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ドコナロスト・ハーロンは笑う

「きゃああっ」

眼鏡を掛けた女共々3人のデイラーの部下が黒い球に巻き込まれるのを横目に、赤い光を撒き散らし黒い球を防ぐが、気が付けばデイラーの隊は全て倒れていた。

ドイルが庇うようにこちらの前に立つと、キエーディアの軍人は黒い球を跳ね返すドイルに警戒するように、ただ黒い機械を構えている。

「ベイガス、下がるしかねぇかな」

まだ5人か・・・。

「本気出していいか」

「あぁ、やってくれ」

翼に力を込め、全身に熱が這うと同時に右腕にも痛みが走ると、まるで痛みが走るようにふと脳裏にはデイラーや眼鏡の女の姿が浮かんだ。

ぐぅぁあ・・・。

4枚の翼に光を集め、そして最大限の力でキエーディアの軍人達に赤い光の雨を放つ。

力が、入らない・・・。

「うおぉぉおお」

更に翼に力を込めるとやがて赤い光の雨は全て混ざり、一面の赤い光の壁となるが、直後にキエーディアの軍人が飛び出してきて、黒い機械ではない、小さな黒い筒を突き出した。

何っ。

3人が持つ黒い筒から破裂音が鳴るとドイルの体は波打ち、血を吹き出し、そして力無く倒れ込む。

「ドイルっ」

くそ・・・何だよ、何なんだ。

俺の力が、無意味だと?

何の為に、力を望んだんだ。

何も・・・。

5人共が黒い機械を持っていないものの、その誰もに傷はなく、その存在感は胸の底に絶望と失望を満たしていった。

・・・役に立たないのか。

その直後に何の前触れもなく、全ての軍人達が青白い爆風と共に同時に吹き飛ぶ。

・・・な、なん、だ。

起き上がることもなく、軍人達が動かなくなった情景に思考が止まる中、突如視界に入ったのは、ハクラだった。

「何だ、今のは」

「魔法。それより一旦鎧を解いて、止血しないと」

魔法・・・。

止血・・・そ、そうか。

鎧を解くと改めて右腕全体を覆うような痛みに背筋が凍り、額に汗が滲む。

ふぅ・・・。

だが、布が無い。

「クウカクという魔法で止血出来るから、今から私が言う通りに魔力を想像して」

そ、想像?・・・。

「想像、だけか?」

「簡単だから。意識した魔力を網目状に練り込むだけ。そしてその網で傷を覆う」

網目状に練り込む・・・。

左手の上に意識した赤い光を網目状にするよう想像してみると、赤い光はまるでモヤがかかるように淡くなった。

「もっと広げて、布で覆うように腕に巻く」

ふと痛みを忘れるほど意識を集中しながら、淡くぼんやりする広く赤い光で右腕を覆うと、その淡い光はまるで布を巻いたような圧迫感を感じさせた。

これが、魔法か。

ヒョウガのような鎧に覆われ表情は分からないが、小さく吐いたため息からはどこか安堵感が伺えた。

「ガルガンは」

「ガルガンなら大丈夫。さっき教えた魔法で戦ってる」

ガルガンも、魔法を。

「ガルガンに、ベイガスにも教えてやってくれって言われて来たから」

「そうか」

ふぅ。

ドイルを見下ろすとすでに息絶えていて、全滅しているデイラー達を見渡すと脳裏には眼鏡の女の親しげな口調や、ドイルの笑みが強く焼き付いていた。

「力を望み、強くなったと思っていたが、誰も守れなかった。俺の気力もまるで効かない。あんたは平気なのか?」

「うん。私には魔法があるから」

「ユートピア諸君」

野太くしゃがれた声に思わず顔を向けると、広い直線道路の向こうから、アトムのような鉄の鎧で作られた機械が近付いてきた。

アトム、じゃない・・・。



「死ぬと分かってて、邪魔をするのか」

「私では、きっと勝てないが、周りを見ろ。少なくとも8対1だ」

確かにユリは、戦えないかな。

激しく吹き飛ばされたにも拘わらず、庭園からはすでにミライが姿を見せ、毅然とビリーヴを見据えていた。

「ううん。私も、戦う」

ユリを見ると、涙を拭いながらも立ち上がったユリはこちらに頷いて見せてからビリーヴを睨みつけた。

「許さない」

「クハハッ・・・ハッハッハッハ」

何だよ・・・。

ユリの言葉でなのか、いきなり笑いだしたビリーヴは逆に恐怖を引き立たせ、その態度にライフやミライでさえも表情を強張らせていく。

「俺達は戦いなどに興味はない。俺達を動かすのは、探求心なんだ」

探求心?

