねぇナオ、サモンだけじゃなくて他の簡単な魔法でも合わせたら強くなるかな」
「むしろそっちの方がサモンより戦略が広がるかも」
世間話のトーンで口を開いたハオンジュにナオはぱっと咲かせたような笑顔を向け、そんなガールズトーク張りの雰囲気ごと横目に見ながら、何十種類の野菜、魚介類を一切合切煮込んだとかいうスープを細めた口で啜り、2枚目のステーキを頬張る。
「おやすみ~」
「うん」
やっと出ていき始めた3人をガラス越しに見送った後、植物園の隅で目を閉じ、目の前の空間に意識と魔力を注ぎ込んでいく。
意識が薄れていった感覚の後、体を伝う水にふと目を覚ますと、そこには何故か雨が降っていて、目の前の植物は何故か焼けていて、何となく見上げると天井には雨を降らす小さなシャワーヘッドのようなものがあった。
・・・え?っと・・・。
「何やってんだか。サモンは失敗したら爆発するんでしょ?」
あ、そうか、くそ。
まじでムズいじゃねぇか。
「なぁちょっとクウカク張ってくれよ」
「えー?あたしもう寝るんだけど」
「この映像はエネルゲイアもしくは協力者が撮影したものです。ご覧の通り、これまでエネルゲイアを退けてきたディビエイトが殺害された事実は不敗神話を覆し、レッドワイバーン並びに同盟国を震撼させています。また、一部の国民、宗教団体からは女神の登場を心待ちにしているという声が上がっています」
確かに俺でも敵わないエネルゲイアなら、女神じゃないと無理そうだな。
「クラスタシア、行こうよ」
「そうだね、エネルゲイアに勝たれるのもあれだしね」
「私達も行こう」
リーチとかいう侍がそう言うとカイルは頷き、カイルとロード、テリーゴ、クラスタシアが畑に出ると水拳と雷眼も顔を見合わせてくる。
「バクトも来るだろ?」
「えっ行くよ」
「ウーグル、ストロベリーと常に透明で出てくれ。バクト、何かあったらストロベリーの所だ、医療班だからな。あんたらも、常にストロベリーの所を把握しながら戦ってくれ」
リーチ達にバクトとストロベリーが歩み寄るのを横目に見ながら畑へと向かう。
とりあえず全軍突撃ってとこか。
「カイル、場所は?」
カイル達の抜け殻を談話室に寝かせてからシールキーの扉を抜け、サモンとやらに乗るクラスタシアを確認しながら炎帝爪を纏う。
「とりあえず降りないでやるから、カイル達はあたしのサポートね」
うん。
変身していくバクトやカソウ達、地上から歓声のような声を上げる一部の人々を見下ろしたりしていると、少しして森のように建ち並ぶビルを飛び移ってくる人影が見えてきた。
あの者達がテレビに映っていた者達だな。
「皆、行くぞ」
刀達と頷き合い、その意志と信頼を形にするように心を澄ませ、妖力を体の底から湧かせていく。
「翼解放」
心身に満たされる妖力を噛み締めながら、岩色の翼を生やし、岩色の板札で作られた陣羽織、籠手、すね当てを纏った岩影と、燃えるような白い翼に、板札ではなく揺らめく白炎がそのまま固まったような籠手、すね当てを纏った白火と再び頷き合う。
「天蹄、地翼、行くぞ」
「うん」
「天地・双覇刀」
テンテイとチヨクが脇差しとなり、リーチが2本の脇差しを手に持った瞬間、ジーンズ色の光に包まれたリーチの鎧は藍に染まると共に形は筋肉質なものに変わり、翼は飛翔刀のような刀身を型取った黒光となり、そしてその両腕には鉤爪のように真っ直ぐ伸び外側に刃を向けた脇差しの刀身と同化した黒い籠手があった。
合体、したけど・・・じゃあ、まさか。
「風雷・神ノ刃衣」
うっわ・・・。
「桜雅・黒咲」
おおっ。
何でだ?2人共、リーチには無い、カイル達のサモンみたいな重厚な気迫がある。
ガンエイの翼は無くなり、その身に纏ったのは巨漢に相応しい筋肉質な胸板、陣羽織、両肩を飾る板札の楯が目を引く、岩色、緑色、黄色の3色使いの甲冑、そして兜の天辺からポニーテールのように地面まで伸びた岩色のオーラ。
同じくビャッカも翼は無く、全身にまで至った燃えるような白い甲冑には桜色が混ざり、華やかになると共に攻撃的な重圧感を帯び、右手には漆黒に燃え上がる刀の形をしたオーラが握られていた。
甲冑チックには統一されてるのか、さすが侍だな。
まるで対岸に立っているようにこちらを見据えながら、カイザー、マリアンヌも各々変身していく。
火爪が公爵って呼んでた人は剣を抜いただけで、トウ・ファンザに至っては変身もしないし武器も持たない、か。
でもトウ・ファンザはディビエイトを殺した時には剣を出したし、今は出さないだけかな。
「翼解放」
立昇もしとこ・・・ふっ。
「女神っ、並びに女神の軍勢諸君っ知っているなら良いが、俺はトウ・ファンザっ。この時をもって、お前ら第三勢力は俺達が潰す」
律儀に自己紹介か、自己顕示欲の強い人なのかな。
それとも正義感かな。
誰とやろうかな。
火爪が動き出すと水拳は瞬間移動して公爵の背後に回り込み、リーチ達が飛び出すとマリアンヌが動き出し、トウ・ファンザのクラスタシアを見る真っ直ぐな眼差しに何となく目は逸れ、意識はそのままカイザーへと向いていく。
やっぱり合体は男のロマンですか。笑
ありがとうございました。