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守護者たちの屍を越えて

「ベイガス、全身に纏った魔力を、背中に想像した排気口に流すイメージして。ガルガンにも教えた立昇っていう魔法だから」

ベイガスが小さく眉間にシワに寄せた時に爆発音が轟き、思わず顔を向けるとアレグリアと拳を付き合うロボットの向こうにはアトムが居て、その瞬間にもアトムは背中から3発のミサイルを打ち上げた。

速陣っ。

えっ。

動きの止まらないミサイルに思考は止まり、ただアトムを見上げることしか出来ずにいると、小さな放物線を描いたミサイル達は瞬く間に下を向き、それぞれ建物を破壊しながら爆風と化した。

速陣っ。

何故、速陣が使えない。

ふとアレグリアを軽く吹き飛ばしたロボットを見ると、人間の2倍ほどの体格のそのロボットは左手首から剣を出し、こちらの下に向かってきた。

出来ない事を嘆いてる暇は無い。

「私はアトムをやるから」

氷牙の小盾を2枚列べて氷弾を撃ち、ロボットが青白い爆風に呑まれると同時にアトムに向かって飛び上がる。



赤い光を全身に纏い、背中に排気口を想像してみると、瞬く間に背筋が上に引っ張られる感覚を覚え、視界が広くなった。

な、何だこれは。

思わず顔が綻んでしまうほどのその驚きは腕の痛みも和らげたが、莫大な青白い爆風でも破壊されなかった人型の機械は右手首からも剣を飛び出させ、向かっていったアレグリアに剣を構えて見せる。

アトムと同じなら、気力は通じないのだろう。

肉弾戦で行くしかないか。



『探求心のために世界を、か。この世界のビリーヴも同じ事を言っていた』

「おいビリーヴ」

怒りではなく、何かを訴えるような声を上げるミライに目線が集まると、ミライは物悲しさを伺わせるような眼差しをしていた。

「お前、死んでないって言ってたな。ビリーヴ、戻ってこいっ聞こえてるんだろ?戻ってこいよっ」

『黙れっ』

ビリーヴが手を突き伸ばした瞬間、ミライの胸が剣に貫かれたが、ミライはその場に立ち堪えたまま自身の胸に刺さった剣身を握り、真っ直ぐビリーヴを睨みつける。

「ミライっ」

ユーフォリアの声が響く中、ミライと対峙するビリーヴの背後からキズナが回り込んでいくが、それでもビリーヴは素早く側方に手を突き出し、キズナの腹に剣を突き刺し、壁に押し倒す。

「あっぐっ」

「先生っ」

く、何だよ、何なんだよ、自分の欲望の為に、こんなに人を傷付けて・・・。

ふぅ・・・許せない。

「ビリ・・・ヴ。何故だ、お前・・・ビリーヴを、返せよ」

剣が抜かれてもミライは倒れることなく、怒りに満ちた眼差しでビリーヴを睨み、獣の如く歯を剥き出す。

『ライフ、そこを退け。俺達は人を殺す為に力を求めた訳じゃない』

頭に血が上ったその衝動は怒りとなって全身を駆け巡り、その力は天魔力となって背中に吹き上がる嵐のように流れ込んでいく。

「創造神に触れさせる訳にはいかない」

『なら、死んで貰う』

「やめろっ」

気付けば走り出していたが、ビリーヴがこちらに顔を向けただけで体が吹き飛び、背中は激しく壁に叩きつけられる。

くっ何だ。



見えない何かで人型の機械の剣を捌いていくも、胸元から発射された艶やかな緑色の光線にアレグリアは押し飛ばされ、直後に機械に向かって飛び掛かるが機械は素早く後退し体をこちらに向け、胸元から緑色の光をちらつかせる。

瞬時に脇に跳び光線をかわして脇腹を蹴りつけるが、歪んだ音が重く消え入っても機械はふらつくように後退りするだけで、鈍ることなく素早くその剣を振り回してくる。

剣をかわし腹に拳を叩き込むと、その一瞬のよろめきを狙ってアレグリアが前に出て、見えない何かで殴りかかっていく。



『覚醒したか』

何?

『だが、精霊体と言えど、俺達には敵わない。諦めろ』

精霊体?

