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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
完結章 女神の争奪

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新生活

警護課に戻るとそこには課長以外誰も居らず、近付いていくと課長は自分のデスクに座りながら残念そうな表情を浮かべていた。

「もしかして、見てました?」

ナオの問いに課長は少し引き締めていた眉を緩める。

「あぁ、女神が出ればマスコミはすぐに嗅ぎ付けるからな」

「思ったより手強かったです」

何となく甘えるような声色のナオにヘイトを思い出しながら、残念そうに小さく頷いた課長は紙コップを手に取り飲み物を一口飲んだ。

「それで、女神と呼ばれてはいるが、本当に神などではないんだろ?勝算はあるのか?」

「今まで過去4度、女神は民衆の注目を浴び、ディビエイトが出れば交戦するといった感じで、街の破壊や虐殺などを起こす可能性は低いと思います。なので少しの間、ちょっと私達を強化しようと思います」

しばらくして食堂で昼食を取っていると、壁に付けられた大きなテレビがニュースを伝え始め、画面には先程の女神との戦闘の様子が流された。

あそうだ。

「ねぇソクジンて?」

「ああそれも魔法だよ。ジンケンっていうものを作る魔法なんだけど、そのジンケンの中だと、現実時間の1秒が最低でも10秒くらいになるの」

1秒が、10秒?・・・。

「つまり、そうなれば相手の動きが止まって見えるし、銃弾だって避けられるし」

えっ。

そうか、だからあの時。

「だからいきなり攻撃されて姿も見えなくなったの?」

そう聞くとナオは頷き、焼き魚の身を口に入れる。

そんな・・・。

「じゃあ、勝てないの?」

「ううん。こっちもソクジンを使えば良いの」

へぇ、そっか。

でも、ソクジンを使う前から、全然勝ててなかった。

もっと、エクスカリバーに慣れないと。

「エクスカリバーよりも強い魔法、無いかな」

「それがあれば少しは楽だけどね」

そう言ってナオは肩をすくめるとシワシワの円いものを口に入れ、こちらにまで聞こえるほどの咀嚼音を鳴らす。

はぁ、どうしよう。

「あ、ほら、カンデナーデの英雄覚えてる?」

カンデナーデ・・・。

ヒース、ヒロカ・・・。

「うん」

「ヒースは除いて、あの英雄達は、オリジナルの強力な魔法を使うし、そういうのがあれば女神にも太刀打ち出来るかな」

オリジナルの魔法、か。

「簡単じゃないよね?」

「んふっそりゃあね」

ふぅ・・・。

「でもやってみる。ナオもやろうよ」

「そうだねぇ」



「やっぱ強ぇな女神、ディビエイト3人でも勝てねぇのかよ」

「あたし達でも無理そうだよね」

ソファーに座り、水拳と共にテレビを見ていると何やら呼び掛けてくる声が聞こえてきたので、仕方なく振り返る。

「手伝えよっ」

ホールと同じような広さの空間に数人がテーブル、椅子を運んでいる中、遠くからこちらに向けてシドウが声を上げる。

「俺力仕事しか出来ねぇぞ?」

「何言ってんだ、お前にはまだ可能性があんだろが」

はぁ?

仕方なく水拳の仲間の、薄い金髪に毛先だけが緑色で、ゆる巻きセミロングヘアの中学生くらいに見えるアッサとシドウについていき、裏庭に出る。

しかしそこは森に囲まれたただの平原だった。

「先ずは雑草を燃やして、畑を作る」

はぁ?畑?

「誰が」

「アッサだ」

ふとアッサを見ると、見るからに酪農家の娘を思わせるようなオーバーオール姿をした青い瞳のアッサも、顔を合わせて笑みを見せてきた。

「じゃあ俺は雑草除去要員か」

「いや、それはオレ」

はぁ?

「俺はよ」

するとシドウは何となくムカつきを覚えるほど意味深なニヤつきを見せる。

「何だよ」

「いいから見てろ」

んだよ、ったく。

シドウが雑草を燃やし更地にすると、おもむろにアッサは更地の端に立ち、更地にではなく正面に向けて真っ直ぐ手を伸ばした。

すると伸ばされた手の直線上に何やら反対側まで届くほど長い、透明な螺旋状の細いプロペラのようなものを出現させた。

耕運機かよ。

鼻唄を鳴らしながら螺旋状のプロペラを回し、土を掘り上げながらのんびりとアッサが歩いていく中、ふと耕された後の土を眺めていく。

俺の可能性だ?

