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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
完結章 女神の争奪
328/351

魅了

んー、みんな見てくるだけで、全然襲ってこないけど。

「カイル、ディビエイトの気配の方行ってみよっか」

気配・・・あっちかな。

ビルを飛び越え、追いかけてこようと動き出す地上の人達を横目に、ふと見えた火柱の方へと向かっていくと、やがて大きくなったハルクよりも2倍ほど大きなディビエイトと、そのディビエイトと対峙する全身花柄の服を着た男性が見えてきた。

うわ、大きい・・・。

するとすぐに、3階建てビルの屋上に居る男性と、その男性と同じ目線になるほどの巨体を有するディビエイトが揃ってこちらに顔を向けてくる。

しかし2人はただ呆気に取られるように固まり、それは街行く通行人がクラスタシアに見とれて動かなくなるのと同じ反応だった。

んー・・・。

僕も、クラスタシアの威圧感にびっくりしたし、あの2人もそうなのかな。

クラスタシア、どうするの?

「来ないなら、ちょっとちょっかい出してみよ」

クラスタシアがそう呟いた後、背後からやんわりとした明るさを感じた時、ディビエイトがまるで怖じ気付くように反射的に身構えた。



おい、まさか・・・。

エニグマに乗る女性がゆっくりと弓を引く動きを見せながら、その両手に光の矢を作り出した直後、女性は躊躇なくその光矢を放った。

フレッドはとっさに手を出したものの、その光矢は瞬時にフレッドの肩を突き、巨体を有するフレッドを軽々と吹き飛ばした。

フレッドっ・・・。

1番体格の大きいフレッドが簡単に飛ばされた?

「おいまじかよ、あの女、敵かよ」

そう呟くと中年男性はまた慌てたように指令室を出ていき、呆然とテレビを見ていた他の人達も慌てて動き出した。

敵、なのか?

だが、何故街ではなくディビエイトだけを狙った?



しかしディビエイトは反撃する素振りも見せず、恐れるようにビルの陰に隠れていった。

あれ・・・。

「お前、どこの国のもんだっ味方なのかっ」

え、味方?

「エネルゲイアかっ」

花柄の男性はこちらに近付こうとはせず、その怒鳴り声もどこか恐怖を感じているようだった。

え?何だろ、エネルゲイアって。

「答えろっ」

「何かうっとうしいし、とりあえず戻ろっか。カイル、ちょっと光で周り囲ってくれる?ワープするとこ見られるのは良くないからさ」

そっか。

小屋に戻って自分の体に戻り、冷蔵庫を開けて飲み物を取り出す。

「ディビエイトって、何かと戦ってるのかな」

「んーオイラもそう見えたけど、ちょっと調べてみるか」

「じゃああたしは留守番してるよ。有名人になっちゃったし」

クラスタシアから渡された転送筒を使うと、そこは街中ではなく、森だった。

「街の全体図って、やっぱり本かな」

「本より端末の方が良いが、さすがにタダで端末など手に入らないだろうからなぁ」

ロードと共に森を出ると目の前にはすごく広い一本道が左右に延びていて、ロード達がクルマと呼ぶものがひっきりなしに行き交う情景にすぐに不安が過る。

「どこ行く?」

テリーゴは情勢担当だしな。

「時間はかかるが、闇雲に探すしかないだろう。とりあえず、店が沢山ある場所に行ければいいだろう」

「うん」

人もクルマもいっぱいだなぁ。



「どうだった?」

ホールに戻ってくるなり声をかけるストロベリーにもシドウは珍しく神妙な面持ちを返し、壁沿いのコーヒーメーカーからコーヒーを1杯持って椅子に座ると、言葉を発する前に一口コーヒーを啜った。

「あいつ、いやあの生物も、威圧感が半端じゃねぇ。全然近付けなかった」

威圧感か、テレビじゃ分かんなかったけど。

「で?味方なのかよ」

デレースラの問いに、シドウはただ首を捻る。

「多分また出るだろ、そん時には今度こそ近付いてやる」

こいつがそんなにビビったのか。

「ハッ、シドウ」

ん?

「ビビってたなあ」

出た。

明らかに嫌な顔をして振り返るシドウを、むしろ逆撫でするように笑みを返しながら、舞台脇の階段の方から来たカイザーはいつものように2人の側近を連れてシドウを見据える。

「漏らしたんだろ?さっさとパンツ替えて来いよ」

「チッてめぇ」

「おい」

立ち上がるシドウの腕を掴み、椅子に座らせるが、張り詰めたそんな緊張感をもバカにするようにカイザーは笑って見せる。

「それより、ストロベリー、迎えに来てやったんだ、さっさと来いよ」

「は?あたしの居場所はここ」

そう応えて睨み返すも、そんなストロベリーにもカイザーはその笑みからむしろ狂気さを引き立たせる。

「こんな雑草グループより、200人を統べる俺の女になった方が良いに決まってんだろ?目を覚ませ」

ったく、くそカイザー。

「どうしても嫌だっつうなら、こいつら、その内誰かに暗殺されるかもな、ハッ」

んだと?

