女神の実力
こちらに目線を戻してくると、ゴンスはその剛腕を大きく振りかぶったので業火爪を纏い、降り下ろされた拳をかわしても容赦なく立て続けに拳を振り出すゴンスに翼手から業火穿を撃ち放つ。
「飛ばしてくれ」
言葉と目線でもってストロベリーに一瞥を配り、細い炎には少し押し飛ばされただけのゴンスの懐を全速力でぶん殴った直後、ストロベリーによって全方位に放たれた赤い光に触れられた人間のすべてがビルの屋上へと移動する。
地面に指を立て、吹き飛んだ衝撃と風圧を受けきったゴンスが表情を歪ませ、怒りと狂気を見せた時、ゴンスの足元に突如生み出された茶色い光が固まり、ゴンスの足を取る。
カラサラ・・・。
直後にどこからともなく6本の腕に黒く淀んだものが降り掛かると、それは氷となり、6本の腕に氷塊が張り付く。
「そこで大人しくしてろよ」
シドウが口を開くが、ゴンスは固まった足と重たい腕を動かすことは出来ず、ただシドウを睨みつける。
「はいそうですかってお前を殺す訳ねぇだろうが、バカか」
するとゴンスは小さく首を横に振ってため息を吐くものの、それは戦意を喪失したような態度ではなく、更にその状況でも知的で冷静な笑みを浮かべて見せた。
「なら戦わなくてはならない理由を作ってやろう」
直後、ゴンスの体は緑の網目となり正にホログラムとなって瞬時に姿を消した。
「バカな」
ゴンスはこんなこと出来ないはず。
まさか今まで隠していたのか、それとも・・・。
「きゃっ」
振り返ると、ゴンスに掴まれているストロベリーは力無くうなだれていて、更にゴンスの足元には影から上半身だけ出したスタンガンを持つ1人の若い男が居た。
業火穿を放つもゴンスはストロベリーと若い男を連れて再びホログラムとなって瞬時に姿を消し、細い炎は空に消えた。
「くそぉおおっ」
くそったれカイザーっ。
「ねーもういいんじゃないかな、国のことなんてどーでも」
口を開いた水拳に目線が集まると、柔らかい口調はともかくその眼差しは純粋に怒りに満ちた真っ直ぐなものだった。
「あたし行くよ」
「いや俺だって行く。シドウ、俺達3人で行く。ペチコ呼んどいてくれ」
「あぁ、分かった」
カイザーが拠点とするホールへと続くシールキーの扉を抜けると、すぐに手下達は逃げるように散り、同時にまるでやじ馬のようにこちらを囲んでいった。
そしてキレイに出来たパッと見100人ほどは居る人の円から、ゴンス、カイザーが出てきて勝ち誇ったような笑みを見せつける。
「くそったれカイザー。まじで国を乗っ取る気かよ」
「そんな事、冗談で企てて何になる。お前こそ戦争ごっこなら家でやってろ」
んだと?コラ。
「まぁ・・・だったら、この戦争、ディビエイトの勝ちだな」
その一瞬、カイザーは見下す笑みを波が引くように凪がし、表情を凍りつかせる。
「何故お前はここに居る?たった今、俺の統べる軍の策略に負けて仲間を奪われ、のこのこ軍の懐に誘い込まれたんだろ?敗者の悪あがきにしか聞こえないぞ」
くっいちいちムカつく。
「お前の敵は、ディビエイトだけじゃない。俺らは、第三勢力になる」
「はぁ?」
一瞬の静寂の後、カイザーは目を見開き、吹き出すように狂笑を含んだ声を上げる。
「ディビエイトもエネルゲイアも、いっぺんにぶっ潰す」
「ハハッハッハッハッハッ」
「くそカイザーっ分かるだろ?そうなったら、女神は俺らに味方するぜ?」
すると笑い顔のまま、カイザーは更に目を見開き、口角を上げ、殺気と狂気をほとばしらせた。
「やぁってみろぉっ」
「2人共全開だっ」
炎帝爪、炎上!