それは・・・。

「ライフは知っているか。ドコナロスト・ハーロン」

どこ?ロスト?何じゃそりゃ。

「・・・魂を超越せし者」

「あぁ。俺達は、そいつの謎をやっと解いた。そして近付いた」

何だ人の名前か。

「俺達は、強さを求めてる訳じゃない。だが、邪魔をするなら消えて貰う」

突如手中に剣を出現させたビリーヴに向かって、ミライは腰の剣を抜いて走り出し、ユーフォリアは虹色の光を吹き出していく。

しかしユーフォリアの虹色の光はキレイに阻まれ、ビリーヴの周囲にあるドーム状の見えないバリアを浮き彫りにさせ、ビリーヴとミライは剣をぶつけ合い、静寂に気迫という名の金属音をかき鳴らす。

ふぅ・・・。

黒氷と白炎を鎧に変えて全身に纏い、立昇を意識してビリーヴに向かって飛んでいく。

ミライの剣を弾いたビリーヴがこちらに顔を向けたと同時にその顎に拳を叩き込むが、ビリーヴは上体を仰け反らせることすらせずに腕を振り出す。

そして肘鉄を食らうと、胸元から響く激しい痛みと、成す術もないほどの風圧にビリーヴは遠ざかり、そのまま壁に激突してしまう。

背中が叩きつけられた壁が瞬時に粉塵を吹き出した時、すぐ隣に居たジアンから光が洩れる。

「五天縛角」

「皆、行くぞ」

ビリーヴの足元から飛び出した5本の銅柱がビリーヴの右足を取ると同時に、いびつな金剣を作り出したルケイルが飛び出し、リーチの刀が一斉に勝手に飛び出す。

右足を取られているにも拘わらず、ビリーヴはその静寂なる眼差しでもって剣を振りかぶるが、直後にユリの闇の光線がビリーヴの剣を弾き飛ばす。

「くっ」

歯を溢したビリーヴは初めて焦りと怒りをかいま見せたものの、手をかざされたルケイルは砕け散る金剣共々吹き飛ばされ、再び放たれたユリの光線も虚しく弾かれる。

「純焔刀」

そしてビャッカ、テンテイ、チヨクが合体し、刀身が白炎と化した刀を持って走り出し、白炎を振り放ったリーチでさえも、白炎ごと見えない衝撃波に呆気なく吹き飛ばされた。

つ、強すぎる。

更にビリーヴがユリに向かって手を突き出した直後、見えない何かは剣となり、瞬時にユリの機械に覆われた左腕を貫きながら壁に突き刺さった。

「ああっ」

「ユリっ」

とっさに駆け寄り、左腕に刺さる剣を掴んだ直後、何かに押し飛ばされて思わず軽く倒れ込む。

な。

「くっ」

すぐに顔を上げるが、そこには肩に剣が貫通しているキズナが居た。

「先生っ」

2本の剣が消えると壁を擦ってユリは座り込むが、血が溢れ出る肩を押さえながらキズナは挑発的な笑みをビリーヴに向けていた。

「これくらい何ともないさ」

そう言うとキズナは肩から手を放すが、すでにその肩には傷口が無く、服は破れ、肌はただ血に濡れているだけとなった。

直後に目の前が虹色の光に染まると、その瞬間に1本の剣が虹色の壁に突き刺さる。

ユーフォリアに顔を向けることなくキズナがユリの腕に手を当てる中、虹色の光が消えても剣は消えず、剣は手を伸ばしたユーフォリアの手に収まった。

「剣は貰ったからね」

「そうか、良かったな」

静寂なる眼差しでもって歯を溢し、バカにするように言葉を吐き捨てたビリーヴにユーフォリアは睨み返し、走り出すと、同時にミライも走り出し2人は同時に剣を振りかぶる。

「おらっ」

手を広げながらビリーヴが叫んだ瞬間、甲高い水しぶきの音と共にビリーヴはドーム状の激しく波打つ陽炎に覆われる。

えっ・・・。

まるでその現象を予測していたように2人共が急に走りを止めた後、陽炎が消えるとそこには全身血だらけのビリーヴが立っていた。

「最初からバリアも貰ってたけど、気付かなかったのかな?」

や、やった、のか・・・。

「どう?自分の力が、自分のバリアに跳ね返される気分は」

へぇ、そんなことに・・・。

「ふぅ」

しかし息の乱れもなく、ビリーヴがただため息を吐いた直後、まるで上がるエレベーターの中に居るかのような強い重圧が全身にのしかかる。

うぅ、何これ・・・。

気持ち悪い・・・。



ふと振り返ると後方からはガーディアンズが十数人向かってきていて、自分達を見ているのか、ガーディアンズを見ているのか、そのロボットは滑らかな足取りで真っ直ぐこちらの方に向かってくる。

「今こそ、第11アークは我々キエーディアに返して貰う」

返す?

