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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
完結章 女神の争奪
332/351

愛しい天使

そう応えたサキノエが目を配るように顔を向けると、見知らぬ数人の人達が何となく親しみが湧くような微笑みを見せてきた。

「クロザクラにビャッカ、カミナリアヤメに・・・」

みんな見たことない服装だなぁ。

「カゼトジャク、テンテイ、チヨク、ガンエイ」

それに、みんなからも天魔の力を感じる。

「僕カイルだよ」

「カイル達、もうディビエイトと戦ってるの?」

バクトの言葉にすぐにロードは警戒するように周りを見渡すが、近くのテーブルに居る男女はまったくこちらに反応することなく微笑み合っていて、ロードの表情に落ち着きが見られるとバクトも微笑みの中から不安を消していった。

「うん、バクトさん達、ハルクさんの所に行くの?」

「そのつもりだけど」

「カイル知ってるの?」

「いえ、この世界に来てからは会ってないんです」

するとアルマーナ大尉は小さく頷き、眉をすくめる。

「それに、僕達は、ハルクさん達にとっては敵、なので」

バクトがふと神妙な表情を見せると同時に、アルマーナ大尉は隊長らしさを感じさせる、責めるような眼差しを見せる。

「本当に、このままでいいの?」

「あの、僕達、もしかしたら第三勢力になるかも知れないんです。ディビエイトはエネルゲイアっていうものと戦争してて、僕達が2つの敵になれば、2つが結託出来て、もしかしたら戦争が終わるかなって」

するとアルマーナ大尉は目を見開き、バクトは微笑みも浮かべながら納得したように頷く。

「ミレイユ、ハルクの所行くんでしょ?」

「・・・うん」

「そしたら僕、カイルの方に行くよ」

えっやった。

「ありがとう」

バクトに微笑み返し、バクトがサキノエに顔を向ける中、ふと思い悩むような顔色を見せるアルマーナ大尉に目が留まる。

「リーチもこっち来てよ」

「あぁ」

「私も、カイルを手伝いたい、けど・・・」

「アルマーナ大尉。大尉はハルクさんの所に行かなきゃだめです」

しかし頷くものの、アルマーナ大尉は更に表情を曇らせ、その眼差しに寂しささえ見せ始める。

「・・・あっ、じゃあ私がハルを誘ってあげるよ」

えっ、誘う・・・。

「でも、そしたらハルクさんが、みんなの敵になっちゃいますよ」

「だめ、カイルだけにそんな事させられないでしょ?」

しかしすぐにアルマーナ大尉はそう言って困ってしまうほどの笑顔を見せてくる。

んー。

「ミレイユ。とりあえずミレイユはハルクの所に行ってさ、秘密裏にカイルを手伝う協力者ってことにしなよ。そうすればハルクに迷惑かけることもないし」

「そ、そう、だね」

ふぅ。

「でも、どうやってハルの所に行くの?」

「単純に気配を追えば良いよ。少なくともここにいるカイル達以外の気配を追えばディビエイトに会えるし。そのディビエイトからハルクの居場所聞けば分かるよ」

「なるほどぉ」

まさかバクトさんが仲間になってくれるなんて。

しかもサキノエさん達も加わってくれるなんて。

食材が詰まった透明な袋を持ちながら、大きな箱を持つロードと共に小屋に戻ると、ソファーに座っていたクラスタシアはこちらまで少し嬉しくなるほどの驚きの声を上げた。

「何それっ」

「お土産だよ」

「え?」

するとその言葉だけでクラスタシアは笑顔を浮かべ、歩み寄ってきた。

「バーベキューセットだ」

「おおほっ」



クルマが止まると同時に扉を開け、要人が出ると扉を閉めてすぐに要人の斜め背後につく。

巨大な赤い三角屋根が特徴的な、国のトップ達が会議を行う建物とやらに向かっていると、広く角ばった入口に差し掛かった時に突如背後から叫び声が聞こえる。

振り返りながら要人を庇うように立つと、そこには胸元や頭、腕や脚と、体中に小さな鉄管を巻き付けた1人の男性が居た。

「無駄だっそのお偉いさんには興味はない。俺の目的は、その建物だ」

自爆、か・・・。

振り返ると要人はすでに3人の警護課の人間に庇われて離されていて、銃を突き出す仲間を見ながら目線を戻すが、男性は銃に脅えることなくゆっくり歩み寄ってきた。

「言っとくが俺はブルーオーガの人間じゃない」

手をかざし、男性を囲むようにクウカクを張ると、見えない壁に軽くぶつかった男性は驚いた後にこちらを睨みつけてきた。

「戦争なんかする下等人類など、すべて消えるがいい。戦う為だけに生きてるお前らは、存在が無意味なんだよ」

くっ・・・無意味?

