皇帝軍VS――
「それからさっき、カイルに会った」
「えぇっ」
案の定リリーは驚くが、ソルディはすぐにどこか嬉しそうに頷く。
「しかも、女神はカイル達だ」
「えぇっ」
「そ、そう、だったのか」
「それでねカイル、第三勢力になるつもりなの。だからハルと一緒に2人もカイルに協力しようよ」
「はいっ」
「だが、ここを離れるとなると他のディビエイトにも迷惑がかかるからなぁ、オレ達だけ自由に立場を変える訳にはいかないだろう」
ソルディの言葉に笑顔で快諾していたリリーもハッとしたように眉をすくめ、ミレイユもこちらに悩むような眼差しを配ってくる。
どうすれば、カイルを手伝えるか・・・。
「そうだ。聞いた話だが、そのカイル達の仲間にディビエイトが居るらしい」
ディビエイトの仲間?
「いつ聞いたんだ?」
「昼に出ただろ?その時にディビエイトも出たらしいが、見なかったのか?居たんだろ?」
あの時?いや、俺とミルが逃げた後か?
「多分私達が居なくなった後だと思う」
「どんな姿だったか聞いてないのか?」
そう聞くとソルディはどことなく困ったような苦笑いを見せる。
「いやぁ。それが翼の無いディビエイトだったらしいが、そんな奴オレ達も知らないよな?」
翼の無いディビエイトだと?
そう言えばヒョウガの他に剣を沢山持った人間が居たが。
翌朝に屋上から本部の司令部に入るとミレイユは大きく口を開けて声を漏らし、そんなミレイユに目を向ける人達の中にふとバードを見つけると、バードはすぐに歩み寄ってきて、懐かしさを感じさせる柔らか過ぎる微笑みを見せる。
「ハルクちゃん。どうかしたのぉ?」
「オスカーに話があってな」
「そお。部長は今エンジェラの所よぉ?」
エンジェラ・・・確か研究部だな。
「たまに様子を見てるのよぉ」
「そうか、ありがとう」
エレベーターのボタンを押して待っている時、ふとこちらの顔を覗いてきたミレイユはどこかからかうような笑みを見せる。
「ハルちゃん」
「やめてくれ。ただでさえ恥ずかしいのに」
「うふふっ」
エレベーターの扉が開いただけでまた声を漏らすミレイユに微笑ましさと愛しさが募りながら、少しして研究部のある階に出て広々とした空間に居る人々を眺める。
オスカーは・・・。
左手にある数段だけの階段の下に見える扉にディビエイトの気配を感じていると、ちょうど扉が開き、そこからオスカーが出てきた。
「オスカー」
「ん、ハルク。どうしたんだ、こんな朝から」
「1つ頼みがあるんだ」
オスカーの表情に一瞬険しさが見えると、その眼差しはミレイユに向けられる。
「その者は」
「ミレイユ。俺の恋人で、俺の世界からこっちに来たんだ」
「ま、まさか、ハルク、お前も結婚するとでも?」
え・・・。
「ああ、いや、今はその事じゃなくて、ミレイユを、ディビエイトにして欲しいんだ」
すると表情のその険しさは更に深まり、オスカーは真剣な眼差しで再びミレイユを見る。
「あの、お願いします。ハルと、一緒に戦いたいんです」
「俺からも頼むよ」
「・・・ディビエイトになるという事は、常に戦場に赴き、敵と言えど人の命を奪わなければならない」
「分かってます。私は元の世界で兵士をやってますので、戦いには慣れてます」
ミレイユの真っ直ぐな眼差しにオスカーはいつもの厳粛な表情を見せ始め、手を後ろに組みながら目線を遠くへと流していく。
「・・・では、君には次世代のディビエイトチーム、バスターの一員として動いて貰う」
バスター・・・。
「はい。えっと何をすれば」
「先ずは血液解析だ。君はオリジナルのようだからそのまま進化薬投与だな」
研究部の一角に小さく括られた場所で血液採取をされているミレイユを見ていた時、通信機が鳴り出したので画面を見ると、そこにはソルディを示すこの世界の文字が映し出されていた。
「ソルディか」
「今頃は本部か?」
「あぁどうかしたのか?」
「今テレビに映ってるぞ?昨日言った翼の無いディビエイト」
何っ。
とっさに研究部を見渡し、ガラスで区切られただけの休憩所と思われる場所に向かうと、そのテレビにはニュースとやらが映し出されていた。
「じゃあオレこれから任務だから、昼にな」
「あぁ」