一体何だっつうんだよ。

「やってるねー」

水拳と、後ろ向きに被ったキャップとミリタリー柄のズボンが特徴的な中学生くらいの男が出てくると、2人はこれからの生活に期待を持つように嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

「新生活の始まりって感じじゃね」

「ねーこれでフルーツにサラダ食べ放題だねー」

「おいおい、んなすぐに育たねぇし、いつでもある訳ねぇだろ」

しかしその男は安心感に満ちた穏やかな笑みを、水拳はいつものようににたっとした笑みを見せてきた。

「僕らはのうりょ

 みんなが居れば」

「同時に喋んな」

しかし笑い合うそんな2人に安らぎを感じざるを得ず、更に静けさに包まれたこの場にふと吹いた優しい風にすら穏やかさを感じながら、乱暴なエンジン音もなく掘り上げられ、耕されていく地面を眺める。

新生活ねぇ、そりゃあ能力者が居りゃ生活に事欠かねぇが。

「ふぅ終わったよん。シドっち」

「んじゃ、おめぇら、肥料と種だ」

っつったってよぉ・・・。

しばらくして種を蒔き終えた水拳達が戻り始めると、隣に立っていたシドウはいよいよ何かを始めようと期待を膨らませていくような表情を見せてきた。

「お前の背中に咲く花からさ、栄養を送って急激に成長させられねぇかな」

あ、あれでか。

「どうだろうなぁ・・・」



リッタの手の動きに合わせてパソコンに映る地図が広がっていった直後、地図の所々に小さな赤い印がつく。

「ここ1年で使われなくなった工場とその関連施設です」

「出入りした様子は分からないのか?」

「そうですねぇ、ちょっと、待って下さい?」

すると席を立ったリッタは中央の丸テーブルを越した先に居る情報部長の下に向かい始める。

「部長、衛星へのアクセス許可下さい。グリーンの潜伏拠点を洗い出したいんです」

「ん、分かった」

そして席に戻り、再びパソコンを触りしばらくした頃、空から工場のような場所を映す地図には敷地に入るクルマの姿があった。

「ハルクさん、ここですね」

するとリッタの手の動きと共に、空から見た地図に1つの赤い印が付けられた。

「2日前の映像なので、可能性は高いです」



シドウが手をかざし、畑に降らしている雨を止めた後、背中の花から蔦を出し、畑に伸ばしていく。

確かに万華の花は生命力を司る花だ、でも理屈の筋は立てれても、やったことねぇしな。

意識を集中してやると花はまるで力むように背中全体に締め付き、そしてしがみつくように軋み始める。

すると同時に畑の所々から芽が出始め、そして瞬く間にその芽は茎を伸ばし、大きくなっていく。

おっまじか?

しかし直後にその茎達は生き生きとした緑色から茶色へと変わると、そのまま活力が無くなったように萎れていった。

「おい枯らすなよ」

「いや知るかよ。確かに生命力を流せることは分かったが、枯れたんなら水不足だろ」

「もったいないなぁもー」

水拳が呟くとシドウは顎をしゃくり、下から舐めるように水拳を睨みつける。

「あぁ?」

笑けるほどしゃくりながらガンを飛ばすシドウに、水拳は眉をすくめながらアヒル口で対抗していく。

「とりあえず1本だけでちゃんとやろうよー」

「ちっ・・・くそ」

「枯らさないようにするには、常に水をかけねぇとな」

「いや、ずっと雨降らせたら日光が届かねぇだろ」

水と光を、常に確保するには・・・。

「簡単じゃん」

するとそう口を開いてアッサは根っからの自然児を思わせるようなおおらかな笑みを見せる。

「雨を降らさずに土を湿らせればいんじゃん」

「はぁ?じゃあ、スクリンプラーか・・・」

水田にしちまったら、それはそれで育てられる種類が狭まるか。



壁に蔦が這い、まったく人気の無く廃れた雰囲気が漂う工場とやらを眺めながら、ふとレテークを思い出す。

ソウスケは自分を責めるなと言った。

だが、本当に、レテークの死は避けられなかったのか?

