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我、此処に一対となり

「白いサジタル、エネラゥファが最後に現れたのは今から300年ほど前じゃて。言い伝えでは、エネラゥファは救世主とされての、ユートピアからの支配から逃れ、地下に住めるようになったのは他でもないこのエネラゥファのお陰じゃて」

救世主・・・。

「それで、名前は?」

「サジタルとして名乗る時は、必ずエネルを付けるんじゃて」

エネルか。

「ほー。じゃあ、ガルガン・エネル・フリーゼか」

「ねぇお爺ちゃん、あたし、ガルガンと結婚したい」

は?・・・。

突然の発言に誰もが言葉を失い、皆が一様にメーラに顔を向けるが、そんな沈黙をも気にせずメーラはガルガンに期待を込めるような笑顔を向ける。

「何だよ・・・何でオレ?」

「だってガルガンももうサジタルだし、サジタルの原種の継承者のあたしにはぴったりだし、それに、お見合いしてきた人達の中じゃ、1番タイプだし」

ん・・・。

「いや、ちょっと待てよ、いきなり結婚だなんて言われてもなぁ。ていうか、継承者って?」

メーラがまるで話を促すように老人に顔を向けると、再び老人に目線が集まる。

「元々、サジタルという名前は変身した姿のものじゃて。人間との交配の中でサジタルは少しずつ人間に姿が近付いての、けどメーラを含めワシの家系は、人間と交配する前のサジタルの血を引いてるんじゃて」

「ふーん」

「だがお主や、メーラの事は今決めんでいい」

「えーー」

そんなメーラの態度に、老人はまだ話があると言わんばかりに鋭い眼差しで黙らせる。

「エネラゥファに選ばれたっちゅう事は、お主には、何か重要な使命が与えられたっちゅう事じゃて」

使命・・・。

「何だよ使命って」

「分からんわい。だが、サジタルをユートピアから救ったように、エネラゥファは、必ず何かをやり遂げる」

使命か、元々エターナルはユートピアと戦ってるからな。

「え、じゃあガルガン、必ず帰ってくるって約束してよ、ね?」

そう言ってメーラがガルガンの手を握った時、一瞬だけびくついたガルガンは真っ直ぐ見つめるメーラを見ながら頭を掻き出す。

「ガルガン、これも何かの縁じゃないか?」

こちらに顔を向けてもガルガンはただ困り果てたような苦笑いを見せる。

「爺さんはそれでいいのかよ」

しかし老人は2人に目もくれず、すでに大きな本を棚に戻している最中だった。

「メーラが良いっちゅうなら、何も言わん」

「はは・・・縁ねぇ・・・」

「きっと、あたし達、運命の出会いなんだよ」

一目惚れだからといってそこまで・・・。

「うーん・・・」

それほど、お見合いが嫌だったのか?・・・。

「ま、そうかもなぁ」

笑顔で手を振るメーラの見送りの中、エレベーターからメーラを見下ろしていくガルガンにふと目を向けてみると、その表情はどこか嬉しそうだった。

「メーラとの出会いも、生まれ変わったからこそじゃないか?」

「はぁーあ、あいつがいなかったら、ここにも来れなかったしな。仕方ねぇ、これであいつとは貸し借りはチャラってことにしてやるか」

「あいつって、まだ仲間がいるのか?」

「んまぁ、仲間ってほどじゃねぇが、元々オレら、こことは違う世界にいたんだ。けど、たまたまこの世界に生まれ変わったのもあいつがいたからだしなぁ」

バズールに会ったからサジタルを知った訳だが、そもそもエターナルに入ったのも、やはり縁があったんだな。

エレベーターを出て一直線の洞窟を抜けると、岩穴の前には何やら少し歳上に見えるくらいの女と、袖口の広い、どこか兵士を思わせるような服装の若い女、そして毛皮の上着と鈍く光る腕輪が目を引く男が立っていた。

この者達・・・。

「あんたら、オレらと一緒に、あいつに転生させられた・・・」

「そう。これから、バクト達皆を集めることになった。だから迎えに来た」

歳上の女がそう応えるが、目を合わせてきたガルガンはまるで呆気に取られたような表情を見せ、同じく顔を見合わせてきたバズールも、その表情はまるで状況を理解していないようだった。

「迎えって何のだよ」

「私達は世界樹の巫女の魂片を探す為に動いてる。それで今、魂片を狙う人と戦う為にバクトが転生させた者達を集めてる。私達が転生したのは、きっとこの戦いの為の戦力だろうって、ライフが言ってた」