テレビには女神と呼ばれる女、カイル、見知らぬ男、ヒョウガが映っていて、キャスターと呼ばれる女の説明と共に、上空に現れたエネルゲイアに向かったヒョウガが突如ディビエイトのような姿になる。
翼が無い・・・。
あの時の、青白いものとはまた違う姿・・・。
そうだ、ヒョウガか。
前から、ヒョウガも偶然にディビエイトと同じような体型へと変身していた。
「ハル、採血終わったよ」
「あぁ」
「あ、カイル達」
「あぁ、翼の無いディビエイト、あれはヒョウガだ」
「へぇそっか」
午前の任務を終えて部屋で待っているミレイユを迎えに行ってから、高層ビルの1階に構えられたレストランのテラス席で待っていたリリーとソルディの下に着くと、リリーはすぐに甘えるようにミレイユに抱きついていった。
「雷光天貫、その名を大地に轟かせろ、エクスカリバー」
身長ほどの長さを有したプラズマ色の剣を眺めながら、ヒロカの事やこの前いきなり現れたヒョウガの事を思い出す。
・・・何でヒョウガの事思い出したんだろ。
「ハオンジュの特技は2刀流だしね、エクスカリバーの2刀流も良いかもね」
んー・・・。
そう言ってナオも龍形態で作った黄色いエクスカリバーを舐めるように眺めていく。
オリジナルの魔法・・・。
両手剣か、ただ2本の剣を持ってるだけじゃ、オリジナルとは言えないかな。
「んんー」
唸り出したナオを見ていると、ナオはエクスカリバーの剣身を柄に押し込んでいき、そして黄色いただの柄だけになったそれからゆっくりと斧状の光を作り出した。
「すごいナオ」
「剣身は元々クウカクで作ってるし、形を変えるのはそんなに難しくないよ?」
へぇ。
剣身を変える、か。
建物ではなく、敷地ごと擬態光を張っているからか、敷地内では普通に見える小屋の扉をノックすると、出てきたのはロードだった。
「何だ」
ロードの方が良いか。
「立昇とクウカク以外の魔法教えてくれない?」
すると目をぱちくりさせたロードはふと玄関先から見えるクラスタシアに振り返る。
「せっかくだし教えてあげれば?」
「あぁ」
「2人は?」
「鉱山で資金作りだ」
へぇ。
やっぱお金作りは発掘だよな。
カイル達の小屋の裏に回り込み、自分達の小屋の前に戻ると、すぐに目に留まったのは首から下を白黒の岩石性の鎧に身を包み、黒い翼を生やしたリーチだった。
おー。
「これが、翼という妖術か」
「リーチ似合ってるよ」
まるで着たことのない服に戸惑うような顔色を浮かべていたが、クロザクラの言葉とその笑顔にリーチは照れるように表情を綻ばせる。
「だがなぁ、翼は、少しでかいな。何故サクラは小さいのだ」
「さあねぇ」
「リーチ、サクラも、魔法覚える?簡単だよ?」
「ほんと?やるっ」
ハルクさんだけじゃなくてアイデロ大尉とテーリー中尉も居たなんて。
「んー・・・ほんと美味しいこれ」
クラスタシアの声に少し我に返りながら、お皿いっぱいに盛られたサカナの切り身をまた1つ取り、水のようにサラサラした赤黒いソースにつけてから口に運ぶ。
水の中にこんなに美味しい生き物が棲んでるなんて。
「今回はカイルがたまたま大物釣れたからなぁ、オイラ間近でこんなでかいの見たの初めてだよ」
特にこの白い部分、肉厚で脂が甘くて美味しいな。
「さすがに釣りたてはすごいな」
ロードも2人も、こんなに喜んでくれるなんて。
「サカナって美味しいんだね」
「食べたことないの?」
「うん。僕の国の周りは森なんだ」
「へぇー」
驚きながらも手は止めないクラスタシアの食べっぷりに嬉しくなりながら、バクトの顔をふと思い浮かべる。
サカナを見ただけでバクトさん達も喜んでくれたし。
「一応今日1日時間あげたし、明日出よっか」
「うん」
いつものように朝食を取った後、しばらくサキノエやクロザクラ達の魔法の練習を手伝って時間を置いてから、クラスタシア、バクトの3人でどこかのビルの上に移動する。
すると大して時間も経たない内に、近くのビルの上に一瞬にして数人の人間が姿を現した。
えっ・・・。
「我々は皇帝軍だ」
するとそう口を開きながら、緑色の履き物と縞模様の上着を着た1人の男性が前に出た。
「我々の配下になれば、命の保証はする」
配下・・・。
「ならないって言ったら?」