視界を覆った超高熱の膜が直後に全方位に向かう爆風と化した瞬間、辺り一面は爆炎と水しぶき、水蒸気、そして雷光に呑まれ、こちらでさえ思考の身動きが取れなくなる。
「万華、繚乱」
「星河、招来」
「ヴァルディナ・バルディンっ」
背中に大輪の花を咲かせ、花びらや蔦を鎧と化す。
すると雷眼は陣羽織を着た雷神のようになり、水拳は天使の翼のような装飾と、それに対なった豪勢な刃渡りを成したバルディッシュを持った、ターコイズブルー基調のスマートな西洋騎士風のロボットになっていた。
誰が何をする間もなく、その一瞬、水拳は人混みの中に瞬間移動し、バルディッシュを地面に叩きつけ、全方位に津波を起こした。
数十人の悲鳴が水しぶきと共にこだました直後、雷眼がその水気に満ちた人混みに閃光を放つ。
容赦の無さは氷牙級だな・・・。
「あぁぁあああっ」
カイザーの咆哮は雷眼達、倒れた部下、文字通り全てを押し飛ばしていくので翼から背後に炎を吹き出し、重圧、衝撃、風圧を相殺していく。
「はっ・・・はぁ、はぁ」
ずぶ濡れ、且つ全身が焼き切れても立ち堪えているカイザーに歩み寄りながら、炎帝剣を出す。
「別にお前を殺したい訳じゃねぇよ。ストロベリーはどこだ」
威嚇する犬のように歯を溢し、血走った眼差しで睨むも、それでもカイザーは笑い声を吐き下ろす。
「それとも、死にたいのか」
「ビターカーナ沿岸部のホール」
その直後、カイザーはホログラムと化し、気が付けばそこは陥没と水浸しを被っただけのサッカーコートほどの無人ホールとなっていた。
何なんだよ、外部のワープ要員?ゴンスもくそカイザーも、どんだけ用意周到なんだ。
自分達のホールに戻ると、ストロベリーに抱きついたペチコに水拳はにたっと笑い、雷眼は満足げな優しい眼差しで小さく頷く。
「さすが三つ子ともなると、戦力半端ねぇな」
シドウの呟きにその場の空気は徐々に安堵に満たされていき、あちこちで微笑み合うような穏やかな笑い声が涌き立っていった。
「とりあえずシドウ、独立拠点、作るか」
テリーゴが指で広げる動作をしただけでその地図は滑らかに動き出し、まるでものすごく高い所から見下ろしたような形となる。
うわぁ、すごい・・・。
ちょっと厚い大きな鉄の板なだけなのに、すごい機械だなぁ。
「オイラ達はここだね。さっきニュースで聞いたんだけど、セーグリーンっていう国もディビエイトとエネルゲイアの戦争に関わってるって」
「じゃあ三つ巴なの?」
「いや、ディビエイトとエネルゲイアは互角だけど、セーグリーンは2つの国とは戦力に大差があるんだって」
「へぇ」
頼りになるテリーゴ、一緒に頷いているクラスタシアとロードに何だか安らぎや自信が湧いてくるのをひしひしと感じながら、しばらくしてみんなでお鍋を囲む。
「結構情勢も分かったし、明日またフュージョンで出よっか」
「うん」
お鍋の煮汁を沸かせる、白い板なだけの機械を操作しながら口を開いたクラスタシアに相槌を打ちながら、茹で上がったお肉を取り上げ、お椀に浸るタレにつけてからお肉を頬張る。
んーっ美味しいなぁ。
戦いが終わっても、みんなで暮らしたいなぁ。
いつものようにココアとパンで朝食を取った後、フュージョンサモンになって自分達の体を小屋に入れて擬態光を張り、背中に乗せたクラスタシアと共にディビエイトの居る世界に行く。
ビルの上から人や街を眺めてしばらくした頃、気配を感じ始めると同時に遠くにディビエイトの姿が見え始める。
「じゃあ今日は本気でやろっか」
うん。
パン切れほどにしか見えない距離でも気迫や威圧感が体の芯まで突き抜けるその存在に近付いていくと、得も言われぬような風貌の生物に乗っていた女性は、まるで自ら戦う意志を見せるように生物から飛び降りた。
ナオの話じゃ、女の人は生物の後方支援のはず。
あれ、何で来ないんだろ。
物珍しそうにこちらを眺める、常に緑色の光がほとばしり這い回る、灰色がかった体と、緑色がかった骨だけの真っ直ぐな4枚の翼を持つディビエイトは、まるで何かを待っているように遠くを見たりする。
あ、来た。
気配を感じたように女性と生物が揃って顔を向けた方を同じく見ると、先端が尖った高層ビルの向こうから大きな右腕が目を引くセレナが飛んで来て、更に別の方からはナオが飛んで来た。
うわ、一気に3人。
ここはほんとに頑張らないと。
「ほら、カイル行ってっ」
大きな機械の右腕を持つ、黒い体に灰色の4枚の翼のディビエイトに向かって飛び出し、殴りかかるが、ディビエイトは見た目からして重そうにも拘わらず素早くその右腕を振り出し、こちらの拳を弾き返す。
「はっ」
そして間髪入れずに振り出した左手から、艶やかな灰色の光の槍を撃ち放った。
うっ。
痛みは無いが、衝撃が体中に響き渡り視界は空に投げ出され、すぐに目線を戻すもすでにディビエイトはこちらに向けて右腕を振り出し、左手よりも太い灰色の光槍を撃ち放った。
「ハオンジュ、ダブル電気だよ」
「う、うん」
ネーミングセンス・・・。
プラズマの球を作るとナオは黄色い電気の光槍を作り出すが、女神はこちらのことにもナオのことにもまるで恐れていない、自信に満ちた眼差しを見せてくる。
動く隙を与えないように、素早くプラズマの球を撃ち放った直後、プラズマの球は同じく放たれたナオの光槍と共に、ただ両手を突き出しただけの女神の前で霧と化し、ゆっくりと消え去った。
・・・な、何?
