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刀達との再開

「理一ぃただいまー」

「スパゲッティ」

なぬ?・・・。

何やら満足げな表情で地翼がそう声を上げると、そんな地翼に黒桜は屈託のない、妹を見るような笑顔を浮かべて見せる。

「チヨちゃんね、スパゲッティが気に入ったんだよ?」

「それはどういったものだ?」

「黄色いお蕎麦だよ」

黄色い蕎麦だと?

これも、時代か。

「理一、さっき着物問屋を通ったが、やっぱり俺も新しい服が欲しいな」

「え、びゃっ君も服欲しいんだ」

「あ?悪いか?」

風杜若に隠れる黒桜に、面倒臭さにしかめた眼差しをくれる白火を見ながら立ち上がり、ふと退屈そうな天蹄に目を向ける。

「なら行こうか。皆もどうだ?新しい服は」

「私も見てみたいな、天蹄もどうだ」

風杜若が天蹄に問いかけると、優しくされているにも拘わらず天蹄は頭に手を乗せながら、気怠そうな表情を返す。

「しょうがないな、付き添ってあげるよ」

「あやちゃん行こ?」

ただ静かに頷いた雷菖蒲と先に出ていった黒桜に続き、皆も工房を出ていくと、残ったアイはどこか深刻そうな顔色をこちらに見せていた。

「梶山殿」

「おう」

「世話になった」

「いやぁ、それはこっちこそだ。魂降ろしを間近に見れたし、やり方も知れたなんざ、お礼を言うのはこっちの方だ」

梶山の笑みに晴れ晴れとした気持ちが重なるが、店先から覗くアイの顔が再び目に入ると同時に急かすように黒桜も顔を出した。

「理一」

「あぁ。梶山殿、着物を買ったら、また返しに来る」

「おう」

「アイ殿」

「ねぇ、忘れてない?バクトの事」

すぐに言葉を遮ると、アイはそう言って何故か責めるような目つきを見せる。

「居場所、分かったのか?」

「今入院してる」

何?

「何かあったのか?」

「ガーディアンズと戦ったみたいだし、それでロイヤルガーディアンズにやられたってさ」

ロイヤルガーディアンズは奉行人だろう、なら、この前と同じように戦ったのか。

「皆に着物を買ったらすぐに向かう」

ふと目線を落とし、何かを考えるように黙ったアイだが、特に何も言わずただ小さく頷いた。

「それで、女物の着物を一緒に選んでやってくれないか」

「え?・・・まぁ、アイで良いなら」

黒桜に引っ張られ、やがて問屋を前にすると、真っ先に目に飛び込んだのは長屋のように面長の壁が、透明な障子で筒抜けになった店の中だった。

「こ、ここか?」

しかしそんな戸惑いの中でも、目に見える限りでも分かるその広大に加えた見通しの良さが、感銘を覚えずにはいられなかった。

「うん」

勝手に開いた玄関障子を抜けるが、見渡す限りそこには異国の着物しか見当たらない。

「着物が無いではないか」

「せっかくだし、異国の着物が着たいよ、ほら」

指を差し、駆け寄った黒桜は垂れる鉄棒に掛けられていた1枚の着物を取ると、その袖が無く、胴をぴったりと覆いながらも膝上で布が切れている着物を自身の体に当てがって見せる。

んー・・・。

「桜ちゃん良いねそれ」

アイがそう言うと黒桜は満面な笑みを浮かべ、そしてまるでその着物を買うのを訴えるかのようにその笑みを見せつけてくる。

「脚が、出過ぎだろ」

「えーそうかなー」

「それに、花柄でなくていいのか?」

「んー」

「それより、下から覗けば全て丸見えではないか」

異国の着物はこんなものばかりなのか。

「桜ちゃん、ワンピースだったらパンツ穿かないと」

「え?」

「こっち」

アイが黒桜を連れていくとすぐに雷菖蒲と地翼もそれに続き、天蹄が風杜若を連れていくと、白火と岩影と3人の間にまるで置き去りにされたかのような沈黙が流れた。

「岩影はどうすんだ?」

「着物で良い、だがこれでは身に合わない」

「理一はよ」

「私は無論このままだ」

「ふーん。まぁとりあえず歩こうぜ」

壁に沿った、薄手の女物しか無い括りから、黒桜達の居る同じ壁に沿った、薄青色にくすんだ腰から脚を覆うだけの着物の括りになった時、ふと腰ほどの棚に並んだ着物に目が留まる。