ん、ちょっとだけ視界が広い。

背中に意識を向け、立昇を強めるように集中してから飛び出すが、ビリーヴがただ手を振り払えば体は吹き飛び、そのまま激しく壁に激突していく。



「アレグリア様っ」

ふと目を向けた先には何やら逃げてくる一部隊が居て、その向こうに出現した黒い球がすぐにキエーディアの軍人を思い出させた。

黒い球を白い筒で迎撃する中で1人が巻き込まれ、寄せ集まっていた隊は散り散りとなると、人型の機械をよろめかせたアレグリアはこちらに顔を向けた。

「頼んでいいか」

「あぁ」

必死に逃げるアレグリアの部下達を通り過ぎると、こちらを見てかキエーディアの軍人達は素早く建物の陰に隠れる。

仕方ない、建物の端ごと吹き飛ばすか。

翼に力を込めると同時に全身に這う熱が背中に逃げていき、その爽快さに若干の驚きを感じていたとき、突如背後からの女の悲鳴が耳に突いた。



キズナに目を向けると傷は消えていたものの、まるで疲労感や血の気の薄さに苛まれたようにぐったりとしていて、ミライは片膝と剣で体を支え、痛みで顔を歪ませながらも眼差しだけは必死に食らいつこうとするような怒りで染めていた。

「返せよ・・・ビリーヴを、返せ」

体をライフに向けながらもビリーヴは静寂なる眼差しでミライを見つめ、ゆっくりと手を上げ、そして勢いよく手を下ろす。

「おぐっ」

動きに合わせるようにミライが俯せになると、同時にミライの背中には剣が刺さっていた。

あ・・・なんで・・・。

「何でそんな、簡単に殺すんだよ」

『探求心を邪魔する者は排除する。ただそれだけだ』



黒い球に足を巻き込まれた女が倒れ込み、すぐに数人が女に駆け寄るが、その瞬間にもアレグリアが押し飛ばされ、人型の機械がその数人に体を向ける。

まずいっ。

その瞬間に翼が引っ張られ、振り返るが、すでに翼は膨張する黒い球に噛みつかれていた。

くそっ。

息つく間もなく、人型の機械の胸元から緑色の光がちらついた瞬間、アレグリアがその数人と女の前に出て光線は間一髪でアレグリアの背中で受け止められる。

とっさに振り返り、後方に赤い光を撒き散らした時。

「アレグリア様ぁっ」

再び女の悲鳴が響き振り返ると、アレグリアは人型の機械の剣に貫かれていた。

くっ。

剣が抜かれ、倒れ込んだアレグリアに駆け寄ると、人型の機械はこの場の全ての者に勝利を見せつけるようにアレグリアを見下ろした。

「ハッハッハ・・・これで、第11アークは我が手に落ちたも同然だっ」

「おいっ」

仰向けにさせると、力無くこちらに視線を流してきたアレグリアは、一瞬だけその眼差しに力を振り絞って見せた。

「頼む、街を、守ってくれ」

くそぉ。

また俺は、守れなかった。

く・・・。

「くそおぉおおおぉ」

目を向けたと同時に反射的に身構えた人型の機械は、胸元に緑色の光をちらつかせ光線を放ったので、自分への怒りをぶつけるようにそれをどこかへと殴り飛ばす。

すると機械は走り出し、剣を振り下ろしてきたので、アレグリアの虚ろな顔を脳裏に焼き付けながら剣を殴り粉砕し、そして機械の腹に拳を叩き込む。

瞬時に砕け散った胴体が落ち、下半身が糸が切れたように倒れた時に視界に黒い球が映ったのでとっさに手を振り払い、黒い球を掻き消しながら黒い機械を持つ軍人達に赤い光線を放つ。

なっ・・・。

見たことないほどの太い赤い光線が軍人達を呑み込み、瞬時に2つの建物に渡って大穴を空けた状況にやっと我に返ると、同時に全身がこれまでにないほどの気力に包まれていることに気が付いた。



『退け、ライフ』

このままじゃ、全員死んじゃう・・・。

「こうさーん」

・・・へ?

「もう降参だよー。これ以上ここで人が死ぬのは見たくないよ」

誰の声・・・いや、子供?