「てめぇに」

「おい」

立ち上がると同時にシドウに腕を掴まれるが、カイザーはこちらの眼差しにもむしろ対抗するように笑みを深くして見せた。

「火爪、お前が最強だったのは一昔前なんだよ」

あ?

「てめぇになんか傷ひとつ付けられねぇよ」

「ふん」

「なら、次あの女が出たらお前が行け」

毅然と立ち上がったシドウとカイザーの間に緊張が走り、カイザーでさえもその眼差しに真剣さが宿る。

「あの女が何者か、お前も知りたいだろ?」

「俺があの女を物にしたら、ストロベリーは貰う」

「ちょ」

「分かった」

卑しい眼差しで歯を溢しながらシドウの毅然さを鼻で笑うと、カイザーはホール後方の階段を下りていき、居なくなった後でも煮え切らない苛立ちを残していった。

力にカッコつけてハーレムとか、ベタの外道だろ。

「はぁ」

暗殺か、まじで来そうだな。

雑魚じゃねぇことだけは確かだしな。

「まぁ、お前、可愛いっちゃ可愛いからな」

「ちゃって何よ」

そう応えながらしかめっ面で嫌悪感をぶつけるが、そんなストロベリーをシドウはただ慰めるような眼差しを返し、コーヒーを啜る。

「あれだろ?男運が」

その瞬間にストロベリーがこちらに向ける眼差しに鋭さを宿し、思わず口を閉じるも直後にシドウが堪えきれずに笑い出す。

「シドウまで、もー。どうせ回復役が欲しいだけなんだから。ていうかシドウ」

「心配すんな」

コーヒーに目線を落としながらシドウはストロベリーの言葉を遮るが、その表情にはふとまた神妙さが伺えた。

「くそカイザーでも、あの女には近付けねぇよ。逃げ足だけは速ぇから自滅はしてくれねぇだろうが、何だろな、本能で、ヤバいって感じる、そういう威圧感だ」

「てか、とりあえず1人にはなるなよ?」

寂しそうな表情を見せながら頷いたストロベリーは目線を落とし、その不安げな佇まいはカイザーに対する怒りを沸々と募らせた。

「おーい」

ん?あ。

手を振りながら後方の階段を上がってきたペチコに目線が集まる中、寝癖だらけの金髪を揺らしながらペチコはどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。

「どした」

「キャソウって、双子だったの?」

な、双子?

目撃したのを言いに来たんなら、俺と同じ顔が居るってことだ。

つまり、やっと来たか、氷牙。

「おいどうした火爪、キャソウじゃねぇって突っ込まねぇなんて、微熱か?」

「アハハ」

シドウとデレースラの笑い声すらも気にならないほど、待ち兼ねた希望に胸は熱くなり、目の前が明るくさえなった。

「そいつの名前は?」

「えーー・・・・・・あっ」

おっ。

するとペチコは黄色いその瞳を天井に投げ、人差し指を顎に乗せる。

「んー」

「分かんねぇのかよっまぁいい。そいつ今どこだ?」

「え、火爪お前、まじで双子?」

ったくめんどくせぇな。

「いや、パラレルワールドの俺だ」

目を見開くものの、シドウはデレースラと顔を合わせながら表情を緩ませていく。

「いやいや」

「ペチコ、案内してくれ」

「え、私、ラウトンロルのウラーから聞いただけだけど」

ラウトンロル?

