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大天使は崩れ去る

何の話だろ。

「六天繋角」

ん。

椅子に座ったままジアンがそう言って掌を目の前にかざした時、突如その空間に銅製の柱で出来た6角形の輪が出現する。

何じゃこりゃ。

「2人共、行くよ」

「おっし」

6角形の輪からなのか、砲撃音や爆発音が聞こえてくるが、そんな緊迫感に立ち向かうように、ハクラ、ベイガス、ガルガンが輪の中をくぐっていった。

え、何今の。

「じゃあとりあえず、ルケイル着替えてよ」

着替える?

ユーフォリアのその言葉は一瞬だけ戸惑いを生んだが、すぐにルケイルの服が患者の服だということに気が付く。

僕は服がだめになるほどじゃなかったのか。

額の包帯を外しながらベッドを降りるルケイルを見ると、持ってきた紙袋を渡したキズナはそのままジアンの後ろを通り、ルケイルを隠すようにカーテンを引き出した。

そういえば、もう全然体痛くないな。



「なぁ、あんた名前は?」

「ハクラ・・・ディアゲート」

そう応えると、ニヤリと口元を緩ませ、歯をこぼすその笑みから余裕と自信を見せつける短髪の男は、どこか嬉しそうにもう1人の男と一瞬だけ目を合わせる。

「オレはガルガン・エネル・フリーゼ」

ミドルネームか・・・。

こっちの世界で言ったら、西アイテーヌの人間だろうけど。

「俺はベイガス・ベアアウル」

ガルガンとは対照的と言えるほど表情の色は堅いものの、そのただ渋く寄せた眉間はガルガンよりもむしろ信頼を感じさせた。

「じゃ、ふっ」

力んだガルガンの体が何やら大きくなり、皮膚が白くなり、そして髪が伸びると、筋肉隆々で2メートル半ほどになったガルガンは髪を掻き上げながらベイガスと頷きあった。

変身か。

「翼解放」

すると直後、ガルガンは漆黒の光に、ベイガスは赤い光に包まれる。

えっ。

光が消えると漆黒の翼を生やしたガルガンは首から下を、光沢はあるが筋肉質で灰色の鎧に身を包み、そして背中から6本の、砲口を持った鉄管を前面に向けるように伸ばした。

同時にガルガンは、まるでティーガーのタービンのような4枚の翼を生やし、そして全身をまるでロボットような機械製のスーツで身を包んだ。

・・・翼に鎧。

でも、デザインはバクトやカイル達とはまるで違う。

偶然か。

「あんたは翼解放しないのか?」

・・・え?翼?

「いや、私は翼と鎧を纏う魔法は使えない」

すると2人は、まるで戸惑うように顔を見合わせる。

「いやぁ、何言ってんだ、あんただって、テンマの力あるだろ?」

テンマ?・・・。

「い」

その瞬間、目線と集中をもぎ取られるような爆発音が全ての音を消し、視界に入っていた1軒の建物の屋根の縁が雪崩のように崩壊し、そして悲鳴の中を逃げ惑うように人々が流れ出す。

「2人共、すぐに迎撃を」

・・・エンド・オブ・ザ・ギャラクシー。

「おいっ」

2人に構わず目の前のビルの屋上に飛び乗ると、すぐ上空に戦闘機のようなものが街に向けてミサイルを撃ったのが見えた。

速陣っ。

空殻で空中に階段を作り、跳び移っていきミサイルの目線の先に立つ。

そして魔力で矢を作り、ミサイルを見据える。

「バリスタ・オブ・アークエンジェル」

素早くミサイルと戦闘機に光矢を放ち、陣圏を消す。

スローモーションが通常再生に変わるように、ミサイルと戦闘機が爆炎を撒き散らすと、ふと視界にガルガンが入った。

「早く展開して」

「分かったって。けど、その力の湧き上がった状態で翼解放っつったら、オレらみたいになれるぜ?」

そう言ってニヤついて見せたガルガンが戦闘機の群れへと飛んでいくと、ふとバクトやカイル達の姿が目に浮かぶと同時に、何故かアレグリアの姿も思い出した。

翼解放?本当にそんな事出来るのか・・・。

でも、氷牙の力もあるし、また別の変身なんて。

ちょっとややこしい。

一先ずはアレグリアも見つけて、話をして置こう。



小さなため息を吐いてから、ハクラはまるで空を蹴るように飛んでいったので、ふと目に入った飛ぶ機械へ向かう。

すると飛ぶ機械もこちらに目をつけたようにミサイルを飛ばしたので、翼から赤い光線を放ち、ミサイルごと飛ぶ機械に光線をぶつける。

爆音と共にその機体が黒煙を吹かせ、傾き、回りながら落ちていくのを見ながら、改めて自分の体を見下ろしたり、ティーガーを取り込んだ時の事を思い出したりしていく。

ティーガーというものでもない、また別の空飛ぶ機械もあるのか。

ガルガンがミサイルを飛ばし、ハクラが両手から無数の光球を飛ばし、同じように飛ぶ機械を舞い落ちる火の粉のように落としていくと、残った飛ぶ機械の群れは皆、体の向きを変え始める。