なるほど、ユートピアも強引なやり方で勢力を広げてる訳か。

どこからか光の球が飛んできて、ロボットとの間に降り立つとそれはアレグリアになるが、真っ先に目に留まったのは上半身の肌が露出しているほど、焼けたのか裂けたのか分からないくらいのボロボロな服だった。

「お前が、リーダーか」

「アレグリア様っ」

ガーディアンズの声にアレグリアが振り返った時、アレグリアはすぐにこちらの足元に目を留め、その表情を驚きと失望感で歪めてみせる。

「済まない、守りきれなかった」

ベイガスの言葉にアレグリアは顔を上げるが、すぐに小さく首を横に振るとロボットへと体を向けた。

「謝るな、こいつらが惨めになる。お前らは周りを警戒だっ」

「はいっ」

ガーディアンズが展開し始め、同時にアレグリアが歩き出すと、人間の2倍以上はあるそのロボットの全身の縁が緑色に光りだし、そしてまるで人間のように滑らかに走り出した。



思わず膝を落としてしまうほどの重圧の中、ミライやユーフォリア、気絶しているリーチ以外のその場に居る誰もが膝を落とし、更に視界さえ霞んでしまうと、突如ビリーヴだけが3重に歪み始めた。

うぅ、何が起こってる?

ビリーヴだけが・・・一体どうなってるんだ?

「何をしたっ」

ミライが苦し紛れに声を上げると重圧は収まり始めたが、ふと視界に収めたビリーヴはすで傷も服もすべてが元通りになっていた。

『お前らに、俺達には指一本触れられないんだよ』

は・・・。

3重に重なる不気味な声に思考は止まり、その静寂なる恐怖は息をすることも、瞬きすることさえも忘れさせた。

な・・・何だ。

「お前は、何だ」

『ドコナロスト・ハーロン。それは本来出会うことのない3つの同じ魂が融合したもの。魂レベルの高い存在、エネルゲイアでも、創造神に近い、生物として逸脱した存在、ディビエイトでもない、本当の意味での次元を超越した存在、というものだ』

超越・・・魂が融合?

「転生?」

『転生とは魂が生まれ変わること。つまりそれは死を意味する。だが俺達は死んでなどいない』

俺達?さっきから、俺達って。

「同じ魂だと?」

ミライの問いにビリーヴは残念そうにため息をつくが、落ち着きが伺えるため息でさえも3重に重なり、その人間味は更に不気味さを引き立たせた。

『まったく物分かりの悪い奴らだ。姿形、その全てが同じ存在。つまり今ここに存在するビリーヴは、異なる世界に存在する3人のビリーヴが集まったもの』

えっ・・・。

異なる世界?まさかパラレルワールド?

『本来、根界では並行世界への壁を取り払う事は出来ない。だが、低次元では世界によって並行世界と繋がる事がある。並行世界の存在自体、どういうことか分かるか?』

誰に聞いたかも分からない問いが宙に浮いた後、ビリーヴは何故かこちらに顔を向けてきた。

・・・え。

恐怖の化身とほど思えるその眼差しに無意識に目を伏せてしまいながら、ふと火爪や雷眼の姿を思い出す。

『想像しろ、森を』

・・・え?森?・・・。

『並行世界が繋がる理由、同じ存在が異なる世界に複数存在する理由、それは、世界樹そのものがひとつではないという事に他ならない』

え、世界樹って、すべての世界を繋げる木、だよな。

『想像しろ。木は、どう育つ』

・・・は?

ふと顔を上げてみると、ビリーヴはすでにこちらに顔を向けていて、殺気はないものの、その佇まいはただ胸の底に恐怖を這わせた。

え?どうって。

「・・・土に根を生やして、水と光で」

『つまり』

ふぅ。

『世界樹の外は、無じゃない』

世界樹の・・・外。

『そしてもし、我々が存在する世界樹が森のように生い茂る世界も、ただひとつの世界樹だとしたら』

・・・えっと。

「そんなの、無限じゃん」

『ククッ・・・ハッハッハ。考えるだけで体が疼く。ライフ、俺達は、この外に行き、そして果てに行く』

「だから、創造神をどうするつもりだ」

『単純に、外に出るには穴を開けるのが妥当だろ』

「そんな、ただの探求心で、創造神を殺してこの世界を消滅させる気?」

そう責め立てるユーフォリアに目もくれず、ビリーヴはただ嬉しさを押し殺すような笑い声を洩らす。

善悪を越えた純粋な欲望、そんなものをビリーヴから感じ取って頂ければ。

ありがとうございました。

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