「お?」

同じようにその棚に目を向け、歩み寄った白火は、その中の赤く染まった着物を手に取り、広げた。

その時に1つ向こうの棚に、着物をその棚に並べていく店番らしき女に目が留まる。

「ここには着物はあるか?」

「あ、えっとあちらの奥にあります」

「ありがとう」

岩影と顔を見合わせると、言わずともこちらの意思を汲んだようにすぐに小さく頷いて見せる。

「白火、あっちを見てくる」

「あぁ」



「天使は?」

ガルガンがそう聞くと、ルケイルは一瞬だけ深刻さで小さく寄せた眉間をこちらに見せてくる。

「ドリームという者に、連れて行かれた」

端的な応えだが、表情から伝わるその深刻さを理解したように、ベイガスと共に静かに頷くが、ふとこちらに目を向けたガルガンの迷いや敵意の無い表情が何となく気にかかった。

ん、何か気配が近づいてくる。

来るとしたらリーチだけど、何でこんなに多いんだ?

ベッド脇に座るハクラやジアン、ルケイルのベッド脇に立つガルガンやベイガスも、皆揃って扉に目を向けふとした沈黙が流れた時、ゆっくりと開かれた扉から出てきたのは、小柄の知らない女性だった。

「人多っ」

「アイちゃん」

ユーフォリアと顔を見合わせた、桜色のブラウスと白いショートパンツに、見慣れたジャケットのアイと呼ばれた女性は、すぐに何食わぬ顔でユーフォリアに手を挙げて見せた。

「やあ」

ん、まさか、ロイヤルガーディアンズ?

ライフと同じジャケット。

アイがユーフォリアに歩み寄ると同時に、病室にリーチが入ってくるが、リーチの後ろからまったく知らない人達が次々と入って来た。

誰?誰?・・・誰?

「リーチ」

「バクト殿、その怪我は」

「うんまぁ、大したことないよ。それより誰?」

「あっ、君、確か氷牙だよね?」

えっ。

袖が広がる黒いフリル付きブラウスとスカートに、スカートの上部までを飾るピンクのコルセットを着けた、正にゴスロリファッションの女性がそう言ってベッド脇に歩み寄る。

「何で、知ってるの?」

「聞いてたし、リーチと君が話してるの」

へ?どういうこと?

突然の訪問の上に氷牙という単語に言葉を失っていると、女性はまるでどう説明しようか悩むように、だが楽しそうに唸り出す。

「クロザクラ、皆も1度、刀になってくれ」

リーチがそう言うとゴスロリファッションの女性を含め、ふと目についた赤いワイシャツに白いスーツの男性も、その場の人達が瞬時に刀へと姿を変えた。

「ぬえぇっ」

「改めて紹介する。クロザクラにビャッカ」

すると柄や鍔、鞘が黒とピンクの2色使いでデザインされた刀はゴスロリファッションの16、7歳ほどの女性になり、白と赤でデザインされた刀は白いスーツに赤いワイシャツの25歳ほどの男性となる。

「カゼトジャクにカミナリアヤメ」

続けて緑と白の刀は、ジャケットではなくベストの白いスーツに緑のワイシャツのまた同じく25歳ほどの男性になり、白と黄色の刀は白いブラウスに黄色い3段ミニスカートの20歳ほどの女性となる。

