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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第十一章

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降臨

「バクトどうしたの?」

「どうやって戻るのかなって」

言葉も上げず、うっすらと血相を変えるほど驚くユリの横で、ミレイユはふと疑問を持つような表情で小さく首を傾げる。

「バクト?氷牙じゃないの?」

「実は僕、転生して、名前を変えたんだ。でもこの世界じゃ氷牙の方が慣れ親しんでるし、それに元々氷牙って名前はニックネームみたいものだったから、呼びやすい名前で良いよ」

「へぇーバクトかぁ、良い名前だね」

あは、さすが天使だ。

「それで、どうするの?」

んー。

苛立ちのない、ただ少しの困惑を見せるユリを見てから石碑に目線を戻す。

ゲートを通りながら行きたい世界を思い浮かべる、かな。

しかし手を伸ばしてみると、指はまるでただの物質を触れたように止まり、そして冷たい感触を覚えさせた。

え・・・。

石碑のど真ん中を掌でぴったり触れても、軽く押しても、回り込んでも一向に何も起こらず、それはただそこに佇んでいる。

エネルゲイアの組織にも繋がらないなんて・・・。

「呼んだら向こうの人に聞こえるかもよ?」

そう言って笑顔を浮かべたユリは石碑に近付き、少し顔を寄せる。

えっ。

「おーい」

いや無理でしょ。

「はーい」

何でよ、しかも世界龍の声。

「そっちに行きたいの」

「ちょっと待ってー」

はぁーあ。

「・・・じゃあゲートに触れて目を閉じて」

満足げなユリの笑顔に若干の脱力感を覚える中、3人と共に石碑に触れ、目を閉じる。

「いいよー」

目を開けると目の前には、子供が絵に描いた太陽のような形をしたものを先端に付けた、身長ほどの鉄柱のオブジェがあり、ふと周りを見渡すと、そこはいかにも研究施設を思わせるようにデスクやパソコンが並ぶ広い部屋で、白衣を着た研究員らしき大勢の人達が各々感心したり、満足げにほくそ笑んだりしていた。

・・・は?

なんじゃこりゃ。

「世界龍?」

「ここー」

振り返ると、オブジェを囲むように眺める人達の中にルーニーが居て、研究員達が見物を終えるように去っていくと共にルーニーは一番よく見るタイプのオフィスチェアから立ち上がる。

「世界龍、ここどこ?」

「庭園の上だよー」

ああ、なるほど。

「え、あなたが喋ったの?」

「違うよ、私、今妊娠してるんだけど、この赤ちゃんは普通の赤ちゃんじゃなくて、この世界の神なの。だから喋れるみたい」

ミレイユに応えるルーニーを横目に、何となく改めてこの場を見渡していく。

「バクト、リーチは?」

「居ないけど、感じるよね?」

恐らく庭園が見下ろせるであろう壁一面の円形内窓に向かうと、2階の高さから見下ろせる庭園にはリーチと人化した刀達が居た。

おお。

走り回るテンテイとチヨクには気にも留めず、ガンエイは1人座り込み、ビャッカ、カゼトジャク、カミナリアヤメは井戸端会議してる中、ちょうどこちらに気付いたクロザクラが手を振ってきたので、ユリと共に手を振り返すとクロザクラの隣に立つリーチもこちらに顔を向けて軽く手を挙げた。

「あのぅ世界龍さん、ハルの居る場所分かるかな?」

「そりゃ分かるよーボクはこの世界そのものみたいなものだもん」

お、やった。

すぐにミレイユは笑顔で顔を見合わせてくる。

「でも、昨日から今朝にかけてボクに頼らなくても低次元を観察出来る、ロディオスを開発したから、それを使うといいよ」

ロディオス?

「それって・・・」

「ほら、その太陽のオブジェ。それがロディオスだよー」

ミレイユの呟きにも世界龍が応える中、遠くの階段からリーチ達がぞろぞろと姿を見せてくる。

「ルーニーちゃん、お願いがあるの」

うわっちゃん付け・・・。

しかしルーニーはすぐにどこか照れ臭そうに、10代後半相応の若々しい笑顔をユリに返していく。

「私の中の悪魔と死神の力を抜き取って欲しいの」

「うん良いよ」

「私も頼む。天使と死神の力を抜き取って欲しい」

「オッケー、じゃ、あなたから」

するとルーニーはユリの両手を取り、目を閉じた。

ほー、じゃあこれでユリは晴れて天使に戻れるのか。



「理一、あたし、なるべく人間で居たいな」

「戦の時もか?」

「んー」

唸りながらも、黒桜は何かを訴えるような上目遣いを見せてくる。

「・・・だめ?」

まったく。

「では、新しい陣形を考えなくてはな」

するとすぐに黒桜は上目遣いのまま、子供のように嬉しがるような笑みを浮かべる。

「でも桜、人間じゃ刀としての鋭利さは無いぞ?殴り殺すのか?」

珍しく真剣にそう口を開いた白火に、黒桜はふて腐れるように口を尖らせる。

ん、ユリ殿でも、ルケイル殿でもない、あの女も心をくすぐる気配を持っているが。

何者だ?