戦う事が、無意味だと?

「分かり合う気も無い癖に、お前らは何をしている」

そして男性は狂気に顔を歪ませ、溢した歯から笑い声を漏らした。

直後に男性はドーム状の爆炎と化すが、逃げ場を失った衝撃は地面を窪ませながら突き上げ、更に崩れた足場は濁流の如く爆炎を漏らしていく。

揺れる地面は収まり、爆炎も空に消えていくが、ふと男性の言葉だけは狂気に満ちた笑みと共に脳裏に焼き付いていた。

戦争は無意味なもの?・・・。

戦う為に生まれてきたのに。

でもオスカーは、エネルゲイアを殺す為ではなく、止める為に戦って欲しいって。

それでも、戦争は無意味だと?

「お帰りー」

「うん」

警護課に戻るとすでにナオが居て、隣のデスクに座るとすぐにナオは心配そうに顔を覗いてきた。

「何かあった?」

「自爆テロが出てね、その人、ブルーオーガの人じゃなくて、戦争なんて無意味だって」

「そんな事気にしないの。答えなんて人それぞれ、自分なりの答えを持ってればいいんだよ」

その瞬間見えた、ふと思い出させたヘイトにはない大人びた眼差しに、何となく窮屈な気持ちもほどけたような気がした。

自分なりの、答えか・・・。

「うん」

戦う為に生まれ、戦ってきて、戦えることを誇りに思ってきた。

だけど、戦うことの意味なんて、考えたことなかったな。

「次の担当は夜からだし、どっかでご飯食べよっか」

「うんっ」

ナオが居るなら、ここが戦場だろうとどうでもいいや。

意味なんて無くていい、何の為に戦うかじゃない。

戦いの中で、何がしたいか。

ナオと一緒に居たい、それだけだ。

支部を出た時にまるで吹いた風に何となく気を取られるように、ふと感じた気配の方に振り向くと、少し先の左手にある横断歩道を渡る人達がすぐにその違和感の正体だということに気が付いた。

「あれ」

ナオもその10人の見知らぬ人達に気を向けたので、呆然と見つめるナオから10人の男女に目線を戻すと、横断歩道を渡り、直線の歩道をこちらの方に向かって右折した途端、その内の1人が何やら手を振ってきた。

え・・・。

「ハオンジュー」

ヒョウガ・・・。

「知り合い?」

「・・・少しね」

何か、用なのかな・・・。

私に用なのかな。

「知り合いに会えて良かったよ」

あの時の安心感を思い出すと同時に、あの時には見せなかったあどけなさを見せる微笑みにふと穏やかな気持ちになる。

「私に用なの?」

「実はハルクに会いに来たんだ」

ハルク・・・。

「でも居場所が分からないから、とりあえず近い気配のディビエイトに会おうかなって」

ナオと顔を見合わせるとナオは特に警戒することなく、ただ戸惑うような眼差しをヒョウガ達に向けていく。

「ハオンジュ、ハルクの居場所知ってる?」

ハルク・・・あんまり話したことないけど。

「分からないけど、電話すれば分かるよ」

するとヒョウガの右隣に居る、白い布の上に胸と関節当てだけの白い鎧を着た女性が嬉しそうに表情を明るくする。

「電話してくれる?」

まぁ・・・。

ヒョウガの笑みに何となく再びナオと顔を見合わせながら、ポケットに手を入れる。

・・・いいか。

何となく緊張しながら、通信機を耳に当てる。

「・・・何か、用か?」

「あの、ヒョウガが、今目の前に居るんだけど」

「え?」

「あなたに会いに来たって」

「そ・・・そうか」

「私今フライル支部の目の前に居るから」

「分かった。すぐ行くと伝えてくれ」

「うん」

ふぅ、緊張した。

「今来るって」

「うん、ありがとう」

「じゃあ私達、これからお昼ご飯食べに行くから」



どこか照れ臭そうに手を振り返して去っていくハオンジュに昔を思い出しながら、生暖かく心地よいそよ風が吹く都会の風景を眺めていく。

「良かったね」

満面の笑みで頷くミレイユから、各々自由に散らばって過ごしている刀達や、4車線道路を行き交う自動車を眺めていく中、ふと遠くの空から胸の中を這うような気配を感じ始める。