・・・逃げるのか。



ユーフォリア、ルケイル、ジアンが6角形の輪をくぐると、歩いて去った3人の情景を、最後に一瞬で消えた6角形がより寂しさを締めくくらせた。

「さて」

タイトスカートからスボンに着替えていたキズナは白衣を脱ぐと、まるでふらっと出掛けてくるかのようにその白衣を椅子に掛ける。

「1つ聞くけど、君達って、君達の間にしか分からない特別な繋がりとかあるの?」

え?

世間話とかではなく、まるで考えを確かめるような口調で聞いてきたキズナから、無意識に目線を外し、天井を見る。

んー・・・。

繋がりって言ったら。

「気配、かな」

「それって、その気配を追ってこの病室に来たってことで良いんだよね?」

「あぁ」

言い終わると同時にキズナに目で差されたリーチが応えると、キズナは突っかかりが解けたように小さく頷くが、その表情はすぐに良い意味で若々しくない、戦場に行くことに慣れきったような引き締まりを見せる。

「じゃあ、ユリって子の居場所、分かるよね?」

「でも、誰の気配かは分からないし、距離も分からない。分かるのは方角だけ」

病院を出てからも、終始刀の姿に戻らずにぞろぞろと歩くクロザクラ達が何となく気になっていると、正に双子のように、何やらテンテイとチヨクが揃って遠くを指差した。

「お兄、感じる」

そして感情の籠っていないような感じがまた幼さを見せる声で、チヨクが静かに口を開く。

「1万キロ離れた第11アークの仲間の気配も分かるの?」

キズナの質問はチヨクに向けられたが、チヨクは人見知りなのか、第11アークという単語を理解していないのか、キズナと目を合わせても、ただ知らない大人を警戒するように目を伏せ沈黙を流した。

「はぁ、あたし、どうも子供には好かれないんだよね」

「キズナ先生、ものすごく小さいけど、感じるよ」

「そうか」

まるで助けられたお礼のように落ち込んだ笑みを返したキズナは、そう一言洩らすとおもむろに携帯電話を取り出す。

「えー、と、今指差した方が怪しいね。第11アークとも、ネシンとも違う方だし」

「ネシンて?」

「創造神の居るとこ」

何でこっちでは、世界龍って言わないのかな。

とりあえず飛んでかないと。

「翼解放」

何か久しぶりだな、この体を引き締める、まるで気付けされたような感じ。

「リーチって飛べるの?」

すると一瞬チヨクに顔を向けたその素振りから、すぐにある答えが連想出来た。

「あぁ。皆戻ってくれ」

その言葉に皆は刀に戻ると、腰に巻いた帯の両側に刀が2本ずつ、その少し後ろに脇差しが1本ずつ、刀達が自分で入っていく。

その中で大きな刀は、たすき掛けするように巻いた帯の上部に作られた輪をくぐり、帯に沿うように背中にくっついた。

「天地、飛翔刀」

決めゼリフのような口調での言葉の直後、鞘から自分で出た2本の脇差しは背を上に向けながら、お互いに柄の底を合わせる。

更に側面の中程から鍔に向かって2本ずつ、新たに刀身を半月状に生やして円を描くと、まるで間を開けて2つの団子を串で刺したような形になった。

ヒショウトウって、飛翔に刀、だよな・・・。

羽ばたくのかな?