再び何となくガルガンと顔を見合わせるが、すでに嬉しそうにも見えるほどの余裕の笑みさえ浮かべたその表情に、すぐに老人の言葉が頭を過った。

「悪いバズール、ちょっくら、使命ってやつを果たしてくるわ」

「あぁ、ちゃんとメーラのとこに帰ってやれよ?」

「あぁ分かってる」



「済まないが、7人分の着物と草履を用意して貰えぬか」

「へ?」

「内3つは女物、女物の中に1つ子供物、それから男物の中の1つにも子供物を」

「は、はい」

梶山の娘が慌てて工房を出ていっている間に、あぐらをかき、刀の茎を地面に突き刺し、そして棟を体に当てるように傾ける。

「さぁて、いよいよだなぁ」

こみ上げるような嬉しさを噛み砕くようにそう言って、目を輝かせる梶山の向こうから梶山の娘が見えると、こちらと目を合わせた娘は案の定驚くような表情を見せて足を止める。

「私の前に置いてくれぬか」

「はい」

「かたじけない」

さて・・・支度は全て整った。

「やあっ」

手を挙げ、何食わぬ顔で大声を上げながら突如顔を出したアイに目線が集まると、アイはこちらの姿に目を見開き、口を大きく開けた。

「死ぬ気かっ」

「そんな訳ないだろう。いいから暫し黙ってくれ、すぐに済む」

目を閉じ、気を鎮め、その一瞬、ふと皆を思い出す。

「我此処に魂を裂く。我此処に魂を降ろす。我等此処に一対となる。

我白火此処に刀となりて魂を降ろす。

我黒桜此処に刀となりて魂を降ろす。

我風杜若此処に刀となりて魂を降ろす。

我雷菖蒲此処に刀となりて魂を降ろす。

我天蹄此処に刀となりて魂を降ろす。

我地翼此処に刀となりて魂を降ろす。

我岩影此処に刀となりて魂を降ろす。

我等此処に一対となりて魂を降ろす」

「でえぇっ」

アイの言葉に目を開けると目の前には幾つもの人肌があり、それが背中だということに気が付くと同時にその人間達は着物を取り始める。

「まさか生き返れるなんてねー」

まるで今までそこに居たかのような落ち着き払った声色で、そう言って着物を羽織る黒桜と顔を合わせた瞬間、肩を揺らされ、思わずその方に顔を向ける。

「お兄、腹へった」

「地翼、先ず鞘と柄だ」

「ほんとチヨちゃんは食いしん坊だもんねー」

「桜ほどじゃないだろ」

黒桜が地翼に着物を渡したとき、そう言っていつものようにニヤつき、からかう白火に黒桜が冷ややかな睨みを返す中、ふと工房の入口で立ち尽くす梶山達に気が付いた。

「理一ぃ、もっと可愛い柄が良い」

「後で問屋に行く。アイ殿、済まないが皆に飯を食わせてやってくれぬか」

「・・・うへ?」

「私はまだここを動けぬのだ」

しかしそれでも口をあんぐりとさせたまま立ち尽くすアイに、黒桜が歩み寄る。

「アイちゃんて言うんだ、可愛い名前だねー」

「え?そう?えへ、え、お腹空いてるの?じゃあアイがご馳走してあげるよ」

何と軽薄な女だ。

「お、おい理一、説明してくれ。刀が、飯を食うのか?」

「魂の降りた刀において着物は鞘となり、履き物は柄となる。そして魂降ろしにおいての最後の仕上げは、飯を食うことだ。それが刀と魂の憑きを固める。飯を食うまでが魂降ろし故、私はまだここを離れられない」

