表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/351

奇妙なグラタンと3人の姫

翼を羽ばたかせるが、根元が少し凍りついているせいか上手く動かせないようで、立ち上がろうとするものの、伸ばした手は柄には届かず、ガルーザスはそのまま仰向けに倒れ込んだ。

「そこまでっ」

滝のような勢いで響き渡る魔王の太く威厳のある声に、エントランスは一瞬にしてその緊張感を蒸発させていった。

ガルーザスの姿が元に戻り、翼も消えていったので床に降り立ち鎧を解く。

すると鉄の柱が引っ込んでいき、闘技場はエントランスに戻った。

「大丈夫?」

「まさか、こんなに強いなんて、な」

元に戻った斧を杖代わりにして立ち上がりながら、ガルーザスは辛そうな顔色を見せるが、それでもその微笑みにはどこか爽快感に似た何かを感じた。

「ハガン大尉、良くやってくれた、しっかりと休みなさい」

厳粛さの纏う太い声ではあるものの、魔王のその優しく語りかけるような口調に、ふと王の素質が何たるかを脳裏に過ぎらせた。

「はい、ありがとうございます」

深く頭を下げたガルーザスは重たい足取りで歩き出し、階段脇の扉の向こうに去って行った。

「氷牙よ、その力、実に素晴らしい。我が軍に欲しいくらいだ」

「光栄です」

「最後の試練と行きたいところだが、正午を過ぎた。腹ごしらえが済んだら、天魔界の噴水に行きなさい。使いの者が居るだろう」

「分かりました」

そして魔王は王座しか無いその小さな王間から早々に立ち去って行った。

試練とは言え、得意なジャンルなだけに順調だ。

そういえば、このエントランスには時計は無いみたいだし、それに腹ごしらえが済んだらって正確な時間も言わなかったな。

さっきみたいに露店から何か貰いながらのんびり向かうとするかな。

城を出ようとしたとき、呼びかけてくるアリシアの声に足を止め、後ろを振り向くと、そこにはこちらに歩み寄ってくるアリシアとエリカの姿があった。

「色々案内してあげるよ。分からないでしょ?」

「あぁ助かるよ」

天使は世話を焼くのが好きみたいだ。

さすが天使だな。

「いってらっしゃいませ、お姫様」

すると門を通り過ぎ様に門番がそう言って頭を下げた。

アリシアに言ったのか、それとも・・・。

「エリカも姫なの?」

「うん」

なるほど家柄が良い者同士は自然と集まるんだな。

そういえば、天魔が生まれたのは天王と魔王の子供が駆け落ちしたからって言ってたな。

なら、この2人は遠い親戚になるのかな。

「知りたいことがあったら何でも聞いてね」

こちらに振り返りながらアリシアがそう言って満面の笑みを見せる。

「あぁ・・・ここにはレストランみたいなものはあるの?」

「あるよ、今から行くよ。お腹空いたでしょ?」

「そうだね」

再び天界に入ると、2人は魔界へ続くものとはまた違う方のアーチ状に開かれた塀門へと向かった。

わざわざ天界に行くのか。

「魔界には無いの?」

「そうだね。接客業は天使の天職だからね」

そう言われてみたら何となく分かる気がする。

居住区とやらに入ると、正に住宅街を思わせるような、高級感のある長屋の建物が続いていた。

これが天使の住む家か。

やっぱり、日本よりかはアメリカの住宅地って感じかな・・・。

何だか白だけで質素だけど、シンプル過ぎるからか逆に質素感が無い。

所々に芝生や木が色のアクセントとして植えられているからだろうか。

「ここには海はあるの?」

「無い・・・かな」

まるで難しい質問をされたかのように、アリシアは首を軽く傾げながらそう応える。

無いのか?・・・。

「見たこと無いよね」

すると一言加えるようにエリカが口を開いた。

「うんそうだね。下にはあるみたいだけど」

「そうか」

周りは森だけか。

仮に下が地球のようだとしても、上もそうだとは限らないのか?