この世界に来たのは反乱軍を見つける為だろうか。

なら、ヒョウガもこっち側についてエネルゲイアと戦ってくれるかも知れない。

それにしても、ハオンジュ、あまり話したことなかったな。

思わず少し緊張してしまった。

フライル支部が見えてくると同時に感じる気配の多さが気に掛かりながら、堕混に戻り降下していく。

その中でヒョウガの隣に居るミレイユに目が留まり、思わず頭が真っ白になる。

手を振り出したミレイユの姿にもまだ思考は動かず、地面に降り立ち、歩み寄ってきたミレイユの呼び掛ける声にようやくその顔を認識出来た。

「本当に・・・」

透き通るような肌、キレイな輪郭、丸く大きな目、愛しい唇。

「ミル、なのか?」

「ハル」

ミレイユ。

優しく抱きしめてきたミレイユを受け止めながらヒョウガを見ると、まだ理解出来ない状況でもその安心感に満たされた表情とミレイユの温もりは、ただ嬉しさを込み上がらせた。

「ヒョウガ、何で」

「ユリとルケイルと一緒に三国に帰って、それで天王様にハルクを捜しに行くって言ったら、ミレイユもついてくるって」

ユリ、ルケイル?

「ユリ達は、死んだと聞いていたが」

「うん。死んだのは確かだけど、新しく生まれ変わったんだ。でも姿は前と同じだし、何も変わってないけどね」

生まれ、変わった?

「元気なのか?」

「うん」

それならいい。

「そうだミル、ソルディとリリーも居るんだ」

「ほんと?他のみんなは」

「・・・いや」

するとすぐにミレイユはこちらの気持ちを写したように表情を曇らせる。

「そっか」

「来てくれたのは嬉しいが、戦争を終わらせるまでは帰らないと、ソルディ達とも約束してるんだ」

しかしミレイユは笑顔を浮かべ、何となく嫌な予感を過らせる。

「一緒に戦う為に来たの」

「いや」

「だめ。一緒に戦って、一緒に帰るのっ天王様にもそう言ったし」

まったく・・・。

「だが、三国の兵士の力では、エネルゲイアには勝てない」

「ううん、私もハルと同じになればいいでしょ?」

おいおい。

「ミル、いいか?そうなったら、もう天使には戻れないんだぞ?」

しかしミレイユはまた笑顔を浮かべ、ふとある言葉を過らせる。

「むしろ、ハルと一緒の方が良い」

はぁ・・・。

ミルが、ディビエイトに?

ソルディ達なら、何て言うか。

「本当に」

「良いのっ」

仕方ないな、まったく。

「ヒョウガ、俺達には倒さなければならない敵が居る。エネルゲイアという奴らだ。反乱軍を追いかけてきたなら」

「ああハルク、僕、カイルの方につくよ」

たくましさや力強さはないものの、その眼差しは真っ直ぐで、思わず言葉を詰まらせた。

カイル・・・。

「カイル、来てるのか?」

「さっき会ったよ」

ドラゴンは、カイル達を潰さなければならないと、だが・・・。

カイル達と、戦える訳がない。



いつまで抱き合ってんだろ。

「ハル、ハルも一緒にカイル達の所に行こうよ。カイル達、2つの国の間に入って自分からみんなの敵になる気なの」

するとハルクは目を見開き、真剣な表情で目を泳がせる。

共通の敵、か、やっぱり天使だなぁ。

あれ、そういえば旧魔界でベイガスも同じこと言ってたな。

「その事は、ソルディ達皆で話し合おう」

「そうだね」

どうやら他に2人三国の兵士が居るらしいな。

「ヒョウガはこれからどうするんだ」

「何かカイルがすぐに居場所を教えてくれるって。何か女神っていうのがカイル達みたいで、出たら分かるって」

「・・・何だってぇっ」

おや?何だ?

「ハルどうしたの」

「カイルが、女神は自分達だと言ったのか?」

「うん」

するとハルクはミレイユと抱き合ったまま再び真剣な表情で目を泳がせる。

「あれが、カイル達だったのか」

「知ってるの?」

「あぁ、この間から急に現れて、正体も分からず、本能を揺さぶる威圧感を放つそいつを、人々は女神と呼んでる」

へぇ。

威圧感、でも何で女神なんだろ。

天使は天使でも、カイルは男だし。

ん?何だ?・・・この感じ。

何も見えないけど、何か居る。

するとようやく離れたハルク達も、刀達と過ごしていたリーチ達も、ふと視界に入った通行人も、何となく薄気味悪くなるほど皆一様に遠くを見上げ始める。

遠いのか近いのか、分からないほど圧迫というか威圧というか。

まぁミレイユに対して、ハルクは甘々ですからね。

ありがとうございました。

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