ナオの魔法があれば、レテークも死なずに済んだのかも知れない。

だが、そんな事を言ったところでどうしようもない。

レテークの為にも、早く戦争を終わらせなければ。

相手が互角なら、倒せないなら、結託しなければならない理由を作ればいい。

んー、天魔の誕生のような事になるには、国王の子供同士の結婚が1番だ。

だが俺はキューピッドの経験がない・・・。

いや、そんな事言ってる場合じゃないな。

ディビエイトとエネルゲイアが、もし親しくなったら、きっと・・・。

「おーい、ハルク」

振り返るとすでに潜伏拠点の破壊を終えたマルシア達はクルマに乗り込んでいて、操作席に居るマルシアとシーティー、荷台に居る呼び掛けてきたタンクも皆一様にどこか心配するような眼差しを見せていた。

「何してんだ?」

「悪い、少し考え事をしていた」

タンクと同じ場所に乗り、流れ始めた街並みを視界に置きながらふとソウスケとエンジェラを思い出す。

元気でやっているだろうか。

「エネルゲイアも人間だからな、金でも積まれりゃグリーンにだって寝返るだろ」

エネルゲイアも人間、なら結託だって出来るはずだ。

「それにしても、グリーンも懲りねぇよな、いっくら潰してもまたすぐ出てくる、しかも最近は少し頻度も増してるし」

またすぐに出てくる、か、まるであの時の死神との拠点争いだな。



「みんなー」

ざるいっぱいに白いバナナを盛った水拳が談話室に戻ると、各々寛いでいた人達が皆振り向き、水拳の姿に感心したり嬉しがったりするような声を上げる。

「バナナ出来たよー」

バーゲンセールに出された服のように白いバナナが皆の手に渡っていく中、同じように1つの房から1本白いバナナをもぎ取り、茎を曲げて皮を剥き下ろす。

その直後、露出した白い身からはほんのりと甘い匂いが立ち上ぼり、鼻をくすぐった。

一口食べてみると、真っ先に食べ慣れたバナナの柔らかい食感が心を弾ませ、バナナには無い初めて感じる濃い甘味が更に嬉しい達成感を噛み締めさせた。

・・・超うめぇ。

「火爪、次は野菜ね」

そう言って水拳はパセリのようなものの写真が載せられた、見るからに市販で売られているような小さな袋を差し出してきた。

「あたし達の世界でいうパセリだよ。高栄養密度野菜として有名なの」

ふーん。

「やっぱ苦ぇのか?」

「多分ね、こっちでもハーブ扱いだし」

ま、不味くはねぇしな。



お土産何が良いかなぁ。

キレイなお花かなぁ。

美味しい食べ物かなぁ。

ガイドブックとやらを読んでいるロードや、他のテーブルでのんびりと過ごしている男女、静かな青空の下を楽しそうに歩いていく女の子達を店先からコーヒー片手に眺めていく。

「やっぱり食べ物かな」

「そうだな、皆で楽しめるものがいいだろうな」

今度はテリーゴやクラスタシアとものんびり街を散策したいな。

テリーゴが物々交換でお金貰ってきてくれたし、テリーゴの為にも何か良いものを貰いたいな。

「ねぇねぇ、女神って、ほんとに神様かな」

ん?

近くのテーブルに居る20代くらいの女性がそんな話をし始めると何となく耳に入り、同時に女性を見る同年代の男性はフォークを片手に首を傾げる。

「さあ、どうせエネルゲイアだろ?あの鳥人間が助けてたし」

「やっぱそうなのかなぁ」

助けてた、って、僕達を助けたのはカソウさんと花柄の人だよな。

トリ人間って何だろ。

「カイル、やっぱりこのバーベキューセットだな」

本をテーブルに置いて指を差したその絵には、今にもお腹が空いてきそうなほど鮮明に焼かれているお肉が描かれていた。

「うん。小屋の近くの原っぱで」

「カイル?」

ん?

ふと振り向くと、柵があっても手を伸ばせば届く距離のそこにはバクト、見知らぬ男性、そしてアルマーナ大尉が居た。

・・・・・・え。

バクト、さん。

え?

その笑みは思考を止めるが、ふと脳裏には戦いの後の食事会の時の記憶が甦った。

「バクトさん」

それに・・・。

「カイル、元気?」

あ、アル・・・。

「アル、マーナ、大尉?」

え?どういうこと?

「いやぁふと気配を追ってきたらカイルだったなんてね。奇遇だね」

気配を追って?

バクトさんも、この世界に。

それは分かるけど。

「アルマーナ大尉、どうして」

「ヒョウガがね、ハルが居る世界に行くって言うから、ついてきたの」

ハルクさん・・・。

「そう、なんですか」

そういえばまだ会ってない。

「ロードも久しぶり」

「あぁ。カイル、知り合いか?」

「うん。僕の居る隊の隊長だよ」

小さく頷いたロードがアルマーナ大尉に顔を向けると、アルマーナ大尉はすでに笑顔をロードに向けていた。

「私ミレイユだよ」

「俺はロード。見ての通りカイルの仲間だ。そちらは」

「私はサキノエリーチ」

忘れた頃にバクト登場ですね。

ありがとうございました。

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