「じゃあ森の向こうには何があるの?」

「んー分からないね、たまに調査はするみたいだけど」

アリシアが少し前を歩いているのを気遣ってか、アリシアの代わりにエリカが首を傾げながらそう応える。

お金が必要ないって言うし、人間にあるような欲が無いとするなら、領土拡大も、ましてや領土外の環境にも関心がないのかな。

「こっちだよ」

アリシアに続いて長屋の角を曲がると、庭先に芝生と1本の木が植えられた、いかにも日本にある見慣れたファミレスを思わせるような建物が見えてきた。

しかし家屋と同じで壁はすべて白に染められているからだろうか、それほど違和感は無い。

「お金が存在しないで商売は成り立つのかな?」

「何ていうか、料理を振る舞いたいだけなの。商売って感覚は無いんじゃないかな」

店先で立ち止まったアリシアは、こちらに振り返りながらそう言って満面の笑みを浮かべる。

「そうか」

何だか妙な感じだな。

店先に立て掛けられている、本日のメニューと書かれた看板に目を向ける。

料理名は何となく理解出来ても、使っている食材が何なのか分からないな。

「氷牙、何が良い?」

「アリシアに任せて良いかな?」

「あ、そうだよね、もちろんだよ」

「好き嫌いは大丈夫?」

アリシアが笑顔で応えると、すぐに少し不安げな表情を見せながらエリカが聞いてきた。

「大丈夫だと思うよ」

「すごいね」

すると感心するような微笑みを見せると同時に、エリカはどこか照れ臭そうに目線を逸らしていった。

「そうかな」

レストランに入ると、まるでジャケットのような形をした鎧を着たウェイターが出迎えた。

やっぱり白いんだな。

「いらっしゃいませお姫様方・・・この方は?」

「異世界からのお客様なの」

アリシアが笑顔で応えると、若々しく見える中年のウェイターは納得するように頷き微笑みを見せた。

「そうでしたか。それではこちらへどうぞ」

案内された席に座って周りを見渡すと、真っ先に目に留まったのはよく掃除されている内装で、窓ガラスの縁にもホコリの拭き残しが無いことからもよほどの仕事の熱心さが伺えた。

ウェイターとすれ違うように歩いてきたウェイトレスが、人数分のメニューと水、そしてふきんをテーブルに丁寧に置く。

アリシアとエリカが注文すると、ウェイトレスは丁寧に頭を軽く下げてから厨房へと向かった。

「そういえば最初に会った時、死神から2人を守った人は死神なの?」

「そうだよ、でもレイと仲が良いのはパパにも秘密だから、あんまり言わないでね」

アリシアは笑顔で応えながら水を手に取る。

「そうか」

敵対国だし、仮にも姫だからマズイんだな。

「そろそろ来るかな」

おもむろに取り出した懐中時計を見ながらアリシアが呟くようにそう口を開く。

「もう?早いね」

時計はちゃんと存在してるのか。

広場にもエントランスにも無かったから、無いのかと思った。

「え?あ、料理じゃなくてお友達だよ。あらかじめ連絡したの」

連絡?見たところ携帯電話のようなものは持ってないみたいだが。

「そうか」

「あっ、アゲハぁ、ここだよー」

アリシアが入口に顔を向けてから少し経つと、そう言って入口に向かって手を挙げた。

何とも統一感の無い名前だろう。

エリカは日本寄りの名前だが、アリシアは外国の名だし。

「お待たせー」

白黒の布と鎧を着たアゲハと呼ばれた女性がエリカの隣に座る。

3人目はもはや人の名ではないし。

「紹介するね、アゲハだよ。天魔の姫なの」

アリシアがアゲハに手を差し出しながら笑顔でこちらに顔を向ける。

やっぱり姫なのか。

「どうもアゲハだよ」

天使とか悪魔とかって言い分けてるけど、服装以外で見分ける方法とかあるのかな。

「あぁ、僕は氷牙だよ」

「ほんとに人間なんだね、どんな風に戦うのか楽しみだな」

「すごいんだよ、空飛んじゃうんだよ」

アリシアが楽しそうに話し始めると、アゲハは目を輝かせながら話に聴き入っている。

「えぇ?そうなの?エリカも見たの?」

さっきから気になってたけど、どうして人間以外の動物が居ないんだ?

「うん、見た見た」

「あたしも早く見たいなぁ」

「あ、アゲハの分も頼んでおいたからね」

「うんありがとう」

死んだ人間が魂になって上に来るなら、動物だってそうなるんじゃないのか?