「じゃあ、ユリ、ルケイル、元気でね」

「はい」

「あぁ」

2人共と顔見知りなのは納得がいくが・・・。

「バクト殿、どこかに赴くのか」

「うん、知り合いが居る世界に。そこで戦争を止める為に戦うんだ」

また自ら戦に身を投じるのか。

「では共に行こう。人手は多い方が良いだろう」

バクトが笑みを浮かべ頷いた時、見知らぬ女が近づいてくる。

「私、ミレイユです」

初めて会ったにも拘わらず、ミレイユと名乗った女は用心深い顔色を一切見せず、むしろ微笑みさえ浮かべる。

「あぁ、私は崎乃江理一」

まるで、ユリ殿のようだが。

「あなたも、ヒョウガのお友達ですか?」

ヒョウガ、ということは、バクト殿とは古い顔馴染み?

「そうだ。ミレイユ殿も」

「殿?」

ん。

「ミレイユさん、理一の国では、敬う気持ちを表す為に人の名前に殿を付けるんです」

ユリよりも幾つか歳を取って見える分、ユリと違ってその気迫や凛々しさは深いものの、ユリに返すその笑みはユリのように屈託のないものだった。

「へぇそうなんだぁ。あ、話の続き、どうぞ?」

ユリ殿の国の女は、皆こうなのか?

「あぁ、ミレイユ殿も、バクト殿とは親しいのか?」

「はい。あの、ヒョウガは私の国の人達の為に異世界に行ってくれるんです。理一さんはユカリもないのに協力してくれるんですか?」

縁、か・・・。

「バクト殿もユリ殿もルケイル殿も私の友だ。その皆の知り合いとあらば、協力しない理由は無い」

3人の笑みにつられ、まるで自分の事を言われているようにミレイユは満足げに、そしてとても嬉しそうに笑みを見せた。



「それスゴすぎるよ。いやー、はー、ほんっとスゴいよー。ずっと見てたいね」

全く感覚の無い体から意識が遠ざかる感覚もちゃんと感じながら、ふと目覚めるような感覚の中、同じように眠りから覚めていくような2人と共に、満足感を分かち合うように思わず笑い合う。

「2回目ともなるとオイラもう慣れたよ」

「俺も大分掴めてきたな」

テリーゴに続きロードが口を開くと、すぐに2人は満足感の中にも労るような眼差しを向けてくる。

「魔力と気迫をまとめるコツは掴めたけど、ほんとに僕で良いの?」

ロードは性格変わっちゃうから仕方ないけど、テリーゴはやりたくないなんて言うし。

「これカイル、リーダーなんだから、シャキッとしなきゃ」

するとクラスタシアがすぐにそう言って強気に微笑み、そんな言葉に2人も相槌を打つが、そのみんなの明るさは胸の底に吹き込んだ不安を一瞬で吹き飛ばす。

「うん。でもどうせならクラスタシアも入れば良いのに」

「分かってないなぁカイル。チームプレーの上で、合体は不利なんだよ?」

そう言ってクラスタシアは楽しそうに微笑みながらも責めるように言葉を返す。

「え?」

「せっかく4人居るのに、カイル達がフュージョンサモンになったら、あたしとサモンでたった2人になっちゃう。でもせめて2人ならチームとして成り立つけど、あたしが入って1人になったら、戦略的には不利でしょ」

「そっかぁ」

確かにそうだな。

「それにあたし、サモンの背中に乗ってカッコよく登場したいし」

あは。

「それじゃ、先ずは様子見で行って、一旦帰って、それからこっそりまた行って情報収集って感じだね」

昼食のパンにかぶりつきながら、楽しそうに話すテリーゴに共感出来る心当たりを考えてみると、ふとフュージョンサモンになった時に感じた膨大な魔力を思い出した。

あんなに強くなれたんだ、きっと大丈夫。

「相手は国だからな、ヤバくなる前に逃げるっていう動きを中心に考えていかないと、俺とテリーゴはまだエネルギー形態にはなれないしな」

「まぁ単体のサモンもエネルギー形態みたいなもんだし、オイラはそれでもいいけどさ」

おもむろにマグカップを口から放しながら、クラスタシアも2人と同じく、これからの戦いに期待を募らせるような笑みを浮かべる。

「2人共、チームの数を増やすことも忘れないでよね」

「分かってるよー」

ハルクさん、こっちに来てくれたらいいけどな。

「ちょっと先出ててよ、転送筒に座標を入れてくから」

昼食を終えて小屋から出て、穏やかな静けさに包まれた平原で翼を解放するクラスタシアを見てから、テリーゴ、ロードと3人で3角形になるように向かい合い、そして真ん中で手を重ねる。