「じゃあ理一ぃ、行ってくるねー」

「あぁ」

皆が工房を出ていくと、梶山の娘は止めていた息を吹き出すように大きなため息を吐き下ろし、梶山は娘のそんなため息に我に返るようにこちらに顔を向けた。

「今の台詞を言や、誰でも出来るのか?」

「あぁ。最初から見ていたであろう?純鋼の刀、そして数に名前を付け、あの通りやれば、誰でも出来る」

「おお・・・なぁ、その儀式の台詞、紙に書き留めてくれないか」

「相分かった」



机を取り付けたベッドに病院食が乗せられたので、とりあえず先割れスプーンで真っ先にファナブルが入ったサラダを食べる。

んー・・・霜焼けみたいな粒々から弾ける塩気と噛み応えのある葉肉、ファナブルはやっぱり美味しい。

ナースが同じくルケイルにも病院食を出した時、デスクの前に座っていたキズナが椅子を滑らせ、ナースの背後につき、そしてナースのお尻に手を伸ばす。

「きゃっもうっ」

「けっけっけ」

笑い方・・・おじさんじゃん。

「キズナ先生ってそっちの人?」

「え?いやぁ、何となくナースのケツって触りたくなるんだ」

えー・・・何となくって。

それってもう確定?・・・。

「先生ったら、この前、新人のアヒリちゃんがカルチャーショックだって言ってましたよ?」

それでもまるで尊敬が染み込んだように親しげに話すナースとキズナを見ながら、お椀を取りスープを飲む。

「やっぱり可愛い新人ナースのケツほど良いものは無いからねぇ」

ユリ大丈夫かなぁ。



「六天繋角」

6角形をくぐるとそこは街のデザインがまるで変わっていて、3、4階ほどに揃えられた、木造に見える建造物だけで構築された街並みだった。

「おぉテンホウかぁ」

独り言のように口を開いたユーフォリアと同じように、初めて見る景観をただ眺めていく。

まるで、ヒィスタだ・・・。

力の気配が、増えてる?

「ハクラ、先ずは病院だ」

ジアンに顔を向け、すぐにその目線を追うと、目立つほどではないが、頭ひとつ飛び出ているその建物の先端には赤十字マークが刻まれていた。

「え?その前に、何故気配が増えてる?あと4人だけのはず」

「後で分かる」

そう・・・なら、良いけど。

馬車と人力車しか走っていない道路に時代が変わったとさえ思う中、高さが無い代わりに敷地の広い病院に入りながら、ふと胸に差し込んだ不安とバクトの顔が重なる。

どうして病院に・・・まさか入院なんてしてたら、戦えない。

自動ドアを抜けエントランスに入ると、中央の待ち合い席、前方の受付カウンター、階段や壁、全てが艶やかな木目調に染められていた。

すごい、白じゃなくても、薄茶だからか閉塞感はなく、むしろ高級感がある。

「いらっしゃいませ、ご用件は」

左手に顔を向けると、目の前にはいかにも整理券を排出している機械と、それを管理する係員の女が居た。

えっと、ただ気配を追ってきただけだし。

「面会だ」

ジアンがそう応えると、その女は会釈しながらある方へと手を差し出した。

「面会受付はあちらです」

面会受付?

ナースステーションじゃないのか。

「いらっしゃいませ」

「バクトという者がここに居るはずだ」

受付嬢がパソコンを触り出すのを見てから、1階の高さに感じる気配の方へと何となく目線を移していく。

「152番室ですね。では代表の方で構いませんので、お名前を」

「ジアン・マーカー」

「はい。では、南側通路からお進み下さい」

バクトが居ることまで分かってたのか。

バクト、大丈夫かな。

見た目よりかは少し幼く見えるし、大怪我じゃなきゃ良いけど。

あれ、木目調なのはエントランスだけか。

ナースステーションを通り過ぎ、扉の上の番号札の番号が近くなる度、ふとミキの姿が脳裏に浮かび上がった。

ミキ、今頃どうしてるかな。

ちゃんとご飯食べてるかな。

先頭のジアンが扉を開け、続けて中に入ると、すぐ左手のベッドに座り食事していたバクトと真っ先に目が合った。

「うわぁ」

その無邪気な笑みに安心感を覚えると同時に、バクトの額に巻かれた包帯に目が留まる。

「皆どうしたの?」

「これから、戦いに備えて皆を集める」

すると奥に居るもう1人と顔を見合わせたバクトは、どこか寂しそうな顔色をジアンに返した。

「心配はない、お前が思い浮かべてる女は、戻ってくる」

「ほんと?」

「人数も揃ってるからな」

「うわっ」

ユーフォリアが悲鳴を上げたので反射的に振り返ると、逃げるようにデスクの方へと走ったユーフォリアが居た場所には女医が居た。

「相変わらず可愛いお尻だねぇユーフォリア」

え、お尻・・・まさか触った?

「何でキズナが居るの?ていうか3ヶ月ぶりでいきなりお尻触らないでよ」

知り合いなのか。

「言ってなかったか。あたし1ヶ月前にこっち来たんだよ。それより、人集めって、第11アークの事?」

「まぁそれ絡みだけど、それの首謀者がビリーヴだから」

するとキズナと呼ばれた女医の表情が、凍りつくように一瞬にして女医らしからぬ闘志溢れるものへと引き締まる。

「キエーディアがビリーヴと繋がってたの?」

第11アークの事も、ビリーヴの事も知ってる?

何者だ、この人。

刀のなかごは柄に覆われる部分です。むねは背の部分ですね。

ありがとうございました。

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