「ハオンジュ、リッショウ」
「うん」
ふうっ。
それでも強気にニヤついた女神が力むように小さく身を屈めた瞬間、女神が放つ気迫が一気に膨れ上がると、直後に周囲のコンクリートが音を立てて飛び散って足元が大きく陥没し、ただ立っている女神は自然と宙に浮いた形となった。
何・・・これ・・・。
思わず息を飲むほどの威圧感にふとナオを見ると、同じくこちらを見たナオもこちらにまで聞こえるほど大きく生唾を飲んだ。
何故か分からない、理解出来ないけど、本能が、近付いてはならないと背筋を凍らせる。
まるで満月。
手を伸ばしても絶対に届かないと、本能が教えてくる、この威圧感っ。
・・・どうすれば。
「来ないの?」
いや、女神は、敵なんだ。
戦わなきゃ。
「ならこっちから行くよ?」
戦わなきゃぁっ。
「はっ」
作り出したプラズマの剣を、奮い立たせた心で振り上げる。
直後、振り下ろしたプラズマの剣は飛んで来た女神に当たる前に砕け散った。
あっ。
突き上げられた拳が当たる直前、衝撃波によってすでに体は吹き飛ばされ、鱗は弾け飛び、肌は裂け、胸元は鮮血を噴き出した。
いぃっ・・・ぐ。
こうなったら。
翼に力を込め、上部2枚の翼を変形させ、そして全身に這うプラズマを翼に集中させる。
「はぁっ」
手を広げると同時に翼の先端からプラズマの光線を数十発、間欠泉のように噴き出させる。
「やぁあっ」
直後に両手を女神に向けて突き出し、すべてのプラズマの光線の矛先を女神に向けさせる。
いけぇえっ。
そしてプラズマの雨が一斉に女神を襲うが、身を屈めた女神に手を伸ばすことすら出来ず、プラズマ達は皆消し去られてしまった。
「ナオ、ちょっと時間稼いで、あれやる」
「うんっ」
ふう・・・。
手を前に出し、目にも留まらぬ速さでナオに翻弄される女神にさえ意識を向けず、ただ手に魔力を集中させていく。
「雷光天貫っその名を大地に轟かせろっエクスカリバーっ」
同時に手の中に作り出したクウカクの柄を握り締めると、柄から吹き出した魔力は龍形態の身長ほどにまで膨れ上がった、巨大なプラズマ色の剣身となった。
出来たっ。
その場から動かずに飛び交うナオに光矢を放っていく女神に向かって飛び出し、エクスカリバーを目一杯振り上げる。
「はぁっ」
何かに当たり、女神が見えなくなるほどにエクスカリバーは激しく砕け散ったものの、すぐに弾け消えるプラズマの中から吹き飛ぶように落ちていく女神が見えた。
やったっ。
ビルを軋ませるほどの轟音とその衝撃で屋上を激しく抉るものの、コンクリートが凄まじく砕けた中でも、女神はまるでただ尻餅をついたかのように立ち上がる。
そんな、神には、勝てないの?
屋上から真っ直ぐ女神がこちらを見上げた時、気が付けばすでに胸元に光矢が突き刺さり、痛み、衝撃、熱と共に体は吹き飛ばされていた。
ああっ・・・。
「ぬあっ」
とっさにもがいて光矢を弾くが、すでに屋上に女神の姿はなく、直後に聞こえた風音にふと顔を向けると、セレナと戦っていたはずの生物は白い光に包まれていて、また直後にその光が消えると同時に生物は姿を消した。
「ナオ、女神は?」
「もう居ない、それより、あの女神、ソクジンを使ってた」
ソクジン?・・・。
「セレナ大丈夫?」
全身の鱗がほとんど砕けてる。
「大丈夫よ、でも、あたしだけじゃ勝てないのは確かね」
雷眼の別の力は、天の川をイメージしてるので、セイガと読めばいいですかね。
ありがとうございました。