自身の背後に気を配るような素振りでライフが1歩横にズレると、そこ佇む世界龍は目を開け、腕を組んでいた。

『創造神よ』

「ビリーヴだっけ、1つ条件があるんだけど、聞いてくれたら、ボクの体に穴空けていいよ」

えっ。

『条件とは何だ』

「さっきの、巫女の魂片、治してくれればいいよ」

沈黙が流れると、ゆっくりと目線を落としたビリーヴは自身の掌を見つめる。

でも・・・。

「世界龍が死んだら、この世界は無くなるんじゃ」

するとこちらに顔を向けた世界龍はすぐに天を仰いだ。

「なんとかなるっしょ」

ええぇっ。

な、な・・・。

ふとビリーヴの傍で何か明るいものが見えると、出された掌の前には透明なルーニーの姿があった。

『これでいいか』

するとすぐにライフが掌をかざし、意識なくうなだれている透明なルーニーを引き寄せた。

「さぁ、人思いにサクッと」

世界龍が手を広げると、気合いを込めるように強く息を吐き下ろしたビリーヴは歩き出し、その足取りから若干の緊張を伺わせる。

『行くぞ』

手を広げたまま顎を上げ、目を閉じた世界龍の胸に剣が突き刺された直後、甲高い水しぶきのような音と共に世界龍が丸ごと消滅するほどの大穴が空いた。

言葉も出ず、ただビリーヴを見ることしか出来ずにいると、直後にこの場の空間全体が揺れ始め、正に世界の終わりという言葉を連想させる恐怖と静寂なる絶望が心を満たした。

世界が・・・。

夜空のような漆黒が見える大穴にビリーヴが入って去った後、崩壊という言葉を連想させるような音を立て、地震のように揺れる中、ライフは透明なルーニーに掌をかざす。

はっきりと色付き、目を覚ますようにルーニーが顔を上げた直後、大穴の前に突如として出現した小さな白い光の球がライフの体を通り、そしてルーニーの体の中に入っていった。

すると何やら揺れが収まり、そして大穴は勝手に動き出し、絡まり合い始めたその壁一面の蔦によって呆気ないほど簡単に塞がれた。

何が、どうなって・・・。

世界は?滅びるんじゃないの?

「やったねライフ」

え?世界龍の声。

「あぁ」

大きくため息をついたユーフォリアの安堵感にも未だ状況が掴めず、何となくユリと顔を見合わせると、ふと近くに倒れていたリーチがゆっくりともがき出したのが見えた。

あ、良かった。

「ねぇ早く説明して」

ルーニーが口を開くとライフはルーニーに背を向け、世界龍の居なくなった蔦の壁に体を向けた。

「ビリーヴが戦っている時、創造神が私の頭の中だけに直接語りかけてきた。ビリーヴをこの世界から出した後、巫女に身籠ることで魂が砕けるのを阻止するという段取りを」

えっと・・・み。

「ストップ」

口を挟み、ルーニーは軽く手を挙げる。

「今何て?・・・身籠る?」

「そうだよー。ごめんね急で。でもこれしか魂を繋ぐ術が無くてさ」

「はいストップ」

世界龍の言葉にも、ルーニーは何食わぬ顔で再び軽く手を挙げる。

「てことはさ、あの、今私、妊娠したの?」

「せいかーい」

「正解じゃないし。へ?ちょっと待って。え、ちょっと待ってよ」

「大丈夫だよー。自分で歩けるようになるまでだからさ、お世話になるの」

ふぅ、とりあえず世界が滅びないことは確かみたいだ。

「もう、何なの?目覚めたらいきなり妊娠て。ていうか、私を呼んだ理由って、もしかしてこの為?あれ、ていうか、何もしないで妊娠なんか出来ないよね?」

「うん。さっきササッとライフの体借りたから」

「バクト殿、どうなった。ビリーヴとやらは」

リーチと顔を見合わせた時にルーニーは驚きと若干の苛立ちの混ざった声を上げる。

「居なくなったよ」

「な、この、知らない変なおじさんの?ちょっと待ってよ、何でよ」

「変なおじさんだと?私は高次元の巫女の血縁者だ」

ん、へぇ、血縁・・・。

「じゃあここの巫女は?」

「私だよ」

ユーフォリアが応えると、ルーニーはより一層不満そうに口を尖らせる。

「ねぇ世界龍、何で私なの?」

「そりゃあ、若いからね、へへ」

「へへじゃねーよ」

「だってユーフォリアは結婚してるし、何か悪いじゃん」

ユーフォリアが世界樹の巫女だったのか・・・。

ふと自分の体に目線を落としてみると、すぐに何やら細かい鱗の生えた尻尾が目に付いた。

なんだこりゃ。

掴んでみるとそれはやはり自分から生えていて、何となく頭を掻いた時、すぐに頭上へと伸びるとんがった耳に手が触れた。

「リーチ、僕どうなってる?」

「狼のような顔付きに、馬のような白いたてがみがあり、まるで共に聖帝と相見えた時に居た異国の者のようだが、いつからその様になったのだ?」

「え、分からないけど」

ハルクみたいに?つまりディビエイトみたいに?何でだろ。

僕が龍の精霊だからかな。

「ライフさん」

ユリが口を開くと、左腕の機械を解いたユリはすぐにドリームに歩み寄った。

「お願い、ドリームを、生まれ変わらせてあげて?ドリーム、ずっとビリーヴに怯えてたの。でも、もうビリーヴが居ないならドリームは怯えなくていい、だからお願い」

そんなに仲良かったのかぁ。

「生まれ変わりたいかどうかは本人が決めることだ」

そう応えるとライフはミライの亡骸に掌をかざした。

一件落着しましたが、ビリーヴのその後をどうしようか、悩みますねぇ。笑

ありがとうございました。

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