「悪ぃちょっと行ってくるわ」

シールキーで作った扉を抜け、ペチコと共に芝生が敷かれたホールを進み、ホールの片隅に作られたカフェで佇むウラー達の下に近付く。

するとすぐにホールへと向けられたカウンター席に座るウラー達3人は揃って手を挙げて見せた。

「おーパソウ」

「何でだよ」

わざとらしくニヤつくウラーは、逆三角形のように上部が広がるオシャレなグラスを口に運び、薄茶色の液体を名残惜しそうにちびちびと啜る。

「何飲んでんだ?」

「オニオンスープ、うまいよ?」

酒じゃねぇのか。

「で?」

「いや、俺と同じ顔の奴」

「はいはい」

するとウラーは携帯電話を取り出し、電話を掛け始めた。

「あー、さっきの、ウラーだけど、例の来たから。おいっす」

「何か飲めば?」

ウラーが電話を耳から放すと同時に、ウラーの隣の女がそう言って自身の背後を目で差す。

「あぁ」

カウンターを構えるウェイトレスを見ながら歩き出すと、ウェイトレスもすでに注文を待つように真っ直ぐこちらに目線を留めた。

「ホットミルク」

「はい」

「私アーモンドラテ」

「はい」

花が植えられた腰ほどの塀に沿うカウンター席に、幅が2メートルも無い入口を挟んでウラーの隣に座り、しばらくした後、ふと視界にストライプ柄ワイシャツに黒のスラックスとベスト、黄色いネクタイが目を引かせる1人のスーツの男が入ってきた。

何となく顔を見ると、黄色いメッシュに黄色い瞳以外、それは正に自分自身の顔だった。

「うおっ」

出たっ。

「カンカン」

「ライガンだ」

ウラーの言葉に、冷静沈着そのものと言えるほどの表情でそう応えたその男は、歩み寄ってきたウラーからゆっくりとこちらに顔を向ける。

「さっき言ってた、ライガンにそっくりの人、火爪だよ」

ライガン?

「漢字は?」

「雷に眼だ」

氷牙と同じく表情に起伏は無いものの、その眼差しには明らかに氷牙とは違う、優しさや慈悲深さがあった。

いやぁ・・・。

黄色い瞳かよ・・・。

「何だ」

何つうか、スタイリッシュだぜ。

「いや、俺は火に爪だ。お前、氷牙を知ってるか?」

「知らない」

え・・・。

「もう1人の俺らだよ。氷に牙、聞いたこともないか?」

しかし雷眼は小さく眉間にシワを寄せ、首を傾げる。

「無いな」

まじかよ。

ほんとに、あいつ、死んだのか?

「なら私達は、4人か」

は?

「え?」

「氷に牙は知らないが。海のような青い髪の、水に拳は知っている」

え、水に、拳?

「読み方は?普通にスイケンか?」

「あぁ」

まじかよ、もう1人居んのかよ。

シールキーの扉を抜けて自分のホールに戻ると、真っ先にこちらの方に顔を向けたシドウはすぐに笑い声を上げた。

「お前ら、三つ子だったのかよ」

「でもシドウ、戦力超増量じゃん」

ストロベリーの友好的な態度に水拳もにたっと笑い、短パンにきつめのパーカー姿の水拳はパーカーのポケットに突っ込んだ手を出してストロベリーに差し出した。

「あたし水拳」

「あたしストロベリー」

一応本人はオネェじゃねぇって言ってたけど・・・。

「美味しそうな名前だねぇ」

「えへ」

壁沿いのコーヒーメーカーに向かい、ホットミルクをマグカップに注ぐと、すぐ後に雷眼もホットミルクを注ぎ、更にその後ろにはマグカップを持った水拳が並んでいた。

「全員ホットミルクかよ」

「ねー」

何となく酔っ払っているようにも見えるほどにたっと笑う水拳が雷眼の後に続いていくのを見ながら、ふと氷牙の姿を思い出す。

顔と声は同じだが、表情や声色で別人にすら思える、これはこれで結構面白ぇな。

「んで、あんたらも、同じグループになってくれるよな?」

シドウの問いに雷眼と水拳は顔を見合わせた後、揃ってシドウに返事をする。

「それと、あんたらの知り合いも全員引き連れてくれた方が戦力も増えるし、頼んでくれないか?」

「あぁ」

「いいよぉ」

部屋に戻り、1人で住むには広いスイートルームから夜空を見渡す。

俺1人じゃ、ディビエイトには勝てねぇ、つまりそれはあいつらでも同じことだよな。

要は作戦次第か。

先ずはどんな力か見ねぇと。

名前からして予想は出来るが、鉱石で手に入れた力は予想出来ねぇし。

「出たぞっあの女」

お昼時に携帯電話を見ながらそう声を上げたデレースラから、言わずとも分かるようなその眼差しでこちらと目を合わせてきたシドウを見る。

シールキーの扉を抜け、カフェの店先に佇む人やバス停に並ぶ人達、通行人のほとんどが空に目を向ける異様な状況の中、駅前通りに並ぶその大きなデパートの上に、それは存在していた。

全然遠いのに、何だ、この感じ。

気迫、威圧感、とりあえず殺気はねぇが、まるで、魅了されるほどの満月みてぇだ。

ストロベリーも、火爪達にとっては女神ですかね。

ありがとうございました。

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