クラスタシアがそう返すとその男性は暗い緑色の鎧を纏い、尻尾を生やした体を倍ほどに巨大化させる。
「ここで潰す」
クラスタシアからリッショウの気迫を感じると、皇帝軍の人達は皆足がすくんだように動かなくなるが、前に出ている男性は気合いを込めた声を吐き下ろすと腰を据え、飛び出そうとする体勢を見せた。
「怯むなっグランダ囲めっ」
そして男性が飛び出した瞬間、クラスタシアの足元から光の膜が飛び出すと、それはアーチ状に曲がりクラスタシアの頭上でくっつき、抵抗する間もなくクラスタシアは光のドームに閉じ込められる。
あっ。
飛び出しながら緑色の男性が放った5本の緑色の光槍をとっさにかわし後退すると、男性はクラスタシアを囲む光のドームに乗り、更に威嚇するように手を振って5本の光槍を何度も放った。
「女神の命が欲しければ配下になることだっ」
ソクジンっ。
動きの止まった男性に向けて光の矢を放ち、光のドームを思いっきり殴りつけるが、まるで手応えもなくドームはびくともしない。
そんな・・・。
そうだ、サモンみたいに、術者を倒せば消えるかも。
ソクジンを解くと男性は元居たビルの上まで盛大に吹き飛ぶが、すでに代わりに男性よりも更に巨大になっている別の人間が走り込んできていた。
そこに大きくなったバクトが迎え撃つが、また別の方から6本腕の人間が向かってきたので、リッショウしながら腕を伸ばし、スピーカーから天力を練り込んだ光の球を高速連射していく。
そんな時にディビエイトの気配を感じると、街並みの向こうからは大きくなったハルク、アルマーナ大尉、そして2人の見知らぬディビエイトがやってきた。
ハルクさん・・・。
「よおっ」
背後からの声に振り返ると、隣のビルにはカソウとキング、そして見知らぬの男性が居た。
あ、カソウさんにキング。
駆け寄ってきたので、6本腕の人間に光の球を撃ちながらカソウ達の下に向かうと、見知らぬ男性もカソウ達とまったく同じ顔立ちだった。
「カイルだっけか。まさかお前が女神の仲間だったなんてな。テレビに映ってたの見て来たんだよ」
「そうなんですか。あの、カソウさん達って、4兄弟だったんですか」
するとカソウは2人と顔を見合わせながらどこか面白そうに笑い出した。
「そんなもんだな」
「カイルっ」
振り返るとハルクは堕混姿になっていて、他のディビエイトも体をすぼませるとその2人はアイデロ大尉とテーリー中尉となった。
わぁっ2人も来てくれた。
「ハルクさん、この真ん中のカソウさんが、知り合いのエネルゲイアなんです」
するとカソウに顔を向けたハルク、アルマーナ大尉はまるで見覚えがある人を見るように一瞬固まる。
「・・・ヒョウガ?」
「いえ、兄弟なんです」
「そ、そう、なのか」
バクトが屋上に降り立ちこちらに顔を向けた時、バクトは何やら驚くような声を上げてから体をすぼませた。
「カソウっ」
「ぅお前ぇっ来てたのかよっ」
わぁみんな揃った。
「しかも女神んとこかよ」
「ライガン、だよね?」
指を差しながらどこか嬉しそうにバクトが聞くと、キングは驚くような表情でカソウ達と顔を見合わせる。
「そうだが、何故知ってる」
あれ?キングはまるでバクトさんを知らないような顔してる。
「まぁちょっとね。そっちは?ていうかまだ居たんだ」
何でだろ。
「まだってちょっとひどくないかな。あたしスイケンだよ」
何となく酔っ払っているように見えるほど、にたっと笑顔を浮かべるスイケンが手を差し出すと、バクトは半笑いで戸惑いながらもスイケンと握手する。
「僕はバクト。けどヒョウガでもいいよ。とりあえずカイルもハルクもカソウもさ、あっちを片付けようよ」
「だな」
カソウの相槌を聞きながらハルクに顔を向けると、ハルクもすぐにこちらに頷いて見せた。
クラスタシアを助けないと。
「カイルっ」
風を切る音と共に聞こえた声に振り返ると、すぐ後ろにはテリーゴとロードが居た。
「いやぁたまたまテレビ見たらこんななってたから、オイラ達も来たんだ」
「うん。サキノエさん達は」
「留守番だよ」
再び大きくなってバクトが飛んでいくと、ハルク達やカソウ達も各々変身し、同じく各々変身していく皇帝軍の方へと向かっていく。
始まる前から、皇帝軍に勝ち目があるか疑問ですが・・・。笑
ありがとうございました。