しばらくすると4人に料理が運ばれ始めたので、目の前に置かれた料理に目を向ける。

一見するとグラタンのように見えるけど、この薄く赤茶に色づいた大きい具は何だろう。

「それ、ラフーナだよ」

フォークでそれを軽く突いたときにアリシアが優しい口調で一言を告げる。

「そうか、じゃあ、いただきます」

フォークを挟みながら手を合わせた後にグラタンのようなものにフォークを入れる。

「何?今の?」

口を開いたアゲハに顔を向けると、こちらを見ているアゲハの微笑みの中に戸惑いが見られた。

「え?」

「手を合わせるのは何か意味があるの?」

するとエリカも手を止め、好奇心を伺わせるような笑顔を向けてくる。

どうやらエリカも気になるみたいだ。

でも、特に意味とか気にしたことないしな、何て言おうか。

「感謝の、祈りかな」

「何に感謝したの?」

すると更に目を輝かせながらすぐにまたエリカが問いかける。

「んー例えばラフーナだって植物だし、命を犠牲にしてここにいる訳だから、祈りを捧げて感謝したっ感じかな」

「へぇー」

「なるほどねぇ」

2人は納得するように大きく頷くと各々食事を再開させていくが、ふと横を見ると、アリシアは手を止めたまま神妙な面持ちでこちらを見つめていた。

「ん?」

「すごい・・・すごいよ。感激だよ」

するとアリシアは突如何故か涙を流し始めた。

「ちょ、ちょっと」

「アリシア何泣いてんの?」

アゲハとエリカの驚くような表情を見たアリシアは、涙を拭いながら安心させるような笑顔を2人に返した。

「ううん、そうだよね。このお肉も生きてたんだもんね」

そう言うとアリシアは手を合わせて目を閉じ、祈りを捧げてから料理を食べ始めた。

「おいじいね・・・」

天使の心には響いちゃったみたいだな。

グラタンに入れていたフォークを上げるときに感じた重さは、正に濃厚なソースを引き連れる伸びの良いチーズそのものだった。

何だか分からないけど、鮮やかな黄緑色をした何かがチーズの代わりをしているみたいだな。

そして火の通ったラフーナを口に入れると、果肉の食感はまるで煎餅の気泡に押されて薄く焼き上がった部分のようだった。

「おいしい?」

すると顔色を伺うような表情を見せながらエリカが聞いてくる。

「あぁ、それに初めて見る物ばかりで楽しいね」

「良かった。ラフーナって、三国でも1番人気なんだよ」

「そうか」

周りは森だけだって言うし、果物や木の実の種類は豊富そうだな。

「そういえば、いつかは帰るんでしょ?」

「そうだね、目的を達成したらね」

「そっか、そもそも何で来たの?」

エリカは気を許すとよく喋るようになるんだな。

「結局は興味本位かな」

「ふーん」

食事が終わった頃になるとウェイトレスが現れ、お皿を引き下げていった。

「ねぇ氷牙って、今日の宿は決まってるの?」

たまに相槌を打ちながら3人の会話を聞き流していたとき、微笑みながらふとアゲハがそんな話を切り出した。

「いや、決まってないね、来たばっかりだし」

「それもそうだね、最後はお母様の試練を受けるんでしょ?ならあたしがお母様に手配して貰うように頼んでおくよ」

天使の血が入っているからなのか、アゲハも世話好きなのかな。

「そうか、助かるよ」

「それじゃあそろそろ行こうよ」

アリシアがそう言って立ち上がると、2人も続いて立ち上がりレストランを後にする。

「居住区からは他の国に行けないの?」

「ううん、栽培してる食べ物とかすぐに運べるように、天界の農場は天魔界に、天魔界の農場は魔界にそれぞれ繋がってるの」

振り向き様にアリシアは手振りを交えながら笑顔で応える。

「そうか、魔界の農場は?」

「魔界には農場は無いの。でもその代わりに兵士のための大きな鍛練場があるのは魔界だけなんだよ?

「なるほど」

それも、種族特有の性格ってやつかな。

「そういえば初めてパパに会った時、傭兵にしてって言ってたけど、本気なの?」

「え?そうなの?」

エリカが驚きの声を小さく上げながらこちらに顔を向ける。

「うん、まぁギブアンドテイクってやつかな」

「何?それ?」

すると今度はアゲハが問いかけてきた。

アリシア・ホワイティア(19)

現天王の娘。天使としての自覚が高く、責任感が強い。幼少期、死神との戦争中に人知れずとある出会いがあってから、死神を怖れなくなる。

顔は、何となく、タレントの小島瑠璃子さん。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