「テンテイにチヨク」

どこかジーンズっぽいくすんだ青の2本の脇差しは、まるで双子のように、ティーシャツにジーンズのオーバーオールで揃った10歳ほどの少年と少女となる。

「そしてガンエイ」

何の特徴もない、鞘も柄もよく見る色合いの大きな刀は、理一と同じような着物の25歳ほどの大柄な男性となった。

えっと。

「クロザクラさん?」

「あーサクラで良いよー」

そう言ってセミロングの黒髪ポニーテールに、丸くて大きな目のクロザクラは屈託のない、まるでユリのような笑顔を見せる。

「僕も転生したんだ。あの時の記憶は受け継いでるから問題は無いけど、今の僕は氷牙じゃなくて、バクトだよ」

「へーそうなんだー」

しかし一気に仲間が増えたなぁ。

でも何で皆からも天魔の気配を感じるんだろ。

「ジアン、人数が揃ってるってこの事?」

刀の人達に釘付けのジアンにハクラが問いかけるが、一瞬の間の後にジアンはハクラを二度見する。

「いや、これは・・・理一と言ったか」

「あぁ」

「まさか、魂降ろし、か?」

「おお、そうだ、知っていたか」

しかしジアンは目の前の事実に驚愕を覚えるような、珍しく戸惑った表情を浮かべていた。

「知ってはいる」

霊能力者だからかな。

「さて、ユーフォリア」

ジアンがそう呼ぶと、小さくとも力強く頷いたユーフォリアはまるでこれから皆に語りかけようとするようにデスクの前に立った。

「今からみんなにやって欲しいのは、創造神の守護、キエーディアの迎撃、後は最後の仲間の、ユリって子の救出」

「僕、ユリ助けたい」

「でもその怪我じゃ」

「大丈夫だよ」

ハクラの言葉にすぐにユーフォリアが応え、その場に疑問の付く安心感を芽生えさせる。

「アイちゃん」

「えっへん」

腰に手を当てながら立ち上がると、アイはすぐさま掌を口に当て、こちらに投げキッスした。

え。

その瞬間、アイの掌から正にハートが出現し、そして同時にそれはこちらに飛んできた。

うわっ。

思わずそのハートを掴むと、それは手に収まるほどの、赤みも固さもリンゴのようなものだった。

「それ、おでこにぺったんして」

ぺったん?

アイに目を向けながらハートをおでこにぺったんした瞬間、ハートはまるでシャボン玉のように弾けて消えた。

ん?何とも・・・あれ?

「そのハートはね、細胞の回復力をブーストさせるの」

回復力を・・・ブースト?

「じゃあこっちにも・・・」

するとアイはルケイルの前に歩み寄り、両手を口に当てた。

「んーまっ」

大きな動きでルケイルに投げキッスすると、出現したハートは先程よりも3倍近く大きなものだが、少しだけ顔を背けたルケイルの顔に当たると、それも同じように弾けて消えた。

「さて、アイの役目は一先ず終わりなので、ユーちゃんまたね」

「うん」

その時に扉が開き、キズナが入ってくると、真っ先にキズナと顔を見合わせたアイは少し身を反らし、両手を開いた。

「出たっ」

「何だよそのリアクション」

「2人はもう大丈夫だよ」

アイの言葉に全てを理解したように、キズナは一瞬だけこちらとルケイルを見ると軽く返事をする。

しかしすれ違い様、キズナはくるりとアイに体を向け、そしてやはりアイのお尻に手を伸ばした。

「いきゃぅっ」

「良い締まり具合だ」

「もーミライに言いつけるからね」

アイが病室を出ていくと、キズナはユーフォリアと同じように皆を見据え、女医らしからぬ力強い態度で腕を組む。

「ビリーヴのとこ行く人は?」

え?

「今決めてるとこ」

「あらそ」

「とりあえず、キエーディアの迎撃は、なるべく広範囲に攻撃出来る人かな」

「ならオレ達だ」

ガルガンが余裕を見せつけるような口調でそう言うと、ユーフォリアは今までに見せたことのない、勇ましく、部隊を統べる隊長のような眼差しで小さく頷く。

「もう1人くらい」

「私。軍隊相手なら得意」

ハクラの言葉にその静寂はユーフォリアの反応を伺うが、ユーフォリアはキズナと顔を見合わせると黙ってその頷きでハクラに応えた。

「じゃあ、ユリって子にはバクトと・・・」

「私が行く」

ルケイルが口を挟むと再び静寂に緊張が走るが、ユーフォリアはすぐに曇らせたその表情でルケイルへの応えを想像させた。

「んー・・・ジアンどう思う?」

「少し見えづらい。だが、恐らく、ビリーヴとドリームは、別行動だろう」

「そう。じゃあ悪いけど、ルケイルはビリーヴのとこに行ってくれる?代わりにリーチがドリームのとこ」

「何故だ?」

ルケイルの小さなため息に、リーチはまるでルケイルの気持ちを代弁するように問いかける。

「大丈夫だよ、ライフもジアンも、ユリが戻ってくるって言ってるし。リーチがドリームのとこ行くのは、2人の提案なの」

「そうか」

「じゃあルケイルとジアンは、ライフとあたしで創造神のとこ」

「キエーディアの戦力を詳しく教えて」

ハクラの発言にユーフォリアは直しかけた表情を再び引き締め、キズナと顔を見合わせる。

「主力兵器はアトム。アンドロイドだけど、ユートピアが最も危険視してる兵器。大きさは人間の2倍ほど。後は人間も戦闘スーツを着てるけど、キエーディアはアンノウンだから、全てを把握出来てない。もしかしたら、化学兵器だけじゃなくて魔法も使うかも。だからほんとに気をつけてね。一応アレグリアと、アレグリアの部下が居るから」

「分かった・・・ジアン、ゲート、開いてくれない?」

「方角と距離は」

ジアンがすぐさまそう言葉を返すとハクラはユーフォリアに顔を向けるが、すでにユーフォリアはその表情から勇ましさを無くしていたものの、すぐに何かを理解すると携帯電話を取り出した。

「・・・・・・えーあっちに、10572キロ」

作戦会議はあくまで会議なのでね、まぁ、人生何が起こるか分かりませんからね。

ありがとうございました。

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