すると飛翔刀とやらになったそれが特に動くことなく浮いていると、リーチはまるでサーフボードに立つようにそれに飛び乗った。

えぇっ。

「サーフィンじゃん」

まるで久しぶりに乗るような緊張を伺わせながも、こちらに顔を向けたリーチはとぼけたような表情を見せる。

「異国の言葉は分からないが」

んーまいいか。

「キズナ先生は飛べる?」

「見たことないのかい?ロイヤルガーディアンズが光になって飛ぶの」

あっ。

すると頭の中の合点を見抜くように、キズナは自慢げにニヤついて見せた。



逃げる戦闘機を追いかけ始めて少し経った時、まるでバトンタッチするように戦闘機の群れの向こうから何かが見え始める。

何だろう。

戦闘機には見えない形・・・。

もしかしたら・・・。

建物で視界が狭まらないように、常に空中に作った空殻を跳び移り進んでいく中、ふと6階建てビルの屋上に立つ人影に目が留まる。

アレグリアか、部下か・・・。

「ねぇ」

新たな敵機を毅然と待ち構えるように立つ、1人のガーディアンズと思われる者の背後に降り立ち、呼びかける。

しかし振り返ったその男の、まるで人形のような薄っぺらい、感情の無い表情に、毅然と待ち構えている背中という印象が戸惑ってしまうほど揺らいだ。

「誰だ」

「ライフの指示でキエーディアの迎撃に来た。先ずはその事を司令塔であるアレグリアに伝えたい。だから居場所を教えて」

するとその男は警戒心すら見せず、ただベイガスやガルガンの居る方を見上げた。

「あの2体のアンノウンもそうか?」

それでも声色には戸惑いという感情が多少感じられ、その小さな人間味は何となく胸中の戸惑いも薄めていった。

「そう」

「ならアレグリア様にはオレが連絡する。言いに行くなんて原始的な真似は時間の無駄だ」

・・・バカにされてるのか?

そんな事言われても、通信手段が・・・。

いや、ライフが前もって連絡すればいいのに。

「アレグリア様、エルスです。ライフ様から指示を受けて来たという者が」

エルスと名乗った男がイヤホンマイクに話しかけている中、人影に見えてきた敵機に向かっていくと、その姿はまるで甲冑を着たロボットという印象を受けた。

肩や背中、太ももの裏から伸びる陽炎と、まるでジェットエンジンの排気口のような放射状の筋がある、胸元の大きな円形の窪みが特徴的な機体を真正面から見据える。

「バリスタ・オブ・アークエンジェル」

一直線に解き放たれた光矢は機体の胸元で弾け、鈍い衝撃音と共に消え入る光は一瞬だけ機体の上半身を覆う。

しかし吹き飛びもしないその機体の胸元には傷ひとつ付かず、機体は素早くこちらに掌を向ける。

速陣。

第三気での第三弓魔法が、まったく無力なんて。

仕方ない。

その時にふとガルガンの言葉が頭を過る。

翼解放?いや・・・。

「氷牙、氷結」

目の前に小盾を2枚出現させて縦に列べ、そして小盾越しに再び光矢を撃ち放つ。

瞬く間に小盾を突き抜けた瞬間にその太さを2倍に肥大させながら、更にもう1枚の小盾を突き抜け倍加した光矢が機体を容易く呑み込んだ時に陣圏を消す。

うっ、光の爆風が。

こちらまで吹き飛ぶほどの風圧に思わず腕を出し、顔を背けてしまった直後、野太い振動音が更に反響するような機械音が一瞬だけ、まるで遠くから響くように聞こえた。

弓魔法が爆発するなんてことはない。

ここまで弾けるってことは・・・。

水しぶきのように消え入った光の中からは、破損どころか、まるで傷を負っていない状態の機体が現れ、再び素早く掌を向けてきたその出で立ちは絶望感そのものだった。

・・・完全に跳ね返る、か。

直後に突き出された機体の腕が上に弾かれ、掌から爆発音と共にメタリックグリーン色にちらつく光線が放たれる。

え、何。

腕を弾いた物の弾道を正確に理解したように、素早く機体が下ろしたその目線を追うと、近くの7階ほどのホテルの屋上には、拳銃を突き出しているエルスが居た。

直後にエルスは拳銃を連射させるが、正に鉄がへこむような鈍く儚い音を鳴らしながらも、まったく動じることもない機体は掌をエルスに向ける。

しかし機体の掌からメタリックグリーンの光がちらつくと同時に、突如その腕から光線の発射音とは違う破裂音が鳴り、その腕は激しく波を打って弾かれる。

何?明らかに拳銃とは違う音と衝撃。

メタリックグリーンの光線がエルスのすぐ近くに撃ち弾かれた情景が目に焼き付くほど、また直後にその破裂音は機体の脇腹、太もも、あばらを殴っていく。

何が起きてる?

勝手に、爆発してる・・・。

でもチャンスだ。

「バリスタ・オブ」

「無駄だっアトムに粒子の類いは効かないっ」

・・・何。

弓魔法は粒子で出来たビーム。

それに魔法自体、粒子を操るもの。

効かないということは、私の知ってる魔法は、全て効かないのか?

ハクラが翼を解放する日は、いつかあったらいいなってところですね。

ありがとうございました。

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