目を閉じ、上空の一点に意識と魔力を集中させ、体の感覚が抜けていくのをしっかりと自覚していく。

ふぅ・・・来た、テリーゴとロードの魔力が、感覚の無い全身に流れ込んでくる・・・。

まるで魔力と気迫そのものが体の輪郭を成している感じ。

「さっきよりも出来上がるのが速いね。結構慣れた?」

喋れないので頷くと、クラスタシアは満足げに笑みを返し歩み寄ってきたので、身を屈め、クラスタシアを背中まで登らせる。

「いやー高いねー」

そうだ、体を寝かせないと。

意識の無い自分達の体を掴み上げ、窓から自分達の体を小屋に入れていく。

擬態光張ってないけど、留守にするんだし、張った方が良いな。

サモンの手だと大き過ぎて擬態光筒を操作出来ないので、クラスタシアに気付かせようと筒の近くを指で叩く。

「えーあたし?細かい作業に慣れる訓練だと思ってカイルやりなよ」

もーしょうがないな。

そんな時に4枚の翼を成した光の1つが勝手に変形し、人の手の形となって擬態光筒を操作した。

あ、2色の光、ロードだ。

「じゃあ3人共、行くよ?」

サモンの手で親指を立てて見せると、ロードは2色の翼光で、テリーゴは漆黒の翼光で、それぞれ親指を立てて見せた。

そして直後に視界は光に染まり、周囲は風を切るような音に支配された。

ハルクさん・・・。

風を切る音と共に視界から光が消えると、そこは建物の屋上で、そして見渡す限り大小様々な建物が立ち並んだ街だった。

「カイル、まだ動かないでね」

考えでもあるのかな。

頷いてから何となく辺りを見渡していくと、すぐに高層ビルの窓やら数メートル下の地面やらから、指を差しこちらのことを眺め始める人達に目が留まる。

「先ずは目立たないといけないから、逃げるのは少し戦ってからね」



「おいちょっとテレビ点けろ」

何やら慌てて指令室に入って来ながらそう口走った中年男性の声はその場によく響き、思わずシーティーと顔を見合わせる。

「え?」

「早くしろっエイチアイチャンネルだっ女神だとよ」

慌てて来た中年男性の傍で若い男性がリモコンとやらを操作し、大きな画面に街並みの風景を映させたので、何となくテレビを眺める人達の中に混ざっていく。

「ご覧頂けますでしょうか」

テレビから緊張感のある女性の声がすると同時に、その5階建てビルの屋上の縁に立つ、背中からまるで光が翼の形を成しているようなものを4枚生やした見たことのないエニグマが映された。

何だ?背中に、女が乗ってる。

「女神です」

尻尾のある、人型が4足歩行をしているような骨格の白い体の上に、腕は白い機械、脚は黒い殻、足首から下は黄緑色の鎧、その先に生えた赤っぽい黄色をした大きな足爪。

黒い殻に覆われた胸元、首は白肌が露出しているものの頭部はまた黒い殻に覆われ、前頭から前に突き出た黄緑色の立派な1本の角と、側頭から弧を描いて前に突き出た赤っぽい黄色をした2本の角。

すると画面は寄せられ、そのエニグマの背中に乗った、首から下を白い鎧で包み、布状の白い光を体にまとわりつかせた女性がはっきりと見えてきた。

何だ?天使のような鎧だが、あの布状の光は・・・。

ふと画面が引かれ、エニグマと女性から目線を外すように画面が流れると、画面にはエニグマと女性を見上げる通行人が映された。

その中でまるで拝むように手を合わせる老女に画面が寄せられてから、画面は再びエニグマと女性に流れ着く。

「神々しい威圧感に包まれた、未知なる生き物を従えた女性は、堂々たる佇まいで街を眺めています。テレビを通して見ている方には伝わりづらいかと思いますが、本能を揺さぶる神々しさ、あれが女神でなく、何が女神でしょうか」

次回からはいよいよ、完結章です。

全3章、8話ずつ、全24話となっております。

文字数基準ですが、1章は約100分映画1本分、つまり3部作映画ですか。笑


ありがとうございました。

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